労務相談AI HRbase PRO で社労士業界に革新を:社会保険労務士法人HRbase 三田弘道氏

労務相談AI HRbase PRO で社労士業界に革新を:社会保険労務士法人HRbase 三田弘道氏

事務所名:

株式会社HRbase、社会保険労務士法人HRbase

代表者:

三田弘道(社会保険労務士)

事務所エリア:

大阪府大阪市

開業年:

2015年

従業員数:

約20名

Q.HRbase PROの現在は?

「スタートから4年ほどになりますが、やはり労務相談AIを導入してから非常に伸びていますね。ユーザーとしては、地域のトップ事務所であったり、若手の方のご利用が多いと思います。AIの波が来ているという理由もあるのでしょうが、社労士業界自体に強い危機感があるという印象で、おそらくその気配に敏感な方々が導入しているのではないでしょうか。これは良い傾向でもあって、世の中が激変していることを肌で感じることができているかどうかという話でもあると思うんです。

生成AIの機能は指数関数的に変化するため、多くの人にはまだ感じ取れる段階ではないのかもしれませんが、敏感な人はもう気づいているんでしょうね。士業の業界では「もう仕事がなくなるんじゃないか」という仮説が昔から何度も出ていますが、それに対して「やはりなくならなかった」と過去から推論する人と、「この技術があるということは、こうなるはずだ」と未来を推論する人に分かれていて、HRbase PROは未来を推論できる方々が導入してくださっているようなイメージがありますね。」

Q.労務相談AIの現状と反響は?

「やはり良い反響をいただいています。これまでHRbase PROは労務のデータベースでしたから、どうしても検索をしなきゃいけなんですよね。業務フローとしては検索した後に顧問先への文章を書くことになるため、見比べながら回答を作るという別のタスクが発生するのですが、労務相談AIはそれも含めて出力されますし、検索についても顧問先から言われたキーワードを特に変換することなく、適当に質問文を入れるだけでなんとかなりますので、かなり楽になっていると思います。

特に影響があるのは新入社員などのあまりスキルがない層ですね。ベテランのようにキーワードに関する蓄積がないので、恩恵は大きいようです。効率の観点からも、新入社員が調べごとをする時間の削減に貢献しています。先ほどお話したような危機感を持っている先生方は、すぐに導入して効果を感じてくださっていますが、ベテランの先生の中には、習慣を変えられない、どんなに作業が早くなろうが、今まで培ってきたやり方を変えることがストレスになってしまうという方もいらっしゃるようです。

調べることを美徳とする先生もいらして、使ってみた職員は非常に便利で良いと言っているのに、職員が考えなくなるから嫌だという理由で導入を見送ったという失注案件もありました。これは割と大きな課題だな思っていて、おそらく自家用車が普及した当時、歩けなくなって体が弱くなるのではないかという意見が出たのと似たような概念だと思うんです。自分たちはこのように成長してきた、こんなに苦労して何ページも本を読んで調べて、それによって知識を培ったんだという成功体験があるので、それを下の世代にも継がせたいという思いがあるのでしょう。

しかし、インターネットがない時代は本で調べていたものがWEB検索になり、それがAIになるだけのことですし、むしろ調べることに慣れている人たちほどあまり考えていないように思うのですが、そこの理解がまだ浸透していないということですよね。しかし最終的には業界が変われば変わっていくでしょうし、その一つのきっかけはとしては、一般企業がAIを使いはじめることなのかなと思っています。インターネットである程度のことが調べられるようになった事象の上位概念のような話で、多くの人が出遅れている場合じゃないと感じる状況が2年後くらいにやってきそうだなと思っているところです。」

Q.資金調達を行った理由とは?

「やはりAIの流れを見ているからですね。このAIの進化がインターネットの時と同じくらいの変化をもたらすと考え、今年の1月くらいから動き始めて半年間ほどで調達を完了しました。また、これからAIは一時的に幻滅期に入ると予想していて、1年間ほど”AIって使えないよね“という時期が来ると思っているんです。そうすると逆に今がチャンスで、ここで踏み込む人たちが1年後に勝つと分析して、この1年間で資金を投下することを決めました。

資金使途についてはもちろん労務相談AIの強化で、今は質問に答えるだけの機能ですが、多様な相談や資料作成など、AIにはまだまだできることがたくさんありますし、山盛りの可能性があるのでそれほど実装コストがかからないのではないかとも考えています。また、AIエージェント化の動きが流行るのではと予想していて、AIの定義自体が割と曖昧ではありますが、ざっくり言うと人の代わりですね、指示を受けてタスクを分解し、承認を得て実行して報告するという、いわば担当者的な機能が今後どんどん代替されていく戦争が2年後くらいに起こるのではないでしょうか。現在の労務相談AIは、その一部として考えています。

もう一つの資金使途であるスケールアップのための人材採用計画としては、やはりAIを作る上で必要になる、社労士としての専門知識を持っている人を採用していく予定です。専門家がきちんとノウハウ化していきながら、AIが読みやすい資料を作成していくことで、AIの向上を図っていきたいですね。先日、ICCというスタートアップのイベントに参加した際に大手企業のAI責任者と話をする機会があったのですが、AIの専門家はいわゆるアルゴリズムを作れるにしても、最後のボトルネックになるのは専門知識だという結論になりまして、やはりそこだよねと意気投合しました。AIを作るにしても、元となる資料を専門家が作らないと上手く動かないので、弊社がそこを追求することで高い参入障壁を築けると考えています。」

Q.HRbase PRO、労務相談AIの展望は?

「社労士と一般企業のネットワークを作りたいですね。社労士として仕事をする上で、特に資格を必要としない業務が割とあるわけですが、これらはAIに代替されていくでしょうし、企業側としても社労士に相談するほどではない事案は多いようですから、一般企業も社労士も自分にしかできないことにフォーカスできる世界を作りたいなと考えました。

具体的には、ある程度一般企業がAIで解決できる部分は自己解決してもらって、本当に相談したい部分だけを専門家が学ぶ。専門家は相談に対して、単に本を読んで答えるだけでは価値がないので、自分の経験値からしか言えないアドバイスや、AIではできないグレーゾーンの回答、一緒に責任を取るような対応をしていく。こうした、AIにはできない高付加価値なサービスを提供する専門家が高収入を得られる世界を作っていきたいなと思っています。」

三田弘道 プロフィール

兵庫県西宮市生まれ。大阪大学大学院在学中に社会保険労務士試験に合格。2015年に株式会社Flucleを起業。300社以上の企業の労務管理支援の中で労務領域の属人化を課題に感じ、HRbaseサービスを開発。大阪府社会保険労務士会 デジタル化推進特別部会員。ITや業界活性化のテーマで毎月約10本のセミナーに登壇。2024年11月18日付で社名を「株式会社HRbase(エイチアールベース)」へ変更。