弁護士事務所から生まれたAuthense 社会保険労務士法人:Authense 社会保険労務士法人 桐生 由紀氏

弁護士事務所から生まれたAuthense 社会保険労務士法人:Authense 社会保険労務士法人 桐生 由紀氏

事務所名:

Authense社会保険労務士法人

代表者:

桐生 由紀(社労士)

事務所エリア:

東京都港区

開業年:

2019年1月

従業員数:

Q.社会保険労務士法人としての活動は?

「基本的には企業をクライアントとして人事顧問的なアドバイザリーをメインに、IPO準備中企業の労務DDや規定の改定、スポットコンサルティング等を各社に合わせてカスタマイズして対応しています。また、手続の代行や給与計算のアウトソーシングもお引き受けしています。

Q.社会保険労務士業界の現状について、どう感じるか?

「社労士に限らず士業全体の傾向だと思いますが、小さな個人事務所もたくさんある中で段々と手続きや代行といった、事務的なアウトソーシングだけを領域としてやっていくのは難しくなっていますよね。世間の印象としてはまだ従来の感覚が残っていて、未だに社労士は事務をお願いする人、という風に思っている企業さんも中にはいますが、それも徐々に変わりつつあるのかなという気がしていますし、人事的なことを全般的にご相談いただくという立ち位置に変わっていかなければダメなんじゃないかな、と思っています。私はどちらかというとそちらの領域の方が得意ですので、方向性が変わることはウェルカムなんですけどね。労務問題も複雑化してきていますし、例えば辞めていただきたい従業員さんが出てきてしまった時など社内にいわゆる人事部長がいれば相談して考えて、ということができますが、ベンチャー企業などはなかなかそこまで組織の整備に手が回らないことが多いので、本当にちょっとしたことでも相談してくるケースが少なくありません。ですから、身近なことでも気楽に”どうしたらいいですかね”って相談できる存在でいると良いのかな、と思います。」

Q.社労士法人を設立しようと考えた経緯と背景は?

「私自身はAuthense法律事務所に入社して15年が経つのですが、最初はAuthense法律事務所と弁護士ドットコムの管理部門の構築に従事し、その後部門責任者として実務やマネジメントをハンズオンでやってきました。社員数が増えてきたタイミングで徐々に人事に専門特化していきました。やはり法律事務所ですので、労働問題や人事労務に関する案件のご相談が来る訳ですが、人事労務は、紛争になる前に予防することの大事さを目の当たりにします。弁護士は万能だと思われがちですし、もちろん資格としては労務も税務もやろうと思えばできるのですが、本当に細かい実務的なことや運用の区分を深く理解しているかというと、必ずしもそうとは言えません。このような中で労務に関する相談は増えていき、私としても一通り企業人事の経験が蓄積されていく中で、このスキルを外で活かすことはできないだろうかと考え始めました。企業人事を経験した私が社労士としてかかわることで、クライアントにとっても有益だと感じたのです。ただ、私はこの時まだ無資格で、誰かのアシスタントができるような性格でもありませんでしたので、自分で直接クライアントに対応するために社労士の資格を取得しよう、そのほうが楽しいし、Authenseグループとしてもブランドに社労士法人があれば幅が広がって良いのでは、と思い立ったのが社労士法人設立のきっかけです。個人的には3人目の子どもが生まれて育児が大変な時期でもあったのですが、入社から10年が経つ頃で今後のキャリアについて考えるタイミングでもあったんですよね。もちろん、これまでも色々と考えてはいたのですが、仕事の役割を簡単に減らせる状況ではない中で子どもを3人抱えて、プラスで資格取得の勉強となるとスイッチを入れるのに時間がかかってしまい、先送りにしていました。ですが、家庭との両立を思うと生涯時間なんて作れそうにないな、先送りにしていてもダメだなと思い直して、決意したという感じです。

実は、合格するまで会社には資格取得の意向を伝えませんでした。ちょうどその頃、経営方針として士業のワンストップ展開の話題がちょこちょこ出始めていた時期ではあったんです。弁護士法人だけではなく税理士法人など士業をグループ展開してサービスを提供する方が良いに決まっているじゃないか、という話にはなるものの、具体的には進んでいないという状況でした。だったらもう取っちゃおうかな、と密かに思い、勝手に社労士資格を取得したという感じでしたね。合格発表は10月下旬だったと思うのですが、合格しているのを確認して即座に報告し、同時に自分で法人を作ってやりたいと伝えたところ”良いね!”ということで、必要な実務経験はクリアしていることも分かっていましたので、すぐに登録しました。これが12月のことで、1月に開業しましたので最速ですよね。

Q.社会保険労務士法人設立の効果は?

「人事労務は弁護士とのシナジーが結構ありますよね。弁護士法人と社労士法人の共同で顧問契約をしていただいているクライアントさんも結構いらっしゃるのですが、普段の労務的なやり取りは社労士である私に相談してもらっていて、トラブルは発生しないに越したことはないので基本的に予防法務や社内体制の構築や整備が中心です。それでもやはり紛争が入ってくるようなことになってしまった時だけ、弁護士を絡めていくというような形にしていて、役割分担は上手くできていると感じています。

Authenseグループには今年の1月から税理士法人と弁理士法人も加わり、結構幅が広くなってきてはいますね。それぞれの法人には全員別々の代表が立っている状態です。ここは弊所が他の士業法人グループと少し異なる点かもしれません。Authense法律事務所代表である元榮は、Authense professional  groupの代表としてグループ全体をまとめています。各法人の運営は、各法人代表に任せてくださっている感じですね。社労士法人に関しても、私が法律事務所のHRを長年統括してきた実績からの信頼で任せてもらっていると感じています。

Q.組織として成功させるためには何が必要か?

「基本的に社労士法人としてはスタッフを雇用をせずに法律事務所のリソースを使うという形で運用しています。コーポレート部門の機能や事務的なアシスタントは、法律事務所のメンバーにお願いすることで、社労士業務に集中できる仕組みです。私がもともと法律事務所に所属していた下地があっての社労士法人設立でしたので、そうした特殊要因もある気がしますが、士業グループとしては新しいスタイルなのかもしれませんね。最初から、コーポレート部門であったり、社労士業務以外の部分で人員を個別に抱えるよりは、Authenseグループとしてリソースを共有するほうが結局はメリットがあるよね、という感覚でした。ノウハウも蓄積しますし、共有することで生まれるシナジーもあると思っています。」

Q.社会保険労務士、社会保険労務士法人の未来と生き残るための条件は?

「最初にも少し触れましたが、やはり事務屋さんと言いますか、事務代行のような従来のお仕事の範囲では今後生き残ることが難しいのではないかと思います。結局そうした業務内容の単価はどんどん下がっているのが現実で、企業さんが真剣に調べると安い顧問単価の事務所がいくらでも出てくるんですよね。正直なところ価格だけで戦おうと思うと必ず負けてしまいますので、この土俵でパイを争うということはもうないのかな、と思っています。

自分自身のキャリアを考えても、旧来のお仕事を伸ばしていくというよりは、コンサルティングやアドバイザリーの顧問といった領域を拡充していくほうが良いのかな、と思っていますね。私自身が、弁護士ドットコムやAuthenseといったベンチャー企業でずっと働いてきたということもあり、結構ベンチャー企業とはシナジーがあるな、と感じているんです。最近は本当に少ない人数のスタートアップ企業さんからもご相談をいただいたりしますので、人事のご相談に乗ることがメインにはなるんですけれども、これまでに培ってきた管理部門系の経験も活かしてサポートしていきたいですね。

企業人事を採用から組織構築まで幅広くやってきた経験と、社労士としての専門知識を生かした顧問ができるというのは、私の強みだと思っています。事業を分かっている社労士はそんなに多くありませんから。

今後に関して特に力を入れていきたいと考えている分野は、早期の労務整備に関するサポートですね。先ほども申し上げましたが、ベンチャー企業さんからのご相談が多くなってきているんですけれども、IPO準備を考えている企業さんからは早い段階で労務を整えたいというご要望も増えていて、今もこの分野に関しては結構な力を入れています。早い段階からサポートしつつ、将来のデューデリジェンス(以下DD)に耐えられる体制の構築をお手伝いしています。労務DDもお引き受けしているので早い段階で大変な事件にならないようにお手伝いしたいな、と考えています。いざ上場準備、という段階から初めてDDに入ると、指摘が多すぎて対応に忙殺されるというようなお話はよくお聞きしますし、割と皆さんが軽視しがちな部分であったりするようですね。大丈夫だろう、という感覚でずっとやってきてしまって、全然大丈夫じゃなかったみたいな(笑)。今後こうしたことは非常に重要になってくると言いますか、労務をクリーンにしておくということがトレンドになっていくのではないかとも思います。繰り返しになりますが、私は経歴として本当にベンチャー企業に助けられたな、という思いもありますので、今後力を入れていきたい業務分野の一つとして大きなウエイトを占めている感じです。労務DDを手がけている事務所は現時点でそれほど多くありませんので、そういう意味でもお役に立てると思っています。」

桐生 由紀 プロフィール

大学卒業後、大手財閥系企業に入社。出産育児期間を経てAuthense法律事務所に入社。創業間もないベンチャー企業だった法律事務所と弁護士ドットコムの管理部門の構築を牽引。その後、Authense社会保険労務士法人を設立し代表に就任。現在は、弁護士法人でHR部門を統括しつつ、社会保険労務士法人の代表として複数のクライアントを支援している。
企業人事としての経験と社会保険労務士としての知見両方を合わせ持つ事が強み。創業まもないベンチャー企業から、IPOを想定した労務DDが必要な企業まで、企業の成長フェーズに合わせたコンサルティングが得意。
プライベートでは男子3人の母。