- 事務所名:
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湯澤社会保険労務士事務所
- 代表者:
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社会保険労務士 湯澤悟
- 事務所エリア:
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東京都中央区
- 開業年:
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2002年8月1日
- 従業員数:
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大杉:パワハラ業務で超有名な先生なので皆さんご存知かもしれませんが、最初にお名前や事務所の所在地など、簡単に自己紹介をしていただけるとありがたいです。
湯澤:皆さんこんにちは、社会保険労務士の湯澤悟です。事務所は東京都中央区東日本橋に構えています。業務は大きく2つありまして、中小企業向けの顧問契約における高難度労務問題解決支援と、上場企業など大企業向けのパワハラ予防・対策研修です。パワハラ行為者や、相談窓口に通報された社員への個別面談やアドバイスなども行っています。事務所を立ち上げてからは、今年で23年目を迎えますね。
大杉:なぜ社労士という資格を選ばれたのか、教えていただけますか?
湯澤:実は、中学生の頃から税理士を目指していたんです。商業科のある高校へ進学して簿記を学び、簿記検定にも合格しました。50〜60社を抱えている親戚の税理士さんが「1千万円や2千万円は難しくないよ」と言っていたこともあり、資格といえば税理士だなと思って動いていましたね。
しかし、大学には進学せず、最初の会社で人事部に配属されたことで、社会保険労務士という資格があることを知ったんです。通信教育で勉強をはじめてみると、こっちも面白そうだなと思ったのが方向転換のきっかけですね。今となっては、最初に人事部へ配属されたのは天命ではなかったかと感じています。
大杉:簿記の知識があれば経理部に配属されそうな感じですけどね。
湯澤:そうですよね。当時、70歳手前くらいの嘱託の方が人事部で給与計算を担当されていて、引退が視野に入る時期ですから後任を考える必要があったんでしょうね。経理や簿記の知識があるなら給与計算も比較的スムーズにできるんじゃないか、ということで私が配属されたようです。ただ、本当に素人のままというのもどうかなと思っていたところ、会社が通信教育のお金を出してくれるということだったので、勉強をはじめました。そこで税理士を目指す気持ちは消えた感じですね。
また、当時はバブル崩壊のあおりで証券会社の業績が軒並み下がっていくという状況の中、高齢者のリストラがはじまっていて、リストラの対象になった上の世代の方々に対する会社側のコミュニケーションが冷たいなと感じてもいました。今となっては会社側の事情も理解できるのですが、これまでがんばってやってきてくれた人にそこまでドライにやるというのは、人としてどうなんだろうというモヤモヤ感がありましたね。
とはいえ、資格も持っていない人間がなにか言ったところで誰も聞いてくれないんじゃなかという思いもありましたし、だったら本格的に人事部で働く以上は資格を持っていても良いんじゃないかなと。特に当時は定年まで働くというのが一般的でしたから、何かに活かせたら良いなとも考えていました。
大杉:当時から、対人間としてどう接するかというコミュニケーションにフォーカスされていたことが、現在パワハラ対策をメインにご活躍されていることにつながっている感じがしますね。
湯澤:結果的に今振り返るとそういうところに興味がありましたね。また、新入社員は大卒者が圧倒的に多く、学歴に対する偏見のようなものもあって、世の中の見方としても冷たさのようなものを感じてました。高齢者も同じですが、多様性ではなく単一性の時代で、「高卒はこうだから」といった決めつけがあったんですよね。それを補うためには国家資格かなと。父が自営業で手に職の人でもありましたから、その感覚でしょうか。
その後も、就職氷河期世代に対する冷たさなどに接し、人に対する近さで考えると社労士のほうができることがあるのではと、勉強しながら思いはじめました。一つは自分で自分の背中を押したということもあるかもしれません。
大杉:湯澤先生は規模の大きな企業とお仕事をされているイメージがありますが、どのようにパワハラ問題へ特化されて、現在のような形になっていかれたのですか?
湯澤:これはもう、コンサルタントとしての師匠からの学びとして「ニッチな分野でナンバーワンになれ」というものがありまして、じゃあ自分はどの分野なんだろうと考えたんですね。同業者との差別化として、給与計算や手続きといった既存事業では、先駆者を超えようと思うと恐らく規模を大きくするしかない、雇うのも雇われるのも嫌いな自分にそれは向いていない(笑)となると、誰もやっていないところに飛び込むという選択肢が出てくるわけです。
今でもはっきりと覚えていますが、2012年に民事上の個別労働紛争の相談件数で、初めていじめや嫌がらせが解雇の問題を抜いてトップになりました。そこで初めて「パワーハラスメント」という言葉が出てきたんですね。30年くらい前はハラスメントといえばセクハラでしたし、パワハラというワードでネット検索をしてもなかなか情報が出てこないくらいで、どちらかといえば嫌がらせを受けて会社を訴える人を弁護士さんがサポートする、といった労働者サイドの情報が多く、会社側に「パワハラを起こしちゃダメですよ」という予防を提案しているような情報はほとんどヒットしませんでした。
先ほどお話した相談件数からすると、これはこのまま伸びていく可能性があるなと思いましたし、前職で目の当たりにしたリストラ対象者に対する接し方の問題についても、バブル崩壊後となると色々な企業で起きてくるんじゃないかと。更に社労士の中で先駆者がいないと考えると、この分野でトップに立つのはそれほど難しいことではないかもしれないなと考えました。
またその過程で、パワハラではないですが、いじめによって子どもの尊い命が失われるニュースを目にしましたし、これは自然災害でも同じですが、本人の意図とは全く違うところで亡くなってしまうということがありますよね。そうしたことに心が動くわけです、もっと準備ができないものなんだろうかと。なぜ子どものいじめが起こるのかといえば、基本的に大人がやっているからだと、鏡の法則ですよね。それが後からパワハラという言葉と紐づいてきたのかもしれません。
大杉:弁護士の対処は病気で例えると治療で、予防をしている人が少ないということかなと思いますが、私だったらすぐに「予防」ということは思いつかず、もう既にパワハラを業務化している人がたくさんいるな、と思ってしまうのですが、湯澤先生はなぜ気づかれたのでしょうか?
湯澤:完全に直感です。それと、同業者の賛成者が少ないのが突き抜ける最大のポイントなんですよ。パワハラ研修について同業者と話をした時に、賛成よりも「わからない」とか「違うんじゃないの?」「助成金にしたほうが良いんじゃない?」という意見が多かったんですね。突き抜ける時は大体反対の意見が出るので、絶対にやるべきです。仮に事業がコケたとしても、ノウハウが残ります。パワハラの問題がずっと伸びていくのは、当然好ましい状況ではありませんし、どこかで止まるとは思います。
しかし、パワハラに比べると目立たないというだけで、解雇や労働条件の問題もずっと横ばいの相談件数で来ているわけで、問題がゼロになるということは、きっとありません。そこは大手企業も何か感じている部分があるでしょうし、急激に伸びたものは急激に落ちますから、あまり事業の主軸には置かないようにしていて、そこそこ長めの何らかの対策が必要だと思っています。
こうした、ハラスメントというのはどういう問題なんだろうか?ということに立ち返ると、昭和48年に発刊された『労務管理の着眼点』(岸恒男著)の前書きに、労務管理の原則として「労務管理は基本的に経営の効率化と人間性の尊重の併存と調和である」と書かれていたことを思い出すんです。これを言うとオジサン扱いされると思うのですが(笑)、私はこの一節を社労士の一丁目一番地だと思っているんですよ。
経営の効率化を現代の言葉に置き換えると、儲かる仕組みをどうするかということですが、人間性の尊重は人権重視で、これは社労士の本質なんです。労務管理は人権重視だと考えると、基本的には中小企業も大企業も抱えている問題は同じなんですよ。中小企業向けのサービスと、大手企業向けのパワハラ研修は違うように思われているのですが、人権の尊重は社員の生命や会社を守るということにも繋がりますし、事業をやっていく以上は儲かる仕組みを止めるということはできないわけですからね。
大杉:分解すれば一緒ということですね。
湯澤:大企業で研修をさせていただくと、いくつもの部署がそれぞれに予算を持っていて、結局は中小企業のまとまりが大企業だと考えると、そう変わらないなと思ったんです。100名が所属している課だって、総勢100名の会社だってあるわけですからね。部署ごとに相談を受ける場合が多いですし、基本的には延長線上なんですよ。だから色々な個別の相談対応が大手でも役に立っています。
大手は見た目が綺麗に見えるかもしれませんが、実際は中堅や中小で聞く話と大差はなくて、どちらかというと大手の主管部門の方々は、中小企業を知っていて泥臭い世界でやっている専門家の話が聞きたいと思っています。ただサービスの提供という観点からは、中小企業であれば「高難度労務相談」、大手であれば「パワハラ研修」と表現したほうが伝わりやすいというのはありますね。
大杉:お話をお聞きして初めて気づきましたが、確かに私がいた大手企業も所属していた部署は20人ほどでしたし、課長も中小企業の社長と同じような悩みを抱えていたと思います。
湯澤:そうですね。例えば労使対等の原則で言いますと、かつては使用者サイドが強かったのですが令和の今は逆転していますし、労働者の権利が強すぎはしないか、ということにまでなっていますよね。だから働き方も変わってきていますし、こうした労務問題は大企業も中小企業も変わりません。経営の効率化と人間性の尊重という思いを持って接していれば、大企業の社長が相手でも別に緊張することはないんです。
例えば業績が悪化している局面では、経営の効率化と人間性の尊重を天秤にかけると、50:50のバランスが崩れて経営の効率化のほうに傾く、これはやむを得ません。しかし、仮に52:48になったとしても人を冷酷に扱って良いということではなく、比重が下がるほどコミュニケーションを深くしないとダメなんです。何か理由をつけていじめて良いわけがありません。辞めていただくのであれば丁寧に説明するのが当然ですから、法律では解決しない問題ほどこうした観点を大事にしないと、訴訟のリスクも高くなってしまいます。パワハラにしても、上司にそんなつもりは全くなかったなど、ボタンの掛け違いのようはコミュニケーションエラーは多いわけで、専門家としてはあまりにも複雑に捉えて現場を混乱させるのではなく、問題をシンプルに考えると良いのではないでしょうか。
大杉:大企業に刺さりそうですね。
湯澤:こういう話を聞きたいとおっしゃいますね。社労士が大手企業と関わるのがなかなか難しいのは、パワハラ防止法という法律ができたからといって、問題を解決するのは法律ではないからだと思います。基本的に法律が必要になるのは裁判になってしまったケースですからね。皆さんグレーゾーンにビクついて手が出せない、「線が引けない」とおっしゃるのですが、パワハラと指導の線引きを聞かれたら、私は「できません」と答えています。これができたら私は今頃億万長者ですよ(笑)。
実はグレーゾーンというのも表現が違っていて、実際はグラデーションなんです。グレーは薄い黒ですから基本的には黒一色で、昭和の時代は白・黒・グレーという濃度の違いだったものが、多様性の今はグラデーションですから、結局は個別の対応になっていきます。それでも、全ては経営の効率化と人間性の尊重に戻っていくんです。
例えば、社員が何かを要求してきた場合、自分にとって良し・周りの社員にとって良し・会社にとって良し・お客さんにとって良し、この4つを説明できたら検討しましょうと、もし自分にとって良いだけならば、それはわがままなので「できません」と返せば良い、相手を攻撃しているわけではありませんからね。そこに法律や判例を持ってきてしまうと、ファイティングポーズを取る形になるのでダメなんです。私はパワハラ研修でも法律についてほとんど喋らないので、受講者はびっくりします。
役員の研修では損害賠償請求について話をしますが、管理職に向けた2時間の研修で言及するのは、労働契約法第5条の安全配慮義務くらいです。それ以外を知ったところでパワハラは無くなりませんからね。2012年前後からはじまった企業研修の多くは知識重視で判例などが出てくることが多く、その時点で受講者にとっては自分ごとにならないわけですが、これを毎年繰り返しやり続けているので上手くいかないんです。みんな「つまらないな」と思って聞いている。
そうすると、真逆のコンテンツを持てば上手くいくということですから、私が入らせていただいたパワハラ研修は毎年受講者が伸びています。私は情報や法律を伝えるのではなく、意識を変えるというアプローチをしていて、出発点は中小企業の労務相談と同じなんです、法律や判例を使わないので。上手くいったこともそうでないことも含めて、中小企業で蓄積したノウハウを大企業へ持って行くと重宝されますね。流石に皆さん頭が切れますから、材料さえお渡しすれば調理はお手のもので、解決事例を話しながら「御社はどうですか?」と聞けば、相手が頭で考えながら整理してくれてゼロイチよりもスムーズです。
大杉:意外でした。それは研修もコンサルも同じでしょうか?
湯澤:そうですね、更にパワハラの行為者や被通報者との個別面談も、基本的に中小企業の社長と話をするのと変わりません、そこそこの予算を扱える立場ですからね。言いたいのが部下の愚痴というか、まず話を聞いてくれという点も同じです。あとは大企業ですと部署単位でものごとを見たり、所属している年齢層の特徴を考慮するなど、少し視座を高めに持つという違いはあるかもしれません。
大杉:大企業からの最初のご依頼は、どのような形だったのでしょうか?
湯澤:教育研修会社さんからお話をいただきました。当時、私は所属していた団体のハラスメント対策セミナーの客員講師として、4都県くらいでセミナー講師をしていたのですが、東京で実施された際に聞いてくださっていた大手企業の総務課長さんが、私を研修講師として呼びたいと決めてくださったそうです。
大杉:ご自身では、どういった点が刺さって招かれたと思われますか?
湯澤:オリジナリティですかね。一般的なパワハラ研修は8割方中身が決まっていて、オリジナルの要素を入れる余地があまりないのですが、私は事前に許可を取ってオリジナルのコンテンツを入れさせてもらったんです。例えばよく、コミュニケーションが良くなれば職場の心理的安全性が高くなると言われますが、そもそもコミュニケーションという言葉の意味ってなんですかね?ということだと思うんですよ。
上司も部下も、本人たちはコミュニケーションを取れていると思っているわけで、その言葉の定義にズレがあるからボタンの掛け違いが起こって、関係性が悪くなる、パワハラも起こると私は強く思っているんです。これをグループワークに反映して、席の前後の人たちと少し喋ってもらって、定義が100%一致していた方に挙手してもらうと大体手は挙がってきませんよ。それでコミュニケーションが取れている・取れていないという話をするのは、おかしいでしょう?と。言われてみればそうだな、となるわけです。
じゃあ、私自身の定義はといえば、10年くらい前までは「意見の同意を得るもの」だったので、上司や先輩の立場で「分かるだろ?なんで分かんないの?」という態度を取ってしまっていました。同意を得る必要があるわけですから、イエスが返ってこないのはおかしいというコミュニケーションになってしまうんですね。そのやり方ではダメだと当時70歳くらいの素晴らしい経営者の方に諭していただいて、考え方を変えた今では「意見の違いを楽しむ」が私のコミュニケーションの定義です。
大杉:確かに同意を得るだと、期待している答えありきで投げかけている感じになってしまいますね。
湯澤:それでも昭和の時代は上手くいっていたんです。体育会系が重宝されるというのは、そういうことでもあったわけですね。理不尽に対して「イエス」か「はい」、ノーと言えば物が飛んでくる、だから同意しかない、それが染みついていたのですが、それでは上手くいかなくなりますから、基本的には違って当然ということになります。そうすると、「ちなみにどうなの?」と聞くことができる、自分はそう思わないけどなぜそう考えるの?と聞くことで、コミュニケーションが取れるようになるんです。
ですから、先ほどお話した大企業からの依頼につながったセミナーでは、意見の違いを楽しめなくなっている、つまり人の話を聞かない組織がコミュニケーションを取れていないということになりますが、皆さんの会社はどうですか?と聞いたところ、それが刺さったみたいでしたね。また、言葉の定義についても「確かにその定義がズレているかぎり一致することはない」と面白さを感じていただけたと、後日研修会社さん経由で聞きました。
大杉:初めての研修の規模はどのくらいだったのでしょうか?
湯澤:従業員が1万人を超える上場企業だったので、全国にいる800人の部長を対象とした研修でした。その10分の1くらいを想像していたのですが桁が違っていて、大手の部長となるとハイキャリアで実績も積んでいる人たちですし、更に4時間半の研修を16回お願いしますと。できますか?と聞かれたので「はい、できます」と答えたものの、打ち合わせが終わってからさぁどうするかといったところでしたね。
師匠たちからの学びや労務管理の原則、言葉の定義づけをコンテンツに盛り込んだ上で、じゃあ皆さんはこれから何をやったら良いか?という前向きな話で背中を押してあげる研修にすれば、自己変容してくれるんじゃないかなと、腹落ちして「これまでの研修と趣が違うぞ」と思ってくれるんじゃないかなと考えました。私は当時40歳くらいで、受講者はみんな年上ですから研修慣れもされているでしょうし、いくら日頃から中小企業の社長と接しているといっても、1回あたり50人の目線が自分に向くこと16回というのは、初めての経験でしたからね。
大杉:研修講師のお仕事をされる際に、飽きさせないための工夫を何かされていますでしょうか?特に今はオンライン研修が多く、グループワークが難しいということもありますよね。
湯澤:どの研修であっても、冒頭で自分ごととして考えてもらう仕掛けをしています。1時間の研修だったら2〜3分、4時間半で10分くらいですかね、ここで最初に「あなたたちの味方です」というスタンスを絶対に出すようにしていて、これがすごく大事だと思うんです。敵じゃないので、今日はあれをやるなこれをやるな、部下に厳しい指導をするなということを言いに来ているんじゃないんですと伝えています。
また、基本的には研修の目的も入れていただくようにしていて、この研修はあなた達をパワハラ行為者にしないためにやっているんですと、それでも行為者になった場合には厳しい処分が待っているだけですと。だから私もあなた達を行為者にしないためにどうするかを真剣に考えて、やってはいけないことよりも「こうやりませんか?」ということを、押し付けではなく色んな切り口と角度からお話しますので、合わないものがあったら受け入れなくて良いです、その代わり受け止めだけはしてください、と最初に伝えているんです。
大杉:「受け入れる」のではなく「受け止め」なんですね。
湯澤:これこそが、研修の本題に入ってからの流れに繋がってくるんです。なぜかというと、定義は別としてコミュニケーションがちゃんと取れている上司は、この受け止めと受け入れを上手に使っている上司なんですよ。受け止めというのは基本的に自分の価値観にないものに対して「そうだね」です。自分が思いもしないところにボールを投げられた時に、自分ならそこには投げないけど、この人はこう投げるんだな、仕方がないなという感じ。
これが、受け止めではなく受け入れるか否かという価値観だけだと、「なんでこんなところに投げてんだよ」という話になってしまうんです。だからまず受け止めてくださいと。私の話に対しても「自分はそう思わないけど、まぁ湯澤さんはそう思うんだね」で良いですし、これを現場でも部下に対して活用できると思いませんか?という話をして、上司・部下間の会話を振り返ってもらうと、確かにできてないなと下を向く、これが自分ごとにしてもらえた瞬間ですね。そうなると研修が終わった後、自発的に変わりませんか?ということなんです。
もう1つは、社外のお客さんとの関係性に目を向けると、お客さんから色んな嫌なことを言われても全部受け止めていて、最初から受け入れるなんてことはやっていませんよね?というアプローチです。「これやってくれ」と言われて「かしこまりました」ではなくて、一旦受け止めてから「社に戻って検討した上でお返事いたします」とやっているでしょう?と。そうした外での成功体験を、いかに中に持ってくるかという話も最初にします。
成功体験があるんですから、法律を学ばなくてもパワハラという行為は止めることができるはずですし、管理職は部下よりも成功体験をたくさん持っていて、もうその時点で差がついているんですよね。部長か一般職かという役割の差で、責任や権限の差で高い給料をもらっているわけであって、人間性の高低や優劣で自分が偉くて相手はダメだと考えていては、この時代パワハラになるんですよ、という風なことを、一人一人が自分の頭の中で振り返りをしてくれたらそれでOKなんです。
大杉:失礼な感想かもしれませんが、自分ごとに落とし込むところに持っていかれるのが、めちゃくちゃお上手ですよね、もっと良い表現ができたら良かったのですが。
湯澤:結局、長い時間だとそれが可能になったりするかな。だからリアルの研修っていうのは熱量で結構届くのでやりやすいですね。オンラインはどうかというと、どのツールでもグループで別れるブレイクアウトルームのような機能は一切使いません、講師が同時に全てのルームに存在できませんからね。あえてチャットを使っていて、50人が一気に参加する研修であれば、先程の「皆さんのコミュニケーションの定義はなんですか?」の答えを50人にチャットで投稿してもらいます。全部正解だからと言うと、ちゃんと答えてくれますね。
ブレイクアウトルームでグループを分けてしまうと、5人なら5人の間でしか情報を共有できませんが、チャットなら50人全員で共有できる、これがオンライン最大の良さです。答えを見ると、結構みんな考えているんだなということが分かるので、主管部門が喜んでくれますよ。ダウンロードもできますので、私としてはデータも手に入りますしね。
何か全社的に言葉を1つ作っても良いでしょうし、部署ごとに定義づけをするだけでも、お金をかけずに各人が考えていることをアウトプットしてもらえて、意見の違いを楽しむことができます。仕事を任せた上で齟齬があるのとは違って言葉の定義ですから、部下の意見を聞いたところで上司には何の損失もないんです。例えば部下に考えさせた上で取りまとめをする役割を決め、その動きを見て仕事に活かしてもらえると嬉しいですね。良い言動には一声かけるなりすれば、部下は見てくれていると感じるじゃないですか。
最後に、オンラインとオフラインの大きな違いをお伝えすると、言語情報と非言語情報の重要度の比率が逆転したということですね。これを理解してコンテンツを作り分けると良いと思います。例えばリアルの場合は講師の話がメインですから、投影スライドに小さな文字が並んでいても良いのですが、オンラインではダメですよね。オンラインは言語情報が最重要ですから、ワンスライドワンメッセージが基本です。映画を字幕で観る時にも、耳から入る情報と目から入る情報が一致しないと気持ちが悪い、という感じでしょうか。
大杉:たくさんノウハウを出してくださって、本当にありがとうございました。私も「経営の効率化と人間性の尊重」というキーワードを持って帰りたいと思いますし、皆さんにとっても考え方が根本から変わるようなお話だったのではないでしょうか。
民間企業にて9年間の人事部勤務の後、2002年8月1日に湯澤社会保険労務士事務所開業。開業後これまでに19,000件超の「人と組織のコミュニケーションエラー」を起点とする「前例の無い労務問題」、「恣意的・感情的労務問題」、「教科書・参考図書には載っていない高難度労務問題」等を、クライアントと同じゴールをめざしながらも違う目線(アドバイス)をもって解決支援する。
2013年以降、コンプライアンス研修、パワハラ対策研修の登壇回数は、大手上場企業を中心に、延べ720回超、総受講者数49,000人超(特に、経営層・管理職層が中心)の実績があり、研修後に受講者がスグに行動に移せることには非常に定評があり、研修後のアンケート評価も非常に高く、受講者からの研修開催リクエスト、リピート多数。ビジョンは、「社会的意義のある教育を通じて、日本の成長と幸福の 最大化に貢献する。~言葉の力で相互理解を深め、関わる人々や企業に 「ワクワク」と「感動」をもたらし、共に力強く前進する~」、ミッションは「相手が腑に落ちる言葉で自発的行動変容を加速させ、成果のプロセスに寄与する」、パワハラ対策のビジョンは、「2045年までに共鳴社会を実現し、日本からパワハラを根絶させる」、パワハラ対策のミッションは、「違う視点・目線で同じゴールを目指せるコミュニケーション社会の実現」。
クレド社会保険労務士事務所代表。大阪大学法学部卒業。 サントリー(現サントリーホールディングス)株式会社を経て、医業経営コンサルティング会社に参画。クライアントの抱える多様な問題に応えるため、社労士資格、行政書士資格を取得し開業。医療法人・スタートアップ企業の労務コンサルティングを得意とする。医業専門リーガルサービス法人共同代表、専門家集団『BAMBOO INCUBATOR』所属。医療労務コンサルタント、キャリアコンサルタント。