司法書士法人名南経営が考える新時代の司法書士:司法書士法人名南経営 荻野恭弘氏

司法書士法人名南経営が考える新時代の司法書士:司法書士法人名南経営 荻野恭弘氏

事務所名:

司法書士法人名南経営

代表者:

荻野恭弘

事務所エリア:

愛知県・山口県

開業年:

1998年

従業員数:

30人

Q.司法書士業界の現状をどう認識しているか?

非常に明るいと思っています。マウントを取っているように思われるかもしれませんが、やはり資格者が少ないですよね、仕事のできる資格者となると更に少ない。例えば何かアイディアを出して企画して、人とコミュニケーションを取りながら行動するという方がなかなか過去にはいなかったように思います。一方でこれからは組織化せずともYouTubeを活用して大活躍する士業の方々などが当たり前になってくるんじゃないかと思っておりまして、非常に活況を呈していくのかなという感じがしますね。

残念ながら人口統計的にも明らかですが、司法書士は減る一方で、残存者メリットをみんなで分かち合い頑張ってやっていきたいと思っています。当社の業務割合は法人と個人のお客様が1:1の比率で、個人向けの業務は相続が中心で、相続については名南コンサルティングネットワークの税理士や行政書士などから相続登記をご紹介いただくことがメインといったところで、これは司法書士事務所創業の1998年からそれほど変わっていません。

法人向けの業務は、もっとも古く、同じくネットワークの税理士の顧問先様を法務面から全面的にお支えしている潜在的な顧問法律家という感じです。現在では司法書士法人出身の弁護士が弁護士法人を立ち上げ、行政書士・司法書士・弁護士の3士業でまさに税理士法人の顧問先の総合的顧問団となっています。したがって司法書士の法人向けの業務の内容は事業再編・承継法務・商業登記に絞っています。

また司法書士業務全体の傾向としては、これから遺言・後見・死後事務関連(財産管理業務と呼んでいます)など身体性のある仕事が激増するのではないかと予測しています。当社も相続に関して今後5年で生前業務へ完全に移行する考えです。

1998年の創業からもう25年この業界を見てきましたが、バブル崩壊後には不動産登記が一気に減りまして、そこから寡占化が進んできましたね。更にリーマンショックで同じように不動産の仕事が減り、体力のある事務所だけが生き残った結果、また寡占化が進んだという印象です。この25年の不動産登記の寡占化は悪いことばかりではなく、そこに興味のない気鋭の新人(当時。いまではもう、遥かに格上の事務所になっていますが(笑))たちにイノベーションの機運をもたらし、その結果、マーケット・インの思考で、債務整理・過払返還、相続、事業承継、M&A、死後事務、成年後見、民事信託など多くの特化すべき有望な分野が開拓されてきました。

Q.現状、貴事務所が永続できている要因はどこにあると考えているか?

「私どもはマネジメント、特にマネジャーの育成について非常にこだわりを持っていて、当社では会社を経営できるくらいにマネジャーが能力を発揮していなければ、進退の話に及びかねないという感じのグループ内の圧力があります(笑)。マネジャーのマネジメント能力が、名南コンサルティングネットワークの全体の成長における主要ドライバーでもあると考えられています。司法書士法人についても同じことで、私自身も25歳くらいで当時は課長という職位でしたが、若くしてマネジャーのポジションに就き、厳しい環境によって育てていただきました。

マネジャーの定義ですが、古典のセオリー通りで、組織の全体方針に従って部門の入力を持続的に最小化・出力を最大化させる、つまり部門の仕事の分析をして、責任の分配をして、人を活かして、成果を出す。いくつかの部門でこの成果を出して、従業員30人以上をマネジメントして付加価値3億円~5億円以上(事業特性による)を実現して次に経営陣の候補者となるというイメージです。

私は現在53歳でしてグループ内の定年が60歳ですから、あと数年でマネジャーを大量に育成して経営を承継していきたいという風に考えています。

先ほど税理士や行政書士からお仕事をご紹介いただくという話をしましたが、当然それがトップラインになってしまうと仕事をしていて面白くありませんよね。ですから、案件をもらうというよりも仕事を一緒に開拓するという感覚で、マーケティングやセールスにも非常に力を入れています。歴史のあるグループですから、営業にはそれほど注力していないと思われがちですが、そういう意味でもマネジメント力が凄く必要なんですよね。」

Q.貴事務所経営のマーケティング・経営戦略の考え方と指針、司法書士業界のマーケティングに関する所見は?

「横須賀先生とは真逆で(笑)地上戦オンリーです。税理士やコンサル会社と一緒に金融機関や証券会社、保険会社へ出向いて業務提携しませんかと、我々と一緒にやりましょうというお話をしますね。司法書士単独での訪問よりも、グループとしての提案でシナジーを発揮できるほうが良いですし、意外と金融機関は弁護士や司法書士から法律系の営業をされることには慣れていませんので、法律サービスの提供にはアピール力があるんです。

そもそも当社は地域密着型の、地元でナンバーワンになろうというスタンスですし、私が入社した当時もライバル会社がパートナーシップを引いて結構立派に組織として展開していたことに比べ、当社は創業者の名前を取って”佐藤商店だね”というような言い方をされていたんです。個人的には悔しいなという気持ちもありましたが、創業者の想いはあくまで地域を守る、手足の届く範囲をしっかり守るということでチャネルを開拓して活性化させていきましょうという点にずっと集中してきましたから、オンラインによるマーケティングは基本的に埒外だったんですよね。

私自身もそういう環境で育ったのでオンライン戦略は不得手ですが、そういう展開も必要だと考えていましたので、この20年で大いに学びました。とくに名南コンサルティングネットワークの税理士や社労士については、いわゆる同業者コミュニティを作って、同業者に対するオンラインサービスの提供などもやっています。これは“税理士から尊敬される税理士”、“社労士から尊敬される社労士”という構造を構築し、名南コンサルティングネットワークの税理士・社労士の本業にも価値を提供(志を同じくする同業者が数千社要るということの市場からの信頼)しています。また生産性を向上させたい同業者にも価値を提供し、さらに過去業務だけではなく未来業務を提供してほしいお客様にもまた価値を提供するという、いわば協同組織的で持続可能な同業ネットワークです。

これも当初はネットによる集客は行わず目の届くエリアや業界へ出掛けて行って勉強会を実施するといった方法を採っていますので、やはりグループ全体の地上戦の方針から大きくズレることはないのですね。

司法書士業界においても同じように司法書士に選ばれる司法書士という戦略を策定実行していきたいと思っています。」

Q.貴事務所経営のDX化と司法書士業界のDX化についての所見は?

「基本的には非対面取引支援を推進する考えです。こちらのCROWN MEDIAでも取材されていたGVA TECHさんなど非常に上手だなと思いますよ。同様にテックを推進されている事務所も含めてターゲットや内容に関するお話を伺ってみますと、確かに需要はあるだろうなと感じる一方で、そうではない方々もいるというところは見極めていかなければいけないと考えています。機械と同じことをやる前提でコストと人力を投入してしまっては勝ち目がありませんからね。

感覚的にしか掴んでいないもので恐縮ですが、テクノロジーによって現在のパイが8割溶けてしまい2割しか残らなかったとして、その2割をまた8割くらい溶かす人たちが出てくるということを繰り返すけれども、自分の生きているうちは結局そのうちの2割くらいが残ると思うんですよ。士業の事業規模であれば、その残った範囲だけで十分やっていけるんじゃないかと、ここ最近の業界界隈を見ていて感じているところです。ですから科学的見解ではないのですが、感覚的に必ず自分たちのお客様はいらっしゃるという風に思っています。要するに身体を使ってお客様を探しにいっているかどうかだけです。」

Q.貴事務所経営の採用と教育に関しての考え方と指針は?

「要となるマネジャーの育成という方針と重なりますが、結局のところ究極の差別化は人間ではないでしょうか。横須賀先生もどこかで仰っていましたが、属人的という意味には2種類あって、端的には手を動かす又は考える、確かにその通りで後者へスライドしていかなければ前者はAIに代替されますよね。

最近は若手にビジネスライターとしてのライティング指導を行っているのですが、私がいつもやっているのは書かせたものをgoogle翻訳で英語にして、それをもう一度日本語に翻訳するというもので、このプロセスを経ることでロジックがきれいになるんですよ。文章構成や難解な用語、冗長性などを改善するために機械を使うなど、機械を活用できる人が伸びていくようには思います。いわば藤井聡太さん流です。使い方の工夫など、結局のところ最後は人の感性や感覚ですからね。

AIは深層学習(ディープラーニング)をするものですが、我々も当然深い所で知識や知恵を得ていきますから、そこは最先端の凄い世界で競合するものであって、競合はしないであろう部分が先ほどお話した2割なのではないだろうか、と感じています。教育戦略としてはイキイキワクワク、型とマニュアルによる高速専門性の獲得や、マネジメントスキルとマインドの育成といったところが骨子ですね。

イノベーションの源泉である若手の存在を重視していることもあり、新規採用は継続していまして、採用方針としては当社の経営理念に共感していただくこと、これに尽きますね。採用においても地上戦マーケティングで、士業の中の士業・プロ中のプロというプレゼンスを発揮して、憧れのコンサルティング士業に成長しようというような感じで、当社の育成力をアピールしています。

中途採用者からも教育体制については手厚いとの評価をいただいていて、当社の場合は私が理念・マネジメント研修を実施しています。要は理念を説明して学んでいただくのですが、月に2時間くらいの枠を設け3か月から半年ほどかけてマネジメント(人を活かして社会をよくする魔法の仕組み)のマインドセットやスキルセットをしっかり学ぶことで、なぜこうした理念が掲げられているのかということを、個々人の中に落とし込んでもらうんです。横須賀先生が仰るところのコンセプトですよね、これがないと流石に価値観の共有は難しいなと思っています、私たちが何者で何ができるのかということを、自分の口で滔滔と語れるようになっていただかなければいけませんので。

お腹に落としていただくためには、ティーチングで洗脳のようになってしまって中身が伴わないということではいけない訳です。私も経営コンサル出身ですから、価値観や理念を若造が言うと素直に受け入れられないという人がいることを理解していますし、説明する側が口先だけで実践も腹落ちもなく言っていると逆効果になってしまうこともあります。ですからマネジャーのマインドセットは本当に大事で、会社(上司・先輩とその家族を含めた誇り高き共同体)を代表し、お客様を前にして自分の言葉で価値観を話すことができるように育ってもらうということを大事にしています。」

Q.今後、士業事務所の採用、組織についてはどうなっていくか?

「司法書士全体となると、ちょっと難しい質問だなと思いますが私の勝手な思いでお話いたしますと、大手は集約されて個人は徹底的に個人化が進むのではないでしょうか。大手法人については、有能な個人事務所へバックオフィスサービスを提供するという構図もあるように思います。

また、少し前から証券会社を辞めてIFAとして独立される方が増えているように、同じことをやるのであれば組織に所属しなくても1人でやろうという流れもありますよね。裏を返せば組織にいる人は、組織ならではのことをやる人なんじゃないでしょうか。法人として組織化する方々は町の司法書士さんがやっていないようなことをやっていく、優れた個人は一代限りで自由に単独で動く、志向性で分かれていくだろうという感じですよね。

これはまた別の機会でお話していますが、行政書士は領域が相当広いので色々なことができる一方、司法書士は意外と過去の歴史から規制や取り締まりが厳しく委縮させるような組織感がありますから、余計に二極化するのではないかとも思っています。」

Q.これから生き残っていける士業事務所の条件とは?

「マネジメントという言葉は自分や組織を思い通りに動かすということが語源ですが、それを第三者に対して提供すればコンサルティングになる、そして、それができる士業というものが私のスローガンであると同時に、そうならないと生き残れない、そこに尽きるのではと考えています。

今後の更なる二極化という側面から申し上げますと、組織化する場合は時流に適応して経済を創ることができる事務所。経済とは経世済民、世の中を豊かにして安定させ民衆を幸せにするというもの。士業は法律家ですので社会的機能は腎臓とか肝臓みたいな感じですが、こと事務所経営者としては社会の心臓の役割を果たし、人と活かして、金をたくさん稼いでたくさんバラまいていく。もう少し品よくいえば、組織的に生産性を上げ、たくさんの人に給料を出していくべきです。他方で、定型から外れて疎外感をもつ特殊な顧客に深く共感し、だれも気付かないペインを癒すことのできる、これを私はアートと表現していますが、徹底的に個人で寄り添うアートな事務所、大別するとこれらが生き残るように思いますね。」

荻野恭弘 プロフィール

司法書士法人 名南経営 代表者
昭和44年 愛知県岡崎市生まれ
平成 4年 早稲田大学法学部卒 名南経営センター佐藤澄男税理士事務所(現・税理士法人名南経営)入社
平成 8年 名南司法書士事務所(現・司法書士法人 名南経営)開業 現在に至る
平成20年 株式会社名南経営コンサルティング 執行役員就任(相続・M&A担当) 
令和 3年 愛知県司法書士会 理事 就任
令和 3年 一般社団法人 全国司法書士法人連絡協議会 理事長就任 現在に至る

【所属団体】
一般社団法人全国司法書士法人連絡協議会
公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート
信託法学会会員

【著書・寄稿】
「司法書士・行政書士・弁護士が陥りやすい信託税務の落とし穴」(2017清文社刊)
「受益者代理人の実務~専門家が代理人になるケース」(家族信託実務ガイド第11号日本法令刊)
「家族信託専門家による受託者支援の実例」(家族信託実務ガイド第22号日本法令刊)
「家族設立法人に自社株信託をしてM&Aに取り組んだ事例」(家族信託実務ガイド第26号日本法令刊)