2024年4月士業のための生成AI、ChatGPTの現状分析と展望:AIコーディネーター灰藤健吾氏

2024年4月士業のための生成AI、ChatGPTの現状分析と展望:AIコーディネーター灰藤健吾氏

事務所名:

株式会社 エースタイル

代表者:

谷本 えり香

事務所エリア:

大阪府大阪市

開業年:

平成19年2月

従業員数:

Q.現在の御社の事業内容と個人の仕事内容について教えてください

「株式会社エースタイルに所属しておりまして、介護などの福祉事業をメインに様々な事業を展開している会社ではあるのですが、私自身は企業向けにAIの活用をサポートする事業に従事しています。元々は同事業を個人として運営していたところ、ご縁があってこのような形になりました。

私は特にエンジニア出身ではなく、AIも全くの畑違いでしたが、ChatGPTが話題になった2023年の1月くらいから、何か面白いものが出たぞと自分で触り出して、勉強を始めた感じです。IT知識という下地もなく、自分で試行錯誤してきたからこそ、IT知識を全く知らない人に教えるのが得意ですね。

1番多いご相談としては、ChatGPTって何か凄いらしいし、使わないとやばいと感じているけれども、なかなかそれを学ぶ機会がないという方が、一歩を踏み出したいというもので、そのお手伝いをしています。

ChatGPTの認識率も90%を超えて、ほとんどの方が知ってはいらっしゃるんですけれども、実際にどのくらいの人が使っているのかといえば、アンケート調査の結果では大体20〜30%、この数値も”使ったことがある”くらいの感じですから、まだまだ活用はされていないのが現状のようですね。そもそも登録していないという方も、まだまだいらっしゃいますので、毎日使っているとなると1〜2%くらいではないでしょうか。」

Q.生成AIの現状は、どのようなものか?

「生成AI事業は1年ほどの間にとてつもなく進化しましたよね。1番わかりやすいのはやはりChatGPTで、月に1〜2個は新しいサービスが追加されるくらいの勢いです。他にもMicrosoftのBingや、ChatGPTを超えているのではないかとも言われているClaude、少し影を潜めているものの徐々に話題になり始めたGoogleのGemini、このあたりは企業の活用という意味でも注目しています。

流れとしては、ChatGPTが派手に登場して生成AIという技術を知らしめて、映像なり音声なり動画なりの能力を部分部分で切り取った他の生成AIも注目されていく。その間にもChatGPTは進化して新たなサービスを搭載し、先行した他の生成AIサービスを食っていく、といったことが繰り返されていますが、恐らく1つのツールに全てが集約されることはないんだろうなと感じているところです。例えば描画ソフトならAdobeという大手がありますが、CLIP STUDIO PAINTが使いやすいという方がいらっしゃるように好みがありますし、単純に現場では移行が大変だったりもしますからね。

事務系でも、OfficeソフトがインフラになっていてMicrosoft最強という感じの企業がGeminiを使ったとしてあまりシナジーがないというか、かえって生産性が落ちるということもあるでしょうから、ある程度のシェアを取るツールが何個か出てきて、その中で自分たちが使いやすい生成AIを使っていくようになるのかなと。ちなみに現段階で企業が使うものとしてはChatGPTがお勧めでして、やはりGPTsのカスタマイズ性やチームプランを提供している点などが、企業にとっては使いやすいと思います。」

Q.現在、注目している生成AIやそれらに関するサービス等は?

「個人的には画像生成AIや動画生成AIが気になっていて、特に最近はNoLangというサービスがあるのですが、テキストから簡単に1分から3分程度の動画が音楽つき、字幕つきで作れてしまうんです。また、現時点ではリリース前なのですが、LTX Studioという映像制作AIツールがありまして、OpenAIのSoraよりも本格的な、それこそ映画のような映像がテキストで作成できる可能性を秘めています。

更にLTX Studioの優れている点は、生成物をほぼ保持した状態で修正指示ができるんですよ。これは他にない特徴ですね。デモ版なので実際にどうなるかは不透明ですが、従来の生成AIのように修正といいつつ改めて生成するのではなく、一部の雰囲気を残したまま少し変更することができるようになれば、まさに痒いところに手が届く映像制作ができるようになりますので、リリースを楽しみにしています。

この”修正”については生成AIが次の段階として求められることで、制作現場からすると特定のサービス単体で完結するのではなく、レイヤー構造化してプロジェクト単位で出力してもらえると、自分たちが今使っているサービスに生成したものを落とし込んで、そこから更に修正して良いものを作る、ということができるようになります。

私の考える生成AIの使い方は、AIが100%のものを作って出すのではなくて、80〜90%のものを作って、それを人間が最終的に修正するというものだと思っているんです。ChatGPTなどのテキストを生成するツールであればこうした使い方ができましたが、動画では実現できていないことですので、これができれば本当の意味でクリエイティブなものに生成AIを活用できるようになると思います。これはAdobeあたりが対応してくるのではないでしょうか。

動画制作に対する世の中の価値観も少しずつ変わってきているようですから、YouTubeの解説動画など低単価で外注されていたものは、それこそ指示だけで作れるNoLangに置き換わるということにもなるかもしれません。恐らく修正機能も追加されるでしょうから、ただただ手を動かして動画制作をしている方々は、厳しくなってくるように思いますね。

相談生成AIなどが話題になった士業のAI事情については、私も横須賀さんが仰るように今後もっとプロ化、専門家していく流れになると思っています。ChatGPTのようなツールはアイディア出しなどに強い一方で、やはり専門領域の回答は弱いですから、LLMやトランスフォーマーといった仕組みを利用した上で専門的な知識を持ったAIを作る方向にはなってくるでしょうね、技術自体はもうありますので。

専門性で言えばもちろんテキストだけではなくて、例えば医療分野なら手術の様子を学習して、画像認識の能力でどこに危険性があるのかを判断したり、どんな手術が適切なのかといったことをシミュレーション学習として医師の教育に使ったり、逆にそれを出力してどう手術すべきか?というような問題を出す、こうした使い方もできると思います。

士業に関しては既にWordで作れるようなテキスト系の生成AIサービスが結構出てきていますので、あとはもうこちらがどうしたいということをAIにどれだけ伝えられるかですよね。どういう風に作りたいんだと伝えて90点まで持っていったものを出力させる、それを少し修正するといった使い方になってくると思います。これはもうどの分野においても広がっていくことで、手作業をどんどんなくしていく、じゃあ次に何をするのかということが、これからの大きな課題になってくるでしょう。

手作業がなくなることで仕事もなくなるという側面は確実にありますが、新しく生まれる仕事もある筈で、AIがやってくれるから全く何もしなくて良いという訳ではありませんよね。AIが出してきたものを判断するということや、そもそも何がしたいのかを考えるような意思決定などは、これからの時代に凄く必要で求められるスキルだと思います。」

Q.今後、生成AIはどのように発展していくか?

「考えられるものとしては、2024年の3月初旬に開催されたMobile World Congress(MWC)で、ドイツのDeutsche Telekomが発表したT Phoneという生成AIスマホの方向性ですね。今の生成AIはこちらから指示をしない限り、向こうから提案してくれることはありませんけれども、これはやりたいことを伝えるだけで動いてくれるんですよ。

例えば今スマホで飛行機の予約をしようと思うと、まず検索して、チケット購入サイトで決済してから同乗者に連絡をする、といったように2〜3個のアプリが必要ですよね。

しかし、T Phoneに”この時間帯で飛行機を予約したい”と伝えれば、画面にフライトリストが表示され、そこから選ぶともう予約画面に遷移してボタンを押すだけで決済まで完了するんです。連絡も”Aさんに伝えておいて”とだけ言えば勝手に裏側でメールアプリなどが立ち上がって、生成された文章の確認画面が出るので送信ボタンを押すだけ、といった感じで、こちらの要求を汲み取って勝手に必要なフローを組み立てていくUIなんです。

こうした自分専用のUIを作ってくれて、更に言えばこれからは提案自体もやってくれるようになります。例えばスマホの中に必要な情報が入っているという前提ですが、何時にミーティングがあります、そのための準備は大丈夫ですか?といったリマインドをしてくれるようになるでしょうね。プライバシーの観点からどこまで情報を開示するのかということはありますが、技術としては現在の延長線上で十分に可能です。

価格の問題もありますが、大筋としては生成AIに伝えるために必要なものがインターフェイスとしてどんどん出てくるでしょうし、恐らく検索行為も変わってくると思っています。これまでは自分で検索エンジンを使って調べていましたが、既にArc Searchという複数のサイトから情報を要約してくれるアプリが出ていて、検索したい語句を入れれば勝手に色々な所から情報を探し、自分専用のウェブページみたいなものをその場で生成してくれるんです。

こうなると、検索にかかる時間が大幅にカットできますし、簡単に情報が比較できるなどのメリットがある一方で、AIが記事を拾ってくるならばAIに検索されやすい記事とはどんなものか?という、これまでのSEO対策にはない概念が入ってきますよね。これによって広告のあり方みたいなものも変わってくるのではないかと思っています。トップシェアの生成AIがどう動くのかにもよるでしょうが、検索広告の今後は気になるところです。」

Q.士業はどのように生成AIと付き合っていけばよいのか?

「冒頭でもお伝えした一般的な利用率ということを考えると、まずは知っていただくのが第1段階ですが、恐らくCROWN MEDIAを読んでおられる方々はもう一歩を踏み出されているというか、興味関心をお持ちだと思いますので、次のステップとして実際に使ってみることが1番大事だと思います。

使ってみると、求めているものが出力されない、期待したような動きではない、ということもあると思いますが、そこでダメだと思って投げると確実に置いていかれてしまいますので、無理矢理にでも使うくらいの気持ちになっていただくと良いのではないでしょうか。これからの世の中で絶対に必要になる、もうベースになってくるものですから、それを前提にどう使っていこうか、ということを意識していただけると良いと思います。

あとは、面白いと思えるかどうかも大事ですね。横須賀さんの人格プロンプトのように(笑)楽しんでいる方はもう自分で自分の好きなものを作っておられますから、体験としてどれだけ楽しめるかということはあると思います。最初は無理矢理でも良いですし、分からないことは横須賀さんや私に聞いてくだされば解決できますので、楽しんで使おうと思っていただけると良いのではないでしょうか。」

灰藤健吾 プロフィール

「AIコーディネーター」という肩書で、ChatGPTなどの生成AIを、企業が活用するためのサポートを行う。
ChatGPTセミナーの参加者は500名を超え、同時に生成AI活用のコミュニティも運営。行政と連携したChatGPT活用による業務効率化にも貢献。