FPでサバイバルするメディア展開術:シェアーズカフェ株式会社 中嶋よしふみ氏

FPでサバイバルするメディア展開術:シェアーズカフェ株式会社 中嶋よしふみ氏

事務所名:

シェアーズカフェ株式会社

代表者:

中嶋よしふみ

事務所エリア:

荒川区(日暮里駅近く)

開業年:

2011年4月

従業員数:

1

Q.FP業界の現状をどう認識しているか?

「FPは大きく国家資格と民間資格の二つに分かれていて、前者はFP技能士1〜3級、後者はCFP・AFPと、レベル別に5種類が存在します。FP資格者は大半が金融機関や証券会社、生命保険会社、保険代理店、あるいは銀行などに勤務しているのが現状で、税理士や社労士など士業とのダブルライセンスの方もいらっしゃいますね。正直、FP資格単体で生計を立てているのはごく少数です。独立している方のほとんどは保険代理店を経営されているか、投資信託等を売るIFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)として登録しているかで、手数料を主な収入源にしているという形ですね。

このような構造になっている理由は単純に、相談にお金を払うという人がそれほど多くないからでしょう。私のようにアドバイスだけで成り立っている例はかなり珍しいと思います。

FPには『3つの収入源』と言われているものがあって、相談・セミナー・執筆なのですが、これらで仕事を取って十分に生計を立てられるレベルの収入を得るのは難しい。結果、FPイコール保険を売る人になりがちで、それが悪いということではないのですが、やはりアドバイスをする、アドバイスを売るという本来の姿、アドバイザーとしてのFPの活躍は、あまり見られないのが現状ですね。」

Q.現状、貴事務所が永続できている要因はどこにあると考えているか?

「記事のヒットが最大の要因です。開業初年度は紹介をベースに経営を考えていたのですが、2011年の開業から1年間お客様はゼロで。その後ブログを始め、2ヶ月ほどは月間PVは数百くらいでしたね。そんな時、言論プラットフォーム・アゴラというサイトの執筆者募集に目が止まったんです。同誌は普段から熱心に購読していたので常時募集しているのは知っていましたが、名を連ねているのは著名な経営者や経済学者、政治家などビッグネームばかりでしたので、今の自分では無理だからそのうち投稿しよう、程度に思っていて。ですが、状況が状況なだけにチャレンジしてみようと思い投稿したところ、一本目がすぐに採用されたんです。夜中に送ったら10分後くらいに当時の編集長から『面白いので掲載しますね』と連絡をいただけました。持ち家と賃貸の比較というテーマの記事で、当時はネタとしての良し悪しを判断する力はなかったんですが、今から考えると読まれやすい内容だったなと評価できます。翌朝には掲載されていて、昼過ぎに確認したらもうバズっていました。私の記事が300ほどもイイネとかリツイートされていて、当時はSNSが今ほどには浸透しておらず、有名アカウントでもフォロワー数は2万人ほどでしたので、これはもの凄く多いんですよ。自分の記事がネットで話題になっていることに驚きましたし、この状況がアゴラ掲載の1本目で起こったということにも驚きました。これが初めてのバズ、初めてのヒットでしたね。

その後、持ち家と賃貸に関する記事を合計で4本掲載していただいたのですが、全部それなりに読まれました。ここで一旦の区切りになったので、また良いネタができたら投稿させて下さいという連絡をしたところ、レギュラー執筆陣になりませんかというお誘いをいただきました。ずっと読者の立場だった私が継続して書くのかと少し気後れはしましたが、当時は他に情報発信をする術がない状況でしたので、もうやるしかないだろうと冷や汗をかきながら執筆しましたね。開業から1年が経った頃の話です。

これをきっかけに、アゴラの記事を読みましたというお客様が来てくださるようになって、最初はびっくりしました。開業時は1回のレッスンを3万円に設定していたのですが、相場としても金額としても決して安くはないのに、記事を読んで来てくださるものなんだと。執筆を頑張るしかないなと火がついた格好ですね。

高額の報酬設定にした理由としては、稼働日数から最低水準を逆算したもので、それ以下だと成り立たないという事情が大きかったです。少なくとも当時の自分には、この金額設定でお客様を集める方法を何とか考え出す、という以外の選択肢がありませんでしたので、値引きによる集客ではなく、3万円のレッスンで30万円の価値を提供するためにはどうしたら良いのかを検討しました。内容の充実だけではなく、時間無制限で納得していただけるまでアドバイスをしますという1回単位の区切りにしたのも、同業者のほとんどが1時間単位の価格設定だったからです。それほど一般的なサービスではないため、お客様の立場からすると警戒感や分かり辛さがあるでしょうし、そもそも1時間で上手く相談できなかったらどうしよう、という不安をなくして差し上げたかったという思いもありました。こうした自身や業界の実情、お客様ファーストを考慮した結果、受け身で気軽に相談しても良いんだ、というイメージを持っていただけるように名称も相談ではなく『レッスン』に。時間制限なしで料金も一律の明朗会計、納得していただけるまでとことん対応しますよ、という食べ放題をイメージしたスタイルに落ち着きました。」

Q.FP業界の現状と未来予測は?

「開業前から明朗会計にしようと考えていた理由でもあるのですが、FPのサービスは一般のお客様からすると非常にわかりにくいですよね。1時間あたりの価格設定にしても、例えば住宅購入の相談をしたいと考えた時に何時間でおさまるのか、何をどこまで相談して良いものなのか、お客様が事前に判断できないんです。これはサービスとして致命的に不親切だと思いました。レストランであれば、コースが1万円のお店ならこれくらいの料理でこれくらいのサービスを受けられる、と事前にある程度分かりますよね。ネットで情報も口コミも調べられますから。FPの場合はそれがないんですよね。人によってやり方も違いますし、有料相談を経験した事のある人が極端に少なくて、何をやっているのか調べてもほとんど分からないですから。

私はそこを分かりやすく工夫したいと考えて設定したのですが、そもそも相談に力を入れている方が少ないのではないかと感じています。例えば申し込みについては、WEBサイトから希望日をいくつか伝えて調整するという形のFPは多いのですが、いつサービスを受けられるか予約の時点で分からないなんてレストランとかエステなら論外ですよね。私は、空いている日時を選択すれば確定、というお客様ファーストの仕組みにしたかったので、相談対応を1日1組に限定しました。もちろん相談を受けておられるFPも沢山いらっしゃると思うのですが、お客様に聞いてみても「他のFPと比較する以前に相談を受け付けているFPが中嶋さん以外に見つからなかった」という話はよく聞きます。記事を書いたりメディアに露出したりという活動が目立つ方は、相談しても良いものなのか余計に分かり辛いという実情がありますので、私は相談をきちんと受け付けていますよという姿勢を分かりやすくするように心がけました。

また、保険や住宅、家計や老後資金など、現状はもちろん今後についても、困っている方は確実に存在し続けますが、FPがそのニーズをどう掬い上げるかという集客やマーケティングについても大変重要だと思っています。良いFPを探しているお客様は沢山いらっしゃいますし、独立してもお客様を集められないというFPの方もまた多いので、どう繋がっていくのかという問題ですよね。当社へは、寄稿記事やブログ、書籍を読んでくださった方や、SNSでたまたま知って来てくださったという方が多いので、FP自身がお客様に知っていただく努力が必要なのではないかと思います。

更に、お客様に信用していただくということの重要性ですよね。FPの信用度自体が金融機関や資格取得が難しい士業と比較して低いという問題があり、住宅のような何千万円もする買い物を相談する相手としては選んでいただき難い、というのが現状です。専門家などの内情に詳しい層であれば、金融機関は金融商品、不動産会社は住宅を売買する場所、FPは相談先なのでバッティングしないと思ってしまいがちですが、お客様サイドにそのような区分はありませんので、日頃から付き合いのある銀行に相談してみようと考えるほうが自然です。身もふたもない言い方をするとどこの誰だか分からない無名FPより大手金融機関の方が信用できますよね(笑)。そうなると、個人のFPが金融機関とか大手の不動産会社の信用度を上回るにはどうすれば良いのか考えなければいけません。やはり結局は、露出を上げてFPとしての信用を積み重ねていくしかないのではないでしょうか。」

Q.これから生き残っていける士業事務所の条件とは?

「FPは信用度が劣るという問題に触れましたが、金融機関や不動産会社は相談がメインのサービスではないため、この点に関してはFPに分があると考えています。例えば家を買う時なら保険とか投資とか家計に関する話も重要で、セットで相談したいニーズは確実にあります。ただ、お客様としても勧められた商品とは関連の低い質問を投げ辛いでしょうから、疑問や不満を残したまま大きな買い物をすることになりかねませんので、個々のFPが信用度を上げて対応していきたいところですね。

FPのアドバイスは、ある意味で正解がありません。他の士業は法律とか企業会計をベースにアドバイスをしていますけど、個人のお金に関する話はそういったルールがなく、家計には『正しい』方法は存在しないんです。つまり、お客様が求める内容の多くは資格試験のテキストには載っていない、FPが自分で考えて答えを出さなければいけないもので、例えば私が記事にしたような賃貸と持ち家の比較論については正解はありませんよね。更に、家を買うという相談一つにしても、勤務先や共働きか否か、貯金、保険など考慮すべき内容は多岐に亘ります。私はよく『正しい家計簿の付け方はありません』とご説明するのですが、家計簿ソフトを使っても、Excelで記録しても、家計簿で手書き管理をしても良いという自由さにお客様はむしろ悩んでおられる訳です。こうしたニーズに応えるためには資格試験に出ない知識が必要です。住宅の適切な予算とか正しい保険の入り方とか、誰もが知りたがる本来はFPが提案しなければならない内容には答えがありませんので、自分なりに根拠のある「正解」を考えたり、あとは個々のお客様にとっての適切なアドバイスを考えることが楽しい、と思えるFPは独立してやっていけるんじゃないかと思っています。逆に決まったルールが無くて自分で考えないといけないことをを面倒だ、難しい、と感じる人は向いていないのかもしれません。

あとは重複しますが、やはり存在をお客様に知っていただく必要がありますよね。私は記事やブログを選びましたが、今はプラットフォームでもSNSでも色々なツールがありますので、得意な手段を使ってアピールしていただくと良いと思います。近年はこうしたツールでマネー情報を学習する人も増えていますし、kindle出版も難しくはありませんから、上手く活用して周知と信用度を蓄積していけば生き残ることができると思います。」

中嶋よしふみ プロフィール

1979年生まれ。2011年にファイナンシャルプランナー(FP)のお店・シェアーズカフェを開業。翌年に開設した「シェアーズカフェのブログ」は5カ月で月間アクセス14万件を突破。現在は、各種士業や大学教授など、多数の専門家が書き手として参加するウェブメディア、シェアーズカフェ・オンラインを編集長として運営。日経DUAL、アゴラ、Yahoo!ニュース個人、ハフポスト等で執筆中。その他多数の媒体で情報発信を行う。対面では新婚カップルやファミリー世帯向けにプライベートレッスン・セミナー・相談等のサービスを提供、とくに住宅購入のアドバイスを得意とする。生命保険の販売や住宅ローンの仲介等を一切行わず、FP本来のスタイルで営業中。お金よりも料理が好きなFP。