マーケティング視点から導き出された入管業務四拠点戦略:さむらい行政書士法人 小島健太郎氏

マーケティング視点から導き出された入管業務四拠点戦略:さむらい行政書士法人 小島健太郎氏

事務所名:

さむらい行政書士法人

代表者:

小島健太郎(行政書士)

事務所エリア:

東京、名古屋、大阪

開業年:

2009年

従業員数:

約35名

Q.行政書士業界の現状について、どう感じるか?

「行政書士業界の全体について私はあまり大局的な視点を持っていないのですが、何故あまり全体を見ようという感覚にならないのかと言いますと、行政書士は専門分野によって殆ど別の職業のようなものである、というのが実態だからです。私が主力業務としている入管と、例えば同じ民事法務である相続では、客層もマーケットも商品構成も異なっていて、ただ資格が同じというだけでビジネスモデルも全てが違う訳ですから、一括りで評価はできないと思っています。行政書士というくくりではありますがビジネスとして考えた時に、飲食店と宿泊業くらいには違いますよね。

尚、私は入管業務をやるために資格を取得しましたので、最初から入管業務がメインでした。開業が2009年で法人化が2012年ですので、3年ほどは個人事業でしたね。私にとっては資格取得後の目的がないのに資格を取得するという意味が解らなくて、バイクに乗りたいからバイクの免許を取るという感覚でした。入管業務をやるために行政書士の資格が必要だったという感覚です。」

Q.行政書士法人を設立しようと考えた経緯と背景は?

「行政書士法人設立の目的は多拠点展開が必要だったからです。法人化を目指したというよりは、支店展開のためにせざるを得なかったというのが経緯ですね。今は上野・新宿・名古屋・大阪の4拠点ですが、以前は池袋と渋谷にも展開していて東京に4拠点を構えていました。コロナで打撃を受けたのでダウンサイジングして2拠点に絞った形です。なぜ東京が多いのかと言いますと、メインが来所相談だったんですよね。こちらからは一切訪問しないという来所スタイルで、東京はマーケットが大きいので新宿エリアの人は上野には来ませんし、もう別の街という捉え方ですので複数の拠点が必要でした。ただし、不動産屋のように池袋に支店あるのに高田馬場にも支店があります、という配置感覚まではいかないという感じでしたね。」

Q.行政書士法人設立の効果は?

「これもマーケティング視点による支店展開ということにはなるのでしょうが、Webによる集客は多拠点展開の方が効率的なんですよね、広告にしてもSEOにしても。近い所に頼みたいというニーズを拾うということはもちろんあるのですが、来所ではなくWeb会議システムによる相談であっても、大阪の人が東京のオフィスへ依頼するかというと、やはりそれはありません。そういう意味でもある程度の拠点展開が必要で、大阪であれば大阪を狙って広告を打った方が効果的でもありますので、これは法人化によって可能になった多数拠点のメリットだと思います。当社以外の多拠点展開している事務所さんも、やはり同じようにマーケティングというか、集客の面で考えているのではないでしょうか。」

Q.採用や教育など、組織運営に関する方針は?

「採用に関しては、何をやって誰が担当するのかというオペレーションとプロセスをきっちり決めています。私はそのプロセスにほぼ入っていません。最後は絶対に代表者が面接すべきだという理論もあるのは知っていて、どれほど拡大しても、上場企業でさえも最終面接には社長が出ていくというスタンスの会社もありますよね。当社くらいの規模でトップが出ていかないというのは反発もあるのかもしれませんが、どちらのスタンスが正しいということはないと思っていて、私は出ていかないということを選んだだけです。トップが出ていかない上場企業もあります。最終的に現場の責任者が採用を決めて、私は決裁だけをしています。

具体的な採用のプロセスとしては、まず現場の責任者が面接をするのですが、応募者1名に対してこちらは2~3名の体制で実施します。それぞれに感じる事があると思いますので、採用担当者1人の主観で決まらないように話し合ってもらっていますね。この段階でコミュニケーション能力に難のある応募者はお断りするような形です。次にオンライン適性検査による性格分析を実施して、別日で就労体験として実際に3~4時間働いてもらうのですが、面接での印象と変わることも多いんです。面接ではそれほど話が上手くなかったのに、働きぶりを見ると仕事は結構できるんだなと好感度が上がったり、逆に面接の時には口が上手かっただけなんだということが分かったり。やはり最初の面接では受かりたいと思って取り繕う訳じゃないですか、言動や行動がガチガチに緊張している人もいますし。でも2回目の接触となると緊張がとけるというか、少し緩くなるんですよね。

社員教育については、座学として同業者向けに提供している『国際行政書士養成講座』という入管実務の講座に、開催時期であればリアルに出てもらいますし、時期がずれている場合は動画を提供しています。1回5時間で全7〜8回ありまして、一応の座学はこれでOKということになるのですが、そうは言っても細かいことは色々ありますので、OJTでカバーするしかないと思っています。

当社は現在35~6名が所属していますから、正直に申し上げますと1拠点に集中した方が組織のマネジメントは楽になるでしょうね。分散すると当然マネジメントがハードにはなりますが、私はそれでも集客を優先した訳で、結局どちらにもメリットとデメリットがあるのではないでしょうか。多拠点展開におけるマネジメントで核になるのは支店長で、各支店長たちと方向性を共有できているのかに尽きると考えていますので、人選としては本人の意向がまず先にあります。やりたいかどうかを取り敢えず聞いて、そこで手が挙がった人に対して私が一緒にいられるかどうかを判断する形ですね。当社で育成して伸びてきた人を対象とするパターンもあれば、支店長候補として採用することもあります。拠点間の情報共有に関しては普段はWeb会議システムで、半年に1度はリアルで会う機会を作るといったところです。」

Q.組織として成功させるためには何が必要か?

「経営者の頭の中にある考え方や心の持ちよう、サービスを提供するにあたって大事にしているものなどを、いかに浸透させていくのか、ということだと思っています。役員や、もう少し近しい人であれば常にコミュニケーションが発生していますし、会話量も多いのでいつのまにか非言語化しているんですよね。相手の考えていることはこういうことだよね、という風に察することで意思疎通を図るようになってくるのですが、そこから一段先の関係性になると、ちょっと届かない。ですからよくこちらの意図とは違う風に思っていたり、経営陣は何を考えているのかわからない、なぜその評価になっているのかわからない、といった感じになってしまいます。そういう時には、相手が疑問に思っている考えに至った経緯を説明するというよりも、そこへ帰結する元の思考をシェアするようにしています。そういう前提やスタンスであれば、こういう考え方になるよね、そういう方向に行くよね、ということが理解できるほうが、応用が利くので。少なくとも様子見タイプなのかすぐに飛びつくタイプなのか分かりますよね。

浸透させるための方法としては、毎日のミーティングですね、全拠点でやっています。これしかないんじゃないかなと思います。」

Q.行政書士、行政書士法人の未来と生き残るための条件は?

「私の業界に対する認識は冒頭の通りですので、行政書士の未来は細切れになるよね、という感じです。対象としている業界が違いますので、建設業をやっている行政書士、入管をやっている行政書士、相続をやっている行政書士、運送業をやっている行政書士、それぞれにマクロの未来は明らかに違うと思います。

私にとって入管以外の業務はあまり興味がないし、考えるとするならばそれは仕事ではなく娯楽になります。入管業務の未来を考えるのが私の仕事ですので、そのお話をするならば、マーケットが拡大するだろうという風には思っています。純粋に外国人の頭数が増えるでしょうね。外国人が集まるのは一定規模以上の都市に限られてしまいますので、地方展開についてはどうしても最低規模としても仙台や広島あたりのサイズ感に限られます。入管も電子申請も始まりましたが、紙が電子になっただけですので、複雑性が変わったかというと別にそうではありません。ChatGPTが話題になっているといっても、個別事情がある限り理由書が必要で、書類を出してハイ終わり、というタイプの業務ではないので当面は問題にならないと言いますか、それほど深く考えてはいません。申請の本質が変わって自動作成される文書で代替できるということになれば、また違ってくるとは思いますが、ビザは国のセキュリティに関わる分野はそれほど自動化できない筈なんですよね。日本の先を行ってるアメリカでさえも電子申請+必ず面接が必要なくらいですから。

行政書士として生き残るための条件については、個人で考えれば確固たる実務知識と集客力だと思います。」

小島健太郎 プロフィール

さむらい行政書士法人 代表社員

行政書士・入国管理局申請取次行政書士。東京都行政書士会所属。

アジア諸国・欧米など各国出身の外国人の法的手続きを支援。お客様の満足のために、専門知識を駆使し結果を出すことにこだわっている。

外国人の在留資格・VISA・対日投資手続きを専門に扱う。専門性の高いコンサルティングにより高い信頼を得ている。年間相談件数1000件以上。