少子化時代 保育業界の業務・未来の展望:行政書士スプリンクオフィス 辛嶋麻己子氏

少子化時代 保育業界の業務・未来の展望:行政書士スプリンクオフィス 辛嶋麻己子氏

事務所名:

行政書士スプリンクオフィス

代表者:

辛嶋麻己子

事務所エリア:

神奈川県横浜市

開業年:

2022年5月

従業員数:

1名

Q.士業、行政書士の業界の現状をどう認識しているか?

「思っていたよりもお仕事が一杯あるという印象で、開業前はそれこそ度々話題になる”食えない論争”のようなものを想像していましたが、実際には仕事の幅が広いというか、業際を守れば1つの仕事だけではなく色々な仕事と掛け合わせることができるなと思いました。私は補助金も取り扱っていますので、補助金と許認可と融資など色々な仕事とリンクして幅広い業務ができる、これは凄く行政書士だからこその面白さというところに繋がるのかな、とも思いますね。

また、補助金という取っ掛かりで業界が横断できる仕事もあります。許可にもよりますが、飲食業といっても飲食業許可だけでなく例えば菓子製造業や酒類販売免許等の繋がりなど、仕事がないというよりは仕事という認識がないだけで、たくさん仕事があるんだということにちょっと感激しました。」

Q.現状、貴事務所が永続できている要因はどこにあると考えているか?

仕事に対する想いが1番大事かなということを感じています。申請は下手したら失敗するとその事業が遅れてしまうことで、事業者の方がお金の面で何千万、何億円とリスクを抱えるので、プレッシャーがある仕事だと思うのですが、それに打ち勝つということも想いの現れなのかなと。私の場合ですと保育であったり、補助金の仕事などを通じて、事業者さんの想いに一緒になって共感できる、絶対にこの仕事を一緒に作りたいなという想いを、仕事をする時には大事にしています。

私自身も保育士の資格を持っていて、色々な働き方がある中でこの仕事を選んだのは、自分の子どもを育てたいから前職を辞めたとき、いろんな人にもったいない!って言われて。辞めた仕事の分を絶対に取り返すと思ったことが原点なんです。この士業という仕事で、しっかりと稼いでやっていくんだという気持ちで始めたということもあったので、プレッシャーや、色々と迷いがあった時でも、この原点があるから絶対にやろうという思いが強く、この気持ちも続けて来られた1つの要因だと思っています。」

Q.保育業界にはどんな特色があるか?

「例えば施設だけでも保育所と幼稚園、認定子ども園、あとは認可外保育施設やベビーシッターについても保育業界の許可や届出が関わるため、行政書士としてお手伝いができますので、割とお仕事は多いと思います。それぞれの施設要件も勿論ですし、経営側が株式会社なのか学校法人なのか、社会福祉法人なのかによっても変わってきます。また、例えば「保育所」といっても、実は細かく定められています。だからこそ行政書士以外にも士業全般にとって、お仕事として関わりやすい業界なのかなと、個人的には思っています。

今は少子化の影響でピークが過ぎて開設のご依頼は少なく、保育園や幼稚園の無償化に伴う行政手続きや処遇改善等加算申請のサポートが割と多いですね。あとは、指導監査の立会いなどの運営支援、法人の運営、評議委員会や理事会などのお手伝いといったお仕事もあります。」

Q.保育業界に専門特化した背景とその効果は?

「私は子どもが好きで、本当に昔から保育士になりたくて保育士の資格を取ったため、いつか保育業界のお仕事に関わりたいなと思っていたところ、行政書士として関われるということが分かったので保育業界に専門特化しました。また、割とブルーオーシャンなんですよね、やっている人が少ない。コンサルは沢山いるんですけど、最初は不思議でした。まず基本的に事業者さんは資金に余裕がないケースもあり、士業にお金を払うまでに至らないということがありますし、学校法人や社会福祉法人には事務員さんがいらっしゃったりするので、困っていても自前で何とかできないかと考えているケースは多いようです。

また、行政書士側の目線としては法律や行政が複雑で、例えば先日子ども家庭庁にまとまりましたが、それまでは保育所になると厚労省ですし、幼稚園は文科省が、認定子ども園には内閣府が主管でした。実際の手続きは自治体なのですが自治体も都道府県と市町村それぞれに申請することがあります。省庁も自治体も法令も跨ぎ、通知や改正が多いので、構造を理解するのが大変でした。また、度々通知に伴う連絡が来ますので、最新情報に追いつくためには片手間だと難しい、ある程度注視している人が必要になるので、手が回らないからやらないというパターンは多いように思います。

特化することによる1番の効果は、覚えてもらえるということですね。他士業の人もそうですが、こんな話があるんだけど、という色々なご紹介が来ます。交流会で1度だけお会いした方にはなかなか覚えてもらえないことも多いと思うのですが、割と”保育の方”ですよねと言ってもらえるので、覚えてもらえるという効果は凄く感じています。」

Q.保育業界を取り巻く士業の業務は、はどのようになっていくと考えているか?

「保育業界としては少子化に伴って開設が減ってくるので、行政書士としていわゆる許認可のような最初の立ち上げを手伝うというお仕事はどんどん減ってくる、今後はもう特定の地域だけに限られてくるのかなという風に思っています。

その一方で、運営支援は需要が高いです。処遇改善等加算の手続をはじめとした、行政手続きは複雑で、困っている園も多いですし、指導監査のサポートなどの支援も需要があります。また企業主導型保育の行政手続きは複雑で割とニーズが高く、やって欲しいという声を聞くので、そこはまだまだお手伝いできるところがあるのかなと思っています。業界にはコンサルも一杯いますし、社労士がお手伝いしているという話も聞きます。業界全体としては園児の数に対して保育士を多く配置しようという動きもあり、ごく最近話題になった”こども誰でも通園制度”が2026年に制度化される予定でモデル事業が各自治体で進んでいますから、更なる保育士の人手不足が悪化するのは目に見えていて、社労士はそういう相談も多いんじゃないかなと。

行政書士と同じく弁護士は少ないですね。顧問されている方はいると思いますが、個人情報に関することやクレーマー対策、園の職員に対するパワハラや就労関係の問題はよく耳にしますし、法律相談が求められているのに専門とされている方が少ないというのは気になる点ではあります。」

Q.保育業界、士業、行政書士の未来予測は?

「保育の対象人数はやはり減っていくと思いますが、多様になっていくというか、お金を持っている人たちは幾らでも保育や教育に対する要望があるようですので、そこの需要は増えて来るのかなぁと。インターナショナルスクールや、学校に入る前にも色々な教育を受けさせたいというニーズもありますし、ベビーシッターも人気です。AI等の発達により、事務効率は上がっていっても、人が必ず関わる業界のため、一概に少子化と共に縮小するというよりは、多様化という方向での需要が増えて来るのではないでしょうか。

士業の関わり方も変わってくるように思います。例えば今までは園に守られていた保育士さんが自分で仕事をしたい、フリーランスのベビーシッターとして自分で責任を持って保育をしていくというスタイルになるとすると、法律に全然詳しくない人であれば契約書からサポートが必要で、届出や各種書類の作成も必要になりますし、法律の相談をしたいという人も増えるのではないでしょうか。また、海外ではお手伝いさんの訪問が当たり前で、住み込みのベビーシッターさんがいるような国もありますが、日本ではまだ個別の保育に馴染みがないので親御さんから契約関係のオファーがあるというような、新しいニーズも出て来るという風に思います。

また、地域によっては少子化等で運営に支障が出ていることもあって、社会福祉法人などが一緒に事業をやっていこうという合併の動きなどもありますので、行政書士に関わらずそういったところのお手伝いが出来そうですね。国も動いていますし、地域を超えて連携していこうという活動も出てきていますので、こうしたケースのサポートやリスク管理のニーズに注目すると良いのかなと思います。」

Q.これから生き残っていける士業事務所の条件とは?

「私自身がまだ始まったばかりで丸1年と少しですので偉そうなことは言えませんが、色々な先生のお話を聞いていて感じるのは、やはりお客さんのために一所懸命になれるのかというのはちょっと大事かなと思います。レベル感は多分、人によって、その時によってあると思いますが、士業の中に入った当初によく聞いたのが”失敗しちゃダメだから”という話なんですね。でも実際に現場でお客さんの所へ行くと、取り敢えず話を聞かせて欲しい、聞いて欲しいというニーズが一杯あって、お客さんとしては一緒に考えてくれる人がいないんだなということを、凄く感じたんです。もしかしたら仕事にはならないかもしれないけれども、まずお客さんの声を聞く、ニーズを聞くということではないのかなと思います。

また、例えば行政手続きの中で延長保育申請というものがあるのですが、記録や作成資料が多く、これをやるのは大変なんです。遅くまでいる園児の数によって、幾ら補助が出るからやる、これくらいもらえなかったらコストだけが掛かるからやらないという判断って、きっと結局のところ正解が無いんですよね。ニーズに対して分析してリスクもありますよというお話もして、お客さんの声をちゃんと聞いていく姿勢、一緒に考えるってこういうことなのかなと思うんです。

何故こんな話をしたかというと、新人の私が何か話をした時に、大御所の先生や大きな法人の先生であっても、親身に話を聞いてくださる先生が多くて、そういう姿勢が長い将来に繋がるのかなということを感じましたので、相手への愛というのか、そうしたものを大事にしていくことが大切なのかなと思っています。」

辛嶋麻己子 プロフィール

メーカーに勤務後、出産を機に退職。子育てをしながら保育士・行政書士の資格取得。専業主婦からの独立を目指す。
先生でも経営者でも親でもない、第三者の視点から、幼児・保育業界をサポートするため、行政書士スプリンクオフィスを開業。
様々な教育理念・方針の園や先生、子どもたちを支援したいと活動中。