士業生存戦略を左右するAI活用2025年の現実と未来展望:社会保険労務士法人HRbase 代表 三田弘道氏

士業生存戦略を左右するAI活用2025年の現実と未来展望:社会保険労務士法人HRbase 代表 三田弘道氏

事務所名:

株式会社HRbase、社会保険労務士法人HRbase

代表者:

三田弘道(社会保険労務士)

事務所エリア:

大阪府大阪市

開業年:

2015年

従業員数:

約20名

Q1. 2025年、士業を取り巻く生成AIの環境について

2025年現在、士業の世界では生成AIの活用が話題にはなっているものの、実際の導入や活用状況はまだまだ限定的です。たとえば、私が開催する生成AI関連のセミナーに参加する方々はある程度興味を持っている層ではありますが、その中でも「ChatGPTを使ったことがある」という方が6割程度。日常的に使いこなしている人に限ると1割弱というのが実情です。使い始めた人も増えてきた一方で、「インストールの仕方が分からない」というレベルの方も依然として多く、AIリテラシーの二極化が進んでいます。

もちろん、一部にはClaudeやGeminiなどの複数のAIを使い分けている方もいて、その層は実務にうまく取り入れています。ただ、社労士業務においては、生成AIが得意とする文章生成よりも「調査」が求められる場面が多く、しかもその内容は常に法改正の影響を受けます。現時点では、ChatGPTのような汎用AIに任せると、正確性の面で不安が残るんです。たとえば、「有給休暇は3年に延長されました」なんて誤情報を出されたら、実務では致命的です。

そのため、士業領域では生成AIを導入するにしても、使い方や目的を明確にした上での活用が求められますし、正しい知識や背景情報を前提に判断できるAIが必要とされています。今はまさに、その「使いこなし」ができるかどうかが、士業の今後を左右する重要な分岐点になっていると感じています。

Q2. HRbase PROの現在は?

HRbase PROの現在についてですが、おかげさまで導入企業数が累計で1000社を超え、多くの現場でご活用いただけるようになってきました。実際、労務の実務においてAIをどう使えばいいのか迷っている社労士事務所にとって、HRbase PROは「都合のよいAI」プロダクトだと思っています。というのも、ChatGPTのような生成AIがすべての問題を解決してくれるわけではなく、むしろ微妙に「使いにくい」と感じる場面があるんです。

たとえば、社労士業務では「調べ物」が非常に多いんですが、生成AIに頼ると情報が長すぎたり曖昧だったりして、結局自分で確認し直さなければならないことも多いです。さらに、労務の世界って法改正が頻繁にあるので、常に正確な情報を押さえておかないと怖いんですよね。そんな中で、私たちが開発しているHRbase PROは、信頼できるデータソースと現場の感覚に基づいて作られていて、特にその「正確性」が高く評価されています。

また、現場の声を聞いていて思うのは、「生成AIは便利そうだけど、実務ではなかなか使えない」と感じている人が多いということです。文章生成のような使い方は一部では有効なんですが、労務実務ではむしろ「このケースでは何が問題になりうるのか」とか、「どの順番で対応すればいいのか」といった思考の整理や判断が求められます。そこに対して、HRbase PROは単なるツールではなく、「一緒に考えてくれる存在」として使われているという実感があります。

最近では、生成AIを使いながらも、「やっぱりHRbase PROのほうが使いやすい」と言ってくださるユーザーも増えてきていて、それが非常に励みになっています。AIの進化に合わせて私たちもプロダクトを進化させていますし、今後も現場に寄り添いながら、より実務で“都合よく使っていただける”ツールを目指していきたいと思っています。

Q3. 最近のHRbase PROはどう進化した?

HRbase PROは、ここ最近で機能面だけでなく“考え方”の部分でも大きく進化しました。特に力を入れてきたのが、社労士としての思考プロセスをAIに組み込むという点です。たとえば「横領の話ならまず就業規則のどこを見るべきか」「その対象者が正社員か契約社員かによって判断がどう変わるか」といった、実務での当たり前のような思考をAIができるように設計しています。

これは単にデータを読み込ませるだけでは実現できません。いわゆる“コンテキストエンジニアリング”と呼ばれる領域で、業務背景や常識、文脈の理解が求められる非常に難しい部分です。就業規則の読み方一つとっても、社労士であれば「ここを見れば答えがあるはず」とピンとくる感覚がありますよね。HRbase PROでは、そうした“勘どころ”をシステムに埋め込んでいっています。

また、ユーザーが質問した内容に応じて「次に聞きたくなること」を予測して提案したり、関連するスライドや資料を提示する機能も加わりました。これにより、単なるQ&Aではなく、ユーザーの思考を自然に誘導するサポートツールへと進化しています。

こうした取り組みを通じて、HRbase PROは「答えを返すAI」から「一緒に考えるAI」へと確実にステップアップしてきていると感じています。

Q4. HRbase PRO、労務相談AIの展望は?

HRbase PROの労務相談AIについては、ここからさらに実務に深く入り込んでいくことを見据えています。最近の大きなアップデートとしては、就業規則や賃金規程、労使協定といった会社ごとのルールを読み込ませたうえで、具体的な相談に対応できるようになった点が挙げられます。これまでは一般論ベースでの回答が中心でしたが、今は「御社の就業規則ではこうなっているので、対応としてはこうです」といった具合に、会社固有のルールを踏まえた返答ができるようになっています。

さらに面白いのが、その就業規則自体に対しても、AIが「ここはリスクがある」と指摘するようになっている点です。たとえば、休職期間が1ヶ月しか設定されていない就業規則に対して、「これは短すぎるため、休職期間満了で退職した場合にトラブルになる可能性が高いです」といったアドバイスも添えるようになっています。まさに社労士的な視点でのアドバイスができるようになってきているんです。

今後の展望としては、大きく2つの方向性を考えています。1つ目は、特化型アシスタントAIという特定のシーンの効率化を行うAIの充実です例えば、産前産後休業・育児休業案内文作成やタイムカード集計などは通常の労務アシスタントAIとは別にAIを設けており、正確に作成や集計を行うことができ、これを充実させていきます。2つ目は、チェック機能の強化です。就業規則をアップロードするだけでリスク箇所を洗い出し、改善提案まで自動で行うといった“労務の健康診断”的な使い方も視野に入れています。

最終的には、労務相談AIを単なるチャットボットとしてではなく、「労務部門そのものを担えるAIエージェント」へと進化させていきたいと思っています。人手不足が進む中で、現場の負担を減らしながら、専門性の高い対応を実現する――そんな存在を目指して、今後も機能開発を進めていきます。

Q5. 今後、士業と生成AI/AIエージェントはどのように共存していけばよいのか?

これからの士業と生成AI、あるいはAIエージェントの関係については、単なるツールとしての活用を超えて、「どう共存し、どう価値を生み出すか」が本質的なテーマになると思っています。今はまだ「生成AIを使ってみた」「プロンプトが難しい」といった段階にとどまっている方が多いですが、すでに一部では、専門チームがAIをフル活用して業務を最適化するような動きも始まっています。その差は年々広がっていて、気づいたときには取り返しのつかないレベルになっているかもしれません。

私自身は、最初に大きな変化が起こるのは「税理士業界」だと予測しています。記帳代行業務など、AIによる自動化のインパクトが大きく、すでにフィンテック系の企業などが積極的に開発を進めている分野でもあります。ここで一気に置き換えが進めば、士業全体に波及するのは時間の問題です。そうなると、社労士や行政書士など他の士業にも、より高い専門性や対応力が求められるようになります。

その中で士業が取るべきポジションは、私は「AIエージェントの管理者」だと思っています。つまり、AIが自律的に判断・対応していく仕組みの中で、最終的な責任を持ち、AIから上がってくる課題に対して必要に応じて介入する存在です。たとえるなら“工場長”のような立場ですね。AIが自動化してくれることで、むしろ士業は本質的な判断や戦略的なサポートに集中できるようになる。そういう関係性が理想だと思っています。

さらに、企業側も今後はどんどん外部リソースを活用する方向に進んでいくと見ています。ただし、従来の「アウトソーシングしてください。でも担当者は置いてください」では意味がありません。本当に価値ある外部化を実現するには、AIエージェントが企業内部の業務にまでしっかり入り込み、従業員対応や申請フロー、場合によっては意思決定支援にまで踏み込んでいく必要があります。

士業としての勝ち筋は、そのAIエージェントをどう構築し、どう運用するかにかかっていると思います。中途半端に管理責任だけを背負うのではなく、AIと一体になって業務を根元から奪い切る。その先に、士業の新たな価値があると信じています。

三田弘道 プロフィール

兵庫県西宮市生まれ。大阪大学大学院在学中に社会保険労務士試験に合格。2015年に株式会社Flucleを起業。300社以上の企業の労務管理支援の中で労務領域の属人化を課題に感じ、HRbaseサービスを開発。大阪府社会保険労務士会 デジタル化推進特別部会員。ITや業界活性化のテーマで毎月約10本のセミナーに登壇。2024年11月18日付で社名を「株式会社HRbase(エイチアールベース)」へ変更。