税理士業界におけるAI革命―効率化と専門性向上の可能性:税理士法人プログレス様

税理士業界におけるAI革命―効率化と専門性向上の可能性:税理士法人プログレス様

事務所名:

税理士法人プログレス

代表者:

統括代表社員 荻原紀男 (オギワラ ノリオ)

事務所エリア:

東京都新宿

開業年:

2003年3月20日

従業員数:

Q.税理士業界の現状をどう認識しているか?

「税理士業界は、AIなどのIT化によって消える職種の上位にランキングされて久しいですよね。正直20年くらい前から言われていることですし、私はこの業界に入って20年ほどになりますが、実感としてこれは無いのかなと思っています。

業界全体のIT活用については、色々な種類のクラウドサービスなどが出てきて以前と比べると変わってきたのかなと思いますが、全体としては遅れている気がしますね。ChatGPTなどのAIが話題になり、ビッグデータの活用だと言われている第5次産業革命の中で、この業界ではあまりそういう動きに敏感ではないように思えて、元々日本が少し遅れている上に業界は更に遅れているのかなと。

また、税理士はいま全国で大体8万人ほど登録しているんですけれども、仕事自体は増えてきている中で慢性的な人手不足が続いています。弊社でも採用に少々苦戦しておりますので、良いAIツールが出てきたらぜひ活用したいなと以前から思っているところです。」

Q.現状、貴事務所が永続できている要因はどこにあると考えているか?

「弊社は大体15名くらいの規模で、有資格者が10名ほど在籍しており、税理士業界の中では比較的少数精鋭でやっています。クライアントは一般的な中小企業というよりも、上場企業の子会社や関連会社など、大手からお仕事をいただくことが多いですね。

昔から強みにしているのが連結納税で、直近ではグループ通算制度に変わりましたが、ずっとやってきているので全般的にスタッフの専門性レベルが高く、質の良いサービスをご提供できているところが、信頼をいただいているのかなと感じています。」

Q.業務改善、生成AI活用、事務所内のDX化などについての取り組みは?

「ペーパーレスの取り組みなどについて、社内でもずっとそうした話は出ていていたのですが、やはりコロナが切欠になり、柔軟な働き方ができるような在宅勤務制度を作りました。電子申告もやっていますし、スーパーフレックスで出勤時間を調整できるようにするなど、最低限のことを進めてはいるのですが、運用の中では少し物足りないような気もしているので、良いサービスやツールがあれば積極的に取り入れて活用を検討したいところです。

個人的な感想ですが、元々国税を退官されたOBの方が税理士登録をされているケースが多いことに加え、若い方は税理士業界を敬遠されているということもあり、高齢化が進んでいるのもこの業界がDXに弱い一つの要因かなと思います。例えば毎年の確定申告では、税務署へ税理士を派遣して無料相談をやるのですが、ここ数年は応募する税理士がもの凄く減っていて、高齢の税理士が電子申告やスマホ申告に対応できないということがあるようです。

一方弊社では、新しいことをやろうとなったら結構みんな協力してやってくれるので、抵抗はないのかなと感じています。2024年1月にリリースされた『税務相談ロボット』についても、翌月にはすぐ導入して社内で活用しています。最初の印象としては、本当に役に立つのかな?と正直なところ半信半疑でした。仕事の中で大事になってくる部分ですし、2023年に一大ブームを起こしたChatGPTの回答が真偽を疑問視されている頃でもありましたしね。

しかし実際に導入してみたところ当初の印象よりだいぶ完成度が高く、質問に対する税務的な回答をすぐにパッと返してくれます。分からないところを質問するというよりは、普段から仕事の中でちょっと疑問に感じていることや、答え合わせしたいことを気軽に質問してみると、自分が考えていたことと同じ内容が返ってきたので、やはり合っているんだなと確認できたという感じでした。難しいことに関しても、100%の回答というよりは参考になるデータベースから収集された回答を出してきたので、結構信頼できると思っています。

税理士でも税務に関して全てを知っているという訳ではなく、例えば相続税には全くノータッチだという方もいらっしゃいますから、アタリをつけることで必要な情報に辿り着くのが早いということもあるのではないでしょうか。我々のように法人を専門としている事務所もあれば、個人を専門としている方もいらっしゃるように、先生によって特色がありますから、知っている分野に関しては確認が取れて、知らない分野に関しては勉強の切欠にもなってくるところが良いと思っています。

例えばネットでキーワード検索をするような従来の方法ですと、色々な情報の中から最新のものや正しいものを判別することは困難ですよね。弊社が利用しているデータベースのサービスも、キーワードで抽出して出てくる内容が必ずしも自分がいま考えている事例に即していないことがあります。あるいは、書籍を読み返したり、わざわざ本屋へ出向いて買ってきて調べるといったことが今までのやり方ですが、その情報の正しさを条文や法令にあたってもう1回調べ直す作業が必要ですから、結構な時間が掛かっていました。

役所へ電話しても、”税理士です”と言うと大体教えてくれない、自分で調べてくださいと言われてしまうこともありますからね(笑)。それが、『税務相談ロボット』に聞けば即答してくれて、しかも情報源のリンクがついているのは非常に便利だと思っています。エビデンスが本当に正しいものなのか、最新のものなのかという確証を自分で調べなくても提供されるというのは、凄くありがたいですね。

また、上司が部下からの質問に回答する時間を削減することもできると思います。部下が『税務相談ロボット』を使って回答を導いた上で質問をしてくれると上司は答えやすいですし、部下は自分で調べることが成長に繋がります。いま話しかけても大丈夫かな?と部下が上司のタイミングを伺うタイムロスも排除できますので、お互いに時間が短縮できて良いのではないでしょうか。

こうした時間短縮、効率化、生産性という部分でかなり期待に応えていただいているなと思うのですが、更に『税務相談ロボット』の特徴として、文章をちゃんと書いてくれるのが凄く良いなと思っています。プロンプトが難しいんじゃないかと思う方もいらっしゃるようですが、もう結論が出ているようなシンプルな内容はパッと答えが出てきますし、少し判断が必要な内容は質問に工夫が必要ですが、使っているうちに慣れてきますので大丈夫だと思いますよ。

ただ、質問の仕方に工夫の必要があるというのは、逆に新人教育に活用できそうだなと考えています。例えばクライアントから何かの質問があった場合、どういう論点があるのかを自分である程度理解していないと、そもそも回答は作れない訳です。自分の中でちゃんと整理ができた上で『税務相談ロボット』に投げかけると、きちんとした回答も返ってくるので、そういう意味で質問を作っていくというのも良いと思いますね。」

Q. 貴事務所が得意とする業務についての現状と未来予測は?

「恐らく『税務相談ロボット』を切欠に、これからもどんどん色々なAIを駆使したサービスやツールが出てくるのかなと思うのですが、個人的にはあくまでも税理士が主体であって、AIを使いこなす側にならないといけないのかなという気がしています。

効率化や生産性の向上によって時間に余裕ができたので、クライアントに対してより付加価値の高いサービスを提供したり、関係性をより密にしたりというビジネス的な方向もあるでしょうし、その時間で専門性を磨くといった自分を成長させる方向に使うこともできると思います。あるいは、ちょっと忙しいから休みを取るなどワークライフバランスを調整する方もいらっしゃるでしょうし、人によって柔軟に色々な幅が出てくるのは良いと思いますね。」

Q.これから生き残っていける税理士・士業事務所の条件とは?

「現状としては毎年のように税制が変わり、AIの台頭など世の中の予測がなかなか難しいのですが、そういう意味であまり”自分の事務所はこうだ”という決めつけをしない方が良いのかなと思っています。世の中の情勢やクライアントの意向に合わせて臨機応変に対応をしていく、得意分野を伸ばしていく、苦手なところはAIを使ってカバーして、AIと一緒に成長しながらAIを使いこなせる側になる、そういう事務所が今後より生き残る可能性が高くなっていくのではないでしょうか。」