200名を超える司法書士法人みつ葉グループ代表が考える士業の未来とは?:司法書士法人みつ葉グループ 宮城誠氏

200名を超える司法書士法人みつ葉グループ代表が考える士業の未来とは?:司法書士法人みつ葉グループ 宮城誠氏

事務所名:

司法書士法人みつ葉グループ

代表者:

宮城誠(代表司法書士)

事務所エリア:

東京都港区

開業年:

2012年3月

従業員数:

約232名 ※2023年1月1日時点

Q.司法書士業界の現状をどう認識しているか?

「業界全体の取り組みとしては、2024年4月から相続登記の義務化がスタートするので、相続に力を入れているということがあります。高齢化が進んでいる中で年間約150万人の相続が発生していると言われているため、司法書士としても相続分野に対応していかなければならないだろうということで、相続登記の義務化が発表された際はプラスに捉えている方のほうが多かったかなという印象です。

また、これは相続とも絡む話ではありますが、商業登記については本人申請ができるシステムがどんどん出てきていますので、専門家が入る価値がどこにあるんだろうという危機感のある方は多いように見受けられます。しかしこれはもう世の中の流れだと思いますし、士業による適正な手続きの担保はもちろん必要でしょうが、サービスとして優れているか否かは我々でなくお客様側が判断することですから、そこに価値があるのであれば本人申請は増えていくでしょうね。」

Q.現状、貴事務所が永続できている要因はどこにあると考えているか?

「我々の強みはやはり集客ですね。集客に凄く力を入れているのと、仕組み化、この2つが強みだと思っています。弊社の事業の一つに債務整理があるのですが、マス向けに集客が出来る商品なので、ウェブマーケティングで加速させている感じです。

また、司法書士の仕事はB to Bが多く、我々は全国に拠点展開しているということと、大手企業との提携を強化することによって、数を沢山お引き受けしているということも強みではありますね。大量発注に対応できるキャパと、業務量が多い中でも質を落とさずクオリティが高いという点、あとは拠点の多さが大手企業に選ばれている理由だと思います。

また、弊社では仕組化を推進し、チームプレーで最大の成果を出すことを重視しています。士業では特に『自分が全てやった方が質が一番高い』と考える方も多いとは思いますが、我々は組織として高品質な法的サービスを提供することを会社全体としても意識づけております。」

Q.貴事務所経営のマーケティング・経営戦略の考え方と指針、司法書士業界のマーケティングに関する所見は?

「我々は現在、登記・相続・債務整理という3事業を展開しているのですが、これ自体が業界の中では結構珍しいと思います。大体いずれかに特化されている事務所が多い中で、敢えて多角化して柱を作っていく、そしてそれを実現してきたことが我々の経営的な強みになっている、というところですね。

3本柱にしたのは5年ほど前のことで、元々は登記からはじまりました。まず不動産会社を開拓していきましたが、やはり登記は司法書士の皆さんがやっておられ、競争が激しく増やすには限界がありましたので、その中で選んでいただくために差別化として新しい商品を出そうということになり、手を入れたのが相続分野です。当時、拠点があった福岡県のエリアで同じく不動産会社を開拓していき、次の一手として相続信託を打ちました。

当時はまだ信託という商品があまり出回っていなかったので、ある意味で先行者利益でもないですが、信託でブランディングができたんですね。決済を頼む司法書士の先生はいるものの、信託分野は対応できないという不動産会社に対して信託を中心にブランディングすることで繋がりを増やしていきました。この時点で大体30〜40名ほどのスタッフを抱えていましたが、登記と相続でスケールはしていましたね。しかし、このまま2つの事業だけで進んでいたら今もそれほど人は増えていなかったと思います。

あくまでB to Bのビジネスなので、紹介でやっていくという、司法書士業界で言えば王道的な詰め方ではあったんですけれども、スケールはなかなかしないということ、なおかつ、やはりto Bですと我々がどれほど動いたとしても、紹介先の方々の仕事量に依存するという欠点がある訳です。忙しい時と全然仕事がない時の波が安定しないため、やはり自分たちで管理コントロールできるようなビジネスに着手したいということがあり、B to Cのエンド向けの集客ということで、最後に債務整理をはじめました。

我々は過払い金ではなく任意整理で、分割交渉やリスケ、利息カットなどを交渉する仕事をやっています。この分野では2004年くらいからいわゆる過払い金ブームが起きていて、5年前ですと債務整理というジャンルに入るには割と後発に当たる感じでしたが、マーケット的にはやはりまだまだニーズがありました。金融という仕組みがあって、お金を貸すという行為がある以上は、返せないという問題が必ず起こりますので。

正確な統計が発表されていないため、これはあくまで推計にはなるのですが、任意整理は年間で大体200万人くらいが利用していると言われている制度なんです。返済しつつギリギリで何とか回せているけれども元本は減っていないというような、顕在化していない隠れ貧困と言える状況で悩んでいる方々が一定数いらっしゃって、まだまだニーズがあります。周囲からはこのタイミングで?と言われることも多かったのですが、司法書士が簡裁代理権を取得して活用できる分野でもありましたので、チャレンジしたという感じですね。

また、キャッシュレス化の浸透によって若年層の相談者が多い分野でもあります。やはり形として目に見えない、実感がない中で、お金が手元にはないんだけれども何となく回っていくという感覚で使えてしまうため、結果的に債務が膨らんでしまうということですよね。借金の整理もそうなのですが、根本的には生活改善であって、そうしたサポートを価値としてこの分野へ参入したのが2018年、2年後にはコロナ禍がはじまったので、ある意味で社会情勢的な追い風もあり、立ち上げて5、6年で主力事業になりました。

大手の司法書士事務所さんは社歴も長く盤石で、お客様を掴んでいるので、そこに社歴の浅い我々が正面から立ち向かってもなかなか勝てないですからね。ですから業界としては業務特化して拡大されている事務所さんが主流で、グループ化されているところも多い感じがしますが、いずれも司法書士単体の売上では難しいということで、内部に調査士を置いたり、相続であれば税理士さんと一緒にやっていたりという形になっているのではないでしょうか。」

Q.貴事務所経営のDX化と司法書士業界のDX化、また生成AIについての所見は?

「まずDXですと、仕事をやっていると色々な情報があるため、社内での情報共有、情報の見える化って凄く大事だと思うんですよね。士業はノウハウや知識の共有が好きなので(笑)これは仕組みを作らなくてもできていることも多いんですが、例えば日々やっている業務や、誰がどれくらいの作業をやっているのか、売上や入金などの経営情報、採用をはじめとした労務情報など、色々な情報で会社は動いているので、これをいかにリアルタイムで見て、変えていけるのかは凄く大事だと思います。それを実現するためのDXというか、第一歩はそこかなと。

あくまでも経営サイドの情報として取り扱うものであっても、基本的には現場がやっている作業の積み重ねではありますから、やはりそのデータに基づいて判断する、経営サイドもしっかり把握できるように見える化した、ベースとしてのDXというものが必要なのかなと思っています。その結果、業務の偏りが見えてきたりもしますので、何となく良い悪いという感覚的な判断が良い時もあるのですが、ある程度は可視化できるようになった上での判断も必要ではないでしょうか。

ツールは幾つか使用しているのですが、エンドユーザーから直接依頼をいただく債務整理については、かなりの顧客データ数になるので、専用のシステムを用意して、データベースでお客様ごとの進捗に応じた状況が分かるようにしていますね。登記や相続については、kintoneを使って業務管理できるように構築している最中です。

今年は生成AIが大きく話題になりましたが、色々な仕組みが変わるんでしょうね。人々の検索導線にしても、Google検索でAIが回答するといったことが試験的にはじまっていますし、我々で言えばウェブマーケットに影響を与えてくるのかなというイメージを持っています。業務効率化にも使える印象はありますが、如何せんアメリカ発ですので、我々のようなほぼ国内向けのサービスで構成されている業界へのアプローチは後ろのほうになるのかなという感じです(笑)。色々な情報をある程度のレベルで簡潔にまとめてくれるので、私個人としては活用していますが、正直まだお客様に提供する情報として使えるクオリティではないので、我々の業界ではもう少し先かなと思っています。

しかし精度が上がってくるのは多分時間の問題ですし、弁護士業界がいち早く取り入れたように、法律相談にかなり向いていると思うんですよ。我々の仕事はあまり争い事がありませんが、弁護士の仕事では多いので、巻き込まれて先生方のメンタルがやられちゃうという話もよく聞きますから、逆に言えばそこはAIが回答してくれたら凄く良いんじゃないかなと感じています。」

Q.貴事務所経営の採用と教育に関しての考え方と指針は?

「何を重視して人を採用するのかというのは色々あると思うんです。それこそ、うちは給料が良いですという条件でいくのか、プロフェッショナルに専門的な知識を身につけることができますということなのか、しかし、我々は元々スタートがベンチャーと言いますか、何もないところからはじめて一気に加速して採用してきているので、そうしたアピールは出来なかったんですね。そうしたこともあって、企業理念やパーパスと言ったりしますが、理念や考えに対する共感を重要視しています。

弊社は”三方よし”という形で、世のため・人のため・自分のためという企業理念を掲げているのですが、やはり士業の仕事自体が社会貢献性の高い分野だと思っていて、元々国からこの仕事やるよっていう、国民の役に立つための国家資格ですからね。そういう前提プラス、看板を掲げて仕事が来るような時代はとっくに終わっていて、1サービスとしてお客様に選んでいただかなければいけないというお客様目線は忘れずに、自分自身がしっかり成長していき、社会にとって価値のある仕事をやっていきましょう、というスタンスです。

社会貢献性の高いビジネスは、やはり世の中の流れ的に求めている方々が多いですし、求職者としても同じでしょうから、働く上での価値観が合う人と一緒に、社会にとって価値のある仕事をやっていきたいと考えています。

また、ミッションという形では”社会の法的インフラ”というものを掲げていて、電気・ガス・水道といった生活インフラ同様に、欠かせない仕事として法律面でのインフラを担っていきたいと考えています。司法書士に依頼することでかなり得をするとか、何かが劇的に変わるといった、本当に驚くような感動を与えることは難しいので、基本的に我々の仕事の価値はそこにはないと思っているんです。

ちょっと地味な仕事ではあるんですけれども、何かやりたいことや、困っていることに対して我々のソリューションを当て込むことによって、思ったことが実現したり、悩んでいたことが解決するといったようなことが我々の価値だと思っていて、単純作業の仕事も当たり前なんですよね。単純な書類を1枚作るだけとか、作業だけだと思われるかもしれないのですが、我々がそういう役割を担っていることが社会において凄く価値を持っている、そういう形の仕事だと、少なくとも私は思っています。プラスアルファで事業の取り扱い範囲として登記もやるし、相続もやるし、債務整理もやるというのは、まさにインフラ企業でしょうと。

正直、悩んでいる層が多岐に亘っていて、業務によって顧客層・顧客属性が全く違うのですが、そういう方々に対しても司法書士として価値提供ができるのは、この仕事の凄く良いところだと思っています。何か新しい次の事業をやるにしても、法的インフラとして何ができるんだろうという視点で、大枠の考えを基に会社を経営しているという感じですね。」

Q.今後、士業事務所の採用、組織についてはどうなっていくか?

「まず、組織化するか個の力でいくかで二極化するかな、と思っています。これは本当に良い悪いではなく、提供する価値が違うということですよね。

我々のような組織化の価値はやはり、大規模組織でなければ出来ないサービスであり、その社会ニーズに対応していくということで、より多くの方にみつ葉グループという名前を広げていきたいという思いでやっています。キャパがあるということの価値はエンドのユーザーさんからするとあまりイメージが湧かないと思うのですが、依頼を発注する金融機関さんや不動産会社さんからすると、キャパがあるというのはメリットなんですよね。

一方、個の価値でしっかり勝負をして、個としてお客様から評価してもらうという考え方は、これからの時代において益々求められるとも思っています。」

Q.これから生き残っていける士業事務所の条件とは?

「大規模化するにしても個の力でいくにしても、やはり”作業だけをやります”という人は淘汰されていっちゃうのかなと思っています。それは何故かというと、人がやらなくても良くなる時代は、間違いなく来ているからですよね。例えば登記の申請書が人より早く作れますという価値の人って、今はまだ大丈夫だったりするんですけれども、申請書を作るという作業自体が、多分いずれ人がやらなくても良くなってくることは容易に想像できます。

かつては代行そのものに価値がありましたが、ChatGPTもGPTsを使えばノーコードでAIエージェントを作れるようになった訳ですから、今は自社のためだけにそれをやるリソースがないので着手が難しいということはあるものの、代わりにやってあげる行為の価値が下がっていくことになるでしょう。しかし、判断は人の仕事かなと思いますので、手続きでもA案とB案のどちらが良いのか選択するというところは我々の価値の範疇で、それを踏まえて案を実現するためにこれをやりますといった後続作業は、人間がやらなくなってくるのかなと。

そうなってくると、ありきたりかもしれませんが、やはり対人コミュニケーションスキルが重要で、消去法的に仕事が残るのがそこしかなくなってくるのかな、とも思うんですよね。あとは業務構築力ですかね、AIにしてもDXにしても、代替される側の仕事ではなく、それを使いこなす側や構築する側の仕事があると思いますので、士業もそうしたスキルを持っておくべきで、上手く使いこなしていくという発想でやっていく必要があるのかなと感じています。

今後の我々の展望としては、お陰様でスタッフ数は230名を超え、お客様からもご期待いただいているのですが、まだまだ発展途上と言いますか、完成することはないのかなと思っているところです。司法書士業という観点はもちろんなのですが、みつ葉グループが法的インフラ企業であるからには、やはり時代の流れに乗らなくてはダメだと思うんですよね。抗うのではなく、流れに乗りながらどうやって進めていくと良いのかを考えていく。

先が見えない時代ですから、正直どうなるか誰も予想がつかない、我々では分からないと思います。五カ年計画だってある程度の数字上のイメージはあっても、コロナも生成AIも誰も読んでいなかった訳で、5年前にはテレワークやzoomなんて一部だけの話でしたから、同じように次の5年も読めないでしょう。変化が激しい、読めない時代だからこそ、会社としてこの軸はブレないというところが、弊社の場合は三方よしであり法的インフラであって、極論ですがその軸があればもう司法書士業じゃなくても良い、それくらいの組織づくりをしっかりやっておきたいなと思っています。」

宮城誠 プロフィール

1989年1月2日生まれ。九州大学経済学部卒。
2012年、司法書士試験に合格。大手司法書士法人で約6年の実務経験を積み、
2018年2月みつ葉グループ入社。
豊富な実務経験とバランスの取れたマネジメントスキルにより、同年10月に代表社員に就任。
2023年に東京司法書士会理事に就任。司法書士の認知度向上目的のため、SNSでの情報発信にも力を入れる。