生成AIの飛躍は、弁理士業界にバブルを巻き起こすか?:原田国際特許商標事務所 原田貴史氏

生成AIの飛躍は、弁理士業界にバブルを巻き起こすか?:原田国際特許商標事務所 原田貴史氏

事務所名:

原田国際特許商標事務所

代表者:

原田貴史(代表弁理士)

事務所エリア:

埼玉県さいたま市

開業年:

2016年3月

従業員数:

約20名

Q.弁理士業界全体について、いま思うことは?

「まず開業する人が少ないなと思っています。横須賀さんは2023年を生成AI元年だと表現されていましたが、弁理士業界としてはもともとAI系の商標申請をやっているところが大きくシェアをとっていて、私が開業した8年前に比べて商標の市場環境は厳しくなっているな、という印象ですね。ただ、まさか生成AIがここまで一気に広まるとは、正直思っていませんでした。

とはいえ弁理士全体が生成AIに興味を持っているかというと、肌感覚ではそこまでではないな、というところです。興味を持っている人は持っていると思いますが、そこまで使いこなせていないのが現状だと思います。生成AIの著作権問題についても、私の周囲ではそこまで話題になってはいませんね。

私自身としては資料作りや、特許事務所の業務以外に求人原稿を書いていたりもしているので、そうしたものが生成AIによって自動で作れるようになったなという印象です。また、お客さんからの質問についてもちゃんと内容を担保して、過去どういう回答をしてきたのかという情報で強化すれば、かなりの精度を出した上でQ&Aをある程度は自動化できるんじゃないかなとも思っています。

元々私はコンピューターソフトウェア専門の大学で、AIの研究室に入っていたんです。2002年頃でしたが、当時のAIやコンピュータまわりは全く実用化されるような状況ではなく、いわば冬の時代でしたね。ボードゲームの電脳戦などが話題になる随分前でしたから、無駄な研究をしているかのような扱いでしたよ。特にAIに対して将来性を感じていた訳ではなく、たまたま流れで選んだ道でしたが、大学院まで進んでAIの修士論文を書きました。

その後、最初は企業に入って7年ほど勤めたんです。研究開発部に配属されて、3年後に商品化するようなものを開発する部署でしたから、そこで特許をたくさん出す仕事をしたんですね。この頃にはもう弁理士の試験勉強をはじめていたので、そこから志願して知的財産部に配置換えしてもらいました。AIの特許申請をするようになったのは開業してからですから、2016〜2017年あたりですね。当時はAIに関する申請はそれほど多くなかったのですが、生成AIの登場で右肩上がりに増えてきたという感じです。」

Q.AIに関する特許というのは、どういうものか?

「AIを活用したシステムの特許などが多いですが、全体的に数としてはかなり増えています。私が取り扱ったもので既に登録されて公開済みのものですと、かなり昔ですがまさに生成AI系で、業種などを入力することで、過去のデータからコンバージョンが取りやすくなるLPを自動で作れるというシステムなどがありました。

やはりChatGPT関係のご相談が最近では特に増えていて、士業やコンサル関係の申請も多かったですよ。ChatGPTが話題になりはじめて1ヶ月後にはもう申請するなど、感度が高い人は早かったですね。これはもう特許になっています。

特許は通常、申請してから公開されるまでに1年半のタイムラグがあります。ChatGPTが台頭してきたのは2022年の11月頃でしたが、この時点ではまだChatGPTを活用した特許は殆ど申請も公開もされていませんでした。もちろん生成AI自体はありましたが、プロンプトを使うなど実用的な感じではなくて申請数自体が少なく、申請すれば凄く通りやすいという状況でしたから、2023年は普通なら通らないようなものも通っていましたね。」

Q.生成AIが急速に深まるにつれて、起こる知的財産への影響は?

「例えばどこかから拾ってきたイラストをそのまま使うと、著作権侵害になるということはあると思います。また、普通にイラストを作る分には抵触しないと思いますが、例えば特定のアニメ風に、といった指定をしてしまうと著作権侵害になりやすいということはあるでしょうね。そうした場合は見た目で似ていることからわかりやすいですし、著作権があるということがもう明確ですので。」

Q.生成AIの普及によって、弁理士業界にはどんな影響があるか?

生成AI系の特許申請が増えるという点ではチャンスですかね。また、お客さんとのやりとりを一部自動化できれば、それだけ本当にやるべきことに集中できるようになりますので、それもチャンスかなという風に思います。

また、自社で使い方を体系化して使いこなしているという中小企業は少ないので、コンサルで支援するというのも士業にとってはチャンスと言えるのではないでしょうか。自分の専門業務以外でキャッシュポイントが作れるというのは大きいですよね。特に弊所のようにソフトウェアなどを専門にしている事務所は、使い方の指南や導入コンサルなど生産性の向上に関与するビジネスもアリかなと思います。

弊所へのご相談としても、まだ使いこなせていない人が多いので質問自体は少ないんです。ChatGPTの使い方がわかりませんという質問というよりは、無駄なオペレーターの業務を減らして人件費を圧縮したいといった感じのご相談が多いので、今はまだ会社にお金を残す提案のほうがニーズは高いのかもしれません。

2023年はChatGPT関係の申請がちょっとしたバブルだったと言えますが、取り扱える弁理士はそれほど多くないと思います。ITを専門にしている事務所は対応できるでしょうし、若い人であれば可能かもしれませんね。弊所はご紹介が95%なのですが、ITや特許専門でビジネスモデルを打ち出している割にビジネスセンスがある弁理士がなかなかいない、ということでお声をかけていただくことが多いんです。

弊所の場合は将来の事業展開まで想定して、先々まで回り込んだコンサルティングを提供しておりまして、未来のキャッシュポイントやビジネス展開を想定した上で、より拡張したような強い特許が取れるAIやシステムの機能をご提案しているんですね。実現しなくても申請書類に入れていれば権利化の対象になりますから、より将来まで権利が取れるということを考えています。特許取得可能性の業界平均は6割なのですが、弊社はこうした提案により96.1%と平均よりはるかに高いので、こうしたところは強みですね。

ビジネスセンスを磨く方法としては、まず多少居心地が悪くても色々な業種の方と関わっていくということではないでしょうか。所属の士業会くらいしか関わらないという方もいらっしゃいますが、そうではなく同業者から学ぶというよりは異業種から学ぶ、自分よりも少しレベルが高いような経営者が集まるところに顔を出す、といったことが大事だと思います。

または、ちょっとした日常生活の中でも、上手くいっている飲食店など身近なところからどういう風にビジネスを展開しているのか読み取って、応用できる部分があったら応用していくといったことでしょうか。最近では『鰻の成瀬』が爆発的に店舗数を増やしていますが、あれはFCですので一気に増やしても『いきなりステーキ』のようにはならないだろうと、どのように差別化しているのかというと、もう仕入れの段階で自社の独自ルートを作っていて、真似をされないので参入障壁が高いという訳です。

普通の飲食店は開業した後のことばかり考えているのですが、開業する前の段階で真似をできないような仕組みを考えたんですね。また、メニューが3種類しかなくて、立地もわかりやすいです。例えばGINZA SIXには出店せずに八王子などを選んでいて、高級な美味しいうなぎではなくリーズナブルにお腹いっぱい食べたいというファミリー層をターゲットにしているんだと思います。

私が開業した時に心がけたのが、やはり居心地の悪い環境に身を置くということでした。開業当初の年商は1,000万円ほどだったと記憶していますが、BNIに入ったことで異業種の素晴らしい経営者から学ぶことが多かったんです。常に刺激を受けることで、弁理士であれば特許申請や商標申請といった自分の士業業務だけに拘るのではなく、もうちょっとお客さんへのお役立ちというところから、色々なサービス展開ができるビジネス感覚を養ったんじゃないかなと思っています。」

Q.今後、生き残れる弁理士・士業の条件は?

「まずは士業固有の業務に拘らないということでしょうか。本質はお客様の悩みを解決することですから、自分の業務に拘ってしまうと発想がそれに固執してしまうと思います。

開業して数年が経った頃、ある資産家から聞いた話で、仲間うちに凄く喧嘩の強い人がいて、居酒屋の外などで喧嘩になると9割くらいは勝つそうなのですが、100%勝つと確信できる時があって、それは相手が目の前に置いてあるナイフやハサミなどの武器を手にした時だということでした。なぜかと言うと、無手であれば何をやってくるかわからないところ、武器を手に取った途端にそれで攻撃するしかなくなりますので、攻撃のパターンが読めて簡単に凌げるという訳です。固執してしまうと、その瞬間に負けてしまうということだと思いますね。

また、これも意外に殆どの人ができていないのですが、当たり前のことを普通にちゃんとやるということです。サービス業者としての意識を持つ、これができていない人が多いんですよ。メールを24時間以内に返す、専門用語を使わない、相手の理解度に応じた説明をする、といった当たり前のことができていないケースがあるんです。以前、社労士に助成金の申請を頼んだのですが、専門用語が羅列している経産省の資料に全部記入して自分で提出に行けという感じで、これだったら依頼する必要がありませんよね。

もの凄く時間が掛かって、私が自ら労働局まで行き、やっと助成金が支給されたのですが、見積もりも出さずに30%を寄越せと言ってきました。払いましたが、アフターフォローもなくお客さんに丸投げというのは、お客さんが助成金の申請に不慣れであることに全く寄り添えていませんよね。

生き残りということで弁理士に関して具体的なことを言うと、ぶっちゃけてしまえば商標は厳しいと思います。特許についてはどれだけ提案できるかというところで、特許を取るだけで売り方が下手だとマネタイズしていかないんですよね。ちゃんと売って、参入障壁としての特許の力が最大限に生きるようにするにはどうすれば良いのかといった面の、提案を含めたサポートが重要ではないでしょうか。

ただ言われたら書類をロボットのように、作業者として作るのではなくて、相手のパートナーとしてどれだけビジネスを汲み取り、利益を最大化できるのかといった仕事ができれば、これはAIにできないことですし、大きな付加価値になる、差別化の要素にもなるのかなと思います。」

原田貴史 プロフィール

福岡県北九州市出身 1979年4月23日生まれ 現在43歳
原田国際特許商標事務所 代表

大学生時代は、のめり込んだパチスロで最終的にアルバイト3名と、管理職1名にてパチスロチームを組織化。時給2万円になる。
けれど、パチスロで稼ぐことの、虚しさ、社会になんら貢献できない後ろめたさに、全く充実感がない。

その後、最初の就職活動を迎える。
200社受けて決まったのはパチンコ屋への内定のみ。
辛い就職活動の経験や「今までの自分の人生を変えたい。」との思いもあって、働きながら士業(弁理士)試験に挑戦することを一念発起する。

特許事務所に転職するも大企業からの要求通りにロボットのように毎日、出願書類を作成する日々。
特許事務所での3年半の実務に際して、中小企業を支援したいという気持ちは、日々高まり、独立を決意。

開業後は、毎年160~250%の成長。開業4年で年商1億円、商標申請数が全国で2位の事務所に成長させる。