相続コンサルティング支援システム「SIPS」は相続業務を変えるのか?:亀島淳一氏

相続コンサルティング支援システム「SIPS」は相続業務を変えるのか?:亀島淳一氏

事務所名:

株式会社シナジープラス

代表者:

亀島淳一

事務所エリア:

沖縄県

開業年:

2010年

従業員数:

25名(グループ)

Q.相続というジャンルに注目した理由は?

「広い意味でこのジャンルは、税金が関連するので税理士、といったように一般的には士業領域のイメージかもしれませんね。相続は、たとえ節税等にどれほど気を配っていたとしても、家族が結局は”分け方”で揉めているということに注意が必要です。これから右肩上がりに被相続人が増えていく見込みですので、それに応じて同じように揉めるご家族もどんどん増えていくでしょう。それでは、家族が揉めると具体的にどういうことが起こるのかと言いますと、昨年末に三井住友信託銀行が試算して話題になりましたが、これから30年かけて東京を中心とした関東圏の1都3県へ地方から58兆円の資金が流れていく、つまり地方経済の悪循環化です。不動産も共有化などのトラブルにより資産価値が下がりますし、空き家問題であったり共有持分で財産を動かせないといった問題が発生しがちですので、こうした視点で”揉めない相続”というコンサルティングの必要性を感じました。特に、相続と言いますと税金や名義変更が注目されがちですが、私たちは、多くの士業やコンサルタントが未だ触れていない領域でもある財産の”分け方”にフォーカスしています。揉めない家族が増えれば結果として経済の循環も良い流れで回せるようになりますしね。」

Q.SIPSとは何か?(SIPSの説明)

「財産の分け方をいかに定量的な根拠を元に決められるか、ということをシミュレーションできるシステムです。定量的な根拠とは具体的にどんなものかと言いますと、金融資産や不動産などの相続財産について流動性と収益性、相続税評価という定量的なポイントを、3つの視点から複合的に分析してスナップショットで可視化できます。分け方で揉めるひとつの要因として、財産を渡すことになるお子さん方の将来におけるお金の不安をいかに解消するのかという点がありまして、漠然とした不安を抱えたままだと、親の良い財産を多くとりたいという衝突が起きがちなんですね。それでは実際どのくらい不安なのかということを、相続人側の目線からも将来の年金と収入、支出、生活費を差し引きして、そこに相続財産を重ねた時に、自分にどの程度の余力があるのかというシミュレーションを見ていただくことができます。例えば1つ1つご本人の目の前で、この財産を長男に分与したらどうなるのか、といったことを瞬時にシミュレーションできるように作り込んでいます。いかに不安を解消するのかという点は非常に重要ですので、このように時間軸で捉えた上で、定量的な根拠によってライフプランを総合的に示すことができれば、士業の先生がたも専門的な知識をプラスしてサポートしやすくなるのではないでしょうか。

従来のような数字を羅列した相続税評価の一覧表では、お客様は一つ一つの財産の価値を理解することは難しいでしょう。『SIPS』は流動性と収益性を加味して財産のポジショニングを可視化できるのが機能的な特徴です。例えば財産Aと財産Bは同じ相続税評価額なんだけれども、収益性と流動性を見たら財産Aを残しても良いよね、渡しても良いよね、ということまで可視化できるようにしています。財産をどう分けるとどうなるのかということが瞬時にその場でシミュレーションできますので、評価だけではない財産の良し悪しを体感としてエンドのお客様にも分かりやすい形で見ていただける、というのが非常に大きな特徴です。

ライフプランシミュレーションは、国が公開している統計データを吸い込んで自動作成する仕組みです。年齢、居住地、職業、業種など、相続人と被相続人からある程度のヒアリングができれば100%完璧ではないにしろ80点〜90点くらいのライフプランが自動で完成します。もちろん、手入力で実際の数値を反映させることも可能です。」

Q.SIPS開発の背景や効果は?(開発理由や結果)

「ビジネスをスタートした時からのお話になってしまいますが、私自身はもともと証券会社では生命保険、建築・不動産業界では賃貸マンション建築や投資用不動産など、いわゆる相続税対策商品を売っていた人間なんです。この経験から節税だけでは駄目だよね、ということに気づき、なおかつ分け方というロジックの重要性を実感していたのですが、当時の私たちは本当にマンパワーで、資料などもExcel作っていて、あまりにも属人的でレベルの差が激し過ぎるという問題がありました。そうであれば、コンサルティングのロジックをしっかり落とし込んだクラウドのシステムを作ろう、ということがきっかけで開発が始まったという経緯です。

当初から完全に士業を意識して着手しましたね。金融資産はどちらかといえば定量的な根拠をつけやすく分け易いのですが、不動産は特に分けづらく、なおかつ揉めるんですよ。揉めている家族の8割が不動産オーナさんであるという数字も出ています。ところが、士業の先生方が不動産の価値をお客様にわかりやすく説明したり、分け方の提案をするためのツールやノウハウが無かったんですね。ほとんどの士業の方は不動産実務をやったことがないので当然といえば当然です。そうであれば士業向けに、金融資産に加えて不動産の流動性や収益性まで、とにかくわかりやすく、なおかつ中立的な分析ロジックを作り込もう、ということで開発しました。2022年の10月にリリースしたのですが、その前にテストリリースで色々な士業の先生がたに見ていただきまして、これなら自分たちにも分け方の提案ができるよね、と感触は良かったですよ。詳しく伺ってみますと、まず財産自体の流動性や収益性という概念がなかったということですし、子ども達の老後資金まで踏まえた分け方を定義できるので提案しやすい、という感想をいただけました。

ITリテラシーも含めた部分で設定が難しく、色々なパターンのシステムでテストしてみたのですが、こだわって作り込んだものほど難しくて使えないよね、というご意見が多かったので可能な限り簡単に、なおかつ使う側だけではなく見る側であるエンドのお客様も体感的に分かる、という”見え方”には非常に力を入れて開発しました。お陰様でもう地域的には九州から関東までご利用いただいていて、引き続きどんどんお申し込みも頂戴しています。実際に使っていただいた士業の先生からは、時間軸の定量的な根拠や分け方などのお客さまへ提案できていなかった内容について、今までとは違ったお客様の納得度を得られたというお声をいただいています。『SIPS』は導入研修だけでなく、、ツールを使用したコンサルティングをどのように展開していくのかということについても、ノウハウを提供しています。。定期的な勉強会も予定しておりますし、本社は沖縄ですが各地で専門家の方々に参画していただいていますので、どの地域で実施するにも差し支えはございません。

今後についてですが、私たちとしても元々の本業である相続コンサルティングの実務経験の中で色々と解ってきたことがあります。これを活かしたヒアリングアプリの開発を予定しておりまして、お客様の状況に合わせて設定したヒアリング項目に添ってコンサルティングを進めていただけるというものです。相続は発展していくジャンルだと思いますので、分析ツールの提供のみであれば競合が出てきて真似をされてしまうと思うのですが、私たちは士業の先生がたと伴走して環境づくりをしていきたい、という姿勢ですので、差別化できると考えています。『SIPS』はまずお客様の財産を分析して分け方を決めますが、その次の段階として必要な時間軸で捉えた時に本当にその同じ財産をずっと持っておくべきなのかという判断まで可能なんですね。また、特に不動産は今の状況と10年後の状況を加味した保有の判断は難しいと思うのですが、『SIPS』であれば現在から毎年の時間の流れを追いながら、その財産の現在の状況を自動で分析してレポーティングできますので、士業の先生は毎年お客様とお会いする機会ができるということになります。イコールとして顧問契約やアドバイザリー契約をしっかり結べる仕組みになりますので、こうした環境も作ってきたいですね。」

Q.相続業務において求められる士業とは?

「少し難しい質問ですが、基本的に士業という括りではないのかな、と思っています。個別には税金の話であれば税理士の先生がいてくださったほうが良い、ということなどはあるのかもしれませんが、私たちとしてはまず、”お客様のご家族が相続で揉めないために、しっかりとした分け方を提案していこう”という考え方を基に、この相続という世界を少しでも変えようという気概をお持ちの先生がたと組んで一緒にやっていきたいという思いがあります。先ほどもお話しましたが、やはり相続で揉める家族が増えてしまいますと地域経済にも悪影響があるということが見えていますので、そうした問題を解決して地域を良くしてきたい、そのためにも相続をしっかりやっていこうという、という思いで一緒に進んでいける仲間であっていただきたいですね。」

Q.今後、相続業務で士業が生き残っていくためには、どのような考え方が必要か?

「恐らくどの士業の業界でも同じだと思うのですが、これからマーケットがやはりDX化やテック化に向かうことで業務の単価が下がっていっている筈なんですよ。ですから、これまでより一層、言い方は悪いですが下請け業務的に仕事を求めてどんどん企業や銀行を回ったりということではなくて、ダイレクトにお客様のお役に立てるコンサルティングが必要になってくると思います。相続で言いますと、お客様のご家族にこの先もずっと幸せでいていただけるような仕組みと言いますか、それこそ伴走できるコンサルティングということが、結局は求められるようになっていくのではないでしょうか。そういう意味でも、顧問契約やアドバイスのできる案件を多く取ってビジネスの質を上げ、お客様のためにコミットする本当の専門知識を持った先生がたが、これから必要になってくると思いますし、そうした先生がたがもっともっと増えてほしいな、と感じています。そのためにも『SIPS』というシステムでの出会いをきっかけに、ビジネスとしても一緒に広げていくことができれば良いなと思いますね。」

亀島淳一 プロフィール

1975年沖縄県出身。金融、不動産業界を渡り歩く中でいわゆる相続関連商品も扱ってきたが、身内に起きた相続トラブルで、それらが全く役に立たないことを思い知る。
それまで節税一辺倒だった各業界の相続対策に疑問を抱き、研究と実践を重ねる中で「もめない相続」のための独自のメソッドを確立。
2010年に株式会社シナジープラスを設立。 商品販売を目的とせず、相続のコンサルティングに注力するスタイルは業界でも珍しく、一目置かれている。
執筆や講演など、相続問題に対する啓蒙活動にも精力的に取り組む一方、2022年には家族をもめさせないための相続コンサルティングを支援するクラウドシステムを開発。もめない相続=幸せ相続計画を全国に広げるために奔走している。

【資格】
■上級相続アドバイザー/NPO法人相続アドバイザー協議会
■相続コンサルティングマスター/(公財) 不動産流通推進センター
■CCIM/全米認定不動産投資顧問
■CPM®/全米不動産経営管理士
■一種外務員/日本証券業協会
■2級ファイナンシャルプランニング技能士/NPO法人日本FP協会
■終活カウンセラー/一般社団法人終活カウンセラー協会

【メディア(相続コラム連載)】
沖縄タイムス副読誌(2015年~2018年)
沖縄タイムス(2018年~2021年)
琉球新報副読誌(2021年〜現在)