士業のサポートで広がる遺贈寄付による未来支援:認定NPO法人キッズドア 渡辺 由美子氏

士業のサポートで広がる遺贈寄付による未来支援:認定NPO法人キッズドア 渡辺 由美子氏

事務所名:

認定NPO法人キッズドア(NPO Kidsdoor)

代表者:

理事長 渡辺 由美子(わたなべ ゆみこ)

事務所エリア:

東京都中央区
東北事務所:宮城県仙台市

開業年:

2007年1月

従業員数:

正職員 106名・ボランティア 1,080名(2024年3月31日現在)

Q.キッズドアの現在の活動内容は?

「日本の子どもの支援、特に子どもの貧困問題に取り組んでおります。東京とその近郊、及び宮城で貧困家庭の小学生から高校生のお子さんたち2000人以上に学習支援として勉強を教えたり、家庭環境が整っていない子どもたちに食事を提供しながら安全な居場所を提供し学習支援も行う「居場所事業」も実施しています。

学習支援はコロナ前後で大きく変わりました。コロナ前は単に勉強を教えるだけでなく、そもそも学習意欲が低い子どもたちも多かったので、学習会に来てもらい、色々な話をしながら将来の夢や希望を育み、少しずつ勉強に取り組んでもらうことが重要でした。基本的には生徒とボランティアさんがマンツーマンで、勉強だけでなくいろいろな話をしながら学習を進めるスタイルだったんですね。

しかし、コロナで対面による活動ができなくなり、1ヶ月程度なら何とかなるだろうと思っていましたが、長期化することが分かったのでオンラインによる学習支援をはじめてみました。学校が再開した後は大体の学習会は対面形式に戻りましたが、結果として、オンライン学習支援は全国の子どもたちに提供できることが分かりました。現在、オンライン学習支援としては全国の高校生約300人を対象に英語に特化した学習会と大学受験の為の学習会を行っています。

また、コロナ禍以降は子どもたちだけでなく、全国の保護者の方々への支援もはじめました。貧困家庭の保護者の方々は非正規雇用が多く、コロナ禍で仕事に行けなくなって収入がなくなってしまうケースが多発しましたので、学習支援と並行してファミリーサポートという事業も始めました。全国の子育て家庭にご登録いただき、生活の向上や安定に役立つ文房具や食料品などの物資支援、情報支援、体験支援、保護者への就労支援を行っています。現在4,000世帯以上が登録してくださっていますので、図らずもコロナを機に事業が大きく拡大した形です。」

Q.キッズドアが誕生した経緯は?

「2007年から活動をはじめていたのですが、2年ほどはいわゆる任意団体でして、2009年にNPO法人を設立しました。今年でちょうど15年目になります。2009年は厚生労働省が初めて子どもの貧困率について正式に発表した年で、それまでは1億総中流社会の日本に貧困の子どもはいないとされていました。しかし、リーマンショック後に若者の雇用状況が悪化し、路上生活者が増えるなど、これまでにない光景が見られるようになったことで、相対的貧困率や子どもの貧困率が発表され、予想以上に深刻な状況であることが明らかになったんですね。

私どもはその当時から学習支援活動を行っていましたが、国としてはどのような支援が必要なのか分からない状況でした。弊団体の活動を参考にしていただき、他の有識者や支援団体とともに国にさまざまなアドバイスをして子どもの貧困対策を作り上げていただきました。しかし、今でもお子さんが進学する準備のためにやむなくキャッシングを利用して負の連鎖がはじまってしまうというケースなどを目にしたりしますので、困窮子育て家庭に向けてもっと国のサポートがあればと思っているところです。

私が活動をはじめたきっかけとしては、東京の下町に住んで地元の公立小学校に子どもを通わせている中で、これまであまり接点のなかったような家庭環境の子どもたちと出会ったことでした。例えば、シングルマザーで3人の子どもを育てているご家庭や、外国籍の親を持つ子どもたちなどだったのですが、そうしたご家庭の子どもたちは、経済的な理由から習い事や塾に通えず、夏休みも家族で出かけたり旅行したりすることができないなど、色々な機会に恵まれていなかったんですね。

一方で、私の子どもなどは恵まれた環境で育ち、私が旅行好きなこともあって一緒に海外へ行く機会もあったのですが、それは単にたまたまそうした家庭に生まれたからに過ぎず、夏休みにどこへも行かずお家で過ごす子どもたちも、たまたまそうした家庭に生まれたというだけのことなんです。子どもに罪はないし、親も頑張っているのに、生まれた環境によってこれほど差が生じてしまうことに疑問を感じて、何かできることはないかと少しずつ動きはじめたことが、今につながっています。

また、イギリスに1年間滞在した経験も活動に大きな影響を与えました。イギリスは階級社会ではあるものの、子どもを通わせていた公立小学校では1度も集金されたことがなく、保護者の身なりに違いはあっても、子どもに関してはみんな平等に教育を受けられる環境が整っていたんです。こうしたこともあって、日本に帰国した後、親の経済力によって子どもの教育環境に大きな差が生じる現状に対して、色々と思うところがありましたね。」

Q.活動によって生まれた結果は?

「学習会を始めても、最初は子どもたちに勉強の習慣がなく、こちらから電話しないとなかなか来てくれないこともありましたし、お家の環境があまり良くならなくて、ずっとご飯を食べさせたりということもありました。でも、そうした子たちも学習会に長く通ってくれることで無事に中学校、高校と進学して、さらには就職したり大学へ進学したりと、自立していく姿を見ることが一番嬉しい結果ですね。

私たちの目標は貧困の連鎖を断ち切ることです。最近、初期の頃に中学から高校の時に支援していた子どもたちが同窓会を開いて弊団体の15周年を祝ってくれたことがありました。大学生や就職して社会人になっているなど自立して自分の人生を歩んでいるなと感じ、とても嬉しく思いました。

また、学習会に通う生徒には医者になりたいという子も結構います。経済的な理由で諦めかけていた夢を追いかけられるようにと、医療系大学・専門学校を目指す高校生のための「SBCメディカルコース」という学習会をはじめました。会場に通える子は対面で、地方の子はオンラインで受講しています。これまでに5人の子どもたちが医学部に入学しました。

年間行事として、3月の卒業シーズンには合格祝いや修了式などをやっているのですが、もしうちに来てくれていなかったら、この子たちは今こうなっていなかったよなと思うと、一人一人が1年間で成長した姿を実感できるこうした機会は、特に嬉しいですね。」

Q.士業に依頼したい、遺贈とは?

「子どもたちを支援するために企業・団体や個人からご寄付をいただいているのですが、人生の最後に子どもたちに貢献したいという方々のために受け付けている遺贈寄付も弊団体にとってはありがたいご支援の一つです。とある地方の行政書士事務所から、「遺言書でご自身の財産を寄付したいとそちらを指定されている方がいるのですが、受け取られますか?」というご連絡をいただいたのが最初の遺贈寄付でした。

その方は、自身も厳しい環境で育ち、日本の子どもたちのために何かしたいという思いから弊団体を選んでくださったそうです。中学卒業後親元を離れて働き、財産を残すご家族がおられなかったので、それなら自分と同じような環境の子どもを支援したいと寄付先の団体を探しておられたんですね。子どもの支援というと、基本的にはアフリカなど海外の子ども支援が有名だと思いますが、少しずつ日本の子どもたちも大変なんだという認識が広がって、支援したいという方も増えていると感じています。また、遺言書には書いていなくても、遺産を受け取った方が寄付をしてくださるという形でいただくこともありますね。

弊団体では包括遺贈という形で、現金だけではなく不動産や金券など色々なものをいただくこともできますし、弊団体の活動を直接支援していただくことも、幅広くやっている事業を通してご協力いただくこともできます。例えば奨学金のような形で地域の子どもたちの進学を支えたいなど、皆さんの思いに添った活動に使っていただくこともできるのではないでしょうか。

多額の支援でなければとお考えの方も多いようですが、10万円や20万円でも助かる子どもたちや保護者の方々はたくさんいらっしゃいますので、士業の皆さんからもクライアントさんなどへ「少し子どもの支援に寄付をされてはどうですか」とお勧めいただけると、すごく嬉しいです。遺贈にあたり、この団体で大丈夫なんだろうかとご心配な方もいらっしゃるかと思いますが、我々はコンプライアンス重視でしっかりとしたマネジメントを行っておりますし、団体内に弁護士資格を持つインハウスロイヤーも置いています。もちろん、認定NPO法人として弊団体へのご寄付は税制優遇の対象になりますので、ご安心いただけるようにご説明可能です。

また、個人寄付の金額は増加傾向にあり、特に遺贈寄付は過去10年で2倍に増えておりますし、老老相続で相続人の方もシニアでお金を持て余しているという背景があります。そうした中、遺贈寄付の理由として最も多いのは人生の最後に社会貢献をしたいという強いお気持ちで、アンケート調査では遺贈寄付の希望団体として日本の子どもの支援が一番に出てくるという結果も出ているんです。こうしたことを、相続や遺贈について最初に相談する先である士業の皆さんからお伝えいただくことで、クライアントさんのご検討材料を増やしていただくことにもつながるのではないかと思います。」

Q.読者へのメッセージ

「実は、私どもにいただきます遺贈のご相談は、ご本人から直接ではなく士業の方がご相談を受けてお話を持ってきてくださることが多いのです。士業の皆さんが弊団体をご紹介してくださることで子どもたちへの支援が可能になっていることを日々感謝しておりますし、これからも日本の子どもたちへ支援を考えている方々と弊団体をつないでいただけると、大変ありがたく思います。」

渡辺 由美子 プロフィール

認定NPO法人キッズドア理事長
一般社団法人全国子どもの貧困・教育支援団体協議会副代表理事

千葉大学工学部卒。大手百貨店、出版社を経て、フリーランスのマーケティングプランナーとして活躍。 配偶者の仕事の関係で一年間イギリスに居住し、「社会全体で子どもを育てる」ことを体験する。2007年任意団体キッズドアを立ち上げ、2009年内閣府の認証を受けてNPO法人キッズドアを設立。子どもへの学習支援や居場所運営に加え、2020年より新型コロナ感染症の影響を受けた日本全国の困窮子育て家庭への支援を開始。日本の全ての子どもが夢や希望を持てる社会を目指し、活動を広げている。2016年第4回日経ソーシャルイニシアティブ大賞国内部門ファイナリストに選ばれる。2018年5月、初めての著書『子どもの貧困~未来へつなぐためにできること~』(水曜社)を上梓。内閣府こども家庭庁こども家庭審議会こどもの貧困対策・ひとり親家庭支援部会臨時委員。厚生労働省 社会保障審議会・生活困窮者自立支援及び生活保護部会委員。