生成AIと音楽の融合が生み出す次世代エンターテインメント I’chiba’n株式会社 代表取締役 鈴木大介氏

生成AIと音楽の融合が生み出す次世代エンターテインメント I’chiba’n株式会社 代表取締役 鈴木大介氏

事務所名:

I’chiba’n株式会社

代表者:

代表取締役 鈴木 大介

事務所エリア:

千葉県船橋市

開業年:

2022年2月

従業員数:

4名

Q1. 貴社の事業内容を教えてください

私たちI’chiba’n株式会社は、現在三つの柱となる事業を展開しています。

まず一つ目が、ノンプロンプト型の音楽生成AIの開発です。これは従来のテキストベースで指示を与える生成AIとは異なり、プロンプトなしでもユーザーの身体情報などから音楽が自動生成されるという新しいアプローチです。具体的には、ウェアラブルデバイスを通じて心拍数などの生体データを取得し、それに応じて音楽がリアルタイムに生成されるという仕組みです。これは新たな生成AIの領域として、今後大きな可能性を秘めていると見込んでいます。

二つ目は、国外アーティストを日本に誘致し、リアルなライブ活動を支援する国際的なエンターテインメント事業です。現在は韓国のアーティフェクトリー社と業務提携を行っており、音楽ライブの企画・運営を通じて、日本と韓国の音楽文化をつなぐ架け橋となることを目指しています。

そして三つ目が、当社の根幹でもあるアナリティクスを活用した企業支援事業です。⾳楽だけではなく、データ分析を軸に、クライアント企業の新規事業創出や経営支援を行っており、スタートアップの立ち上げ支援などにも積極的に関与しています。

これら三つの事業は一見独立しているようでいて、実は相互に関連し合っており、テクノロジーとエンタメ、データサイエンスを融合させたユニークな価値提供を目指しています。

Q2. 音楽業界と生成AIの現状について、どのような認識か?

生成AIが一般に広まり始めてから、約3年が経とうとしていますが、音楽業界においては、まだ発展途上という認識です。文章生成の分野ではChatGPTをはじめとしたツールが非常に進化していますが、音楽生成の分野では、ようやくプロンプト型のアプリが登場し始めた段階です。たとえばアメリカでリリースされている「SUNO」というアプリでは、指示(プロンプト)を入力することで1分程度で作詞・作曲・編曲まで自動的に行うことができます。これは業界にとって大きなインパクトとなっており、今後ますます音楽制作におけるAIの存在感が増してくると考えています。

音楽業界の反応としては、初期は「脅威」と捉える企業も多かったと思います。特にエンターテインメント業界は、感覚値や経験値に基づく判断が重視される傾向がありました。しかし、AIの進化によって、誰もが一定のクオリティで楽曲を自動生成できるようになると、これまでの「勘」に頼った制作のあり方が変わっていく可能性があります。一方で、新しい発想や技術を取り入れていく柔軟なエンタメ企業にとっては、大きなチャンスでもあります。今後は、従来型の作曲家や制作スタイルと、AIによる即時生成型の音楽が共存していくような時代がやってくると見ています。

Q3. 「AIR」はどのようなものか?

「AIR」は、私たちI’chiba’n株式会社が開発している、ノンプロンプト型の音楽生成AIプロダクトです。いわゆる「プロンプトを入力して音楽を作る」という従来型とは違い、ユーザーが何かを入力する必要がありません。代わりに使うのはウェアラブルデバイスです。たとえばApple Watchのようなスマートウォッチを手首につけていただくだけで、その人の身体的なデータ、具体的には心拍データをリアルタイムで取得し、それをもとにAIが自動的に音楽を生成します。つまり、何も操作をしなくても、その時その人の状態に最適化された楽曲が生まれるという仕組みです。

このアイデアに至った背景には、私たちが元々音楽レーベルであり、楽曲を提供している経験が背景にあります。映像クリエイターやイベント主催者など、さまざまな方々から「こんな雰囲気の音楽が欲しいけど、うまく言葉で表現できない」という悩みを多く聞いてきました。音楽のイメージを言語化するのは想像以上に難しいことで、プロンプトを入力するAIでもそのハードルは高い。だったら、いっそプロンプトという概念を使わずに、身体の状態や感情に応じて音楽を生成できるものを作れないか――そう考えたのが、「AIR」の出発点です。

また、私たちはこれまでに「脳科学×音楽」をテーマにしたイベントも何度か開催してきました。音楽が人の脳や精神に与える影響には非常に大きな可能性があると感じており、例えば「音」という振動が脳波に働きかけ、リラックス効果をもたらすといった研究結果も出ています。そういった知見をもとに、大学などの研究機関と連携しながら、音楽のウェルネス的価値を高める取り組みも行っています。

プロダクト名の「AIR」には、空気がなければ音は伝わらない、つまり音楽も存在しないという意味合いがあります。私たちは、音楽をただ「聴くもの」としてだけでなく、「生まれるもの」「感じるもの」「心身に作用するもの」として再定義したいという思いを込めて、この名前を付けました。「AIR」は、そうした新たな音楽体験を提供するための入り口になると信じています。

Q4. 「AIR」はどんな影響、展開を想定している?

「AIR」については、現在BtoBとBtoCの両軸での展開を計画しています。

まずBtoB領域では、芸能事務所やエンターテインメント企業との連携を視野に入れています。具体的には、アーティストが着用したウェアラブルデバイスから生成される音楽を“グッズ”として販売し、そのアーティストを応援するファンが実際に楽曲を聴いたりコレクションしたりできるような、新しい「“推し活”体験」を提供していきたいと考えています。つまり、アーティスト本人の心拍や状態からリアルタイムで生まれた音楽が、そのままファンの手元に届くという、今までにないエンタメの価値創出を目指しているんです。

一方で、BtoCにおいては、個人向けのウェルネス用途を強く意識しています。例えば日々の生活の中で、気分が落ち込んでいる時や、集中したい時、リラックスしたい時など、その瞬間の心身の状態に寄り添った音楽が自動で生成されることで、ユーザーの心の調律をサポートできると考えています。生成された音楽はストック型で管理され、ユーザーごとに記録が残ります。いつ、どんな状態で、どんな音楽が生まれたかが可視化されるため、自分の音楽ライフログのような使い方も可能です。また、それらの楽曲をSNSなどでシェアすることもでき、音楽を介した新たなコミュニケーションも生まれていくでしょう。

現在、プロダクトはPOC(概念実証)の段階を終え、ほぼ形になってきているところです。特に開発面では、生成された音楽がきちんとストックされ、SpotifyやLINE MUSICのように個人の音楽ライブラリとして蓄積される機能も組み込まれています。名曲が生まれた瞬間を逃さず残せる、というのも「AIR」の魅力の一つだと思っています。

こうしたBtoB・BtoC両面の展開によって、「AIR」はエンターテインメントの新しい形と、日常に寄り添うパーソナルな音楽体験の両方を期待しています。単なるガジェットではなく、“音楽が自然に生まれる”という体験そのものを新しい価値として世の中に広めていくことが、私たちの目指すところです。

Q5. 音楽生成AIと著作権の問題については、どう考えるか?

生成AIによる音楽制作において、著作権の問題は非常にセンシティブかつ重要な課題だと捉えています。たとえばアメリカでは、音楽生成AIを提供している企業が、既存楽曲の無断使用による著作権侵害で訴訟を受けるケースも出てきています。

多くの生成AIは、公開されている音源やデータを学習させることで新たな作品を生み出していますが、その過程で既存楽曲の一部を無意識に取り込んでしまうリスクがあります。あるフレーズが既存曲に似てしまえば、著作権に抵触する可能性があるというのが、現在の論点です。

私たちはそのリスクを回避するため、既存の音楽データを極力使わず、乱数的なアルゴリズムやコード進行など、著作権の対象外となる要素を中心にAIを学習させています。つまり、最初から著作権に配慮した生成設計をしているという点が、他社とは大きく異なります。また、「AIR」で生成された楽曲の著作権はユーザー本人に帰属する設計にしており、SNSや動画プラットフォームなどでも自由に活用していただけます。プロダクトの開発と並行して、著作権法との整合性も丁寧に検証しながら進めているのが、私たちのスタンスです。

Q6. 「AIR」の今後の展望と、音楽と生成AIの未来についてはどうなるか?

私たちは「AIR」を単なる音楽生成ツールにとどめるつもりはありません。今後の展望として特に注力していきたいのが、脳科学との連携です。人間の脳は常にノイズを含む複数の信号を発信しており、その中でどの信号が身体に影響を与えるのか、いまだ完全には解明されていません。私たちはこの未開拓な領域にこそ可能性があると考えており、大学の研究機関と協力しながら、脳からの信号と音楽生成との正確な連動を追求しています。たとえば将来的には、ユーザーが意識的に考えたことや感じたことがそのまま音楽になる、そんな世界観を目指しています。

また、イマーシブな体験、つまり音楽と映像が連動するような新たなエンターテインメントの創出も視野に入れています。たとえば、ユーザーが生成した音楽が、推しのアーティストのライブ映像やデジタルアバターの動きとリアルタイムでシンクロする。そういった体験が、音楽とビジュアルの境界を溶かし、より没入感のある新しいエンタメ体験になると考えています。

さらに、生成された楽曲のNFT化にも今後取り組んでいく予定です。ユーザーがその瞬間に生み出した音楽を唯一無二のデジタル資産として保有し、記念品やコレクターズアイテムとして活用できる仕組みを構築中です。これは音楽の「所有」のあり方を大きく変える可能性を秘めています。

そして、リアルとバーチャルの融合も重要なテーマです。現在連携している韓国のアーティストや事務所とともに、リアルなライブ会場で、ユーザーが生成した音楽を実際のアーティストが歌うという、かつてないライブ体験の実現を目指しています。自分の心や身体から生まれた音楽が、現実世界でプロの手によってパフォーマンスされる――それこそが「AIR」が提供する最大の価値だと思っています。

将来的には、「音楽=提供されるもの」から「音楽=自ら生み出すもの」へというパラダイムシフトを実現したいと考えています。生成AIの進化によって、音楽は誰にとっても身近な自己表現の手段になります。ただし、AIによる音楽生成が進む一方で、本物のクリエイティビティを持った作曲家の価値はむしろ際立つようになるとも思っています。AIがつくる最大公約数的な音楽ではなく、人間にしか出せない感情や直感がこもった音楽が、これからの時代ますます求められるはずです。AIと人間の共存、それが音楽の未来のキーワードだと考えています。また、私たちは「AIR」を単なるアプリケーションにとどめるのではなく、ウェアラブルデバイスそのものも自社で開発し、音楽生成プラットフォームの中心的存在(プラットフォーマー)を目指しています。ハード・ソフト・体験の三位一体で、新たな音楽エコシステムを築いていく構想を描いています。

鈴木 大介 プロフィール

鈴木 大介(すずき だいすけ)
I’chiba’n株式会社 代表取締役

大手鉄道会社およびグループ会社などで新規事業開発·経営戦略領域を経験、その後、培った知見と経験をもとに、2022年にI’chiba’n株式会社を設立。

「テクノロジーとクリエイティブの力で、新しい価値を“いちばん”早く社会に届ける」をミッションに掲げ、AI・音楽・モビリティなど、多様な領域におけるプロジェクトを推進。

創業以来、企業のDX支援や生成AIの実装支援を軸に、新規事業開発や組織変革のパートナーとして多くの企業と協業。
ビジネスとテクノロジーの両輪を理解する実践型リーダーとして、時代の変化を的確に捉えながら、「再現性のある価値創出」を追求している。