上場とIPOの現状分析と未来予測-東証再編の結果と現在のTOKYO PRO Market-:フィリップ証券株式会社 脇本 源一氏

上場とIPOの現状分析と未来予測-東証再編の結果と現在のTOKYO PRO Market-:フィリップ証券株式会社 脇本 源一氏

事務所名:

フィリップ証券株式会社

代表者:

永堀真

事務所エリア:

東京都中央区

開業年:

1944年(昭和19年)4月

従業員数:

約100名(フィリップグループ全体5,000名)

Q.IPO・上場の現状をどう認識しているか?

「実はコロナ禍においても上場企業数はそれほど大きく変わりませんでした。具体的な数(TPMを除く)を申し上げますと2020年が93社、翌21年は125社、22年が91社で今年も大体90社くらいが予想されていますので、同じようなレベルで推移しています。ただし2021年の125社は特別な数字で、要は駆け込みなんです。2022年の4月1日に東証市場再編があり、ここで審査の水準が上がるという予想は事前に広がっていたので、どのくらい厳しくなるのか等色々な不安があった訳ですね。そこで、変わる前に駆け込んでおこうという現象が起こったのが125社という数字で、これは東証もある程度駆け込みを容認した結果だと思っています。ちなみに、それ以外の要因としてコロナの影響や東京オリンピックの影響もあったとは言われています。

その点を差し引くと、2019年あたりからずっと新規上場の会社数は90〜100社くらいで推移していて、コロナ禍においても変わらないといった状況です。ちなみに東京プロマーケット(以下TPM)の新規上場数だけで申し上げますと、2020年は10社、翌21年は14社、昨年22年が21社で、今年は、7月10日現在で18社(発表済み上場日予定を含む)ですので、25〜30社くらいを予想しています。ずっと右肩上がりですね、累計は100社を超えてきています。

ご質問への回答としては、現状も特に変わらないという結論ですね。もちろんコロナの影響によって業績が悪くなり、上場が延期になっている会社が沢山あります。しかし一方で、コロナ特需という言葉も生まれたように、むしろ追い風になって上場してきた会社もありますし、コロナの影響を受けない業種もありますので、そういう意味では当初予定されていた会社とは中身が多少変わった可能性はあるものの、数字だけを見ると前述した通りで結果として帳尻が合ってしまったということかもしれません。

我々はずっとTPM上場支援に携わってきましたが、このコロナ禍の3年間においても延期になる会社がある一方で、業績を上げている会社から上場したいという問い合わせを沢山いただいているという状況です。当然、各社と接する中でコロナの影響について伺うのですが、影響はない、もしくはむしろ追い風ですというお答えも多く、コロナが全ての企業にとって悪であったのかというと、そうでもないということが見て取れますね。」

Q.現状、IPO・上場している企業の特徴は?

「この1〜2年という足元ではなく最近の傾向にフォーカスすると、情報通信とサービス業が圧倒的に多く、2つの業種で全体の7割近くを占めています。事業内容としましてはDXやAI関連、それらを使って従来型事業を転換したプラットフォーム型企業がとても多く、感覚的には上場しているうちの半数以上がこうした関連の企業だと申し上げても良いと思います。一方で、不動産、小売り、商社や製造業といった昔ながらの伝統的な業態の会社はとても少なくなり、なかなか上場しにくい時代になってきました。もちろん業績の立派な会社は沢山あると思うんですけれども、申し訳ないのですが要はマーケットに出てもなかなか売れないということなんです。

不動産を例にとると、確かに従来型のビジネスモデルの上場もありましたが、当該ケースは、売上規模が大きくスタンダード市場への上場となっています。規模が大きく安定成長型企業となれば、それなりに買う人がいても良いとは思うのですが、公募売出し価格は非常に低いPERとなり、かつ初値が当該公募売出し価格を下回る結果となっています。ところがそうした企業でも、それこそDXやAIを使ったり、そうした業種向けのプラットフォームを運営していたり、ITを活用している会社は出てきています。わかりやすいので、また不動産を事例にしますが、不動産管理向けのシステム(プラットフォーム)を提供する会社は、規模が小さく直前期赤字にもかかわらず、グロースに上場し、公募売り出し価格に対し初値が3倍近くなる人気です。

もちろん東証としては特に業種を選んでいる訳ではない、分け隔てなく上場したい会社を受け入れるというスタンスなのでしょうが、その手前の主幹事証券会社としてはやはりマーケットが望んでいるものを入れたいという観点でセレクトしている側面は否めないでしょうね。証券市場を運営している取引所側としても時代に合ったビジネスモデルや技術・ノウハウを有する会社、すなわち、多くの人が望む、皆が良いと思うものが入ってくると嬉しいとは思います。一方で、経営者は皆さんご自分の会社は素晴らしい業績で内部統制もしっかりできているのに、なぜ延期また延期で上場できないのかというギャップに悩まれている方も多いのですが、こうした、”いわゆる流行りの業種”であるか否か、すなわち、証券会社にとって「株が売りやすいか否か」(=投資家が飛びつくか否か)という要素で優先順位が付けられているという実態があることも理解をしていただきたいと思います。

もう1つ特徴的な傾向として、東京以外の地方に本社を構える会社が少し増えてきているように感じます。昨年は、東京本社が全体の70%を占めていて相変わらず高い比率のように見えますが、他の上場会社の本店所在地は全国に広がってきており、コロナ禍でリモートワークが進み、リアルでなくともオンライン上で全ての商取引が完結するので、東京じゃなければビジネスができないという感じではなくなってきているという背景もあるのでしょうね。実際、私どもの主幹事先で、とある島に本社を置く会社がありまして、島内に住んでいる社員もいることはいるのですが、多くの社員が東京はもちろん全国に散らばっているという環境でも全てのビジネスがリモートで成立しています。このようにデジタル化が進むともう本社が東京である必要はありません。また地方創生という切り口との関連では、東証も地方企業の上場には注力していて、上場会社の少ないエリアで積極的に誘致活動を行っています。そのため、今後は地方銘柄(東京以外本社)の上場は増加する傾向にあると思います。」

Q.TPMの現在は?

「先ほど数字は申し上げましたが、足元でも本当にメジャーになってきていると感じますね、どんどん問い合わせが入ってきています。突然という訳ではありませんが、今月も結構もの凄い数のお問い合わせで、ご紹介も次から次にいただいている状況です。中身については基本的に従来からずっとお話していることから変わりはなく、上場準備を経験したことがない会社からの”TPMなら現在の自社のポジションでも上場できるのでは?”という新規のお声がけか、既にグロース市場目指して上場準備中だが、なかなか上場に至らないという会社からの”まずはTPMを目指そう”という市場切替えの2種類のニーズです。こうした傾向については変わらないのですが、とにかく数が増えてきています。

もう1つ大きなポイントとしては、色々な所でTPMが話題になってきていることです。横須賀さんも私と連携を始めた当初は発信に苦労なさったと思いますが(笑)今では話も通じますので、そういう意味でもうメジャーの仲間入りをしてきたなぁという感じですね。ただ一方でJ-Adviser(いわゆる主幹事)の数が増えてくる中、あまり評判が良くないところもありますから選別の時代に段々と入っていくんだろうなと思います。良くないものはじわじわと広がっていくものですが、当社はナンバーワンとして変わらず丁寧にやっていきますよ。

また、TPMに関しては、時間の経過とともに一般市場(東証グロースなど)に上がる会社が少しずつ増えてきています。もちろんTPM上場会社の大部分がグロース市場を目指しているのですが、これまではその事例が少なかったところ、時間の経過とともに少しずつ、TPMから一般市場への上場実績が積み上がっていきますので、TPMはステップアップ市場だなということがより明確に位置付けられていくと思います。実は先日当社は、こうした実情も踏まえ、”TPMから上位市場(一般市場)への上場主幹事もセットでやります”という発表をしました。TPMのスタートからこれまでは一貫してTPMに集中して支援をしてきた歴史がありますが、以前からそうしたご要望(上位市場への主幹事もやってほしい)をいただいていたこともあり、やはり一気通貫で対応することがお客様のためになると考えて打ち出したところ、主幹事先の皆さまも是非にと言ってくださっていて、ありがたいことです。

先ほどJ-Adviser選別の時代だと申し上げましたが、TPMと上位市場への上場をセットでサポートする形態が普通になってくると、非証券会社では対応が難しくなってくるでしょうね。そうすると逆に、今後はセットで上位市場にも対応できるという中堅以下くらいの証券会社が参入してくるということはあるのかもしれません。」

Q.これからIPO・上場はどのように変化していくのか?

「いま、グロース市場等への上場に関して厳しい動きが顕著になってきています。それは市場再編に伴って東証の全体的なハードルが高くなったということで、実は現在、主幹事難民が続出している状況なんです。主幹事難民とは、上場を希望しても主幹事証券が見つからないということです。

昔は監査難民という言葉がありました。上場するには大手監査法人じゃないとダメだよねというのが常識でしたから、そうすると大手はなかなか受けてくれないので主幹事は決まるんだけれども監査法人が見つからないという状態を監査難民と呼んでいました。しかし、現在は監査難民と言う言葉は無くなりました。これは国や業界が一体となって新規上場における監査は中小監査法人でも良いという風に方向転換をしているためで、私の感覚でも新規上場時の監査難民はほぼ存在しないと思っています、受けてくれる中小監査法人がいくらでもありますので。

一方で主幹事については、東証の市場再編によって各証券会社(大手証券)が上場のハードルを上げてきていています。これは、証券会社にとっては、大型銘柄の方が上場時ファイナンス(上場時公募売出し)の規模が大きく手数料収入が大きくなる一方で、上場させるにあたって会社の規模が変わっても実務的な手間は変わらない、むしろ大手企業のほうが優秀な人たちが沢山いるので手間は掛からないということがあり、証券会社にとっては大型銘柄のほうがメリットが大きいです。大手証券会社とはいえリソースには限りがありますから、主幹事先を多く抱える中で質が重視され、できる限り大きい銘柄が選別されるということなんです。

もちろん冒頭でお話した通り、DXやAIなど流行りのど真ん中であればまだ小さい会社でも積極的に引き受けますが、そうでない会社(業種)は時価総額の大きい銘柄しか対応しないという傾向が強くなってきています。そうすると、主幹事難民の行き着く先が名証さんや福証さんということになりますので、今ちょっと地方取引所が再注目されているんですよ。

更にこれも重要な話ですが、東証の市場再編によって、プライム・スタンダード・グロースそれぞれに移行した銘柄の中で廃止基準に引っ掛かっている会社があります。今は猶予期間に入っているのですが、期間内に基準を満たせずに廃止へ向かってしまう、未上場になってしまう可能性のある企業が名証に移ろうとしているんです。実は名証には地域制限がなく、全国エリアからの受け入れが可能ですから、東証がダメだったらもう名証へ行くしかないということで、受け皿に今なろうとしていますね。

福証については5月25日にプロマーケットを作るという発表をしておりまして、来年2024年の末頃にスタートするということです。そうすると福証には本則市場、新興企業向けのQ-Board、そして新たにプロマーケットと3つの市場が存在することになります。既にTPMがあるのになぜ福証に作るのかと思われるかもしれませんが、福証は九州だけでなく中国四国地方もエリアに入るものの、元々地元に密着して企業を育てていこうという理念を持った市場なんですね。そうすると、Q-Boardよりもっと手前の、たとえ小さなベンチャー企業であっても開示をちゃんとやって形を作れば上場企業になれるよと、そういうところから育てていこうという、いわば地方ならではの考え方だと思いますので、それは私どもも支持しているところです。

このような動きもあり地方の取引所が注目されていて、当社も福証プロマーケットへ参入する予定なのですが、当社の主幹事先、もしくはコンタクトしているお客様にこの話をすると、良いですねという反応ですよ。ある程度規模が大きくなってくると東京一本で他には目もくれないという感じになってしまいますが、規模の小さな会社はやはり地元の応援も受けたいということがありますからね。更に福証は土地柄を活かしたアジアのゲートウェイを目指していて、アジア企業との連携を深めて福証を活用してもらえないかということを考えています。その点に関してアジアを代表する証券会社である当社と福証さんで何か協業できないかと検討しているところです。

このように、これまで存在感が薄れてきていた地方取引所が特色を活かしながら展開しているということで、一気にまた変わってくるのかなという気がしています。私自身も近年は日本に1つの取引所で良いという言い方をしてきましたが、再編以降は東証が本当に特色を出しているなというのがよく見えるんですね。先にお話した流行りのサービスや情報通信関係は当然グロースに行っている訳ですが、そうではない従来型のビジネスモデルは規模を重視してスタンダードに行く、サイズの小さなところは地方取引所をうまく使うといった使い分けだなと。

最近も大手証券会社の方とお話をしたのですが、やはりJASDAQを廃止したこと、大証を合併したことが問題で、東証一極集中を引き起こしてしまった。グロースは高い成長性を持った今流行りの銘柄だよね、スタンダードは安定した大きな会社だよね、するとその中間に位置する会社や、高い成長性はないけれども将来が楽しみな、ゆっくり成長していく会社の行く場所がなくなってしまった訳です。今後はこれまでJASDAQが受け入れていたこのような会社の受け皿が、名証や福証、そしてもちろんTPMへと変わっていくのではないでしょうか。

しかし、TPMは先ほどから申し上げているようなDXやAI関連は全く来ません(笑)。むしろそれ以外の会社が沢山出ています。もちろん一般市場よりも難易度が低いので好まれているということはあるでしょうね。また、TPMから上の市場へ上がる会社が少ないということをよく言われるのですが、もちろん幾つか要因がありまして、1番大きいのはそもそも規模が小さいんですよ。グロースへ行くにしてもまだまだ小さ過ぎるというサイズが多く、逆に規模的には十分だよねという会社はあまり来ませんので、成長に時間が掛かるということがまず1つあります。

2つ目は本日も何度か申し上げましたが、業種(成長性)の問題ですね。グロース市場は非常に高い成長性を求めています。小さくても高い成長性がある会社はグロースに上場していきますが、必ずしもそうではない会社、例えば成長性が年率5%~10%~15%といったゾーンの会社、それだけ見ればとても立派な成長性なのですが、グロースには成長率30%50%100%といった会社が出てきますので、どうしても見劣りしてしまいます。そのため、そう言った会社がTPMで少し成長したからといってグロース市場にすんなり受け入れられるかというと、そこは少々厳しかったりする訳です。そのため、以下のような上場ルートが標準化してくるかもしれません。」

  • ①高い成長性を持った(いま流行りの)企業:未上場⇒グロース
  • ②高い成長性があるがまだアーリーステージの企業:未上場⇒TPM⇒グロース
  • ③成長性は高くないが安定して成長する企業(規模小):未上場⇒TPM⇒(地方取引所⇒)スタンダード
  • ④成長性は高くないが安定して成長する企業(規模大):未上場⇒TPM⇒×(一般市場への上場を望まない)

Q.IPO・上場に関わる士業の未来予測は?

「まず全般的なお話をいたしますと、これは必ずしもオープンではない情報なのですが、東証には全市場の合計で年間100社上場という目標があります。これは1つの目処であって、現在の株式市場規模やキャパシティの問題などを考慮すると200社はないよね、逆に50社では少なすぎて困るよね、ということで大体100社くらいを維持したいというのが現在の東証の意向です。これはマーケットが壊れない限り続くでしょう。

TPMに関してはどんどん増えていくでしょうから、恐らく年間でグロース市場と同じくらいの数が出てくるようになるのかなと思っています。TPMはいわゆる資金調達をやりませんのでマーケットを壊すことはないんですけれども、そうは言っても年間に200社が乱立して良いのかというと、ブランド力が低下してしまいますので東証もそれは望まないでしょうから、感覚的には30社〜50社の間くらいに落ち着くのかなと。そうなってくると逆に段々質が良くなってきますよね、これまでは何でも受け入れていたところ、良いものに変わっていくようになるのかなという風にも思います。

また、先ほど地方取引所が特徴を活かして盛り返してくるというお話をしましたが、当社の主幹事先、すなわちTPMに上場している、もしくはこれから上場する会社も、将来グロースへ行く手前で1回地方取引所に行こうという所が少しずつ増えてきています。昔はそんな面倒なことは考えられないという感じでしたが、今は真剣に検討されていたり、実際にTPMから一旦名証などの地方へ行ってまた東証グロースに戻ってくるというルートを取る会社が出てきているんです。やはり直接グロースに上がるのは難しいという認識が浸透しつつあります。これは価値観なのでもちろん地方ブランドになることを嫌がる会社もありますが、今後このルートを選ぶ会社は増えて来るというのが私の未来予測です。

マーケットがこのように盛り上がっていくという上で士業の話をいたしますと、やはり今後は士業が上場に関わる機会が増える、チャンスが増えるという中で二極化が進むのではないかと思っています。要は上場に積極的に関わっていく、もしくはそのノウハウを持っている士業の方と、もう全くそれについていけない、もしくは蚊帳の外というか、これまで通りの路線でやっていく方という風に分かれるのではないでしょうか。そこで1番大きな要素は、TPMや地方取引所なんです。

やはり規模が小さかったりアーリーステージであったり、要はこれまではある意味で上場のターゲットに成り得なかったような会社が上場を目指すとなると、いわゆる社内体制などの士業が関わっているような部分で活躍する余地があると見ることができますよね。積極的に関わっていこうとする方々は、これを見越して既に動き始めています。横須賀さんもずっとこれを推奨されたり支援されていると思いますが、この流れは今後より加速していくのかなという風に思っています。」

Q.IPO・上場業務で生き残っていける士業事務所の条件とは?

「上場業務に携わろうという士業の方に是非申し上げたいのは、上場しようとしている企業、もしくは一般的な上場のシーンでご自身の士業としての業務のどこに接点があるのかをしっかりと見極めて、それを提案していける方が今後その世界で生き残る人たちだということです。少し抽象的で解りにくいかもしれませんが、”上場×司法書士”であるとか、”上場×税理士”といった切り口でのコンサルティングですね。要は士業の業務だけに特化してしまうと、例えば司法書士さんであれば登記だけで良いですかという形になってしまいますので、そこに引っ掛けたコンサルティングまでを打ち出していかなければ今後は難しいと思っています。

これは今までも士業の方々へ申し上げてきましたが、例えば弁護士さんや司法書士さんであれば解りやすいのは組織再編やM&Aですよね、手続きだけではなく周辺まで含めたコンサルティングに入っていかなければいけないでしょうし、税理士さんであれば決算対応や日常の会計処理にしか対応していない場合、上場準備のシーンでスピード感などについていけず税理士さんが変更になるケースは非常に多いんです。

逆に、最近お聞きした話で凄いなぁと思いましたのは、上場と知財戦略を全面に打ち出している弁理士さんで、上場準備中の企業へ向けて知財のリスク回避や必要な知財を固めるといった、要はIPO知財コンサルのサービスをされている方ですね。具体的には無料で簡単な診断をしたり、取れそうな商標を調べたりといった簡単な知財サービスを入口にして、上場に向けた、もしくは上場後も含めた戦略を提案するというもので、実際どこまでがコンサルティング分野になってくるのかは分かりませんが、打ち出し方としては非常に面白いなと思いました。

更に、この弁理士さんはコンサルティングメニューに資金調達を入れています。知財を融資の担保にという動きを見越しているということもあるのかもしれませんが、恐らく弁理士さんが実際に対応する訳ではなく仲間と組んで対応している訳です。また、上場という切り口で打ち出すのであれば、実際の上場シーンでどうなのかということは分かりませんから当社へ聞いてくる筈で、単独ではなくこうした連携による対応でも良いと思うんですよ。打ち出し方はある意味ちょっとしたアイディアで、ネット検索にも引っ掛かってくるでしょうし、こういう知恵やネットワークのある方が今後は増えてくると思います。

士業のあらゆる分野において、こうした切り口で良いと思うんです。詳細はお話できませんが、当社で取り扱った案件でも商標登録に詳しい方の力を実際に必要とするケースがありましたし、士業が活躍できる重要なポイントって本当は沢山ありますので、そういった切り口をしっかり把握した上でコンサルティングという名目のもとに組み合わせてやっていくと受け入れられやすいでしょうね。特に先ほどお話した入口で無料診断をするという戦略が優れているのは、普通は士業ってハードルが高いじゃないですか、それが無料となると、じゃぁちょっと見てもらおうとなりますので大したものだなと思いました。

これも具体的にはお話できませんが、上場を目指す会社の顧問士業の方による日常的なコンサルティングが適切であれば防ぐことができたトラブル事例もたくさんあります。士業といえどもアクションが後手に回っているということですから、逆に言えば業の皆さんには本当に幾らでもチャンスがあるんですよ。

一般的な士業の方は、顧問と言っても、会社側から問い合わせや相談が来たことだけに対応しています。しかし、上場を目指す会社の顧問はそれではだめです。常に会社全体に目配りをして、積極的にリスクを指摘し、先手を打って適切に対応していくことをアドバイスする必要があるのです。もちろんあらゆることを一人ではできませんので、自らのヒューマンネットワークを駆使し、必要に応じて様々な分野のプロフェッショナルとチームを組んで動くのです。それができる、若しくは実際にやっている士業の方はあまり多くはありませんので、BIGビジネスチャンスがそこにあるのです。」

脇本 源一 プロフィール

脇本源一
常務執行役員投資銀行本部長

大和証券および楽天証券で17年間公開引受実務に携わるとともに、日本国内およびシンガポールのベンチャー企業で上場実務に携わるなど、40年近く新規上場に携わっている。シンガポールCatalist市場における上場実務経験を生かし、TOKYO PRO Marketの立ち上げから現在まで一貫して同市場の発展に注力してきた。
現在は、TPM主幹事業務を中心として、様々な投資銀行業務を行っている。