岩永悠が考える税理士事務所経営のこれから:アイユーコンサルティンググループ 岩永 悠氏

岩永悠が考える税理士事務所経営のこれから:アイユーコンサルティンググループ 岩永 悠氏

事務所名:

アイユーコンサルティンググループ

代表者:

岩永 悠(代表取締役社長/税理士)

事務所エリア:

東京都豊島区

開業年:

2013年4月

従業員数:

102名(2023年2月1日時点)

Q.税理士業界の現状をどう認識しているか?

「世代交代の時期だな、とは思っています。元気の良い税理士法人は代表の年齢が40代なんですよね。私はギリギリ30代なのですが、税理士業界は少し上の40代中盤の方々に勢いがあるな、と感じています。また、老舗や最大手の事務所は既に代変わりをしているか、代表が70代〜80代の年齢に差し掛かっていて概ね非同族経営に移行しようとしている。中規模の事務所は同族経営が多いという印象です。こうした環境から、あと10年ほどで必ず大きな世代交代は起きてくると考えています。

そうであるならば、その時に勢いがあるのは現時点で30代後半である我々の層ですから、なんて若手にチャンスのある世界なんだろうと思いますよ。事業承継後に伸びている事務所の話は、正直に申し上げてそれほど耳にはしません。創業者には絶大なパワーがあるという証左だと思いますが、やはり年齢には勝てないという現実もありますので、レッドオーシャンではあるけれどもチャンスは多いと感じています。

私自身が次の世代のことを考えるのはまだ先になるとはいえ、10年前にこの仕事を始めてからずっと承継者のことを考えながらやってきました。そこでふと気づいたのは、居ないんですよ、承継者候補。当たり前なのですが15歳年下の方に継いでいただこうと思うと、現在24歳くらいの方が対象者になってしまうので。ですから私が50歳になるまでは考えることをペンディングして、その頃に優秀な35歳が見つからなければ、55歳くらいまでに本気で考えて動こうかなと思っています。」

Q.現状、貴事務所が永続できている要因はどこにあると考えているか?

「独立してもうすぐ丸10年を迎えますが、やはり組織づくりというか、人づくりだったなぁと思っています。当社の売上げの柱は資産税で、得意としているジャンルは事業承継、組織再編なのですが、幸いにも地方で独立したのでメインとする資産税という業務自体にそれほどライバルが存在しませんでした。だからこそ選んだ仕事だということもありますが、東京で同じことをやってもここまでスケールしなかったと思いますね。マーケティング的に地方発信が功を奏したということと、優秀な人が資産税という仕事に興味を持って地方へ集まって来てくれたことが要因なのかな、と思っています。」

Q.貴事務所経営のマーケティング・経営戦略の考え方と指針、税理士業界のマーケティングに関する所見は?

「私が独立した頃はまだまだWebマーケティングの黎明期でした。取り組んでいる士業は今ほど多くありませんでしたし、地方は特に属人性が強く、Webは東京一極集中という状態だったと思います。その当時の九州の状況としては、私が勤務税理士をしていた大手税理士法人はメガバンクを中心に営業していましたし、顧問中心に顧客を獲得している先生方はターゲットが銀行であれば支店営業中心で、地銀の本部が空いている状態でした。準富裕層と言いますか、超富裕層ではないけれども資産が1億円〜3億円のレンジにあるという層がぽっこり空白地帯になっている状態でしたので、そこをターゲティングして営業を行なったことが上手くいったんだろうと思っています。

税理士業界全般については、商工会や同友会、JCなどのいわゆる経済団体で人脈を作って広げていく営業方法が主体です。だから税理士はゴルフをしている人が多いのだと思いますが、地方は未だにそうした紹介営業と言いますか、知り合って口コミで営業という形が多いように見受けられます。属人性を排除しないとスケールは難しいので、これは地方から大きな事務所が発生し辛い一つの要因となっているのではないでしょうか。東京など都市部では少し事情が違いますが、やはり税理士業界は全体的にそれほどマーケティングが得意とは言えないんでしょうね

Q.貴事務所経営のDX化と税理士業界のDX化についての所見は?

「自社で相続業務用のRPAを開発しています。住所を入力すると自動で地番が登録され、字図と路線価が出ますし、財産評価一覧を作成したら申告書まで全て自動で転記する、といったものです。遺産分割協議書も自動で作成できます。顧問業務のパイと比較すると相続業務は小さく、利便性の高いツールが世に出回っていない、ただし自社の効率化を考えると必要性は高いので作ることにしました。開発作業自体は外注していますが、責任者を1名配置してやりとりを重ねながら作った物ですので、活用による効率化はかなり進んだと思います。

税理士業界のDX化に関しては名だたる事務所が群雄割拠状態ですので、どこが覇権を獲るのかな、と思って見ていますね。ただし税理士業界全般でみると、未だにメールとFAXでのやりとりが残っているこの業界で、ご高齢の先生がDX化に対応していくのは大変だと思います。我々の業界は平均年齢が65歳で、同じような状況の医療業界では電子カルテの導入を嫌って廃院するという先生が存在する訳ですから、少なからずそういう税理士事務所も出てくるだろうなぁと思っています。税理士業界のDX化はまだ黎明期で、司法書士や弁護士のほうが進んでいるイメージです。

ただ、会計ベンダーが税理士業界のDXに本格的に参入してきたら巨大すぎて勝てませんので、結局のところ個人事務所は俗人的な方向へ進む気もするんですよね。士業はやはり人間関係で成り立つ部分が強いので、属人性の強い事務所は絶対に一定数が生き残る、中堅以上はDX化して一気に二極化が進むといったところではないでしょうか。最近はChatGPTなどのAIツールも出てきましたから、これが税務判断にも活用できるようになれば、グレーゾーンを判断できる税理士しか必要ない、みたいなことにもなりかねませんよね。」

Q.貴事務所経営の採用と教育に関しての考え方と指針は?

「採用で申し上げますと、グループのMVVC(ミッション・ビジョン・バリュー・行動指針)を元に、当社の考え方に合うか合わないかを重視しています。結局のところ、やはり”人”なんですよね。加えて圧倒的に若いスタッフが多いので、マインドから一緒にセットしたほうが成長に寄与すると感じています。中には時短勤務でないと働けないとか、振休取得があっても平日以外は働きたくない等、様々な要望を出してくるスタッフもいますが、しっかりと理念浸透型の経営ができるのであれば、限度はあるとは言え、受け入れても良いと考えています。

有資格者も増え続けていますよ。今年も4月までに新たに4人登録する予定です。税理士業界全般ですと、有資格者の採用は諦めている事務所も多い中、我々は組織再編ができる事務所であることが強みで、これがなくなると相続だけの事務所になってしまい、特色がなくなってしまいます。他社との相違点を見てもらうという意味でも事業承継・組織再編を外せないので、どちらかと言えば有資格者を獲得しにいっています。創業10年が経ち、ある程度の規模になったことで”事業承継や組織再編の仕事をやってみたい”と言ってくれる応募者も増えてきて、福岡エリアでは有資格者を採用しやすくなっています。一方で東京は相変わらず厳しいので、科目合格者のスタッフを大学院へ行かせて税理士登録者を増やす戦法をとったり、色々な施策で工夫しています。」

Q.貴事務所が得意とする業務についての現状と未来予測は?

「資産税、土地の譲渡・贈与、特殊な措置法を使ったものや相続税については亡くなる方の数と正比例しますので、総務省の統計通り2040年までは伸びていくと思います。ただ、AIツールの台頭なども手伝って、相続税申告業務がコモディティ化していく段階に入っていると思いますので、この先10年は競争が激化し、2030年まではパイ取り合戦になるのではないかと思っています。また、相続に関するWEBツールやAIツールなどが次々に開発されているからこそ、本物の知識を持っていない人が戦えなくなってきています。使いこなせたとしてもコンサルティングできるかどうかは別ですので。そうしたことも含めて2030年には恐らく市場が確立されているのではないでしょうか。それまでにテクノロジーが勝つのか我々のようなネットワーク戦略が勝つのか。今はまだ分かりませんし、特に地方ではツールの普及は厳しいのではないかとも言われているので、不透明なように思いますね。

組織再編等については、団塊の世代が後期高齢者で75才以上になるという2025年問題の世界になるのですが…思ったより動かないのではないかという印象です。環境として危機感を煽られてはいても、結局のところ75歳まで現役でやってきた中小企業の社長が動くのかと言われると、65歳で動き出さなかった人は10年後も同じなのではないか、というのが現在の我々の見解です。身体の調子が悪くなってから事業承継等を考えるケースが多いと思うのですが、大企業と比べて基盤が弱い中小企業が、実際にトップが体調を崩してしまう状況というのは、結構なピンチなんですよね。ですから事業承継、組織再編については世代が上にスライドしてもあまりパイは変わらないと思っています。スモールM&Aはどんどん増えていくのではないかとも思いますね。」

Q.これから生き残っていける士業事務所の条件とは?

「お話の途中で既にお伝えしましたが、やはり大規模化か小規模化か、10人未満なのか50人以上なのか、どちらかに決めて進まない限り難しいのではないでしょうか。自社が10人~20人規模の時に感じたことなのですが、周囲からは”立派だね、なんでもできるね”と言っていただき、色々なお仕事を任せていただけるんです。ただ、その当時は1人に辞められてしまうだけでも危うくなるレベルの規模なので、逆にリスクが増えていって怖くなっていきました。ですから、どちらに振り切るのかを、自分の人生をもとに考えないと全員を不幸にするな、と思っています。

拡大しないならしないで、しっかりとした価値観でやっていけばそれも幸せだと思うんです。一旦雇用すると解雇は難しいので逃げられないということもありますし。大規模化を追及して代行業務で薄利多売、というのも士業として一つの選択としてありますが、当社は大きくする方向へ振り切ったものの、人数には今は厳密にこだわっていません。と言いますのも先日、とあるグループのトップとお話する機会があったのですが、「もともと1,000人を目指していたのですか」と伺ったところ、「全然目指してないよ」と。つまり、目指さなくても到達することが分かったんです。

経営者って自分の器でラインを決める傾向があると思っていて、私自身も100人は目指そうと考えていたものの、その先は200が正しいのか300が正しいのかは分かっていませんでした。ですから一旦人数は置いておく、ただ最低でも年10人程度は増員し、その仕事のパイを取るのが私の仕事だと思っています。特にAIなどが普及して1人で可能な仕事量が変わってきたら、それこそ人数では比較できなくなってきますし、結果として大事なのは利益です。利益が出て、それを皆さんに還元できて、成長できるような組織であれば人数は関係ないのではないのでしょうか。他方で、そうしたサイクルを構築していくためには、おかしなことを言うのかもしれませんが、やはり最低限の規模が必要なんじゃないか、とも思いますね。」

岩永 悠 プロフィール

1983年長崎県生まれ。西南学院大学経済学部卒業。京都大学経営管理大学院 上級経営会計専門家(EMBA)プログラム修了。26歳で税理士資格を取得。2007年に九州の中堅税理士法人に入社。税理士登録後、国内大手税理士法人の福岡事務所設立に参画。13年岩永悠税理士事務所として独立、15年税理士法人アイユーコンサルティングに改組し法人化、16年アイユー行政書士事務所設立、19年株式会社IUCG(アイユーコンサルティンググループ)、株式会社アイユーミライデザイン、アイユー公認会計士事務所を設立、21年にKOMODA・IU税理士法人設立するなど、それぞれの強みを生かした組織体制としグループ化を進めている。
グループミッションに『中小企業・資産家を支えるプロフェッショナルとして高付加価値サービスを提供する』を掲げ、500社を越える中小企業・富裕層の事業承継サポート・相続対策を提案・実行。
現在も提案型コンサルタントとして大型案件を中心に実務を行いながら、セミナー活動や団体活動を中心に業界発展のために力を注いでいる。