社労士として「人」にまつわる仕事を選んだ理由とその魅力:町田社会保険労務士事務所 町田泰昭氏

社労士として「人」にまつわる仕事を選んだ理由とその魅力:町田社会保険労務士事務所 町田泰昭氏

事務所名:

町田社会保険労務士事務所

代表者:

町田泰昭

事務所エリア:

奈良市

開業年:

 2013年(平成25年)9月

従業員数:

大杉:最初にお名前と事務所の所在地、資格と現在のメイン業務など、手短に自己紹介をお願いいたします。

町田:奈良市で社会保険労務士をやっています、町田と申します。2024年の9月に、開業してから12年目に入るところで、業務は大きく社会保険・年金関係と労務関係に分かれるんですけども、基本的には労務関係をやっていて、年金はあまりやっていないかなという感じです。

労務関係の手続きや給与計算をやらないわけではないのですが、メインは労務相談ですね。契約した会社さんの労務、人に関する全てということで、採用のお手伝いや定着の支援につながるようなアドバイス、逆に辞めさせたい方への対応など、色々な相談に乗らせていただいています。

大杉:丸11年とのことですが、何年度の試験でしたか?

町田:登録は2013年なんですけど、試験は2011年かな、2年前に通っていると思います。働きながら2回目の受験で合格しまして、その会社を辞めてしばらくしてから開業しました。人事の現場経験がなかったので、事務指定講習を受けて登録という流れですね。

大杉:社労士以外の方へ少し補足しますと、2年以上の実務経験がない場合は事務指定講習を受ける必要がありまして、私も受けました。町田さんのプロフィールを拝見すると「司法試験の勉強が大変そうで入学2日で諦める」とありますが、これ聞いてもいい?2日って早すぎません?

町田:当時まだロースクールがなくて、法学部の学生は基本的にみんな予備校へ通ってたんですね。学校よりも予備校で過ごす時間が多く、周囲の本気度を見てそこまでやるのかと、もう受験も終わったのにそこまでしなければならないのかと、早々に諦めてあまり勉強しませんでした(笑)。

大杉:私も似たようなものでした(笑)。ゼミは労働法とのことですので、だから社労士なのかなと思ったのですが、そのあたりはいかがですか?

町田:学生時代は社労士という資格を全く知りませんでした。労働法そのものは元々興味があって、中学か高校くらいかな、専門書なんかは読めませんが労働関係の岩波新書とかをパラパラと読んでいましたね。労働法だけではなく色々な法律関係の新書を読んでいましたが、興味関心が高かったのが労働法という感じで、弁護士になりたいということは割と中学生くらいから思っていたかな。

大杉:社労士を知らなかったということですが、どのように資格取得に至ったんですか?

町田4年で卒業する人が少ない大学で、特に法学部は司法試験のために5回生や6回生と留年する人が多かったのですが、私は4年で卒業してシステム開発の会社に就職しました。労働法のゼミへ行っていたせいか人事部門に配属されまして、古くなった就業規則を見直す必要があるということで、現行の法律だとここは直さなければといったようなチェックをしたり、今から考えるとほぼ社労士のような仕事をしていましたね。

また、その会社はソフトウェアを開発していて、本社が大阪で支店が東京にあったので、最初はその度に社宅などを検討していたのですが、転勤規定を作りたいという要望があり、社宅や赴任手当などの社内規程の整備もしました。そうして2年半ほど人事の仕事をしていた中で、会社から社労士という資格があるので取ってみないかと言われたのですが、その時は軽く調べた程度で特に資格を取ろうとは思わなかったんですよね。就業規則の作成もあくまで人事の仕事として捉えていて、あまり社労士業務という感覚ではなかったこともあると思います。

その後、少しだけ経理の仕事を挟んでシステム開発の現場に戻り、人事とは全く関係のない仕事を続けていましたが、入社してから10年ほどで退職します。次に何をしようかと考えた時に、社労士という資格があることを思い出してそこから目指すことにしたという経緯です。退職したのが7月で、その年の社労士試験の申込には間に合わなかったので、来年に受験しようと考えて予備校へ通うことにしました。

仕事との並行ではなく腰を据えて勉強しようと11月頃から予備校へ通いはじめ、翌年の8月に1回目の試験を受けたものの、これは選択で足切りを食らって落ちてしまいました。ただ、合格できそうな点数ではあったので、2回目は働きながら勉強しようと考え、ハローワークで病院の総務人事の職を見つけ、働きながら受験した2回目で合格したという流れですね。合格後すぐに病院を退職していたのですが少し体調を崩していたため、しばらく経ってから開業しました。最初の会社を辞めてから開業するまでに、2〜3年くらいかかったと思います。

大杉:ご経験があるので事務指定講習は必要なかったのでは?

町田:あまり詳しいことは言えないのですが勤めていた会社がなくなってしまいまして、実務の証明書類が手に入らなかったんです。ただ、会社での業務はあくまで社内整備がメインでしたし、手続きを幅広く経験したわけではありませんでしたから、一通り学べる事務指定講習は受けて良かったと思っています、ちょっとお金はかかりますけどね。

大杉:現在は奈良県社労士会の副会長を勤められているということですが、開業から現在に至るまでの経緯はどのようなものだったのでしょうか?

町田:私が社労士会に入会したのは9月で、ちょうどボーリング大会があったんですね。奈良県会はそれほど大きな会ではなく全県で300名くらいの会員数で、更にこうした懇親会に参加するのは1割程度の30〜40名というアットホームな雰囲気ですから、割と会長や副会長なども参加されるんですよ。そうすると、結構お話をする機会がありますので会でのつながりができるんですよね。

そんな中、当時の支部長が自分はもう辞めたいということで、ブラックバイトと同じで(笑)後任を探さなければいけなくなり、開業から2〜3年目だった私に「今だったら支部長をやらなくて済むから支部の役員をやらないか」と声をかけてくださったので、副支部長を引き受けました。奈良県の場合、支部長と役員の一部は支部推薦の理事という形で奈良県社労士会本会の理事も兼任します。その後、県会の副会長もやっています。

大杉:なるほど。お仕事はどのように取られていたのですか?

町田:私の場合はあまり参考にならないかもしれませんね。前提として、実はそれほど開業に熱心だったわけではないんです。最初はハローワークで探していたのですが、有資格者はいずれ独立開業するだろうと思われたのか、なかなか仕事が決まりませんでした。書類選考で落ちることもある中で諦めて開業準備をしていたところ、ちょうど大阪の社労士事務所で社労士の求人があったんです。

面接の際に登録準備をしているという話をすると、週4日は大阪で働き、週1日は奈良で仕事をするという働き方を提案されました。その事務所は開業して1年ほどでしたが仕事が溢れている状態で、かなり忙しかったんですね。所長が自宅開業をしていて当初は事務所がなかったので、直接お客様の所へ出向いたり、カフェで打ち合わせをするようなノマド的なやりかたでしたし、私の大阪と奈良の業務配分もかなりラフな感じでした。

最初は大阪での仕事が多かったのですが、そのうち奈良県社労士会の会務を通じて仕事が発生するようになってきました。もちろん営業活動はしていないのですが、社労士会が労働局から受けている事業の担当者として関わっていると、その後お客さんとのつながりが直接できるといった形ですね。また、大阪の事務所は結局3〜4年前に辞めたのですが、その際に引き続きお願いしますと言ってくださったお客様を一部引き継ぎました。昔勤めていた会社の先輩からご紹介していただくこともありましたね。

大杉:基本的に人を介してお仕事が発生する形なんですね。こうしてお話していると私も心地よいですし、町田先生はコミュ力が高いなという感じがいたします。コメントにも「ファンです」と書いてくださっている方がいらっしゃいますし。

町田:ファンはネタですよ(笑)、自分ではコミュ力が高いとも思っていませんしね。ただ、最初に就職したシステム会社は割とお客様からのヒアリングなどを高いレベルで求められていたので、その基準で言えば私は仕事ができるほうではなかったと感じているということがあるのかもしれません。社内メンバーの調整などもありましたし、意図せず現在必要なスキルの下地になっているようで、助かっている部分がありますね。

大杉:私は会務に関わっていないのですが、行政書士に登録した時に割と政治的というのか、人間関係で動くことが多いのかなという印象でしたので、会務にも活かされているのかもしれませんね。副会長をされていて良かったと思われる要素には何がありますか?

町田:どうなんでしょうね。私は今1人でやっていますが、人を雇って売上や利益をどんどん上げて広げていこうとなると、会務に取られる時間は結構インパクトが大きいように思いますし、直接的にお金につながるようなメリットはないと思います。活動の中では、今後社労士はどうなるのかといった話題になることが多いですね。

県会の副会長としてはまだ2年目なのですが、最初は支部の副支部長を4年、その後支部長を4年務めた経験から、面白かったのは支部長のほうかなと感じています。副会長は会の方針を分担していくという形なので、支部長の時ほど自由には動けない面がありますが、支部長はリーダーとして色々なことが決めやすいですし、新しいこともはじめやすかったですね。そもそも、あれこれ指図されてやるのが面倒だから1人で事務所をやっているわけで(笑)。

大杉:ずっとお1人で経営されていて、人を雇おうとお考えになったことはないのですか?

町田:考えていないことはないのですが、結局ずっと1人ですね。ただ、それが良いかどうかは迷っているところで、気持ちの良い所に安住しちゃっているところはあるんですよね。今は自宅開業なので、人を雇うと事務所を借りる必要がありますし、固定費が上がると安定した収入がないと難しいとも思います。先程お伝えしたように安定性の高い手続き業務をやっていないのは、メインにされている方には申し訳ないのですが、長い目で見るとそんなに将来性がないと思っているからなんです。

今後の方向性としてはAIに置き換わっていくと思っていますので、人を雇うために固定的な収入を上げる必要があるとしたら、コンサルなどの顧問料が入る仕組みを確立することかなと思うものの、踏み出せていないという感じですかね。

大杉:手続き業務が少なければ、相談業務は割と広げられるという感じでしょうか?私も1人でやっているのでよくわかるのですが、例えば給与計算を引き受けるとなると、月末などに集中しがちという問題もありますよね。

町田:もちろん相談業務にも限界はあると思いますが、私自身はまだ余裕があるという感じです。おっしゃる通り手続きは特定の期間がシビアになるので、その1番忙しいタイミングに合わせて人を雇うとそれ以外の日にはどうするのかということにもなりますから、やるとすれば業務委託なんですかねえ。ただみんな同じことを考えるでしょうし、じゃあRPAを導入するとなると、それこそ1人で回せるという話になりますしね。

大杉:アナログ以外で業務の導線はありますか?

町田:今はないですね。今日いただいたお問い合わせも商工会議所から聞きましたという方で、話をしてみて合わないならそれで良いという前提でお話を聞いている感じです。他に相性の合う方がいればそのほうが良いですからね。

大杉:中小企業家同友会にも入られているようですが、そこからもお仕事が入ったりするんですか?

町田:中小企業家同友会は、仕事の紹介をし合うというよりは経営の勉強をするなどの活動がメインですから数はないですが、単発で就業規則を直してほしいというご依頼はあったりもします。

大杉:ソフトウェア会社では就業規則を取り扱われていたそうですが、今も規程を作ったりはされているんでしょうか?

町田:単発・顧問ともに取り扱っていますが、そこが悩ましいところで、本当は顧問契約でも就業規則の変更があれば別途請求したいと思いつつ、ちょっとした条文の変更などは料金内でやっちゃうこともあるんですよね。顧問契約は相談だけの顧問と手続きもフルでやる顧問の2種類を用意しているのですが、前者の場合でも手続きに別途お金が取れないことが多くて、徹底できていないところがあります。

大杉:今後の事務所運営については、どのようにお考えですか?

町田:人を雇って売り上げを増やしたいとか、利益を増やしたい、なにがなんでも1億円稼ぐぞ、みたいな強い思いはなくて、今のままでいいかなとダラダラしてしまっているところがあるんですよね。目標を作ってそこに向かって、という風にはなかなか思えずにいる感じです。

大杉:業務としてはこれからも相談メインでお考えですか?

町田:そうですね、相談にプラスして、例えば今は人手不足に悩む企業が多いので採用支援や離職率を下げる制度作りを提案していくような形で考えています。そうすると、新規顧客のほうがやりやすいかなと思いますので、評価制度などをフックに顧問に入るというような感じでしょうか。今の自分のやり方を変えなければいけない難しさはありますけどね。

大杉:社労士に限らず、これから士業を目指す方へのメッセージをいただけるとありがたいです。

町田:士業に限らずどんな仕事も、AIの進化はもう戻らないという前提がある中で、結局AIにはできないことやAIが苦手とすることで飯を食っていくという話になっていくと思っています。少なくとも社労士はその範囲が広いのかなと。はっきり言って手続きは、ある意味で我々も淡々と必要な情報を処理していますから、それは結局AIができることなんですよね。

一方で労働相談などであれば、人は理屈で動かないところがありますから、昨日と今日で言っていることが違って面倒臭いなと思いつつも(笑)、そこに価値があるという気がしています。AIでは混乱すると思うんですよ。あと10年くらいは従来のやり方でも通用するかもしれませんが、それ以降は多分どんな士業でも答えが明確にあるものとは別の場所で存在意義を考える必要があると思います。あらゆる業界が、新しく何ができるのか、人にしかできないことは何かを考えていかなければならなくなると感じているところです。

大杉:ありがとうございます。やはり最後は人の感情や行動で、社労士は人の全てに関わる仕事ですもんね、町田先生はすごく包容力があるなと感じました。幾つか質問が来ていますのでもう少しお付き合いいただきたいのですが、「社労士としてのやりがいはなんでしょうか?」とのこと、いかがでしょうか?

町田:こういう言い方をして良いのか分かりませんが、別に社労士という資格はどうでもいいと思っているところがありまして、結局その人にまつわる仕事をしている中で、たまたま社労士という資格を持っている、ということだと思うんですね。その前提ですと答えは2つあって、結局お客様は「人」で困っていることが多く、例えば今まで頑張ってくれていた従業員さんなのに最近はやる気がないという悩み、これには正解がありません。そうした、答えのないことを一緒に悩んで考えて試行錯誤を繰り返すのが、その人にまつわる仕事をする上でのやりがいかなと。

もう1つ、社労士という資格としてのやりがいは、弁護士さんや税理士さんに比べたらそこまで有名ではない社労士という資格を知る人を増やすことに貢献できることです。これは会務をしている理由の1つでもありますね。

大杉:「私もそう思います」といった同意のコメントを複数いただいていますが、確かにお客さんと並走するというか、ちょっと特殊ですよね。

町田:ですから「先生」なのかなということもありますね、教えているわけではないよなと。本来の「先生」もそうなのかもしれませんが、いわゆる正解がある知識伝達ではない、知識を伝えることもありますが、それが全てではないという気がしますね。先生と呼ばれるなんて滅相もないというか、あまり好きではありません。

大杉:「人は正論では動かないのは本当にそう思います」という感想もいただいています。我々は教科書的にこうだという正論は習いますが、実務ではお客様と一緒に考えましょうということになりますからね。それでは最後の質問として「顧客は企業中心だと思うのですが法人化を検討されたことはありますか?」とのことですが、いかがでしょう。

町田:顧客は企業と個人事業主が7:3くらいの割合ですが、あまりこちらが個人だから法人だからということで取引が変わる印象がないので、法人化はあまり考えていませんね。また、社労士法人を作ると社労士個人に加えて法人の会費が二重に発生するので、今のところそこまでのメリットはないかなと。社労士法人ではないマイクロ法人を作ることは考えないでもないかな、という感じです。

大杉:本日はありがとうございました。ファンが多い町田先生のお人柄を知ることができて良かったです。

町田泰昭 プロフィール

1975年7月生まれ。大阪府箕面市出身。
弁護士を志し法学部に入学するも、司法試験の勉強が大変そうで入学2日で諦める。在学中は落語研究会で約100回の高座に上がった。ゼミは労働法。
大学卒業後、中堅ソフトハウスに就職。システム開発現場から人事部門に異動し、給与計算や社内制度構築等に携わる。ここで「社会保険労務士」の資格を知る。
約10年で退職し、病院(介護事業所併設)の人事・総務・経理業務に従事しながら社労士試験に合格。2013年9月、奈良市で開業。現在は奈良と大阪を中心に、京都や兵庫などでも活動している。

インタビュアー 大杉宏美 プロフィール

クレド社会保険労務士事務所代表。大阪大学法学部卒業。 サントリー(現サントリーホールディングス)株式会社を経て、医業経営コンサルティング会社に参画。クライアントの抱える多様な問題に応えるため、社労士資格、行政書士資格を取得し開業。医療法人・スタートアップ企業の労務コンサルティングを得意とする。医業専門リーガルサービス法人共同代表、専門家集団『BAMBOO INCUBATOR』所属。医療労務コンサルタント、キャリアコンサルタント。