- 事務所名:
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弁護士法人Authense法律事務所
- 代表者:
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元榮太一郎 (代表弁護士)
- 事務所エリア:
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東京都港区
- 開業年:
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2005年1月
- 従業員数:
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244名
目次
Q.弁護士・士業業界のDX化について全体的な所感や意見は?
「最近のDXやAI活用の動向は、特に士業には留まらずプロフェッショナルの業界全体において、数十年に一度の技術革新であり、非常に大きな変革のタイミングだという風に捉えています。
ChatGPTが話題になった際、我々弁護士にとっての専門領域である、言語で構成された規範を解釈、適用するということ自体の効率が劇的に変わるということを、触って直感的に理解しました。弁護士は職業として日常的に文章を読んだり、理解したり、解釈をしたり、要約、整理、作成するといったプロセスを常に繰り返している訳ですが、こうした業務はすべて自然言語で行われます。Chat GPTを活かせるか活かせないかで、士業としてのバリエーションに大きく差がつくタイミングが近いということが分かりました。
当然IT、ICTに留まらず色々な情報を取り扱うビジネスがある訳ですが、やはりデータベースをきちんと蓄積して拡充していくということは、事業会社において企業価値を維持・向上する上で、非常に重要な資本要素になっているんですよね。弁護士ドットコム社を含めたグループの一事業体として、あるいは企業法務の業務として、お客様と接し、データの価値を前提とした業務を行っている中では、このデータをどう価値として発揮していくのかということが非常に重要なトピックです。それを自然文で効率的に行えるというのは、明らかに大きなエポックメイキングの技術ですから、ChatGPTの台頭は素朴に考えても非常に大きなことだと思います。」
Q.チャット法律相談とは何か?
「自然文でご相談を投げかけることによって、蓄積された法律相談のQAのデータ等を基にした回答が、いつでも何度でも繰り返し得られる機能である、というご說明になるかと思います。
ChatGPTとの違いとしてはデータベースの質と量でして、我々の場合は専門の弁護士がアウトプットしたものが前提になっていますので、無作為かつ大量にストックされた情報ではないため、回答の精度に対する期待値が全く異なっています。
もちろん正確性などはディスクレイマーされますけれども、別の言い方をすれば一般論ではない、ChatGPTではカバーできないエリアを持ったツールですし、最新の数字までは追えていないのですが、127万件を超える法律相談数が蓄積されているのも特徴です。
もちろん匿名ではありますが、相談者さんと弁護士の間でやり取りされた生の法律相談の内容がストックされている訳ですから、そうした意味では判決による結論が出る以前の、その行間を埋めるものを提供しているとも言えるのではないでしょうか。2割司法などと言われていますが、残りの8割を埋められる情報を持っている、今後これは我々の更なる大きな強みになり得ると思っています。」
Q.チャット法律相談の背景や効果は?
「弁護士ドットコムのコンテンツですので、オーセンスという立場ではお答えし辛いところはあるのですが、こういう風に認識している、ということで申し上げますね。
2022年の末頃でしたか、世界的に大きくクローズアップされたChatGPTは、見れば解るというレベルで非常に衝撃的な機能でした。我々としては、常にデータをどう活かしていくのかという課題を持っていましたので、そういう意味でChatGPTを使わない手はないという風に、相成ったということですね。
これまでの法律相談は、当然ですが生身の人間がやるというところに制約が生まれる訳です。つまり弁護士は4万数千人しかおらず、稼働している時間も日中のみということが殆どで、生身の人間ですから何度も同じことを聞かれるのは負担に感じますし、尋ねるほうも躊躇するといったように、人間であるからこそのデメリットもあり、そうした点がある意味で制約になるという状況が避けられません。
一方でチャット法律相談であれば、相談する側も遠慮なく何度でも、繰り返し同じことを聞くことができますから、我々が課題だと感じていたものを解決できる技術を得たということで、すぐに取り掛かったということだと思います。
ユーザーさんの声については直接情報に触れていないのでお答えできないのですが、反響や効果としては沢山のメディアに取り上げていただきましたし、代表の元榮をはじめ社の人間もかなり取材を受けている状況です。」
Q.弁護士・士業業界のDX化は今後どのようになっていくか?
「近年では端的に言って、弁護士業界でもリーガルテックを積極的に取り入れる動きがあります。もちろん短所もありますし、これをどう使いこなしていくのかが生身の人間にとって大きな着眼点になるのかなとは思いますが、多くの弁護士が取り入れつつある状況ですので、使わないという選択肢は恐らくない、想定し辛いと思います。
内部で今後どのように使われていくのかという具体的な話としては、まず法律事務所には事業体としての側面がありますよね。例えばマーケティングやプロモーションをするといったことです。それから本体としての法律実務という側面がある訳ですが、DXに取り掛かりやすいのは前者ではないでしょうか。実際、プレスリリース用のテキストを作成するといったことに関しては、かなり活用されていますし、我々も活用しています。
また、会議やセミナーのアジェンダやアイディア出しにも非常に強みがありますね。こうしたトピックの打ち出しを考えている中で、コンテンツをずらっと出してくるという使い方もしています。もちろん、いずれも外部に出さないデータを使いますので、一定のセキュアな環境であるということが前提です。
今後生成AIが進化していくであろうものとしては、事実関係や法令、判例の調査要約など、法令、判例や書籍のデータベースを活用したリサーチの分野だと思っています。
それから、初期的な文書の起案に関してもかなり進むと思います。弁護士には訴状を書いたり準備書を書いたりという業務がありますし、もう少し付随的なものとしては裁判が終わったら毎回クライアントへ報告する期日報告書といったレポートなど、ルールに基づいて作成しているものが多いので、ある意味で型がある訳です。
型通りに作るということであれば、それをインプットしたアルゴリズムで作成するという効率化は、容易に行われていくと思います。行政への提出書類などは非常に適していますよね。正直、型が決まっていて当て嵌めていくという作業は、相当程度リプレイスされていく可能性は充分にあるのではないでしょうか。」
Q.今後、弁護士・士業が生き残るためにDXやAIの活用についてはどのような考え方が必要か?
「残っていく仕事としては大きく分けて3つくらい認識しているのですが、1つはやはり現時点でChatGPTのようなAIが得意なのは、既に存在する情報を要約したり整理して効率的に処理するということであって、意思を持って目的を設定し、そこへ向かってどう動いていくのかといった、目的的な活動は生身の人間がやる必要がありますから、これが非常に大きな要素だと思っています。
具体的には規範それ自体を作っていくのは弁護士の役割の1つだと思っていて、もちろん成文法で決まっている部分は当然あるのですが、解釈のレベルでもやはりルールは社会的な事実によって変化していく訳です。手前味噌にはなりますが、弁護士ドットコムが提供しているクラウドサインの電子署名法に関する解釈も、コロナ禍という影響があったとはいえ、法令の実質的な解釈変更が行われた実例だと思います。
要は、事業者が仲介する形でも電子署名法の適用があるという解釈が打ち出されたのですが、同じ法律でも社会的事実がこうなった時にはこう読む、といった変化をするんですよね。そうしたところを、これがあるべき姿だという意思を持って法律の解釈や法律自体の変化を後押ししていく、といったことですが、これは我々の非常にクリエイティブな部分ですから、こうしたクリエイション機能は我々が付加していくべきところかなと思います。
もう1つはコーチング機能のようなことで、生身の弁護士が”あなたはこうしたほうが良いと思う”という風に、ポンと背中を押すのは重要なことだと思うんです。例えば何か身体の調子が悪くて少し検索したら、こういう病気の症状ですと出たとして、それが正しかったとしても、果たして本当にそうだろうかと、それが意思決定に直結するかというと、情報の量や正しさという点においては最後の1マイルがあるように思えます。やはりそこは生身の弁護士が、この問題の解決にはこういう方向性があるという選択肢を示した上で、こちらが良いんじゃないですかとリードして意思決定を促すことにも価値があるのではないでしょうか。
最後の3つ目としては、弁護士・士業はいずれも生身の人間として限られた時間的な制約の中を生きているわけで、そうした制約がある中で責任のある者が発した示唆には価値が伴うということです。そうした責任機能は限られた生命を持って生きる人間だからこそ為せることかなと思います。生身の人間でなければ難しい、決定的な価値だという風に思いますね。」
Q.貴社の今後の展望について
「弁護士ドットコムとの関係ですと、リーガルブレイン構想という形で法律特化型のバーティカル大規模LLMを打ちだしておりまして、to Cに加え、to Bに関しては弁護士向けと企業の法務部向けという3方向のプロダクトなのですが、この開発をどんどん進めていく予定です。
事業体としては別ですけれども、弁護士ドットコムが開発するプロダクトに対して、実務を行う現場からのフィードバックでしっかりと声を反映させていくことが、我々に期待されている位置付けだと自覚しています。開発されていく様々な最先端のプロダクトを、我々が現場として実際に使うことで最適化していくという両輪で、業界全体においてもより価値ある効果的なものとして作り上げていく、そういう役割を果たしていきたいと考えているところです。」
西尾 公伸
Authense法律事務所 弁護士
第二東京弁護士会所属。
中央大学法学部法律学科卒業、大阪市立大学法科大学院修了。
ベンチャーファイナンスを中心とした企業法務に注力し、当時まだ一般的な手法ではなかった種類株式による大型資金調達に関与。新たなプラットフォーム型ビジネスの立ち上げ段階からの参画や、資金決済法関連のスキーム構築の実績も有する。ベンチャー企業の成長に必要なフローを網羅し、サービスローンチから資金調達、上場までの流れをトータルにサポートする。
顧問弁護士として企業を守るのみならず、IT/ICTといったベンチャービジネスの分野における新たな価値の創造を目指すパートナーとして、そして事業の成長を共に推進するプレイヤーとして、現場目線の戦略的な法務サービスを提供している。