司法書士のグループ経営の未来:ベストファームグループ 代表斉藤浩一氏

司法書士のグループ経営の未来:ベストファームグループ 代表斉藤浩一氏

事務所名:

ベストファームグループ

代表者:

斉藤浩一

事務所エリア:

福島県・東京都

開業年:

1992年1月

従業員数:

約240名

Q.司法書士業界の現状をどう認識しているか?

「司法書士業務にも不動産登記、商業登記など色々あると思いますが、DX化やAIツールの普及により、簡単な手続きについては無くならないにしろ収益が出せなくなると思います。自分で申請できるようなオンラインツールも沢山ありますから、それを使う人も当然出てくるわけです。しかし面白いのは、地方ですとまだまだ普通に会社設立を依頼していただけて、10数万円の報酬もきちんと支払ってくださるということがあります。

片や主に東京の若いスタートアップの経営者などは本人申請で簡単にご自身で設立されていて、そのギャップが面白いなと思っています。深く考えれば難しいはずのことが簡単にできてしまっているということは、恐らくもうそれで良いということなんでしょう。

会社が5年10年と続くかどうか、設立当初には分からないのですから、始まりは簡単に作っても良い訳ですね。それで良いという方はタダ同然で設立しても良く、上場するということであれば正式にコンサルタントが入って全てきちんとやれば良い。そのように考えると設立を一律でやっているということが、おかしいのかもしれません。

これも面白いなと思ったのが、昨年9月に横浜の司法書士・行政書士事務所と共同で、ある著名人を招いてオンラインセミナーを開催した際、彼は将来士業はどうなるのかという質問に対して”利害関係者が沢山いる資格なんて無くせませんよ”と、当たり前だろうと答えていました。ただし単価は下がるし競争は激しくなるし、大変になると思いますよ、業界はね。

とは言え司法書士自体の登録は増えていて、相続登記義務化については追い風だと思っている人も多いようです。私共も勢いは感じていて、話題に出ることが多いので思い出されるのか、放置していた登記をお願いします、というご依頼が徐々に増えてきています。ですが先ほども申し上げましたように申請もどんどん簡略化していて、費用を安くしたいというニーズが出てきている中で、専門的な一律のサービス提供ということは恐らく難しくなってくるのではないでしょうか。

だからといって、例えばIPOについてカバーできる司法書士がいるかというと、ごく一部しか対応できませんよね。私はよく例えとして言うのですが、一級建築士には一般住宅を建てる人もいれば100階建てのビルを建てる人もいる訳で、100階建てのビルを建てようという時に近所で個人事務所をやっている一級建築士に依頼する筈がありませんからね。そういう意味で差別化が進んでいくのではないかと思います。」

Q.現状、貴事務所が永続できている要因はどこにあると考えているか?

「私個人としては24歳で開業して、そこから数えると38年くらいになりますが、5年ほど祖父と一緒にやっていましたので妻と2人で創業してからは32年、グループとしては司法書士・土地家屋調査士・行政書士・税理士・社労士、その他にも不動産などを展開していて、スタッフは現在240名ほどになりました。一貫して目指してきたのは地域で一番になるということで、ランチェスター経営などの考えかたを勉強してきました。よくオンリーワンと言いますが、それだって細かいところでは一番になっているということですし、自分しかできないものがあればそれも一番になっているということですからね。とにかく一番でなければ最終的に生き残れない、一番を目指すということをやってきました。

ランチェスター戦略の考えで申しますと、商品を絞り、地域を絞り、自分の最も得意な分野で事業展開をしてきました。司法書士と土地家屋調査士ということで測量登記をメインに据えて絞り、不動産屋さんや銀行、ハウスメーカーなどへ営業をかけて最初は登記で一番になりました。ですがこれは2008年のリーマンショックで一気に需要がなくなってしまいました。

しかしちょうど時を同じくして債務整理の波が来ましたから、私共は福島県で一番受託させていただきました。ただ、今後この状況が長く続く筈がないだろうという危機感も持っていましたので、次は何だろうなと思った時に相続だと考えて、この頃からもう準備を始めていました。

今では結構やっている士業を見かけますが、私共は十数年前からショッピングセンターに相続相談カウンターを出店していたんです。ですが難しいと感じる部分がありましたので、モール型の店舗開設に切り替えるという準備を始めていた頃に、今度は東日本大震災が発生しまして、債務整理については全てストップしました。被災地で取り立てをする訳にはいきませんからね。それからは高齢者向けに絞って仕事を増やすということをしてきましたが、こうして振り返ると過渡期に上手く新しい商品に乗れたということだったのではないでしょうか、その当時は夢中でやっていたと思うのですが。

コロナ禍で普及したオンラインも、結果的には良かったですね。当社は地域に根ざしたワンストップが差別化であり参入障壁だと考えていましたので、なるべく他が真似できないように投資をして、人も商品ラインナップも増やしてきたということがあったのですが、ちょうどコロナの始まりの時期に大きく投資した建物がオープンしたばかりで、非常に打撃ではありました。

ずっと以前から走っていた計画がコロナと重なってしまったので大変でしたが、実はこれも結果として良かったというのが、今後も士業モールという出店を考えていたものの、これもしんどいな、という思いはあったんです。ワンストップと言うからには、全ての資格者を揃えないと、新規出店が困難だと思っていました。

ですがコロナによって遠隔での面談などが普通になったということを考えると、個人事務所がやっているように出店場所でもオンラインでやれば良いんだ、あぁこれでいけるなと思いまして、去年は4店舗出店しました。高齢者向けのサービスであれば間口が一番広いのは行政書士ですから、行政書士を4拠点に出店して、必要に応じてオンラインで司法書士や税理士と面談できる。当時は感染対策にもなるということで逆に皆さんに喜んでいただけました。」

Q.貴事務所経営のマーケティング・経営戦略の考え方と指針、司法書士業界のマーケティングに関する所見は?

「先ほども申し上げましたが、私は一貫してランチェスター戦略で、地域で一番になることを目指してきました。小さな登記というところから始まって、エリアを絞って極力シェアを高め、一番になったら次へ出る、そしてまた一番になったら今度は違う商品を入れる、という風にどんどん一番を増やしていくということをやってきたんです。

ありとあらゆる営業手法をやりました。大手コンサルティング会社の研究会にも入っていますし、横須賀さんはご存知だと思いますが、お客様を訪問した帰り道で、目につく不動産屋さん全てに飛び込み営業をするなど、やれることは今でもほとんどやっています。規模が大きくなってからですと、地方ローカルのTVCMやラジオCMもやっていて、なぜ福島県に絞るのかというと効率よく集客ができるからですね。県内のローカル局は4つありますから、仮に今まで広告費が2拠点で100万円だったとして7拠点になっても100万円ですから、1店舗あたりの集客コストは下がっていきます。当社はWEBも含めたマーケティング担当が3名いますので、ノウハウがどんどん蓄積されていきます。

業界としては全般的に大した動きがないので、私としては助かっています(笑)。そもそも多くがホームページを作るくらいのことで、更新もされていない様子ですから、ほんの一部の人だけでしょうね、きちんとやっているのは。」

Q.貴事務所経営のDX化と司法書士業界のDX化についての所見は?

「積極的にやらなくてはいけないと思っています。ワンストップサービスを提供していますので必然的にシステム化の流れになったものの、適切なパッケージが売っていなかったということがあり、ずいぶん前から独自のシステムを構築しています。周囲から良いと聞いたものは先駆けて取り入れようという風にも思っています。

無料の登記システムといったものは出てくるのが当たり前ですし、AIの契約書程度で大騒ぎしているようでは、今度は外資にも負けてしまいますよね。国内では規制があって無理ですということばかりでは、外資に日本語対応のソフトを作られてしまったら終わりでしょう。」

Q.貴事務所経営の採用と教育に関しての考え方と指針は?

「当社は20年以上前から新卒採用を始めていて、2000年前後ですから相当に早い時期なのではないでしょうか。専属の採用担当者が2名おりまして、新卒も中途もパートさんも、色々な方をしっかり採用していこうということでやっています。

一般企業でやっているようなインターンシップなどは全てやっていますから、当社特有というよりは士業の中で少し特殊なのかもしれません。士業事務所の多くは資金力がありませんから、あまり一般企業のようなことはやれないんですよね。資金調達もあまり上手くないと申しますか、借り入れの手続きはやっているのに、自分ではそれほど借りないということのようですし。」

Q.今後、士業事務所の採用、組織についてはどうなっていくか?

「どんな業界も一緒だと思いますが、上位数社の寡占化が進むのではないでしょうか、地方はよく分からない部分もありますが、特に司法書士については。ネットバンクなどですと、特定の事務所へ全部を発注していて、そこを起点に日本全国の仕事が提携先に依頼されるという感じで、それを3〜4社くらいがやっているんですよね。その現状を地方にいる方々はご存知ないようですが、これからはどんどんそういう風に差が広がっていくように思います。

そうした意味では一般企業と同じようになっていくということですよね。資格業は守られているということを言う向きもありますが、あまり安心はできません。」

Q.貴事務所が得意とする業務についての現状と未来予測は?

「現在は高齢者向けのサービスがメインで、生前対策や相続税対策、家族信託にも対応していますし、事前に契約を結んで判断能力を欠く状況になったら後見人になるという任意後見のサポートや、亡くなった後の手続きも全て可能で、税務申告や不動産も含めたワンストップの強さがあると思っています。

当該分野のマーケットは、あと20年くらいはどんどん大きくなる、拡大していくと思います。参入してくる同業者や他士業も増えてくると思いますが、やはり一番怖いのは異業種からの流入です。中でもブランド力のある金融機関が力を入れていることは、やはり気になります。金融機関が遺言信託のサービスを提供しているのですが、料金設定は当社よりかなり高めです。それにもかかわらず月に結構な件数の契約があるようです。高額でも金融機関のブランド力なら売れるんだと思います。士業やコンサルティングといったサービスは、販売にブランド力がかなり影響すると思います。」

Q.これから生き残っていける士業事務所の条件とは?

「業界全体で仲良く業績を伸ばしていけると良いのでしょうけれども、そんな業界はどこにもありませんから。士業は必要以上に仲が良いと言いますか、ムラ社会的な空気があるので、そうして皆で仲良くやっていれば良いという感じでいると、外部にどんどん喰われていき、結局は下請けになってしまっているように思います。それも加速している気がします。

登記について申し上げると、以前は銀行の下請けであったところ、現在はハウスメーカーの下請けになってしまっています。更に今や銀行もハウスメーカーの下請けで、住宅ローンなどは取り合いですからね。今度は相続についても葬儀社などの下請けになりつつあって、全てがそういう風になってきているように思えますので、そうした中にあって異業種も含めてどう差別化できるのかが、今後の生き残る道かな、と思います。そういう意味で士業は国家資格という信頼がありますから、お客様が安心してくださるというところでは、比較的強みになるかもしれませんね。」

斉藤浩一 プロフィール

1960年福島県石川郡古殿町生まれ。
人口5600人の過疎の町の中学校を卒業し、神奈川県横須賀市の陸上自衛隊少年工科学校に進み、戦車に乗って4年間の高校時代を過ごす。その後、専門学校に進み司法書士・土地家屋調査士の資格を取得し、同資格事務所を開業する。
1999年に司法書士・行政書士・土地家屋調査士・税理士・社会保険労務士による「福島合同事務所」を開設、続いて司法書士・行政書士・土地家屋調査士による「手続きコンビニ」を5店舗展開、イオン等の商業施設内に「相続相談プラザ」を3店舗展開し、2014年4月には集大成である士業及び士業に関連する不動産・金融・保険・高齢者向けサービス等をワンストップで提供する、来店型の「暮らしの情報・相談モール」という業界初のビジネスモデルを福島県郡山市にオープンした。
現在は、福島県7拠点、東京1拠点の総勢220人規模で、ミッションである「士業の業態を変え・常識を変え・社会を変えていく」という使命のもと士業の新しい業態開発という革新に、自ら挑戦している。法律系の事務所経営者としては異色な経歴であり、事業展開も異色である。