AI補助金申請書作成サービス「補助金エージェントα版」が変える補助金申請業務:株式会社/行政書士法人INQ 武田 信幸氏

AI補助金申請書作成サービス「補助金エージェントα版」が変える補助金申請業務:株式会社/行政書士法人INQ 武田 信幸氏

事務所名:

株式会社/行政書士法人INQ

代表者:

若林 哲平

事務所エリア:

東京都渋谷区

開業年:

2018年10月

従業員数:

3名

Q.貴事務所の事業について教えてください

「株式会社INQでは融資をメインに、行政書士法人INQでは補助金をメインにサービスをご提供しています。資金調達という文脈で、伴走者として起業家をサポートするという形ですね。主に創業者、スタートアップ向けのサービスを展開しています。」

Q.AI補助金申請書作成サービス「補助金エージェントα版」とはどのようなサービスですか?

「AI技術を活用して、補助金申請書類の作成時間を大幅に短縮・効率化するサービスです。事業者のホームページや会社概要、サービス概要のPDF資料、さらにヒアリングの音声や動画データ等とChatGPTを組み合わせることで、特に文章量の多い「ものづくり補助金」や「事業再構築補助金」を中心とした補助金申請書の下書きを迅速に作成することができます。

α版ではありますが、現時点でも下書きを80%くらいの精度で生成できており、クローズドでご協力いただいた企業では、5時間から10分まで作業時間を短縮できたというご報告もいただいています。」

Q.補助金エージェントα版の開発背景について教えてください

「行政書士法人INQでは補助金の申請サポートを行っているのですが、ありがたいことに非常に沢山の案件をいただいており、現在の人員では対応が難しい状況になったことがきっかけです。一人で対応できる範囲に収まっている間は、きめ細やかな目配りも可能だったのですが、人が増えるに従い、プロジェクトマネージャーを配置して分業制でやっていく必要が出てきたんですね。

そうすると、やはりライターによってライティングスキルのバラつきが出てきますので、教育や管理のコストに悩みが生じてきました。やはり、補助金業務はどこまでいっても申請書のクオリティが重要で、お客さんからヒアリングした内容を申請書に落とし込む部分は肝になります。

そのクオリティをいかに上げるか、より高いクオリティで、より早く、効率的にできる方法は何かと考えた時に、AIを使うべきなんじゃないかな、というところへ行き着いて、ヒアリングした内容を元に80%くらいのクオリティで申請書の下書きを生成してくれるプロダクトを作った、というのが経緯です。

具体的には、我々はものづくり補助金や事業再構築補助金を中心に取り扱っており、両方に共通しているフォーマットは大きく文章部分と数字部分に分けることができます。このうち文章部分をAIがカバーして、数字部分は別途対応しているという形ですね。事業計画のテキスト部分、とお伝えすればイメージしていただきやすいでしょうか。補助金の制度上、計画書として押さえなければいけない項目が決まっていますので、その内容を踏まえてカテゴライズし、それぞれに回答したものを、文章としてつなげてくれるという仕組みになっています。

ベースはGPT-4ですが、もちろんそのままでは学習が不足していますので、補助金申請に適した事業計画としての精度を上げるために、何度もプロンプトを変えるということを繰り返しました。簡単なところですと、事業概要はブラウジングで沿革の情報を引っ張ってくれば成立しますので割とすぐにできた印象がありましたが、一方で、苦心したのは申請書の記載項目のうち競合調査と市場調査です。

要は補助を受けようとしているプロダクトは市場でどのくらいのマーケットがあるのか、競合はどうなのか、といったことなのですが、こうした内容はただChatGPTに投げてもなかなか上手く生成してくれません。そうした中で、例えば競合調査の要素を更に細分化して、ユーザビリティや機能性などの項目別にスプレッドシートで整理する、それに対する情報をシンプルに文章化するということを繰り返して精度を上げていきました。もちろん最低限のハードルをクリアしたという認識ですので、今後もブラッシュアップを続けていきます。

AIが行政の仕事をやっていくとした場合、信頼性も含めて100%はなかなか難しい、そして多分なかなか解決されないことでもあるのでしょうが、8割を自動でやってくれると非常に楽になることは間違いないと思いますね。ただ、士業の仕事が100%AIに奪われる時代はまだ先なのかなという風にも考えておりまして、このプロダクトを通してお伝えしたいこととしては、残りの2割でまだまだスキルが活かせるはずであり、また活かすべきだということなんです。

プロダクトを使う一つ前の段階としてヒアリングがありますが、そもそもこれはChatGPTにはできませんので、人である士業がやりますよね。そうすると、聞く精度によってChatGPTが読み込む情報が変わってきますので、ヒアリングのスキルは必ず必要になる訳です。そうした、人間にしかできない2割の部分を活かすために8割を活用していただきたいというのも、このプロダクトの趣旨だったりします。」

Q.補助金エージェントα版が与える士業や補助金業務への影響は?

「既に少し触れましたが、『補助金エージェント』は基本的にプロ向けのプロダクトです。一般ユーザー向けも考えてはいるものの、少し使うのが難しいということと、やはりヒアリングの精度が重要ですから、補助金そのものへの理解という点からも、エンドユーザーが精度の高い文書を生成するのは難しいように思います。まだまだAIはボタンを押せばそれだけで済むというまでには至っていませんからね。

定型フォーマットに合わせた申請書の作成といった補助金業務の一部はAIに任せて、士業の方々が専門知識やコンサルティングのスキルを活かしてクライアントに価値を提供するといった、本来の業務に集中できる環境づくりのお手伝いを目指したプロダクトであり、”士業の仕事をなくすAI”ではなく、”士業のアシスタントとなるAI”として活用していただきたいという思いでリリースしたものですから、是非お役に立てていただきたいと思っています。」

Q.補助金業務と生成AIの今後の可能性は?

「補助金の申請書をAIで作成できそうだな、と皆さんが思いはじめているのでは無いかと思いますが、特に士業の方よりもエンドユーザーのほうが、よりChatGPTを使っていこうと思われているように感じています。横須賀さんも、実際にChatGPTを使っている士業は少ないと仰っていましたね。

少し話が逸れてしまいますが、私は音楽活動をやっている上で、これから音楽業界にもどんどんAIが入ってくる、アーティストもどんどん使うようになってくるだろうと思っているんですね。例えばCDジャケット、今で言えばアナログジャケットやサブスクのジャケットをStable DiffusionやMidjourneyで生成したり、歌詞をChatGPTと一緒に考えたりすると、やはりもの凄く便利なんです。

こうして色々な分野にAIが入ってくる以上、士業も使ったほうが良いということになると思うのですが、なぜ皆さんがあまり触らないのかという点につきましては、恐らくAIを使う目的なのかなと。私は音楽で使わねばならないというくらいの目的がありましたが、Xで”触ると面白いけど目的がないよね”といったポストを見かけたりもしますので、士業の方々も何か目的が定まれば使いはじめるのではという気がしています。

横須賀さんはAIを知らないと生き残れないと仰っていますが、確かに使ってみなければどこまでAIが領域を広げるのかが解らないということはあるでしょうし、いつかメインになる存在のことを知らなければ、相手にされなくなるようにも思います。また、士業としての仕事を続ける残りの年数によっても違いがあって、同じ事務所内でも代表は使っていない一方、若手は使いたいし使っている、という時代が今なのかもしれません。ExcelやWordがインフラ化しはじめた時の状況と似ているようにも思いますね。」

Q.これから生き残っていける士業事務所の条件とは?

「これは難しいですよね、今は過渡期ですから。まずは、共存するためにAIを知るということが必要だと思います。どこから手をつけて良いのか分からない、AIを使って何ができるのかがイメージできないということがあるようですが、士業用のサービスも少しずつ出てきていますよね。こちらのCROWNMEDIAでも特集されているGVA TECHにしてもそうですし、身近なサービスに触れてみるほうが自分の中にすんなり入ってくるのかなという気がします。少しでも触ってみると次のステップが見えてくると思いますので、ゼロ→イチは凄く大事なんじゃないでしょうか。

私は士業の仕事が100%なくなることはない派で、チェック機能や専門性などのクリエイティブな領域があると思いますので、そうした部分でコンサルティング的に能力を発揮するのが、AIとの共存方法なのかなと感じているところです。」

武田 信幸 プロフィール

1981年生まれ。スタートアップの融資や補助金等による資金調達の専門家。
インストロックバンド「LITE」のギタリストとしても活動し、国内外で公演を行う「行政書士×ミュージシャン」のパラレルワーカー。
スタートアップの金融機関からの融資の可能性を最大化するコンサルティングを行うだけでなく補助金の申請サポートも行っている。