「KAITRY professional」は離婚、相続などライフイベント業務の武器になるか?:株式会社property technologies 金子健哉氏

「KAITRY professional」は離婚、相続などライフイベント業務の武器になるか?:株式会社property technologies 金子健哉氏

事務所名:

株式会社property technologies

代表者:

濱中雄大

事務所エリア:

東京都渋谷区

開業年:

2020年11月

従業員数:

387名(連結・2023年5月31日時点)

Q.御社の事業について教えてください

「グループとして不動産事業を展開しております。具体的に、中核企業となっている『株式会社ホームネット』では中古マンションの買取再販事業を行っておりまして、不動産仲介会社(以下、仲介会社)経由で仕入れたマンションをリノベーションし、仲介会社を通して一般の買主の方へ届けるという事業モデルです。また、山口県と秋田県にもグループ会社がございまして、こちらは戸建ての注文住宅事業を取り扱っており、不動産業全般に取り組んでいます。

そして、『株式会社カイトリー』では、直接一般のお客様からAI査定サイトを通じて仕入れを行い、我々のグループでリノベーションしたものを直接お客様へお届けする『KAITRY(カイトリー)』というサービスを提供しています。

その他、SaaSプロダクトもございまして、金融機関向けのDX支援サービス『KAITRY finance(カイトリー ファイナンス)』や、士業向けのDX支援サービス『KAITRY professional(カイトリー プロフェッショナル)』の開発・提供なども行っております。」

Q.現在の中古マンション市場と、業界課題について教えてください

「市場はかなり注目を浴びており、活況を呈しているといった印象です。中古マンションは高騰を続けておりますし、様々な企業の参入などもありますので、エンドユーザーにとっても、企業にとっても人気の高い業界になってきているなと感じています。その分、レッドオーシャンにもなってきているように思いますね。

また、基本的にアナログな業界ですので、様々な不動産テック企業が出てきたことによって、企業ごとの取組みに大きな差が生じてくるのではないかとも考えています。コロナの影響も相俟って、業界のテック化が進んでいるところは進んでいますので、不動産業界全体としては底上げされている感じもしますね。」

Q.「KAITRY professional」とはどのようなサービスですか?

「『KAITRY professional』は、当社独自開発の不動産AI価格査定エンジンを士業向けに開発したものでして、最短5秒でAIが不動産価格を提示し、最短3分で不動産価格調査書の作成を可能とするサービスです。一般のお客様向けサービスとの違いとしては不動産価格の根拠を提示する点ですね。やはり「何かよく分からないけれどもAIによって価格が5秒で出ました」となってしまうと、士業の方々が価格根拠の説明を提示できず、本当に大丈夫なのかという印象を与えてしまいます。ですので、調査書が作成できるようになっています。

調査書には、対象の物件が過去数年どういった価格推移をしているのか、周辺環境としてショッピングやレジャーなどの施設があるのか、どういった建築計画があるのかといった、価格の算出に影響を与える情報、査定の根拠にあたるものが網羅されています。1番大事な類似物件については、現在掲載されているもの、掲載が終了しているものも含めて確認していただけます。こうした調査書を即座に出力できる機能が特長ですね。」

Q.「KAITRY professional」の開発背景について教えてください

「基礎となっているAI価格査定エンジンの開発は3年ほど前からで、ホームネットの社内で使用していた買取AI価格査定エンジンがベースになっています。ホームネットでの価格査定業務では従来、物件や周辺状況を現地へ見に行く必要や、関連する資料確認があり、仲介会社からお問い合わせをいただいてから査定を出すまでに5〜6時間ほど必要でした。その査定業務を、なんとか効率化したいということで始まったプロジェクトでした。不動産業界で20年以上にわたる販売実績や、年間2万件を超える不動産価格査定を行なっていることから、大量の独自データを保有しております。このデータを駆使してAI価格査定エンジンの開発を進めました。

2年前にはおよそ30分で仲介会社のお問合せに回答できるようになり、社内でのAI活用が大きく進歩しました。AI価格査定そのものは5秒で算出するのですが、仲介会社へ提出するまでの確認なども含めて30分です。査定業務時間の5〜6時間が30分に短縮、これが年間2万件ですので業務の効率化に与えたインパクトは非常に大きなものでしたね。これまでは確認事項を積み上げて金額を算出していたものが、先に叩き台があってこれを確認していくという流れに変わり、社内でのDX推進のきっかけになりました。

元は社内ツールだったものをサービス化した背景としては凄く単純で、精度が上がっていくにつれて、これは一般の方にも使っていただけるなと感じたことがあります。AI査定を世に出したいというよりは、住み替えにかかるプロセスは凄く骨が折れるという不動産業界の課題を、弊社グループの強みである不動産取引データ(リアル)とAI(テクノロジー)を融合させた独自のiBuyerと呼ばれているモデルによって、我々が解決できないだろうか、という意識でした。

一般の方が住み替えにかかるプロセスは、仲介会社を選定して、そこから土日を使って何件も内見をしていただき、色々な交渉を行なって、価格を改定して、その後リフォームをしてやっと売り渡す流れですから、大体6か月から1年以上の期間が必要なんです。場合によってはそれ以上の期間がかかることもあります。世の中のAI査定は価格を算出しても、そこから仲介会社や買いたい人を探すので、これまでのプロセスとあまり変わりません。しかし、独自のAI査定で価格を算出して、我々が買うことにより、プロセスを凄く簡易化できますので、最短3日で現金化まで進むことができる、これは課題解決に使えるのではないか、ということで『KAITRY』というサービスをリリースしました。

ここから横展開した士業向けの『KAITRY professional』は、『KAITRY』を通じて売却相談をしてくださったお客様の中に、弁護士や税理士の方へも同時に相談されているという方が一定数いらっしゃるということが分かったことがきっかけで開発したものです。『KAITRY』は住み替えをメインに打ち出したサービスですが、相続時の財産査定など法律・税務が絡むライフイベントにもニーズがありそうだな、ということに気がつきました。

相続や離婚、資産整理で急がれているお客様に対し、AI査定ですぐに算出して直接買い取りをするという、計画を立てやすく手間が少ない売却サービスの提供には非常に多くのニーズがある、という仮説を立てて、複数の弁護士の方へもサービス案について率直な意見をお伺いしたところ、まさに弁護士への不動産業に関わる相談が増えているというヒアリング結果で、大きなニーズがあると実感しましたね。

ただでさえ、相続や離婚といった大きなライフイベントで精神が疲弊している時に、不動産を所有しているばかりに遺産分割に苦慮したり、争いたくもないのに争わなければならないというケースは多いですし、それをサポートする士業の先生方も手続きとは異なる種類の問題にまで気を回す必要がある、こうした問題に対し、弊社でも何か解決につながるようなことができれば、と感じています。

実際、相続案件をメインにされている弁護士の方に、かなり深い所までお話を伺うことができた際には、相続にからむ不動産は売却につながるパターンとそうでないパターンがあるため、不動産会社に対して売りもしない物件を取り敢えず査定してください、ということは非常に心苦しいということでした。不動産会社としても査定だけで報酬を受け取ることはしませんから、依頼する側は余計に心苦しいですし、最優先で返事をもらえないことを理解していても、弁護士としては不動産会社からの返答がなければ進捗の確認をしなければならない、これを業務の合間にやるのは本当に大変だと。

このような状況の中で、AI査定が5秒で結果を出してくれるのは非常に助かりますし、人間に査定を依頼しなくて済む、気を遣わずに済むというのは、非常にありがたいと言っていただけています。」

Q.「KAITRY professional」を、士業はどのように活用できる?

「色々な方へヒアリングする中で、機能としては凄くシンプルなAI査定も、活用方法は本当に様々だなと感じています。相続等の相談における遺産分割や財産分与といった場面で、単純な遺産の価値を算出したいというストレートな方もいらっしゃれば、プラスアルファで保険や社長の個人資産形成、不動産投資などの色々なことを含めた財務コンサルティングとして、トータル的な提案をしたいという方もいらっしゃいますね。

また、AI査定自体は不動産業界でいくつも見かけるのですが、他社は市場の一般的な不動産価値を提示しているだけなんです。一方で弊社は即座に売却できる、もうこの金額で売れますという額を提示できるのが大きな違いで、これは我々のグループ会社が実際に買っているからこそのアドバンテージですし、士業の先生方としてもお客様がその金額で売りたいという時にすぐ動けるということですので、相談内容によっては活用につなげていただけるのではないでしょうか。

ヒアリングした方の中には、不動産に関わる相談を受けた際、例えば電話で相談を受けているタイミングでも、WEB上ですぐに算出して結果をお伝えできるという、シンプルなご活用方法を評価していただいています。また、深くお話を伺った方はたまたま不動産に大きく関わられている方でしたが、他の弁護士の方にもニーズがあるのかというご質問をしたところ、不動産に関わる業務をやりたいという方の後押しになるのでは、というご意見をいただきましたね。これは、不動産が得意な士業の方のみならず、広く使っていただけるということで、我々の自信にもつながりました。

不動産に関する相談はフィーが高いともお聞きしており、そうした案件を取り扱いたいという弁護士の方は多いようで、我々にも業務の内容や獲得への進め方について相談されることがあります。業務に着手する上で、不動産の査定は1つのハードルになっているようですので、『KAITRY professional』をご利用いただくのも良いのではないでしょうか。

横須賀さん(インタビュアー)がよく、士業の手続き業務が低価格化へ向かうというお話をされていて、実際に自分で相続税申告書ができるAI相続サービスもユーザー数を伸ばしていますが、その中でも相続税の申告という側面から最適な遺産分割や相続税対策を行うとなると、そこはやはりプロの仕事になると思います。ですから、今後は相続業務においても手続きではなく財務コンサルティングが重要になってくる、そうした業務のツールとしても使っていただけるかもしれません。

最後に活用とは少し違いますが、AI査定と調査書の出力の2つという非常にシンプルな機能で、どなたにもご利用いただきやすいものになっていることも『KAITRY professional』の特長です。また、弊社内にエンジニアがおりますので、お客様のご要望に対しては即座にお応えしていきたいと考えています。我々から実際の使い方をヒアリングさせていただき、ご意見をいただく中でどんどん機能開発をしていきたいなと思っているところです。

現時点で完成ということではなくスタートラインに立って、全般に関わる機能追加はもちろん、個別の機能追加についても視野に入れながら発展させていきたいですね。今後は、あまりヒアリングができていない税理士の方へもご意見を伺いたいなと思っています。」

Q.業界から考える、理想の士業像は?

「不動産業界と士業の業界は、巷でアナログだと言われている点で似ている部分があると思っています。とはいえ、両者ともテック活用が進んでいますし、従来よりはネットを介した相談予約や社内管理のシステム化などのDX化も進んできた中、生成AIの進化は本当に衝撃的で、どちらの業界にもかなりのインパクトを与えていくだろうと感じています。

士業も不動産業も、多くは直接お客様から相談があることから、即座に回答してくれて気軽に相談できる、入口として入りやすいAIを活用していくことになるとは思うのですが、どちらの業界も年齢層が高いため、こうした新しいものと上手く付き合っていけるということが、今後重要になっていくのではないでしょうか。

我々もまさに今、気軽に相談できるという点でChatGPTの活用について開発を進めているところなのですが、これまでは人の作業の効率化だったものが、人とAIの分業を上手くやっていかなければいけない時代になってくるなと感じています。

弊社としてはミッションに掲げている通り、テクノロジーと不動産で培ったリアルなデータで気軽な住み替えを叶えていきたい、そうした世界を作っていきたいというところに集約されていきますが、最終的には回り回ってライフイベントのタイミングをより円滑にすることにつながると思いますので、士業の方にも弊社の中心にある考えをお伝えできると嬉しいです。」

※iBuyer(アイバイヤー):AIを活用した不動産価格査定を行い、不動産の売り手から不動産会社または不動産ポータルサイトが直接買い取る不動産売却のビジネスモデルです。

テクノロジーとデータ分析を活用して、物件の価値を迅速かつ正確に評価し、オンライン上で即座に買取価格を提示します。売り手は提供された価格が受け入れ可能であれば、すぐに売買契約を結ぶことができ、スムーズに取引を進めることができます。

金子 健哉 プロフィール

PropTech戦略部長(CTO)
金子 健哉/Kenya KANEKO
西南学院大学商学部卒。株式会社あつまる入社。クライアントのWEBサイトシステムの開発、社内のIT開発を経験した後、同社CTOに就任。マーケティングプラットフォーム開発に成功。フリーランスに転じて企業のITコンサルティング、システム開発の請負等を行った後、2021年5月より当社グループ参画。CTOとしてエンジニアを統括し、プラットフォーム開発や社内システム開発に従事。