未来に求められる弁理士像:ネオフライト国際商標特許事務所 宮川壮輔氏

未来に求められる弁理士像:ネオフライト国際商標特許事務所 宮川壮輔氏

事務所名:

ネオフライト国際商標特許事務所

代表者:

代表弁理士 宮川壮輔

事務所エリア:

東京都

開業年:

2009年

従業員数:

2名

Q.弁理士業界の現状をどう認識しているか?

「弁理士の市場としては国内の特許出願代理がスタンダードなのですが、マクロの特許出願数はだいぶ減ってきています。ただ、世界的には出願件数を増やそうという流れがありまして、日本もそれに乗ろうとはしていますので、下げ止まり感はあるかもしれません。ただ基本的には以前と比較して大企業の出願数が減少しているという背景があり、少し大きな話になってしまうのですが日本の産業競争力が低下していることが原因と言えなくもないでしょうね。

それを受けて国としてはスタートアップを盛り上げるなどの対策を打ち出してはいますが、弁理士業界は大企業からの依頼がほとんどだという実態があります。おおよそ80%ほどが大企業の出願で、大多数の弁理士が大企業の動向によって影響を受けるという構造ですので、残り20%をメインとしてやっている私はそもそも少数派の部類ということになりますね。

ただ、このような状況から中小企業をターゲットにする弁理士が以前と比較してかなり増えたように見受けられます。このような場合、恐らく市場が確立していて収益が見込める特許を取り扱いたいというのが本音だと思いますが、そもそも件数が少ないということもあり、結局は知財まわりの色々なことをやりますよ、ということを謳いつつ中小企業へも手を広げているということのようです。

10年前であれば例えばホームページなどで中小企業からの依頼も受けるというスタンスを謳いながらも、手間ばかり掛かってそれほどペイしないため、本心ではあまり取り扱いたくないという感じだったんですよね。やはり単価が高い上に放っておいてもリピートしてもらえる大企業をターゲットにしたい、それでも一応は中小企業へもアピールするといった方が多かったのですが、今は実際に商標だけではなく特許系も含めて中小企業を対象とした業務を行う人が増えているようです。

弁理士の総数としては減少傾向にあるようですね。実は昔、司法制度改革のように弁理士を増やそうという動きがありまして、登録者数が年間100名ほどしか増えていかないので試験制度の負担を軽くしようという大改革を実行して一時的に500名あたりまで増加していたのですが、現在はまた減少に転じてしまっているようです。」

Q.現状、貴事務所が永続できている要因はどこにあると考えているか?

「もちろん独立して間もない頃は手足を動かして色々なことを頑張りましたが、端的には仕組みを作ったということが大きいと思っています。ホームページを作成し、無料のレポートを作り、メルマガを発行して、といった割とオーソドックスなDRMを根気よく実行しました。そもそも営業マンでしたのでオフラインでの営業も考えたのですが、あまり好みでもなかったのでデジタルで集客の仕組みを作ったという感じですね。

今では競争が激しくなりましたが、昔はメルマガの読者数を増やし、それを軸に回していくうちに潜在顧客の母数が増えるというサイクルで、定期的にお問合せをいただけるようになりました。一方で、立ち上げ当初はやはり都度のWEB広告による集客もやっていましたね。もちろんお金に不安がある時期もありましたが、その苦しい最初の時期を乗り切ることができたのは仕組み作りの成果だと思っています。」

Q.弁理士業界のマーケティングに関する所見は?

「先ほどもお伝えしましたが、弁理士業界のメインストリームはもう圧倒的に大企業ですから、マーケティングはプッシュ戦略のほうが向いていると考えています。具体的には自分で出向いての営業という感じですね。中小企業は母数が多く相手を特定できないので、プルで”来てください”という仕組みを作ったほうが良いと思うのですが、大企業は数えるほどしかありませんからもうプレイヤーが決まっている訳です。

例えば半導体の製造装置という業界であれば、調べると5社くらいのリストがすぐに出来上がってしまいますので、その5社に対してどのようなアピールをしていくのかという風な、自分たちで攻めていく感じの営業になりますよね。対象者が集まるセミナーでの講師という方法もあり得ますが、私が大企業をターゲットとするのであれば確実にリストアップしてDMを送るという風に狙っていきますし、多くの弁理士事務所はこちらの方法を採っているのではないかと思います。」

Q.貴事務所経営のDX化と業界のDX化についての所見は?

「私は元々デジタルツールを使っているほうだとは思いますが、今の所そこまであからさまにDX化していこうという感じではありません。弁理士業界として見るとAI系も含めここ数年で増えていますが、こうなることは時間の問題でほぼ分かっていたことですよね。今ではだいぶ力をつけてきて、出願件数のシェアも急増しているオンライン商標登録サービスにしても、ぽっと出で急に盛り上がっているのではなく地道に一生懸命やってこられて今がある訳でしょうし、時の流れとして当たり前だとは思います。

やはりAI系は価格破壊を生み出しますが、システムを作って非常に安価でというのは経営的にも難易度が高いですからね。こういうことはなかなか普通の士業では出来ませんので、それを飛び越えて開発するというのは凄いなと思いますよ。もちろん弁理士業界にも影響が出ていて、お客様が使用された感想を伺う限り悪くは言われていませんし、実務でもオンラインサービスで取得した商標を凄く見かけるようになりました。

今はまだ、出願する内容を見て企業が気づいていない突飛な可能性に言及するというような細かいところは生身の人間に優位性があると思いますが、追いつかれるのも時間の問題かもしれません。私は基本的に弁理士のスタンダードな業務をメインに据えることは考えていませんし、この流れには勝てないと割り切っていますので、もちろん自然に依頼された場合は対応しますがもうマーケティングで獲りにいく分野ではないと思っています。もちろん人によっては違いますよね、結局はやりたいかそうでないかでしょう。

特許についても同様の傾向ですね。特許の何が難しいのかというと書類作成で、やはり普通の人は書けませんし、私も3年ほど修行して何とかできるようになったという感じで相当難しい部類だと思います。しかし、対象となる技術に関する必要情報を入力すればAIが骨子を粗々作ってくれるような感じになると、前提が変わってきますよね。真の実用化までには商標以上の時間が必要かもしれませんが、それこそ時間の問題でしょう。ただ、それでも人間に依頼したいという方はいらっしゃるでしょうね。

また、往々にして中小企業が創造するプロセスは見込みが甘く、こういうアイディアを考えたのですが特許は取れますかと示された内容で取得できる確率といえばほぼ0%というのが現状なんです。私の主業務はそれをどう磨いてサポートしていくのかということなのですが、今の段階では無理ですよねという状態から、どう特許レベルに引き上げるのか、適切な案内やアイディアを出してどのようにブラッシュアップしていくのかという行為についてはAIもそうそう追いついて来ない筈ですので、こうした側面から見るとまずは大企業が導入していってその後中小企業へという流れで広まっていくのかもしれません。」

Q.今後、弁理士事務所の組織についてはどうなっていくか?

「拡大志向の事務所もそれなりに存在しますが、私は真逆の方向性ですし、業界的にも恐らく小さな事務所が増えるのではないかと思っています。こちらのCROWN MEDIAでも特集されていますが、多様化傾向の話ですよね、自分の好きなことを自分らしくやりたいという層が社会的にも増えるでしょうし。そうすると、弁理士のような資格を持っている場合は、普通に叩き上げで起業するより多少は安定していると思いますので、余計に小規模の事業体が増えやすいように思います。」

Q.弁理士業務についての現状と未来予測は?

「大きくは増えていくのでは、という気がしています。会社数が減っていくでしょうから絶対数は減るのかもしれませんが、1社あたりの平均数では増えていくんじゃないですかね。2021年にコーポレートガバナンス・コードが改訂されたことで、上場企業は自社の知財について明確に把握することが求められていますから、環境としても意識は上がっていく筈で、それに引っ張られて中小企業もベクトルを合わせていくでしょうし、時間の差はあるにしろ増えていくのではないかと見ています。

ガバナンスの流れで言いますと、弁理士業界としてはプラスだと思っていて、経営者が知財のことを知りませんという訳にはいかなくなりますから、大企業の経営者が横のつながりで対策を進めているなど今は凄くダイナミックに変わろうとしている状況なんですよ。金融機関が経営支援にあたって知財ビジネスを評価するという経産省の知財金融促進事業についても、中小企業向けではありますが、弁理士が介入できる余地が増える環境にあると言えるのではないでしょうか。

正直、融資のときに知財で担保するという流れは10年くらい前から淡々と続いてはいたのですが、やはり土地のようには転売できませんし、いざという時に換金できませんので担保としての機能が弱く、話題として出ては消えということを繰り返していました。平成26年からは、知財ビジネス評価書という知財活用を含むビジネス全体を評価したレポートを金融機関へ提出することで、融資の判断材料にしてもらうという取り組みを弁理士会も交えてやっていて、私も経験がありますがやはり知財評価は難しいんですよ。合理的な根拠のある数字を出して評価すること自体は簡単なのですが、何が正しいのかという判断は非常に難しく、評価額が1桁2桁と軽く変わってしまいますからね。

ですから、法令化されるということは大きな進歩だなと思います。これまでの流れとちょっと気合が違うというか、どうなるか楽しみではあるのですが、やはり担保価値と実行性を考えると、特許権を担保にして融資を行うという単純な仕組みはまだ少し難しいのかもしれないな、という気もしていますね。ただ、地方の信用金庫が知財価値評価を使って融資しました、というアナウンスもちらほら見かけますから、根付いてはいないまでも最初はそういうことから広がるのかもしれません。

知財関連の話題としては、最近は著作権管理団体へ部分委託を行って楽曲配信を行っているサービスがあるようで、ついにこういう動きが出てきたんだなと思いましたね。著作権は本当に弁理士業界としては厄介な法律で、ビジネスにするのが難しいのでなかなか手を付けにくいんですよ。潜在的な需要はもの凄くあるのですが、手続きが発生しないのでキャッシュポイントがないというか、ちょっとビジネスの難易度が高いんですよね。

他には、経済安全保障に絡む特許非公開の動きも気になるところではあります。先進各国では秘密特許制度という名称で、日本でも第二次大戦中までは軍事技術を中心に運用されていました。特許は基本的に公開されるからこそ意味があるという見方もあるのですが、現在の日本には国防上の観点から機密性の高い重要技術の流出を防ぐ制度が存在しないという問題があり、今年の2月に特許出願の非公開に関する基本指針案の概要が発表されるなど整備が進んでいます。

そうなると大企業にとっては知財戦略が複雑化していくでしょうし、コーポレートガバナンスの対応や秘密特許の取り扱いに関する社内整備など、担当者は大変ですよね。中小企業であってもドローン関連のスタートアップなどは対象になることもあるでしょうし、軍事転用が可能な技術を持っている製造業者も少なくありませんので、割と広い範囲への影響があるかもしれません。」

Q.これから生き残っていける士業事務所の条件とは?

「自分の特性を活かすことですかね。普通に手続きをやること自体は、そのうちAIが代替する可能性が高いでしょうから、機械にはできないような自分の生身を出すことなのかな、と思います。キャラクターで勝負するというと、かつて流行った過去の表現になってしまいますが、そちらではなくて資格以外のポテンシャルなども含めたタレントを活かすということで、それがないとこの先はもう難しいのではないでしょうか。」

宮川壮輔 プロフィール

1969年に、千葉県船橋市に生まれ、幕張で育つ。成蹊大学文学部文化学科にて、マスコミ学専攻。大学を1年休学し、カナダに語学留学。

1993年:近鉄百貨店入社 製造業と組んで販促用オリジナル製品の企画・営業・販売。大手電機メーカーや自動車メーカーなどの販促担当として、数千件の販促用ノベルティ製品を企画し100件以上を世に送り出して法人顧客の売上アップに寄与。「特許」や「商標」で苦労してきた経験は、弁理士になれば生かせるはずと、退職し、弁理士試験に専念。

2002年:志賀国際特許事務所入所 所員数約800人の日本最大の特許事務所。製品や技術の特徴を知覚化する技能を磨く。開発アイデア創出、特許化、特許訴訟。知財相談3,000件以上。特許書類作成、中間対応、特許鑑定書作成、特許訴訟対応、セミナー講師などなど、激しく鍛えられたおかげで、独立直前には特許のスペシャリストに。

特許事務所に勤めながら、34才で、夜間の東京理科大学工学部第2部電気工学科に入学。昼は電撃の特許マン、夜は迷宮の苦学生として、二足のわらじ生活に突入。

36歳で、東京理科大学大学院 工学研究科電気工学専攻に入学。可視光通信の研究に従事。このときから、夜は謎の研究者となる。MATLABを使ったシミュレーションと、電子基板を使った実証実験の毎日。修士論文:「CDMAを用いた光マルチチャンネルアクセス技術の研究」

2009年:ネオフライト国際商標特許事務所、ネオフライトクリエイションズ設立
関東経済産業局の知財経営コンサルティングプロジェクトで2年連続優秀賞。

2014年に経営コンサルを行うための組合(LLP)を設立し、事業再生・経営改善コンサルティングを行う。経営計画策定支援補助金を活用し、金融機関からの合意率100%で約30社の中小製造業を支援。現在、財務改善から知財創造による付加価値向上まで一貫して中小製造業のサポートを行っている。。特許弁理士として、医療用機器、通信機器、建設機械、半導体デバイス、メカトロニクス、日用品、ビジネスモデルなどの技術分野を担当。