地方都市の中小企業診断士 サバイバル:コォ・マネジメント株式会社 窪田司氏

地方都市の中小企業診断士 サバイバル:コォ・マネジメント株式会社 窪田司氏

事務所名:

コォ・マネジメント株式会社

代表者:

窪田司(中小企業診断士)

事務所エリア:

2014年2月

開業年:

岡山県岡山市

従業員数:

1名(役員除く)

Q.中小企業診断士業界の現状をどう認識しているか?

「私が知っているのはここ十数年の推移ですが、診断士業界は補助金によって今かなり潤っていると思っています。そういう意味では独立して成り立たないという状況が遠いところにある、珍しい時代背景なのではないでしょうか。私が資格の勉強をしていた2006年〜2008年頃は食えない資格の代表格のように言われていて、足の裏の米粒といった揶揄も聞こえてくる程でしたから、現状はバブルと表現しても良いのかもしれません。

不謹慎な言い方になってしまうかもしれませんが、コロナが追い風となり公的機関の専門家予算が増えているケースが多いんですよね。中小企業診断士は公共の窓口や商工会、商工会議所などから声が掛かることが多いですし、民間であっても成功報酬型の補助金サポートであればいくらでも案件があるという感じです。面談を要する制度融資の対応を任されることも多いですね。

独占業務を持たないことで不利だという声も聞かれますが、公的な機関がコンサルタントを求めている場合には無資格者よりも診断士が選ばれやすいですし、こうした公的な入り口があるという点は非常に有利だと思います。私が開業した頃は7割ほどが企業内診断士で、一応は資格を持っているというタイプの方が多く、独立して生計を立てているという方は僅かでした。今でもまだ企業に勤務されている方が多いのですが、少しずつ変わってきてはいますね。」

Q.現状、貴事務所が永続できている要因はどこにあると考えているか?

「元も子もないことを申し上げますが、1つはご縁だと思っています。もう1つ参考にしていただけるお答えをするならば、恐らく学習ではないでしょうか。やはり勉強を続けてきたということはとても大事だと思っておりまして、情報収集や知識の習得を積み重ねてきたことは凄く大きな要因かな、と考えています。

もちろん、開業当初は特に稼げるということが学習においても一番大事なことでしたが、どの人から学ぶかという点は私の中で凄く重視しています。この方は凄い、と思えるご縁をいただけるようにアンテナを張っている訳ですが、誤解を恐れずに申し上げますと、やはり診断士にも凄い方とそうでない方はいらして。少々下世話な話になりますが、飲み会に参加しても凄い方の近くに座れない限り出席の意味がないと言いますか、席次に当たり外れがあるなと思ってしまうくらい、属人的な面も大事だと思いますね。

私は今でこそ採用などの人事領域がコアサービスなのですが、元々は戦略コンサルと呼ばれるメインストリームを目指して独立したんですよ。しかし、診断士が戦略コンサルと称したところで何も起きないというのが現実でして、経営コンサルや戦略コンサルという表現では何も言っていないことと同義だなと思い知った訳です。

その中でどのポジションが空いているのかを色々と見ていた時に、診断士は大きく経営戦略と経営組織に分かれるのですが、前者にはコンサルファーム出身などモンスター級の方々が沢山いらっしゃる訳です。一方、診断士業界には経営組織に携わっている方が少ないと気がつきまして、こちらは明らかに競合のレベルが違うと考えてポジションを寄せていったと、要は空席理論ですかね。このポジショニングも要因の一つだと思います。

また、早期に補助金から足を洗ったことも良い判断だったと評価していまして、恐らく継続して稼ぎ続けることはできるものの、積み重ねることが難しいのではないかと考えたんですよね。補助金自体の良し悪しについて論じるつもりはありませんが、特に地方独自の補助金などについては習得したノウハウが翌年には完全に使えないという経験をしていく中で、10年後の成長に疑問符が生じたということがあります。

ですから、早い段階できちんと蓄積できる分野にシフトできたという点は、学習や成長の観点から非常に良かったのではないでしょうか。かつて社労士さんが、2000年代前半からの助成金バブルで類似の経験をされて苦しんだということも聞いていましたので、同じ道を辿ってしまうことの懸念もありましたね。」

Q.貴事務所経営のマーケティング・経営戦略の考え方と指針、中小企業診断士業界のマーケティングに関する所見は?

「マーケティング戦略としては既にこちらのCROWN MEDIAで同様のことを仰っている方がいらしたので申し上げ辛いですが(笑)、結局は選ばれるということが大事だと思っていて。やはり我々コンサル業は売り込むということの難易度が非常に高く、横須賀さんの理論で表現するならば基本的にニーズ発生型のビジネスですので、売るということではなく必要となった時いかに選んでいただくのか、ということになりますよね。

そうした意味でまずはニーズが発生しやすいマーケットを狙うということは非常に大事で、私は選ばれるために採用というマーケットを選んだ訳です。どこかの段階で”人が採れない”という明らかなニーズを認識するタイミングがあるというマーケットを選んだ上で、先ほどお話したように事例や実績という認知を蓄積している、ということが今の私や事務所が実践している大きなことかな、と思っています。

一方で診断士全般というお話しになりますと、協会は未だに顧客獲得の入り口として紹介や公的機関からの斡旋を掲げていることが多く、業界としては閉じられたマーケットに依存しているという印象は受けますね。言い過ぎかもしれませんが、恐らくかつては顧問契約という商品しか存在しなかったということもあり、前提に顧問契約の獲得という下地があるのかもしれません。ただ、診断士数人でファームを組んで、ある程度の再現性がある補助金や経営改善計画策定支援事業(以下405事業)などを大量に受任して、個々の診断士へ渡すという動きも少しずつ出てきているようですね。

診断士は収入の発生限が公的な予算に依存してしまっている傾向がありますので、どこかで自分なりのポジションを作っていくしかない、ということは言えると思います。全国の診断士を対象とした調査では公的な業務をメインとする診断士が4割、民間メインは5割というデータが出ているのですが、恐らく地方はもっと公的依存率が高いという感触なんですよね。私の経験としても地方より東京や大阪のほうが民間の成約はスムーズです。そうした意味ではコンサル自体が都会型のビジネスなのかもしれませんね。」

Q.貴事務所経営のDX化と中小企業診断士業界のDX化についての所見は?

「診断士は平均年齢が高いということもあり全体としては特に何も起きていないという印象ですが、一部情報系の先生方は完全にそちら方面へ行っておられる、という感じでしょうか。DX化を支援している診断士でシステム会社さんと組んでいるというケースも僅かながら耳にします。

診断士の業務特性上、最後のフェーズで他士業や専門家へバトンタッチするなど繋ぎ役になりがちだということがあると思うんですよ。もちろんハブという大きな役割を持っていることは重要ですが、例えば社労士におけるHRテックのような、診断士特有の明確なDXの対象が何かというと難しいんですよね。そういう意味ではワークフローくらいなのでしょうが、それも結局はシステム会社かなという感じになるでしょうし、診断士業界のDXは可能性こそあるものの今はまだ進め辛い、というところではないでしょうか。」

Q.貴事務所経営の採用と教育に関しての考え方と指針は?

「基本的に小さく経営していく方針で、拡大の予定はありません。実は開業から2年後に1度コンサルを採用したことがあるのですが、2年ほど一緒に働いていただいた結果、これきりにしようと決めました。やはりコンサル自体かなり属人性が高く、方法論や好む顧客の性質などが私と親和性の高い担当者でなければ不可能だと感じたからです。現在は事務員さん1名にお手伝いしていただいていますが、今後もコンサルは私1人という構成で経営していくと思います。」

Q.貴事務所が得意とする業務についての現状と未来予測は?

「人事領域は今後もニーズが拡大すると予想しています。やはり多様化が進んでいますし、まずマネジメントコストが跳ね上がっていますので、クライアントにとっての重要事項であるという点が根拠の1つですね。また、人事領域は元々プレイヤーが多く、敢えて、と申し上げると大手さんに叱られそうですが、欧米から流入してくる専門理論などが多すぎるんだと思うんですよ。

そうした理論や手法を大手企業などでテスト実践して、数例が上手くいけばもうそれをそのまま日本で全体的に丸々適用しようとする訳ですが、モニタリングが不十分なまま地方の中小企業にまで広がっていくと、当然どこかで不具合が起きますよね。成果主義の人事評価、ジョブ型雇用などはその典型例だと考えています。

ですがこのようなことを自社目線でしっかり精査するとなると、専任でもない中小企業の人事担当者が兼務するには荷が重すぎるのではないでしょうか。言葉を選ぶ必要がありますが、基本的にはN数が1で自社しか見えないということと、能力の問題ではなく物理的に情報収集や他社事例に触れるだけの時間が取れませんので、ここに関しては現時点で絶対的なニーズがありますし、今後は更に増加するだろうと思っています。

採用に関しても同様で、例えばジョブ型雇用であればどのようにすれば上手くいくのかという構造を考えずに、手法だけを取り入れようとするケースが多いですよね。流動性の低い日本の中小企業で、欠員に対して安い賃金で従前と同レベルの人材を同じポストで獲得するなんてことは不可能ですから、そのように見ていくとこのマーケットにはまだまだ発掘できるニーズが多くあり、成長拡大する余地があるのではないでしょうか。」

Q.これから生き残っていける中小企業診断士事務所の条件とは?

「横須賀さんも仰っていますが、やはり高難度というのか、自分にしかできないことをやっていく必要があるのかな、と思います。そうでなければ無理だということはないでしょうが、公的なものか時流を捉えたもの、あるいは自分の専門性を持つのか、このいずれかでなければ、マーケットが絞られていくという時には厳しいのかな、という気がしていますね。

時流の代表といえば補助金ということになるのでしょうが、中長期的にずっと続くものであれば正解でしょうし、波に乗ればリソースを振り向けることで確実に儲けることができる、ただしアンコントローラブルな分だけ限界はあるでしょうし、他に何か専門性を持っていれば敢えてこれを選ぶ理由はないように思います。

きちんと蓄積できる分野の見極めについては、私の選んだ人事領域というジャンルも、いちコンサルであり診断士としての私自身による1つの未来予測に過ぎないと思っていて、その意味では未来がどうなるのかということをある程度お客様の業界を分析しつつ、今後を予見しなければ答えは出ないと考えています。そうした時に、公的予算の中でも例えば405事業が恒久的な取り組みであると判断すれば注力するということは1つの選択でしょうね。そこは士業の目利きと申しますか、これをCROWN MEDIAで語って大きく外れたら私は将来叩かれると(笑)。

私は2014年に独立した際、採用マーケットへの参入が今より簡単になることはないと判断して飛び込みました。これは未来予測というより確実な未来として、生産年齢人口が減るのだから、という感じで。最低賃金はどんどん上がっていく一方で、言い方は悪いですが売り手市場でチヤホヤされてきた今の20代は労働意欲の低い人が多い傾向にありますので、成長のボーナス期を棒に振ってしまったとも言えるこの層が40代になると、今度は能力の低いプレイングマネージャーという人事課題が発生すると思うんですよね。

このような感じで対象の業界をよく観察し、自分だけの何かを見つけて、学習と蓄積を続けるということが大事なのではないでしょうか。」

窪田司 プロフィール

地域金融機関にて経営企画・人事を経て、2014年2月に中小企業診断士として独立開業。

開業後に経営組織に専門を定め、採用・育成・評価・処遇といった人事のPDCAを専門にコンサルティングを展開する。

岡山県中小企業診断士会(旧 中小企業診断協会岡山県支部)では理事も6年間務め、中小企業診断協会より表彰を受ける。

セミナー・研修実績は、SMBCコンサルティングや三菱UFJリサーチ&コンサルティングなどのシンクタンクから民間企業(個人事業主~大企業)まで、延べ500回を超える。
メディア掲載実績は、『Owned Media Recruiting Journal 』(Indeed)、d’s JOURNAL(パーソルキャリア)、月刊人事マネジメント(ビジネスパブリッシング)など。
著書に『「化ける人材」採用の成功戦略』(standards)がある。