名古屋証券取引所の担当者が考えるこれからの上場:株式会社名古屋証券取引所 山田純史氏

名古屋証券取引所の担当者が考えるこれからの上場:株式会社名古屋証券取引所 山田純史氏

会社名:

株式会社名古屋証券取引所

代表者:

竹田正樹

開業年:

1949年4月1日

Q.IPO・上場の現状をどう認識しているか?

「日本には上場企業が約3,800社程度しか存在しません。つまり、日本に存在する全ての株式会社のうち、いわゆる”上場企業”は1%未満ということなんです。だからこそ、上場企業は選ばれた企業、優れた企業であるというイメージが強いのではないかと思います。そうしたことから、資金調達に加えて取引先からの信頼向上や、従業員の士気向上といった効果に期待して、上場を選択するという企業もあるという認識です。因みに、足元では毎年100社程度の新規上場会社が誕生しているんですよ。」

Q.現状、IPO・上場している企業の特徴は?

「IPO準備企業が最初に上場する市場、つまり、IPO市場として最も利用されている市場はグロース市場です。2022年は91社がIPOを実現しましたが、そのうちの70社がグロース市場を選択していますから、約8割もの企業がグロース市場から上場している、という事になりますね。

グロース市場の特徴としては、新規上場する企業を業種で分類すると、2業種が大半を占めているという事実が挙げられます。その2業種とは情報通信業とサービス業なのですが、グロース市場は高い成長可能性を求められるため、それを実現できる業種が限られているという事なのかもしれません。要求される高い成長ストーリーを描けるのが、この2業種なんでしょうね。」

Q.名証の現在は?

「実は東証の市場再編と同じタイミングで、名証も市場再編を行いました。そもそも東証再編が、コロナ禍にあって当初の想定よりは大きく報道されませんでしたので、名証の再編についてご存じない方も多いかもしれませんね。

東証グロース市場が主なIPO市場であることに変わりはありませんが、名証市場をIPO市場として選択する企業は確実に増えています。少しずつではありますが、名証新市場のコンセプトが浸透している結果だと思っているところです。具体的には、東証グロース市場が高い成長可能性を求めている事に対し、名証の新興市場であるネクスト市場着実な成長可能性を求めている、という点がコンセプトとして大きく異なっています。

市場再編前の東証マザーズ、および名証セントレックスは、ともに高い成長可能性を求めていたのですが、再編を通じてそれぞれの市場コンセプトに違いが出た形ですね。その差別化の結果、名証市場をIPO市場として選択する企業が増えているのではないかな、と認識しています。」

Q.コロナ禍で起きた市場の変化は?

「コロナ禍の影響が最も大きかったのは、2020年だったと記憶しています。当時は、感染拡大による一時的な株式市場の低迷等によって、3月までに上場を承認された会社のうち、18社もの企業が上場を延期しましたので、インパクトがありましたね。

2022年もロシアによるウクライナ侵攻等の影響を受けて、8社が上場を延期しましたが、先ほどお話した18社に比べると、まだ少ないと言えます。これは、コロナ禍がIPOマーケットに与えた影響がいかに大きかったか、という事の証左ではないでしょうか。」

Q.現在の名証の活動は?

「残念ながら、全国の企業が上場できる証券取引所であり、かつ、実際に全国の企業が上場している証券取引所であるにも関わらず、東海地方の会社しか上場していないと誤解されているケースがあるんですよ。そのため、誤解の払拭および名証の認知拡大に注力しているところです。

具体的には、年に3回程度のIPOセミナーの実施、面談を希望されるIPO準備企業への訪問、IPO関係者への市場説明などを行っています。IPO準備企業の中には、東証市場しか知らないという企業も存在していますので、これからも周知に努めて是非とも名証市場を選択肢の一つとして認識してもらいたいですね。」

Q.これからIPO・上場はどのように変化していくのか?

「高い成長曲線を描く企業と、着実な成長曲線を描く企業で、選択するIPO市場が異なってくると考えています。つまり、前者は東証グロース市場を、後者は名証市場を選ぶという事になっていくのではないでしょうか。

ただし、選択するIPO市場が異なったとしても、最終的には東証プライム市場を目指す企業が多いのではないかとも思うところです。仮に名証市場をIPO市場として選択した企業であっても、東証プライム市場に憧れを持たれているのであれば、我々になんら遠慮することなく東証プライム市場を目指していただきたいと考えていますし、実際、以前からそのような市場選択をされる企業は多いんですよ。」

山田純史 プロフィール

名古屋証券取引所上場推進・企業サポートGに所属。実現すべきミッションは、「この国の証券市場に、もう一つの選択肢を提供すること」