ニセコで挑む補助金とビザ業務。行政書士の面白さとは:行政書士あけやま事務所 明山崇氏

ニセコで挑む補助金とビザ業務。行政書士の面白さとは:行政書士あけやま事務所 明山崇氏

事務所名:

行政書士あけやま事務所

代表者:

明山 崇

事務所エリア:

北海道 ニセコ

開業年:

2021年12月

従業員数:

大杉:早速ですが、お名前、資格、事務所の所在地、そして現在の取扱業務など、簡単に自己紹介をしていただけますでしょうか。

明山:皆さま初めまして、北海道のニセコ町で事務所を運営しております、行政書士の明山と申します。ご存知の方も多いと思いますが、ニセコはこの冬かな、様々な報道がされていたスキーリゾート地で、いわゆる「ニセコバブル」としてラーメン一杯2,000円、カツ丼3,500円、牛丼チェーン店の時給が2,000円を超えるといった話題が取り上げられました。

また、外国人が非常に多い地域でもありまして、隣の倶知安町を合わせると人口約22,000人のうち外国人が約3,700〜3,800人、つまり人口の17〜18%ほどが外国人という商圏に事務所を構えております。現在の主な業務は、入管業務と補助金申請の二つです。

大杉:行政書士の資格はいつ取得されたのでしょうか?すぐに開業されたのですか?

明山:かなり前の2009年、平成21年度の試験に合格しました。その12年後の2021年12月に登録はしたのですが、しばらくサラリーマンを続けていて、会社を辞めた翌月に行政書士を本業にしたのが2023年の2月からですから、専業になってからはまだ1年半ほどです。

大杉:資格を取得されてからもお勤めを続けられたとのことですが、そもそもなぜ行政書士の資格を取ろうと思われたのでしょうか?

明山:受験する1年前の2008年に、当時勤めていた旅行会社で管理職に昇進するため「総合旅行業務取扱管理者」の資格を取る必要があり、某通信教育の講座で勉強して同年に合格していたんですね。その通信教育会社から次の資格を勧めるDMが頻繁に送られてくる中に行政書士の案内もあり、「1年で合格可能」「国家資格で独立開業ができる」といったコピーに興味をもったのがきっかけです。

大杉:旅行会社でのお仕事と行政書士の資格には親和性があるイメージですが、実際にはどうだったのでしょうか?

明山:正直なところ、行政書士という資格自体をよく知らなかったんですよ。何をする人なのか全く分かっていませんでしたし、特に仕事上の接点もありませんでした。

大杉:資格を取得された後、どのように活用しようと考えられましたか?

明山:資格を取得した時に独立することもできるなと思い、2010年頃に当時横須賀先生が主催されていた「天才塾」に参加しました。とりあえず勉強だけでもできるでしょうし、身の回りに行政書士がいなかったので、実際のところ食べていけるのかということも知りたかったですしね。1〜2年ほど在籍していましたが、管理職への昇進を前提に札幌支店へ転勤になったことを機に、しばらくはサラリーマンとして頑張ってみるのも良いかなと考えて退会した形です。その後しばらくは資格のことを忘れていましたね(笑)。

大杉:登録前に参加されていたのはすごいですね。その後、どのような経緯で開業に至ったのでしょうか?

明山:2020年3月頃、コロナを機に旅行会社での仕事が激減し、将来への不安を感じはじめたのが大きかったですね。このまま外的要因の影響を大きく受ける業界にいれば、また同じようなことがあるかもしれない、定年までの約15年間サラリーマンとして頑張っても稼げるのは1億円と少しと考えると、自分の努力ではどうにもならない環境に身を置くのはどうなのかなと思いはじめました。

なんだか先が見えてきたように思える中で、翌年の夏頃にニセコで仕事をする機会があり、コロナ禍でも外国人が多くいることに気づいたんです。そこで、ニセコで外国人向けの仕事をすれば面白いのではないかと考え、行政書士の資格を持っていることを思い出しました(笑)。とはいえ、本当にこれで身を立てていけるかどうかも分かりませんでしたから、2〜3ヶ月ほどリサーチをしていたところ、ニセコに良さそうな事務所物件が見つかったので、借りることにしました。コロナ禍で家賃がすごく安かったんですよね。

やはり事務所を借りると登録したくなるもので、2021年12月1日に行政書士として登録しましたが、すぐには独立せずサラリーマンを続けながら準備を進めることにしたんです。実務スキルを身につけるために有料の実務講座を受講して、入管業務や補助金申請の知識を得てから、2023年1月に会社を辞めて、翌月から専業の行政書士としてスタートした、という流れです。

大杉:支部会の研修でも実務が学べると思うのですが、有料講座の情報はどこから得られたのですか?

明山:ネットで探しました。普通に検索すると、実務講座などの情報が出てきますよ。私は支部会の研修にはほとんど参加しておらず、もっぱら有料講座を活用していましたね。

大杉:なるほど。最初は兼業で後に専業になられたということは、どこかでこれでやっていけるという見込みが立ったということでしょうか。

明山:登録した時点ではまだその判断ができず、入管業務をはじめたものの、当時はまだ外国人があまり戻ってきていなかったため不安があり、コロナ関連の補助金に注目しました。飲食業や宿泊業向けの補助金がたくさん出ていたので、外国人が戻ってくるまでの間は補助金業務で繋いでいけるのではないかと考えたんですね。補助金申請の業務についても、有料講座で学びました。

大杉:行政書士の業務は非常に幅広いですが、ご自身で経験したことのない、見たこともない業務がたくさんある中で、どのように実務をこなせるようになったのでしょうか?

明山:有料の実務講座では、申請書の書き方やクライアントからのヒアリング方法、必要書類の収集方法など、実践的な内容を一通り学ぶことができるので、なんとかなりましたね。私は入管と補助金をメインにしておりますが、他にも相続や建設業など色々な講座がありました。

大杉:全く実務経験がないところからスタートする行政書士のほうが多いと思いますが、そうした方々でも実務に関してはなんとかなるものなのでしょうか?

明山:私はなんとかなると思いますよ。SNSではよく「ひよこ狩り」といった論調で、有料講座などに否定的な意見を見かけることがありますし、もちろん先輩から教えてもらったり、無料の研修に参加したりといったお金をかけないやり方もあると思いますが、それだと時間がかかってしまいますよね。20代30代ならいいかもしれませんが、私は50代で開業しましたので、家族がいますし住宅ローンもあるという、時間をかけるわけにはいかない状況でしたから、有料講座の存在はありがたかったですね。

大杉:最初のお客さんはどのように獲得されたのでしょうか?

明山:ビザでスタートするか補助金でスタートするか迷っていたのですが、2022年の春頃だったので、結局は補助金からスタートせざるを得ませんでした。しかし、講座を修了しただけで実績がないので、せっかく依頼をいただいても申し訳ないと思い、知り合いに声をかけて無料モニターのような形で4人紹介してもらったんです。さらに、自分の事務所でも小規模事業者持続化補助金を申請して、合計で5件の実務経験を積むことができました。

その全件が採択されたので、不安に思われるお客様へは採択率100%だと伝えても嘘ではないですし、無料モニターのお客様からは別のお客様をご紹介していただけることもあり、補助金業務は割と紹介によってつながっていきました。これで行政書士としてやっていけるなと思ったのは2022年の夏頃でしたかね。売上的にも補助金が7割くらいの感覚です。

入管業務に関しては、1年目までほぼ100%がウェブからの集客でした。採択された補助金で事務所のウェブサイトを作ることができましたので、集客のためにSEO対策をした記事を書いていたのが導線になっていた形です。最近では入管業務でもご紹介が増え、ビザを取得できた方が同じ国の方を紹介してくれます。特にスキーインストラクターが多く、他には技能の調理師ビザ、スポーツ指導者のビザなどですね。

大杉:今後はどのような業務バランスにしていかれるご予定ですか?

明山:今後はビザの方にシフトしていき、補助金はプラスアルファという形になっていけばいいなと思っています。理由は2つありまして、補助金は採択に不確実性があるということと、着手から入金までの期間が長いことですね。採択されてから実際に入金されるまで半年くらいかかることもありますので、事務所の経営を考えると、補助金は報酬額が大きいものの安定しづらいというデメリットがあるように思います。

一方、入管業務は種類や入管の混雑具合によりますが、通常2、3ヶ月程度で結果が出るので、見通しが立てやすいです。事務所を経営する上でキャッシュフローの管理は重要だなと実感しています。

また、2つ目の理由としては、今までの自分のキャリアを活かせるからです。約30年のサラリーマン生活の中で、旅行業や観光業に従事していたので、常日頃から外国の方々と仕事をしてきました。また、駐在も含めて約7年間海外で仕事をしてきたので、異国の地で就労ビザを取得して生活や仕事をすることの大変さは、良くわかっているつもりです。なので、日本で生活する外国人の方々の、少しでもお役に立ちたいというのが、私が、行政書士業務の中でも入管業務に拘りたい理由になっています

大杉:行政書士の良い所や、未来像についてはどのようにお考えでしょうか。

明山:オンライン申請化が進んでいますので、簡単な書類作成業務はこの先なくなっていくだろうなと思っているんですよ。実際、ニセコならば外国人が多いので仕事があるだろうと考えていたところ、昔から外国人が多い地域ではご本人も日本語が堪能だったり、配偶者が日本人だったりして、自分で申請できるので思ったほど仕事が多くなかったりもします。

逆に、許認可が絡む難しい案件や、本人申請で不許可になった案件のリカバリーなど、複雑な内容ほどニーズが出てくるように思います。こうした、やる人によって結果に差が出てくるような業務は行政書士として腕の見せどころだと思いますし、この仕事の面白いところなのではないでしょうか。

もちろん、そうした仕事ができるようにレベルアップしていく必要がありますし、淘汰されていく人も出てくるかもしれませんが、それまでのキャリアを活かしてそれぞれが違う形で行政書士としての仕事ができるという点では、消えていく職業とは言えないんじゃないかと思いますね。やる気次第で充分に食べていける資格だと考えています。

行政書士だからといって行政書士業務をやらなければいけないというわけではありませんので、リセットではないんですよね。大杉さんがおっしゃっていたように取り扱える業務が多いので、その人が生きる上で大切にしてきたものを活かしながら資格の要素を取り入れることができる、それこそが差別化になるのが面白いところだなと。そういう意味では、社会人経験のある方にとってより魅力のある資格なんじゃないのかなと思います。資格を取ることで、できることが増えるというのは大きいですよね。

大杉:ありがとうございます、とても良いお話でしたね。私も社会人経験を経て独立したので、熱いメッセージにとても共感します。最後に、メディアのオーナーである横須賀さん関連の話題に触れたいと思いますが、専業になって、ここからエンジンをかけるぞ、という感じでLEGALBACKSに入会された感じでしょうか?

明山:そうですね、LEGALBACKSには改めて去年くらいから参加しています。

大杉:なるほど、それがこのインタビューにつながったと思いますので、私も嬉しく思っています。今回はとても貴重なお話をありがとうございました。

明山 崇 プロフィール

明山 崇(あけやま たかし)1972年埼玉県生まれ 法政大学社会学部卒業 26歳の時、学生時代からの憧れだった海外勤務の機会を得て、イタリア・ミラノにある日系ホテルに赴任。しかし、言葉が全く話せず、友人が全くいない異国生活は、憧れとは程遠く仕事以外はプチ引きこもりとなる。滞在許可証の不携帯で逮捕されそうになる等、外国人故の日常生活上の不便さ、理不尽さを実感。時が経つにつれ、語学の習得とともにイタリアワインとオペラに魅せられ、一生このままイタリアで…と思った矢先に、親会社の事業撤退により帰国。 帰国後は旅行会社に転職。ひとりでも多くの子供たちに海外体験のチャンスを与えたく、海外教育旅行の法人営業を担当。16年間で延べ10,000人以上の海外渡航を支援し、自らも添乗員として2,000人以上の中高生と共に海外に出る。サラリーマン生活の1/4、7年間を25か国で過ごした経験を活かし、日本国内のグローバル化に伴い増加している外国籍の方々の法的サポートを行うため、行政書士の資格を取得。 2021年12月、ニセコ町に行政書士事務所を開業登録。地域の外国籍の方々の在留手続のサポートを多なうことで、安心して活き活きと夢を持って働き、「日本に来て良かった」と心から思う人を多く増やすこと。また、観光産業に携わるすべての人が自信と誇りをもって働き、「この仕事に従事してよかった」と心から思う人を多く増やすこと。そして、ニセコ地域の観光産業の更なる発展を裏方から支えることで、魅力ある地域社会づくりに貢献することをミッションとして日々活動中。

インタビュアー 大杉宏美 プロフィール

クレド社会保険労務士事務所代表。大阪大学法学部卒業。 サントリー(現サントリーホールディングス)株式会社を経て、医業経営コンサルティング会社に参画。クライアントの抱える多様な問題に応えるため、社労士資格、行政書士資格を取得し開業。医療法人・スタートアップ企業の労務コンサルティングを得意とする。医業専門リーガルサービス法人共同代表、専門家集団『BAMBOO INCUBATOR』所属。医療労務コンサルタント、キャリアコンサルタント。