デジタル活用で業界に新風を起こす税理士法人:sankyodo税理士法人 朝倉 歩氏

デジタル活用で業界に新風を起こす税理士法人:sankyodo税理士法人 朝倉 歩氏

事務所名:

sankyodo税理士法人

代表者:

朝倉 歩

事務所エリア:

港区

開業年:

2016年6⽉

従業員数:

111名

Q.税理士業界の現状をどう認識しているか?

「税理士業界としては、コロナが明けてきたタイミングで受験生の減少が一旦下げ止まった印象がありますね。ただ、これは単にコロナが明けた影響なのか、根本的に持ち直したのかはまだわからないところで、ここ10年ほどで受験生の数は約半減していますので、中長期的には再び減少が続く可能性は否定できないと思っています。日本全体の人口減少とともに、税理士を目指す人がどれほど増えるかというと、現状ではやはり悲観的に見ざるを得ない状況ではないでしょうか。

コロナ禍がきっかけになった点は他の業界にも言えることだと思いますが、税理士業界も以前に比べればDXやデジタル化への意識は高まっているようですね。もともと非常にアナログな業界でしたから昔は考えられませんでしたが、さすがにDX関連のセミナーにも人が集まるようになるなど、多少はDXに目が向くようになってきた感じです。

業務そのものについては、AIの登場という衝撃はあるものの、実務への具体的な影響はまだこれからではないかと思っています。日常的にChatGPTなどを使うことで、Google検索の機会が減ったと感じる方は多いと思いますが、AIによって自社の従業員数を半分に減らせたというほどの成功事例が次々に出ているというわけではありませんから、まだ方向性が見えはじめた段階という印象ですね。10年前にクラウド会計が登場した時の雰囲気に近いと感じています。

現在のクラウド会計が必須という環境になるまで大体10年くらいかかっていて、手書きの帳簿からパソコン会計を経てクラウド会計という流れがあったのと同じように、AIも時間をかけて実務を変えていくのではないでしょうか。今はまさにその変化の入口にいるイメージです。」

Q.現状、貴事務所が永続できている要因はどこにあると考えているか?

「弊社は今年で創業9年目になるのですが、もともと独立の際にデジタルを強みにすると決めてスタートしました。オペレーションに限らず、集客・営業・採用・育成など、全てにおいてデジタルを活用する戦略を取っていて、質の面でデジタル化に強い組織を作ってきました。これが大手の事務所に規模や顧客数では敵わない中で業界内のポジションを確立し、ブランディングできたポイントだと思います。採用やご依頼が来るルートもデジタルの流れができているので、大手の事務所と案件でコンペになることもありますが、ランチェスター戦略的に質の差で戦うことができていると感じているところです。

振り返ると2017年は”RPA元年”だったと思っているのですが、前年に独立したばかりだった私はすぐRPAに飛びつきましたね。社内的にはそんなことをやっている余裕はないという声もありましたが、デジタル最前線を追求することに価値があると信じてやってきた結果として今があると思っていますし、一緒に働いてくれているのも、私の考え方に共感して集まってくれたメンバーです。

こうしたものは目に見える利益というよりも、間接的な利益として絶対にバリューが出てくるものだと思うんですよね。私は新卒でデロイトに入社して30代前半にシニアマネージャー職に就いたのですが、当時の会議で地銀が淘汰されるという話題が出たことを今でもよく覚えています。今でこそ珍しくありませんが、ちょうど銀行がほとんどシステム会社のようになっていき、むしろIT企業が銀行を始めるようになった頃で、この流れなら間違いなくどの業種でもデジタルに強ければ強いほど有利になるし、会計事務所も例外ではないという強い信念を持つに至りました。

割と慎重派で35歳まで独立を決意できなかったのですが、デジタルに張っておけば大丈夫だろうと判断して独立した感じです。これからはデジタルな会計事務所と会計業務をやるデジタルな会社との戦いになると当時から考えていたので、高度税務のような方向性だと個人では勝負にならないという感覚を持っていました。アナログな業界でデジタルに特化することで競争力を確保できるだろうと方向性を定めたことが、現在の差別化につながったと思います。

Q.業務改善、生成AI活用、事務所内のDX化などについての取り組みは?

「CRMやコミュニケーションツールの活用はもちろんですが、将来的にどのようなAIツールが登場しても適応できるよう、ビッグデータを蓄積する重要性については社内でよく言っていますね。また、ひたすらAIのことを調べて私に報告してくれる、AIの専任担当者を採用しました。

更に、事務所内で”AI部”を立ち上げて日々AIの活用方法を研究しています。具体的には、ITに強いメンバーを中心に労務・税務・業務全般・広報の4チームに分かれ、それぞれが毎週AIに関する勉強会や発表会を実施することで、事務所全体のAIリテラシー向上を図るというものです。”AI部”以外にも、”freee部”や”バクラク部”といった業務効率化に関する部活動や業種別の専門チームが存在しているのですが、”AI部”も最重要の部活の位置づけです。」

Q.貴事務所が得意とする業務についての現状と未来予測は?

「私はBIG4で上場企業の連結納税や組織再編、国際税務に携わっていたというバックグラウンドがあり、一部のメンバーもそうした動きをしていますが、税理士業としては企業顧問が中心ですね。また、コロナ以前はSEO対策などのデジタルマーケティングをフックに、会社設立のお客様にfreeeやMFのサポートを提供していたので、結果としてクラウド会計支援に強みを持ったという経緯もあります。

今後については、SaaSの役割がAIの発展によって大きく変わっていくと考えていて、例えばAIがフロントに立ち、SaaSがその裏側で動くような世界観になるとイメージしています。将来的にクラウド会計の導入支援業務は不透明になりますが、AIを中心としたテクノロジーの変化がさらに激しくなるのは間違いないので、インターネットやクラウドの流行と同じように、むしろそれ以上の大きなチャンスとピンチの時代がやってきてると思います。

また、会計事務所の視点から見ると、経営者が高齢化していること、税理士も高齢化していること、古い会計ソフトを使い続けていること、これら3つの要素いずれかが、デジタル化によって変化すると考えています。つまり、経営者の代替わり、税理士事務所の変更、ソフトウェアの刷新ですね。こうして条件が変わり新しいシステムが次々と登場する中にあっても、フラットな立場で最適な提案ができる会計事務所になっていきたいと思っています。」

Q.これから生き残っていける税理士・士業事務所の条件とは?

「時代の流れが激しいと思うので、10年スパンなど長期的に考えていくと良いのかなと。既に開業されている方と、これから独立される方とで少し違うのかもしれませんが、重要なのは現在の業務が永遠に続くわけではないということを前提にして、新たに生まれる業務やチャンスを検討することができるかどうか、これは一つの大きな条件だと思います。

労働人口の減少は避けられませんし、完全にゼロにならないとしても、AIの進化によって既存の業務が減少してく中で、どこまで先を想定して考えることができるのかが将来を左右するのではないでしょうか。」

朝倉 歩 プロフィール

2004年より約12年間、デロイト トーマツ税理士法人にて経験を積んだのち、2016年にsankyodo税理士法人を設立。2023年6月までに全国10拠点、職員120名以上を有する組織に成長。
2019年にサン共同デジタルコンサルティング株式会社を設立。自社開発システムやRPA等最新のITを利用した会計事務所業務の効率化に力を入れており、一般事業会社だけでなく、会計事務所向けのDX
コンサルティング事業も行っている。
2020年には在宅経理株式会社を設立し、在宅経理スタッフの人材紹介業も開業(2025年1月時点で約2,000名)。
2021年~2023年辻・本郷ITコンサルティング株式会社の取締役就任。
2023年には一般社団法人 中小企業から日本を元気にプロジェクト理事就任。
日本中小企業大賞2022にて「働き方改革 最優秀賞」受賞。

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税理士・会計士業の独立、集客、事業戦略、業務効率化のためのDX導入、人材採用・育成および評価制度構築、経営ノウハウ等。税理士業界を代表する先生、成長を続ける税理…
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