コロナ融資終了後の金融情勢解説:小堺桂悦郎氏

コロナ融資終了後の金融情勢解説:小堺桂悦郎氏

事務所名:

有限会社小堺コンサルティング事務所

代表者:

小堺桂悦郎(資金調達コンサルタント)

事務所エリア:

開業年:

従業員数:

Q.現在の金融情勢をどのように認識しているか?

「全体的には凪いでいる、小康状態だと思いますね。肌感覚として金融機関側から積極的に貸すという動きは見えません。メディアの論調は、これからコロナ融資の返済が始まって倒産が増えるのではないか、といったネガティブなものが目立ちますが、実際は個別ケース毎に粛々と対応が始まっている印象です。正確なデータは手元にありませんが、私の取り扱い事例に照らせば一年据え置きというケースが殆どですから、返済は既に始まっている訳です。

コロナ対応といえど、返済について通常融資とそれほど変わるものではありません。きちんと管理している事業者には金融機関も呼応してくれます。コロナ融資単体、あるいは既存分と一本化する形で融資を受けたケースばかりではなく、中には赤字決算がネックになり全額がコロナ融資として認定されず、公庫とプロパーを加えて三本建てになるような複雑なケースもありましたが、金融機関サイドで整理して丁寧に対応してくれました。複数の融資が併存する場合、例えばコロナ融資がプロパー返済に充当されたような形になってしまうと使途相違の問題になりかねませんので、事業者の制度理解や適切な経営管理、金融機関との信頼関係が重要です。

少し前にニュースにもなりましたが、中小企業庁が経営者保証の解除についてガイドブックを公開しているのをご存知でしょうか。もちろんこのような措置は、適切な経営ができている事業者のみが享受できるメリットです。経営者にとっては金融機関との関係性以上に切実なトピックかもしれませんね。

それでは”適切”な経営とは一体どういったものかと申しますと、平たく言えば“きちんと公私を分けている”という点に集約されます。不審な仮払計上や役員貸付金には気をつけた方が良いでしょう。極端な例ですが、利益が薄い状況で高級な社用車を発注してしまうといった話も耳にしました。これではとても経営者保証を外すことなど出来ません。

こうした履き違えが恒常化してしまうと、返済が滞った際にリスケの相談が難しくなるばかりか、赤字決算による追加融資のストップも考えられます。赤字でも融資を受け続けることができる会社は、あくまでも経営管理が適切であるということが前提であり、厳しいようですが公私混同した上で返済ができません、という会社に同様の対応は期待できないでしょう。

今次のコロナ禍も3年目に入りました。当初の混乱期は誰もが状況を読めない中で生き残ることに必死でしたが、今はもう事情が異なります。最も影響を受けた飲食事業でさえも売上を回復しつつある中で、3年が経った今も外的要因に対応できず成長路線に舵を切ることのできない経営者の力量を金融機関がどのように評価するのか、これも厳しいようですが推して知るべしといった所ではないでしょうか。」

Q.現在、資金繰りに成功している会社は何をしているのか?

「メディア的には面白くない回答で恐縮ですが、普通のことを普通にやっていますね(笑)。これぞという対策でコロナ不況から脱して業績を回復させた!というようなことは、残念ながらありません。接客業であればガイドラインに沿ってアクリル板や消毒液、体温計などの必要な物品を揃え、その購入には補助金を活用し、といった誰もが入手できる情報と対策の実施で、コロナ禍の余波を感じつつも既に日常として対応できているようです。

私がサポートして資金繰りに成功した会社は3年分の資金が確保できているので、落ち着いて設備投資を実行に移しているケースも少なくありません。それこそコロナ禍で認知度が上がった各種補助金なども、危機回避ではなく成長発展のために活用されています。

どんな時も出来るだけ普通に経営をして、いつも通り試算表を作って、きちんと金融機関に経営レポートを出して、といった日々の地道な積み重ねが危急時にも有効で、そういった地に足のついた経営が経営者保証なしの融資に繋がると実感しましたね。」

Q.現在の金融機関の考え方や対応はどうなっているのか?

「金融機関のスタンス自体は相変わらずです。ただし、対応については厳しくなっていくのではないでしょうか。コロナ融資は特別利子補給制度とセットで利用を促進していましたので、どの金融機関でも貸付先が増えている中、最長3年間の実質無利子期間がそろそろ終了する頃です。先にお話したように借りている事業者サイドは復調している状況ですし、元々それほど手元資金に困っている訳ではなく、先行きの不安からとりあえず融資を受けた層も存在しますから、利子補給が切れるタイミングで一括返済を考えている会社も少なくないでしょう。金融機関としては利息収入を失う可能性がありますので、内心おだやかではないでしょうね。

私は基本的にクライアントへは借り換えを推奨していますが、常時一定の運転資金を必要とする業種などは特に、中規模事業者であっても借入が高額化しがちであるため、利息負担が重く完済を望みます。例えば年商8億円の会社が少しバッファを考慮して3億円を借り入れているとしましょう。年率1%でも300万円が経常利益を圧迫している訳ですから、少しでも利息負担を軽くしたいと考えるのも無理はないでしょう。

一方で金融機関の立場からは、数十億円といった額の貸付から利息として数千万円の収益が見込まれるものの、貸付先のうち数社からは回収を逃すことも考えられる状況で、コロナ禍以前より更に融資業務を主力としたビジネスモデルは耐久力が低くなっています。こうした背景から地銀の支店長が自ら、年商数億円程度の、しかも赤字決算の会社にまでわざわざ足を運び、NISAの一本化について頭を下げて依頼しているという話もあるくらいです。ひと昔前には想像もできませんでしたが、もはや融資がフロントエンド商品という時代になりましたね。

コロナ融資が終わりつつある今、金融機関としては特例による貸し付けは不可能ですが、かといって適切な対策を行ってきた事業者の多くは改めての借り入れは不要でしょう。金融機関が借りて欲しい優良企業は借りてくれない状況です。とはいえ不良債権比率も多く見積もって5%ほどですので、そういう意味でも動きのない、凪の状態が続くのではないでしょうか。」

Q.現在の資金繰りコンサルタントの実力はどのような開きがあるか?

「この3年間で資金繰りコンサルタントや補助金コンサルタントといった、お金周りのコンサルタントは増えましたね。究極のキラーコンテンツでした。ただ、彼らは今後どのような価値を示すことができるのかと疑問に思っています。

私自身もYouTubeなどで情報提供を行っていますし、私の講座の研修生も同様ですが、あくまでも資金繰り指導の一環として危急時の対応についてもサポートしているだけです。コロナ融資のような一過性のトピックをフックにクライアントを集めようという意図はなく、ニーズがあるから提供している訳です。

逆に、瞬間的なニーズに応えて情報を発信している方々は、一時的な再生回数などは伸びるかもしれませんが、自分を頼りにしてくれているクライアントに対してこの先どんなサポートができるのでしょうか。また、こうした方々の提供する情報はファスト教養と同様に短時間で簡単に理解した気になれますが、本質的なものではないのでまた別の外的要因が発生した時には応用が利かないものでもあります。ただし、そもそもインスタントな知識で十分、僅かな時間の消費で安心を得られるのならばそれで良いと考えている経営者をターゲットにしているのかもしれませんね。

そういう意味では住み分けが明確化したとも言えます。ライトな知識のみを求める層のニーズを広く満たせるのであれば存在価値はあるのでしょうし、ご近所レベルの小さなコミュニティに限定してアナログで情報を発信するスタイルでも、地域の役に立っているのであれば良いのではないでしょうか。コンサルタントの役割も細分化されていくように思えますね。」

Q.資金調達業務についての現状と未来予測は?

「資金調達は元々ニーズの高い分野ではありますが、皆さんこの3年間でニーズが更に急激な高まりを見せたように感じておられると思います。ですが、変化しているのはあくまで周囲であって、対応としては普遍的な、日常の管理が重要であることを強調したいですね。あまり考えたくないですが、この先また今次のコロナ禍を上回るような事態が起こるかもしれません。それでも私は、今までと同様に試算表を作りましょうと言うでしょう。受け手の反応は悪いかもしれませんが。

突発事象でなく予定事項としても、来年からはインボイス制度がスタートする見込みです。延期されましたがセットで電子帳簿保存法への対応も必要ですよね。誤解を恐れず平たく申し上げますが、これはもう自計化の流れが避けられないということではないでしょうか。20世紀のように、全てを税理士にお願いして、経営者は自ら試算表も作らないということでは、危急時どころか今後の変化にも対応できなくなる。経営そのものが成立しなくなると言っても決して大げさではないと思います。周囲の様々な変化を察して手を打つことも経営という行為の一部ですからね。経営者自身が自社の数字をきちんと把握して管理を行っているからこそ、外的要因に振り回されることなく生き残ることができる訳です。3年前のコロナ融資開始当初も、金融機関の要請に応えてすぐに試算表を提出できた会社ほど、いち早く救われたという事実があります。

いざ有事となった際に、ファスト耳学問で何となく融資の仕組みを理解していたとしても、試算表が必要となったタイミングで三ヶ月前のデータしか出せませんということでは、金融機関も手の差し伸べようがないでしょう。」

Q.これから生き残っていける資金調達コンサルタントの条件とは?

「先ほども少し触れましたが、どの層を満たすということなのかなと思っています、生き残るという意味では。取り立てて情報を発信せずとも、地元に貢献することでご自身の生活も困らないということであればそれで良いのではないでしょうか。コンサルタントに限らず士業でも同じです。スタッフは多くて10名程度の小規模・中規模で、YouTubeやSNSは運用しておらず、オフラインで通達などのお知らせを送ったり、勉強会などを小さく実施しているだけでも堅実に経営できている、という事務所は確実に存在します。見た目の派手さでは評価できませんよね。

ただし、私が最も重要だと考えていることは別の次元であって、研修生にもそれを伝えています。拡大志向はなくミニマムに貢献する方針だから、求められる必要最低限の知識やスキルを身に着けるだけで良いということであれば、私の講座を受講する必要はない筈です。知識の底上げやスキルアップ、情報発信は、バックエンド化だけが目的ではない、クライアントに求められずとも成長を続けられるか、いつでも今ターゲットにしている客層以外にも貢献できる準備があるのか、そういったことが専門家としての心構えというか、矜持なのではないかと思っています。

各種の情報媒体を活用して独自の情報を発信し、kindleを出版しても、自身のクライアントですら見ていないかもしれません。近い存在ほど直接コンタクトを取った方が早いですからね。それでも、絶えず進化に努めている姿を見てくれているから、私を信じて頼ってくれているんだと感じていますよ。」

小堺桂悦郎 プロフィール

企業に“借りる技術・返す技術”を指南する資金繰りコンサルタントとしてのキャリアは20年以上。相談に応じた企業数は2100社を超し、銀行から引っ張った融資総額は100億円以上。
概ね債務超過の、資金繰りに悩む企業をクライアントに持っているにもかかわらず、これまで倒産した企業はわずかに1社のみ。

バブル景気といわれた1980年代を通して金融機関の融資係を務め、1989年、日経平均株価が史上最高値をつけた日を最後に税理士事務所に転職。
税理士事務所では、バブル崩壊後となる1990年代の大半を資金繰りコンサルティング業務に専任。
特に銀行対策を得意とし、年商1000万円から40億円までの幅広い企業のコンサルティングをはじめ、M&Aなども担当。
2001年末にコンサルタントとして独立。‘借りる技術・返す技術’指南の専門家として、主に中小企業経営者の立場に立った実践的なコンサルティングが好評。

2002年12月『借りる技術・返す技術』(フォレスト出版)で著作活動を開始。
2006年発売の『なぜ社長のベンツは4ドアなのか?』はシリ-ズ70万部を突破する大ベストセラーに。
「お金」の専門家として、まるでドキュメンタリーのような実例をもとにした生々しく親しみやすい内容と文体には、税理士や銀行員といったお金のプロから、経営者、経理担当者、一般のビジネスマンから主婦まで、幅広い読者をもつ。