税理士・士業はChatGPTとどう向き合うべきか?:セブンセンス税理士法人 大野修平氏

税理士・士業はChatGPTとどう向き合うべきか?:セブンセンス税理士法人 大野修平氏

事務所名:

セブンセンス税理士法人

代表者:

徐瑛義(代表税理士)

事務所エリア:

東京都台東区

開業年:

1970年7月

従業員数:

約250名

Q.税理士業界のITリテラシーの現状は?

「税理士業界はITリテラシーが低いと思われがちですが、個人的には一時期に比べて高まってきている感じがしますね。税理士業界では10年ほど前にクラウド会計が出てきて、なんとなくAIという言葉を皆が知るようになったので、割と身近なものではあったように思っています。さらには、数年前には定型業務をRPAに任せましょう、というような若干のブームがありましたので、皆さん新しいテクノロジーについては身近に感じながら仕事をしていたんじゃないかなという気がしますね。最近ですと証憑まわりをOCRで読み取って、それを仕訳に起こすといったサービスもあります。

そんな中でChatGPTが出てきた訳ですが、税理士業界は意外と反応が薄いなと思っています。

今まで最新のテクノロジーに慣れすぎてしまっていて逆に衝撃のようなものを感じていない、また新しいものが出てきたね、くらいに捉えている方が多いのではないかと危惧しています。これまでのように、クラウド会計もそれほど大したことではなかったね、RPAも同じだね、という、いわゆるハイプ・サイクルの幻滅期を多く体験したことで、ChatGPTも期待するほどじゃないでしょ、という風に思っているとしたら、それは勿体無い気がします。

ハイプ・サイクルというのは、新しいものが出て来た最初の頃は期待値がぐっと上がり、皆さん非常に注目をして、それについての協会が立ち上がったりすることもよくありますよね。そうして盛り上がった後、幻滅期というか、まぁ言っても今はそれほどのことは出来ないね、という形で盛り下がっていくという一連の流れを指すのですが、クラウド会計についても最初は取引データを自動で取得して完璧な仕訳が自動で起こされて、人の手を介さずに帳簿が完成するという触れ込みだったところ、実際は結局最後に人間がチェックしないと間違いがたくさんありますし、RPAであればしっかりした指示書を書かなければいけない、オペレーションが変わってしまうと全く対応できない、まぁまぁ使えるけれども定型業務をどんどん任せて効率化という単純な話ではない、というのが現状ですよね。そういうことの繰り返しがあったかなと思います。

当初懸念されたRPAのコスト面に関しては、多分安くなっているとは思うものの、機能として凄く使い勝手が良くなっているのかというと、私自身はあまり実感していません。Excelのマクロ機能の延長線上くらいのことしかできないというイメージではありますので、割と新しいものが好きなのですが、これまでずっと、それほどの期待はして来なかったんですよね、また何か流行っているな、くらいのもので。メタバースやWeb3に関しても似たような感じなのかもしれませんが、ChatGPTを始めとした大規模言語モデルに関してはこれまでと全く違うように思っています。非常にポテンシャルを感じると言うと烏滸がましいかもしれませんので、底知れないという表現が良いかもしれませんね。」

Q.ChatGPTに関して、リリース時の感想や印象は?

「GPT4は確か日本時間で3月15日に出たと記憶しているのですが、本当に衝撃を受けましたね。それまでは、各所で税理士がAIに仕事を奪われる職業だと言われて槍玉に挙げられていたので、インタビューを受けた際なども、本当に忙しいので早く取って替わって欲しい、仕事を奪って欲しいですと言い続けてきましたが、GPTが出て本当に仕事を奪われるだろうという危機感のようなものを持ちました。

知り合いのAIエンジニアや、AI関係の経営者にもその日のうちに連絡をしてGPTについて尋ねると、やはり感度の高い人たちは凄く興奮していて、これは世界が変わるねと、彼らもすぐさまGPTの研究やサービス開発に入っていました。

一方で、税理士業界は凄く静かだったんですよね、確定申告明けでちょっとゆっくりしたいという時期だったのかもしれませんが(笑)。今までAI仕訳やRPAであんなに盛り上がっていたのに、GPTに関してはほぼ誰も反応していないような状況で、これはもしかしたら皆さん凄く誤解してるんじゃないのかなという風に思いました。一方で、弁護士さんの界隈では非常に盛り上がっていて、すぐに質の高いセミナーなども開催されていました。やはり弁護士さんが言葉を使っていらっしゃるということ、GPTは言語が得意だということもあり、使い方が具体的にイメージできたのかもしれません。さらにはAIによる契約書レビューと弁護士法の関係については、従前から多くの弁護士さんが興味を持たれていたということもあったと思うので、GPTの法務的な論点や課題に興味関心を持たれたのかなという気はしています。」

Q.ChatGPTは、税理士など士業にどのような影響を与える?

「まずは知識ですよね。実はGPT4が出てから、AIエンジニアと一緒に国税庁のタックスアンサーを全て学習させて、上手く回答できるのかということをやってみたんです。当時の僕たちの実験では、結果はあまり上手くいかなくて、もしかしたらまだその時は日本語対応が不十分だったのかもしれないし、我々のやり方が悪かったのかもしれず、原因はよく判らないのですが、GPTが条文や判例、通達を扱うということは割りと近い未来にできるように思います。

そうなってくると、知識自体の価値は一定程度下がる、もちろんゼロにはならないと思いますけどね。我々税理士の仕事としても税務的な論点に当たる際は、最初スタッフに調べさせたり論点整理をさせたりということがあると思いますが、基本的に9時から18時くらいの間で働いている会計事務所のスタッフに対して、18時頃に重たい指示を出すのは上司としても気が引けるということはあります。しかし、GPTに対してはそんなことを気にする必要がありませんし、返答がイマイチだと思ったらやり直しを命じれば素直にやり直しますので、スタッフではなくGPTを使いたくなる管理者層は増えると思います。

お客様からしても同様で、税理士に何かを聞こうとメールや電話をするのも、夕方を過ぎると気まずいということがあると思いますが、ChatGPTにある程度聞けるのであればそれで良いかな、ということはあると思います。今はまだそこまで至っていないですが、ゆくゆくは税理士に対していわゆる知識レベルを期待しなくなる、逆を言えばそこは主戦場じゃなくなってくる可能性は、今後かなり高いのではないでしょうか。そうなると、相談はChatGPTにするので顧問料を下げてくださいということは、起こりうると思います。

既に問題解決の一連のプロセスの中で、リサーチしたりという部分はもうかなり置き換わっていて、もう少し上流の、例えば本当の課題は何なのかといった課題発見の力、これまでやり取りしたこと背景情報との整合性、現実は答えが1つではなくて幾つもありますので、その中からクライアントへ提供する答えは何なのか、自社のビジョンやカルチャーと照らし合わせて、なぜそれを選び取ったのかという説明する力といったところに、価値が出てくる気がしますね。」

Q.ChatGPTやAIの未来をどう予想する?

「税理士としては活用せざるを得ないというのが現実的な答えだと思っています。先ほどもお伝えした通り、GPTに限らずこうした大規模言語モデルは本当に底知れない部分が大きくて、どう発展して社会にどういった形で関わってくるのか、もしくは社会をどのように変えるのかということは、まだ誰もはっきりとは見えていないと思います。しかし、見えないから蓋をするということでは自分をリスクに曝すと思いますので、なるべく彼らに歩み寄って、この子たちはどう発展していくのかなということを肌感覚で理解しておかなければ、少しの遅れが大きな差になってしまうようには思いますね。

具体的な活用については難しいのですが、現状と未来とで分ける必要があると思っていて、今はまだChatGPTはたくさん間違えますので、何か知らないことをChatGPTに任せるのは危険ですよね。自分で検証できないことを任せてしまうと、結局彼らが答えてもよく分からない、そうなのかな、で終わってしまうので、自分でも正誤を判断できることを聞く、もしくは正しい・間違っているという世界ではない、文書を作ってください、要約してください、といった使い方なのかなと思います。

一方で、今できないことも将来的には人間より上手にできるようになると思っているので、そうなってくるとGPTから出てきた答えを選び取る力、もしくはそもそも前提として課題を設定する力みたいなものが重要になってくるのかなという気がしますね。進化するほど使う側のリテラシーが問われるとも言われていますが、私は逆に現在のほうがリテラシーを問われていると考えていて、将来的にはAIがもっとヒューマンフレンドリーになるというか、誰でも使えるようになってくると思います。

かつてはgoogle検索のテクニックというものが存在しましたが、若い子はそれらを知らないのと同じことかなと。今はスマホも音声検索にgoogleがアジャストしているので、話し言葉でも知りたい答えが出ますから、GPTについても恐らく今は重宝されているプロンプトのテクニックが数年後、もしかすると1年後にはもうあまり必要とされなくなる気がしますね。例えばもう既にそうなりつつある一例として、GPTにはカスタムインストラクションという機能があって、自分の属性や、GPTにこういう風に応えて欲しいという設定ができるようになっているので、ガチガチではない簡単なプロンプトでも前提条件や出力形式を加味した答えを出してくれるようになっています。

こうした中で税理士が今後どうなっていくのかということについては、技術的な側面と法律的な側面の2つを考えなければいけないという気がしますね。技術的には恐らく横須賀さんが仰っているような、会計ソフトの会社が個人で確定申告まで出来るプラグインを開発したり、あるいは会計サービス自体にChatGPTが実装されたりといったことは各社もう考えていて、すぐにも実現するでしょうし、もしかしたら国がそれを実行する可能性もあると思います。

今も国税庁のサイトにチャットボットがついていますが、あまり賢くはない、でも裏側でGPTを走らせることができれば、先ほどお話した我々が以前やろうとしたことを、国税庁やデジタル庁が上手くやるかもしれません。そうすると、もう誰も今タックスアンサーにあるような内容を税理士に聞かなくなるんだろうなと思います。補助金などにしても、今は検索して公募要領を読んで、士業に聞いたりセミナーに行くということをしていますが、そんなことをしなくても管轄の省庁が用意したChatGPTに聞けば済むような世界が、多分そこに来ていると思います。

そういう意味では、今からサービスを開発しようとしている企業は注意が必要だと思っていて、ChatGPTで実装しようと考えているそれは、もしかしたら国がやってしまうかもしれませんし、OpenAI自身がやるかもしれません。もしくはその他のグローバルな巨大資本が一瞬で実装してしまうかもしれません。税務は国別なので難しいかもしれませんが、会計であれば可能性は高いと思いますので、頑張ってAPI連携でサービスを作ろう、プラグインを作ろうと考えていても、覆されてしまうようなこともあるという気がしています。

もう1つ、法律的な側面としては、税理士法にしても弁護士法にしても、いわゆる業法はこうしたAI、特に生成系AIの存在を前提とした法律ではないので、どこまでが各法に抵触しないのかということについては今後より一層議論されていくでしょうし、また、されるべき論点かなと思いますね。先日、法務省が契約書のAI審査に関する見解を示しましたが、法律上の争いのある取引や、有料でのサービス提供だと弁護士法に抵触するのかという理由付けとして、独占業務だからということで終わってしまうと議論としては浅く、最終的にはAIで人々がどのように幸せになるのかといった論点が欠けているように思えるんですよ。

どの業法も、最初に国民経済の発展へ寄与するといった主旨のことが書いている訳で、それは単純に独占業務を守ことではなく、立法主旨としては能力もしくは知識の少ない人が業務を行うと国民経済が混乱してしまうので、専門的な知識がある人たちが担いましょうということですよね。その一部をGPTのようなもしかすると人間よりも賢いAIが代替しようとしている時に、これは業法で独占業務だからダメですよ、というのは、そもそも前提をすっ飛ばした議論になっているという気がします。

士業の方々へお伝えしたいこととしては、何でもそうだと思うのですが、やはり触ってみないとよく分からないものだということですね。どう使って良いものか、発想が湧かないと思うんですよ。例えばExcelに触ったことがない人がExcelを触り出すと、よく行政のフォーマットで見られるような、1つのセルに1文字ずつ入力する方眼紙のような使い方をしてしまう。なぜかというと、普段Excelを使っていないので、Excelが表計算ソフトであるという感覚がないんですよね。日頃から使っていればそういう発想にはならない筈ですし、逆に普段Wordを使っていれば、申込書のような性質のものはWordで作ったほうが良いと思うでしょうし、発表資料ならPowerPointが良いだろうなと思う筈なんですよ。

やはり、何にしても使っていないとツールに適した発想にならないでしょうし、間違った使い方をしたり、そもそも使えなかったりすると思います。GPTは何か使い方に失敗したからといって大きな損害があるものではありませんので、取り敢えず使ってみると良いのではないでしょうか。GPT-3.5であれば無料で使えますし、GPT-4も月額3,000円くらいのものですから、勉強代だと思って使っていただければと思います。

税理士さんから”どんなときに使えばいいですか?”とよく聞かれるのですが、今のところGPTは言葉を操るのが凄く上手ですので、まさにキーボードで何か言葉を入力しようとした時、キーボードにふと手を置いた時に、これはGPTが使えるんじゃないかなと一瞬思い出していただけると、その時にChatGPTを開いて、自分がやろうとしていることをプロンプトで指示してみる、そういう風に少しずつ使えば良いのではないかと思っています。」

Q.これから生き残っていける税理士・士業の条件とは?

「難しいなと思いますが、大規模言語モデルの影響は広範囲に及ぶので士業に限らずかもしれませんね。先ほどお話した通り、知識や経験は若干重要性が下がるように思いますので、そうなってくると士業といえども、一ビジネスマンとして戦っていかなければいけないだろう、という気がしています。そうであるならば、士業に限らずビジネスマンとして大切な力というものが、今後も意外と重要になるのかもしれません。

士業以外の事業を作り出す方も増えていますが、それは出来る人がやれば良いと思います。GPTという存在があろうがなかろうが、今までも士業プラス何か他のビジネスという動きをしてきた方々はいらっしゃいましたしね。但し、これは人を選ぶと思うんです、経営センスも必要でしょうし、ある種のアニマルスピリッツみたいなものがなければ難しいと思いますので。

もっと一般的な話としては、やはり先ほどお伝えした通り課題を発見する力ですよね、何が課題になっているのかということを、よく見極めないといけないと思いますし、今はVUCA時代だと言われているように、課題すら価値観によって変わってきますので、柔軟に課題を発見できる力も必要だと思います。また、課題を解決するために誰をどういう風にアサインするのか、何を組み合わせるのかという設計する力のようなものも必要ではないでしょうか。いつだってリソースは有限で、その有限なものを組み合わせて課題を解決していかなければいけませんので。

もう1つ挙げるとすれば、責任を取る力と言っても良いかもしれませんが、GPT等によって課題の解決方法がたくさん出てくる中で、どれを選び取るのかという決定する力。発見して、設計して、最後は決定する、この3つは凄く大切になってくると思いますね。横須賀さんがよく持論が大事だと仰っていますが、それも決定する力の1つなのかなと思っていて、選び取った理由には多分、付加価値が出てくると思うんですよ。いくつか選択肢がある中で、なぜ私にその答えを提示してくれたんですか?という、その理由がちゃんと言える人は大切かなという気がしますね。」

大野修平 プロフィール

公認会計士・税理士
セブンセンス税理士法人 ディレクター

大学卒業後、有限責任監査法人トーマツへ入所。金融インダストリーグループにて、主に銀行、証券、保険会社の監査に従事。
​トーマツ退所後は、資金調達支援、資本政策策定支援、補助金申請支援などで多数の支援経験を持つ。
また、スタートアップ企業の育成・支援にも力をいれており、各種アクセラレーションプログラムでのメンタリングや講義、ピッチイベントでの審査員および協賛などにも精力的に関わっている。