士業のSNS運用メリット・デメリット:司法書士村山澄江事務所 村山澄江氏

士業のSNS運用メリット・デメリット:司法書士村山澄江事務所 村山澄江氏

事務所名:

司法書士村山澄江事務所

代表者:

村山澄江(司法書士)

事務所エリア:

東京都千代田区

開業年:

2010年9月

従業員数:

3名

Q.士業、司法書士のSNS活用の現状について、どう感じるか?

「もし今、新人だった頃の自分にアドバイスするなら、『SNSはやったほうが良い』です。私は2003年からこの仕事を始めていますが、当時は営業ノウハウを知る術も、気軽に質問ができる仲間もいませんでした。仕事中に気になることがあっても、3人しかいない事務所で何でもかんでもボスに尋ねるのは気が引けたので、情報交換できる仲間が欲しいという気持ちがありました。そんな中、2008年に友人がアメブロを始め、ブログにコメントを入れてほしいというお願いをされました。しかしアカウントを作らないとコメントができなかったので、友達のブログにコメントを入れるためだけにアメブロアカウントを開設しました。それが最初のSNSです。結果論ではありますが、SNSが非常に独立の後押しになりました。

SNSというものが何の略なのかすら知らない状態で始めましたが、面白い世界が待っていました。こうやって知らない人と普通にリアルな友達になれるのか、と衝撃を受け、他のものも触ってみようとFacebookやTwitterなども始めたという経緯です。当時は独立願望が全くなく、将来こうなりたいという理想像もなく、ただ目の前の仕事をこなしながら日々を過ごしていました。もしも、もう一度、司法書士の世界に入ったあの日に戻ってSNSを始められるなら、もっと戦略的に使ったでしょう。『将来どんな分野をやりたいか、だったら今は何をすべきか』を考えながら目的をもってSNSをやっていたならもっと違う景色になっていたのかもしれない、とタラレバなことを想像してしまうことは多々あります。

最近開業された士業の方々は、SNSを活用されているケースが多く、中にはPRが上手いなあと感じる方や、使い方をきちんと考えて戦略的に使っていらっしゃるのだなと感じる方もお見かけします。実務の経験値は少なくても、自分の持っているカード(特徴)を上手に使って、まず見つけてもらうということに注力することってすごく重要だと思うのです。知ってもらってから、徐々に実務ができるようになっていき、パワーをつけていくと上手くいく気がします。

逆にあまり上手くないなと感じる使い方としては、グチグチした投稿です。ネガティブな感情をわざわざ外に出すことで得られるものはあまりないと思います。私にも「ちょっときいてよ~」と思ってしまうようなことは山ほどありますが、SNSには書きません。どうしても成仏させたい嫌な気持ちが芽生えた時はノートに書いていました。紙に書いて、ビリビリに破ってそれで消化するっていう、リアルデスノートです(色はもちろん真っ黒)。根暗の極みという気がしますが、だれも傷つけないので気に入っています。最近はそれもやらなくなるくらい、色々なことが気にならなくなりました。ネガティブ系の内容は下書き保存するなり一晩寝かせて、これを出して何のメリットがあるのかを考えてみるのも良いのではないでしょうか。業界に一石を投じる類のものであれば良いですが、誰かの文句などはただのストレス発散なので、SNSではなく、別の方法で解消したほうがいいですよね。

Facebookなどの比較的クローズドなSNSは、ネガティブな内容にも賛同してくれる人がいるのでつい書いてしまうということもあるのかもしれませんが、私は逆に顔見知りばかりのFacebookでは意識的に活動報告などをするようにしています。“顔は知っているけど何をしている人なのかはよく分からない”という関係性の人達に情報を補填するために使うイメージです。講演会をやりました、取材を受けました、こういう信念で働いています、こんなことをしたいです、ということを書いているのですが、結構反応があって。やっていくうちに、どんな人にむけて、どんな媒体でSNSをするのかを考えてやったほうが有意義だと気付きました。

Q.SNSを活用しようと考えた経緯と背景は?

「最初のきっかけは友人がアメブロを始めたことでしたが、せっかくアカウントを作ったので自分でも何か書いてみようと思いました。しかし何を書いたら良いのかさっぱり判らなくて、今となっては驚くほどつまらない日記を書いたのが初投稿です。

でもそのうち、誰かが読んでくれているということが分かってきたので、仕事の休憩中にクスッと笑ってもらえるような、ちょっと面白いことを書こうという気持ちになっていきました。タイトルは『コムスメ司法書士の日常』です。司法書士という肩書をつけながらも、仕事のことは一切書かずに脱力系のことばかり書いていたせいか、かえって目立ってしまい、会ってみたいと言われることが増えて友達が100人ほど出来きました。その中でも一部の友人とは15年ほど付き合いが続いています。大人になってから新しい友達ができた、という感動がきっかけでSNSというものの力を知ったのが始まりでした。そこから抵抗感がなくなったというか、今まで閉鎖的だった視野が一気に広がっていき、SNSが『楽しい』と感じるようになりました。

SNS着手の順番としてはアメブロ、Facebook、Twitter、YouTubeです。まずは友達づくりをしたい、横の繋がりをつくりたいということが1番大きな動機だったのですが、アメブロはゆるいことしか書いていなかったので、仕事のことを書く場所が欲しくてFacebookを選びました。後で知ったのですが、Facebookは知り合い中心だからプライベートなことを書き、ブログに仕事のことを書くというのがセオリーなのだそうです。私はずっと逆をやっていて、最初から間違えていました。継続できている理由は、あまり考えすぎずに(時間もあまりかけないようにしています)、仕事の息抜きとしてやっているからです。

Twitterは10年前に比べて士業や経営者が増えたなと思います。昔は多くの人が”渋谷なう”とかツイートしていた記憶ですが、今はそうではなく、自分のプロフィールをしっかり書いて、何をやっている人か一目で分かるアカウントが増えました。詐欺師みたいな人も一定数いますけれども(笑)、ビジネスに活用することができるなという感想を持っています。実はTwitterに関しては、昔アカウントを作ってから10年ほど放置していました。始めたはいいけど使い方が分からなくて。2冊目の本を売るために2019年に復活させました。再開しようと思った理由は拡散力があるからです。自分のことをまだ知らない人に届ける、という場所をきちんと作ろうと思って再開したら、ここでも新たな友人ができはじめて毎日投稿するようになりました。

Q.SNS活用の効果は?

「効果は抜群にありました。まずアメブロでリアル友達が100人くらい出来て、今も仕事での関係が続いている人がいます。当時はビジネス活用は考えておらず、純粋に友達ができたことがうれしかったのですが、「そういえば司法書士だったよね、こういうこと出来る?」と聞かれて引き受けたりしているうちに割と真面目なお付き合いに変化していった方もいます。また、多くの同業者と知り合えたことがとても大きな収穫です。仕事で悩んだ時、本で調べるはもちろんですが、Twitterで検索したらヒントが書いてあることが結構あって。予備校の先生たちもフォローさせてもらっているので、法改正の情報もいち早くゲットできます。

Facebookに関しては私の投稿を見た編集者さんが企画書を作ってくれて、私の知らないところで書籍の出版が決まったという出来事がありました。『認知症に備える(自由国民社)』は、このように世に出ました。

また、私の仕事内容を知った方が、こういう人を繋げたいと紹介してくださることも多いですね。Messengerで人とつなげてもらうという形でのお仕事の依頼が多いです。私が人を紹介することも多いです。顔が見えているのでつなぎやすいですし、仕事で使うことに適しているのはFacebookだなと。Twitterでもお仕事につながるケースはありますが、数としてはFacebookが圧倒的に多いです。

Twitterは自分のことを知らない人に届けるという性質に長けています。数年前にメルマガを始めたのですが、Twitterでは1回の投稿で600人くらいのメルマガ登録がありました。FacebookではTwitterより長文でメルマガの紹介投稿をしましたが、1回の投稿で100人くらいの登録でした。特徴をとらえて上手く使い分けようと思っています。

YouTubeは2020年に始めています。自分の顔をさらすのが嫌だったので全然やる気はなかったのですが、ひょんなことがきっかけで出てみることにしました。『ゆるっとかいご』という、介護周りの情報発信をしているチャンネルに、ゲストとして出演しました。今までの活動では認知症対策の話が限られた人にしか届かないので、YouTubeなら多くの方に届くかもしれない、手遅れになる人が減るかもしれないという思いで、出演することにしました。途中からゲストではなく正式にチームメンバーとなり、今の形になりました。

最初は本当にゆるゆる発信で、カンペを見ながらやっていのですが、今はチャンネル登録者数も15,000人に増えたので原稿をしっかり作って割とカチッとやっています。開始当初は知人に応援登録してもらって。徐々に視聴者が増えていき、後発組ながらも、YouTubeからお仕事依頼も来るようになり、うれしい誤算でした。

YouTubeチャンネルを持っている士業はすごく増えました。専門分野だからこそ、素人には内容が難しいかもしれないなと感じるチャンネルも多いです。私たちのチームは、私以外が法律の素人なので、そのメンバーに理解してもらうために極限まで内容をそぎ落として簡潔にする工夫をしています。コンセプトとしてはとにかく分かりやすく、5分で説明することが目標。セミナーであれば気にしなければいけないような表現も、YouTubeでは思い切って言い換えてみて、『伝わること』を優先して説明しています。もしかしたら、視聴者が増えた原因はその点かもしれません。また、動画のメリットは、人柄がわかるのでミスマッチが無いところです。講演の依頼や家族信託のご依頼など、事前に私が喋っている姿を見てから問い合わせをしていただいているので、やりとりが格段とスムーズです」

Q.SNSの運用で気をつけている点は?

「気を付けていることは5点あります。1つめは、仕事のことを書く際に、お客様の個人情報に触れる内容を避けることです。たまに見かける、『お客様の用件で今日は○○駅に来て○○をしました』は少々危ういなと思います。2つめは、ネガティブな心境は書かないこと。これは前述のとおりです。3つめは、現在または未来のお客様が見たとしても恥ずかしくない内容か、ということです。

実は過去に失敗したなと思うことがあります。相続手続きで戸籍を収集する場合、郵送で取り寄せるので速達でやっても少し時間がかかります。相続手続きの依頼を受けたあとの土日に、Facebookで遊びに行った内容の投稿をしたのですが、それを見たお客様に”仕事を放り出して何をしているんですか”ってすごく怒られました。土日に遊ぶことがNGではないはずですが、そのように感じさせてしまう内容だったのだなと勉強になりました。特に相続の場合はご家族が亡くなってメンタルがデリケートになっていたはずなので、配慮が足りなかったなと感じました。

4つめは、見られているからこそ、見てほしい内容は積極的にアピールすることです。活動報告や、取材記事、YouTubeの更新など。5つめは、楽しく続けることです。ネタがなければ、日々思っていることや、適当にプライベートなくだらない内容も混ぜています。文字って意外と人柄が出ますよね。言葉遣いが乱暴にならないように、ということは気にしていますが、基本的には続けることを優先的に、気楽に楽しんでいます。

士業のSNS活用についてはどんどん変わっていくと思います。様々なSNSがある中、人によってハマるジャンルがあるはずなので、それを伸ばすのが1番効率的なのではと思います。」

Q.士業、司法書士のSNS活用未来と生き残るための条件は?

「昔は上手くいっていた、というところに居座らないということじゃないでしょうか。色々な新しいものが出てきているし、法律もどんどん改正されるし、中堅士業が持っているのは経験だけで、それ以外は新人のほうが強かったりするんだろうなと思っていて。

横須賀さんが、士業はChatGPTやAIでもう1回スタートラインに立たされたと仰っていましたが、私もそう思います。使いこなせる人にどんどん追い抜かれるのではという思いもあるので、ジジババも食わず嫌いをしていないで頑張らなきゃみたいな(笑)。経験がある人は経験値をきちんと活かしていけばいいと思うし、経験が無い人は無い人なりの武器がすごく揃っているということになりますから、それぞれ、自分が1番活かせるものが何なのかを分析することが大事だと思います。

SNSは選択肢の1つであって、それに依存しないということも大事だと思います。結局、最終的にはリアル人となりが決め手になることがほとんど。SNSで良さげに見えても実際に会ってみてなんか薄っぺらいなと思われたら次はないです。ChatGPTが出てこようが、最終的には人格をきちんとするっていうのが1番だと思います。SNSは自分を知ってもらうために使い、会った時に”頼りになりそう”って思ってもらえるといいですよね。

人格をきちんとするという点で自分自身が気をつけているのは”小さな約束でもきちんと守る”です。仕事以外の約束をおざなりにしないように、という意味です。この人だったら絶対遅刻しないだろうなとか、不義理なことはしないだろうなとか、そう思ってもらえることが仕事にも影響します。私自身もそう信じられる人が何名かいます。お客様に紹介した時に、この人だったら大丈夫と思える人。そういう風に思ってもらえたら、どこへでも紹介してもらえます。ここを疎かにしていると、いくらSNSで人気があってもちょっと紹介まではできないという感じになりますから、SNSが苦手だなって思っている人こそ、リアルな側面が強いと思います。

私自身はIT音痴なので、たぶんこれから出てくる新しいものにはなかなかついていけないと思いますが、だからあきらめるということではなく、SNSはあくまでも補助的なものとして、自分がやれそうなことをコツコツとやっていく予定です」

村山澄江 プロフィール

認知症サポーター、経営心理士、承継寄付診断士

司法書士村山澄江事務所(東京都千代田区外神田2丁目18番5号光洋ビル3F)代表
公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート会員
簡裁訴訟代理関係業務認定会員

介護や相続の『まさか』をなくしすことがミッション。おばあちゃんこだったことがきっかけで、高齢者家族のサポートに注力。
・1979年名古屋生まれ
・2003年司法書士試験合格
・2010年独立開業
・2018年「AI相続®︎」(みなと相続コンシェル)の立ち上げに参画、2022年取締役に就任
・2019年日経xwomanTerrace(日経BP社)アンバサダー1期就任
・2020年株式会社エラン(東証プライム上場)「キクミミ」監修者に就任
・2022年株式会社NTTデータ・スマートソーシング運営『HOME4Uオーナーズ』記事監修開始 
・2023年経済産業省『OPEN CARE PROJECT』発足に参画
・認知症対策の相談数1500件以上
・家族信託・成年後見の専門家として活動中

メディア掲載等:・日本経済新聞・日経ヴェリタス・読売新聞・朝日新聞・中央経済社「旬刊経理情報」・早稲田学報・週刊現代・週刊エコノミスト etc. 

書籍
・「今日から成年後見人になりました」自由国民社
・「認知症に備える」自由国民社

講演
・各自治体、ハウスメーカー、生命保険会社、不動産会社、介護事業所、教会などで延べ3000名以上へ講演

YouTubeチャンネル
・介護する家族を応援する『ゆるっとかいご』2020年開始、登録者14,900名