行政書士法人名南経営が考える新時代の行政書士:行政書士法人名南経営 荻野恭弘氏

行政書士法人名南経営が考える新時代の行政書士:行政書士法人名南経営 荻野恭弘氏

事務所名:

行政書士法人名南経営

代表者:

荻野恭弘

事務所エリア:

愛知県・東京都

開業年:

1968年

従業員数:

20人

Q.行政書士業界の現状をどう認識しているか?

「行政書士は合格者を増加させていることで未来は非常に明るいと考えています。テックによる業務への脅威は事実としてあります。昨年ハレーションを起こした許認可のオンラインツールに対する所見は横須賀先生と同様で、本人申請が増え、これに合わせた値下げ方向に向かう事務所も多く出てくるだろうと考えていますが、ツールそのものがどのような使われ方をするのかは未だ不明瞭です。

誰もが自身で扱うことができるものになるのか、そうではなくプロが使うツールになるのかで士業の動きも変わるでしょうし、会社設立業務のように値崩れを見越した大手が入り口0円でサービスを展開するという可能性もあります。例えば行政書士の主力業務である建設業許可で同じことが起こりかねないという心構えも必要ではないでしょうか。

ただしテックにより行政書士業務が全て溶けてしまうことはないとおもいます。オフラインの仕事が完全にゼロになることはなくて、本人申請は面倒だという層は必ずいますし、重要な仕事は対面で依頼したいと考えるお客様も相当数いらっしゃるでしょうから、バランスが大事だと思います。手続き前後のニーズをどれだけ拾えるかという点はもっとも重要で、例えば建設業であれば社労士の範疇にはなってしまいますが少し前に表面化した労務管理の問題、行政書士の範疇で言えば経審や外国人雇用など、お客様だけの知見では安心して決定と行動ができない高度な領域の支援、つまり“コンサルティング”に持ち込める要素を見つけるということはポイントですよね。

また、これは司法書士と共通するのですが日本は社会課題の多さに比較して、そもそも士業の数が不足しているということがありますし、特に行政書士は建設・医療・介護・国際関係など国が構造的に許認可のハードルを下げることができない業務を取り扱うことができますから、そうした意味でも明るいと思いますよ。

行政書士がテックなど環境変化をどう見るかによって未来は決まりますし、資格者が増加していると当然、多くが脅威とみている状況を機会に変えられる人も確率的に増加します。

ここはわたしが兼業している司法書士との差です。司法書士は合格者が減少しこういう複雑系的創発が起きにくい状況にあります。

私の個人的な話になりますが、行政書士としては司法書士の登録から随分と後に合格していまして、名南コンサルティングネットワークの創業者が亡くなった際に、新卒入社からずっと行政書士事業を補助者として担当していた私自身が携わるほうが働くスタッフにとって一体感も醸成されて良いだろうという判断から行政書士資格を取得したんですよ。これが平成23年、41歳のことでしたから年齢としては遅いのですが、実は昔から行政書士に対する憧れがありまして。

と申しますのも、やはり行政書士は司法書士と比較して領域が広いですし、司法書士は弁護士を意識し過ぎて(当時、たしか「準弁護士」などという話がありました。)、個人的には違和感のある方向へ進んでいまいた。これは少し違うんじゃないかなという思いがありました。そのため懲戒処分が相当発せられ司法書士全体が委縮ムードになった感じでもありました。

それこそ1998年の司法書士としてのキャリアスタート時からいわゆる不動産決済業務の価値を抽象化して、不動産を会社に置き換えて、M&Aの「決済」業務を獲得するためにはM&A仲介も必要だという感じでグループ全体でM&A事業を展開するようにもっていったのですが、抽象的に目の前の現に行っている業務を捉えると全方位的に凄く概念が広がる、メタ認知していたんですよね。

そういう活動のなかで行政書士の業務範囲の広さはとても魅力だったということです。

そう考えると、どんなツールが出てきてもそれを使ってコンサルティングへシフトすればいい、お客様が求めている状態としてどのようになっていたいと考えているのか、その価値さえちゃんと解っていれば良いんじゃないかなと。それに行政書士は会計業務ができるということが、凄い機能であり、ブランドだと思っていました。直接数字に触れて経営そのものへ踏み込める訳ですからね。

そういう意味で行政書士は、まさにいわゆるコンセプトが士業として一番自由自在になるという風に思ってはいたのですが、なかなか切掛がないままで今から10年くらい前にようやく行政書士資格を取得できて、機会を得たという感じでしたね。許認可の手続きを求めていらしたケースであっても、今度はコンプライアンスをしっかりやりたいというニーズが発生してシフトすることもあるでしょうし、これはもう2003年からやっていることではありますが相続に関しても登記だけではなく相続関係・財産情報収集、遺産分割協議書作成などの相続手続き全般をやりましょうという風に、本当に考え方によって非常に自由が広がる資格だと思います。

Q.現状、貴事務所が永続できている要因はどこにあると考えているか?

「当社はグループのメンバーファームですから、根本的な価値観や採用育成方針、マネジメント重視という中心軸、マーケティングに関するスタンスなど全てグループ全体で同じです、そこはずらさない。

私どもはマネジメント、特にマネジャーの育成について非常にこだわりを持っていて、当社では会社を経営できるくらいにマネジャーが能力を発揮していなければ、進退の話に及びかねないという感じのグループ内の圧力があります(笑)。マネジャーのマネジメント能力が、名南コンサルティングネットワークの全体の成長における主要ドライバーでもあると考えられています。行政書士法人についても同じことで、私自身も25歳くらいで当時は課長という職位でしたが、若くしてマネジャーのポジションに就き、厳しい環境によって育てていただきました。

マネジャーの定義ですが、古典のセオリー通りで、組織の全体方針に従って部門の入力を持続的に最小化・出力を最大化させる、つまり部門の仕事の分析をして、責任の分配をして、人を活かして、成果を出す。いくつかの部門でこの成果を出して、従業員30人以上をマネジメントして付加価値3億円~5億円以上(事業特性による)を実現して次に経営陣の候補者となるというイメージです。

私は現在53歳でしてグループ内の定年が60歳ですから、あと数年でマネジャーを大量に育成して経営を承継していきたいという風に考えています。

一般的に規模の大きな法人は価値観やコンセプトを産み出し辛く浸透させることも難しいと考えられているでしょうし、実際に定型化してライン作業のような仕組み作りをしている事務所も多いですよね。そうするとイキイキ・ワクワクからはずれてくるだろうと思えます。

例えば、自動車関連業務で言えば、顧客ニーズにきめ細かく対応するためにバイクでの書類運搬担当さえ存在するといったような。

士業経営者はいわゆるボスではなくリーダー、そしてマネジャーであれというカルチャーがあり、そうなるといわゆる“ブルシット・ジョブ”のような価値を生まない業務をどんどん見つけ出して無くせという話が当たり前に出てくる訳です。

事務所の価値観を念頭に、自分の担当する業務の前工程と後工程とその価値を教えられ、腹に落とし、そして考え続ける。

全役職員で、仕事を、イキイキ・ワクワクするようなものに進化させ続けていきましょうという考え方につながっていきます。

あと、当社は理念と価値観を全グループで共有していますし、“役員は新人からテスト”もされます。新人が役員からではありません、新人から質問をされて、役員が共有している理念・価値観とずれたことを言うと人事部に怒られる(笑)。ただ、あまり固定化した価値観を共通のものとし過ぎてしまうと時流に適応した進化ができなくなったりしますので、一番大事な所、本質だけを共有しているということはあります。

Q.貴事務所経営のDX化と業界のDX化についての所見は?

「まず経営のDX化ですがこれは個人的には非常に弱い部分と感じているところではありますが、生産性向上のためには積極対応で業界をリードできるようにしていきたいとは考えています。標準化、分業化などによる生産性向上は組織の在り方に依存し、組織は企業文化に依存し、企業文化はコミュニケーションの在り方に依存します。濃いコミュニケーションを好む人ほどDXには抵抗しがちで使わなくなるでしょうし、それでは取り組みを強制するのかというとなかなか難しく、それこそ文化の話ですよね。個人的には、隣に座っている人とも直接でなくチャットで会話してくれというほど極端なことをやっても良いと考えていますが(笑)、これはまだ受け入れられないでしょう。ただ効率性の問題で、例えば社内にいないことも多いですし、全員が一度に話すということができない以上、基本的に非同期のオンラインツールで情報・意志を伝達し、好ましい組織行動を促進するということに慣れて欲しいとは思いますよね。

私やマネジャーは、非同期のコミュニケーションで生産性を上げるということに対する意識を持っていますが、ジェネラル職やアソシエイト職、つまり総合職、一般職、アシスタントさんの立場では息が詰まりますというのは解らなくもないんですよ。しかし本当に生産性を上げなければならないという命題を持っているのは、大企業の経営者ではなく中小企業で、まずは「中堅」企業になるためには時間マネジメント、生産性の向上に集中しなければなりません。

つぎに業界の「DX」ですがこれも個人的には非常に興味のあるところです。
内部と外部に分けて考えます。
内部では、行政書士という職業法律専門家がお客様に価値を提供するための本質的なスキルはヒアリング、カウンセリング、ネゴシエーション、ライティングの4つ。これはDXによって鬼のようにスピードを上げられると考えています。まずは行政書士資格者によるこのスキルセットの高速習得のためのDXが行われることが必要かなと思っています。

外部ではお客様の側の話ですが、機械により非対面、非同期で提供ができることはやる、その反面、行政書士の貴重な対面時間を投入できる分野をはっきりさせて人はそこに集中する。DXにおいては、行政書士の価値をお客様の時間を節約するという部分と、ともに時間を消費するという部分に明確に分けていき、後者を考え続けることが必要になると思います。」

Q.貴事務所経営の採用と教育に関しての考え方と指針は?

「有資格者の採用が多いのですが、やはり価値観に添う方を厳選して採用しています。行政書士は前職で全く違うことをやっていたという方が多いですし、業務経験は全くの不問です。当社の価値観を素直に受け取っていただけることが大事で、そうでなければ本当に能力が高くても採用することは難しいです、大企業での勤務経験がある場合は逆に当社を緩いと感じるようなこともありますしね。また、どうすれば人間関係を良くすることができるのかを学べるかどうかですよね、そういう素直さが一番です。

これは基本的に有資格者を採用しているので問題ないとは思うのですが一応適正検査は実施していまして、やはり偏差値50は欲しいということと、実年齢でなく脳は若いほうが良いという話はあります。なにしろ労働人口の減少で若いというだけで価値がある世界になってくるでしょうし、目を瞑って採用するということに近い状態になるとも思っていますが、やはり価値観・考え方を教えるということには時間も労力も必要なわりに成果がおぼつかないので“素直さ”は採用時にしっかり見ます。知識・技術については新しいことを吸収していくことを中心に考えると、平均的な偏差値は求めます。偏差値70も必要ありませんが、話題になった読書のできない子どもたちのような読解力では結構大きな痛手ですよ。」

Q.貴事務所が得意とする業務についての現状と未来予測は?

「行政書士法人の取り扱い業務は一つの目の柱は伝統的な許認可ですが、例えばクライアントが建設業者であった場合は立入検査で指摘を受けた場合の是正改善支援や、その前段階の予防的なコンサルティングも提供しています。今後はコンプライアンス体制の構築に軸足を置いていく感じです。

もう1本の柱はやはり相続遺言ですね。先ほどお話した通り当社は2003年から着手していますが、当時はまだ葬儀社さんと組むということがなかった時代でしたから、会計事務所や行政書士事務所が何の用ですかといった感じではっきりいって怪訝に思われていましたね。

こうした話をするのは弁護士ではないかという時代でしたが、“相続”を、各種独占業務の個別販売(登記、申告や遺産分割協議書)では終わらせないコンサルティング事業を推進しました。

そして、相続業務はいわゆる事後処理で、マーケティングのプロである横須賀先生へ申し上げるのはおこがましいですがネット上で価格競争に流れやすいですし、差別化要因というか価値観、ハートが伝わらない時もありますから、この5年くらいで遺言など生前の法的なサービスへシフトしました。

今後も全体の基本方針は同様に、コンサルティングには積極姿勢で、という感じでしょうか。組織でありながらも柔軟性を持つということを大事にしたいと考えています。コンサルティングもマニュアルがありますし、と申しますか作ればある訳ですよね、作らないとないですけど(笑)。やはり型通りにまずやって、守破離の守をやってもらった上でということを推奨すると、その時にベクトルが違うとあちこちへ行ってしまったりしますから、物の考え方や価値観、それから作法がしっかりした人に機会を与える、私も昔からのこうした文化で育ててもらいましたからね。」

Q.これから生き残っていける士業事務所の条件とは?

「コンサルティング士業、ともに座って問題を解決し、お客様の行動を促進する専門家というコンセプトが行政書士にも当てはまるのですが、より一層自由な分だけ作り出すということが意外と大変なのかもしれません、要素が多いのでアイディア次第というところでしょうか。私は身体性と言っているのですが、WEBマーケティングが弱いということとは真逆の、当社でやっている身体を動かすことで付加価値を高く設定できる型を皆さんに広げていけると良いなと考えています。

この点、名南コンサルティングネットワークでは職位に関わらず定期的にロールプレイング型の研修をやっていて、これは実施によって得るものが深すぎるほど深い。行政書士法人でもとくに相続分野に関しては20年くらい前に実践して、今のかたちがあります。トークスクリプトとヒアリング項目は覚えてもらいます。この型の習得によって、結果として、力が抜けて、当意即妙で“この人は素敵な人だな”と思わせる対話ができるようになるんですよ。相手のリアクションに合わせたアドリブ、五感を使うということもあって学びが多くコンセプトも沢山出てくるということなんでしょうね、周りで見ている上司・先輩・同僚もあれこれ思い出したように、賞賛と修正のフィードバックができるようになります。対応の当否ではない安全性のなかで失敗し続けて自分らしい勝ち方、法則を学ぶわけです。

正解のない状況こそ機械では対応できない部分ですから、例えば帰り際のお客様から僅かな表情の変化を読み取って望んでいらっしゃることを予測するような力を、ゲーム的なシチュエーションで学んで欲しいと思っています。私は30年かけてこれをやってきましたが、身体を使った仕事でも価値を安くすることなく高めることができるのはこの力だと実感しているところです。」

荻野恭弘 プロフィール

行政書士法人 名南経営 代表者
昭和44年 愛知県岡崎市生まれ
平成 4年 早稲田大学法学部卒 名南経営センター佐藤澄男税理士事務所(現・税理士法人名南経営)入社
平成20年 株式会社名南経営コンサルティング 執行役員就任(相続・M&A担当) 
平成23年 名南行政書士事務所(現・行政書士法人 名南経営)代表就任 現在に至る

【所属団体】
全国行政書士法人会
信託法学会会員

【著書・寄稿】
「司法書士・行政書士・弁護士が陥りやすい信託税務の落とし穴」(2017清文社刊)
「受益者代理人の実務~専門家が代理人になるケース」(家族信託実務ガイド第11号日本法令刊)
「家族信託専門家による受託者支援の実例」(家族信託実務ガイド第22号日本法令刊)
「家族設立法人に自社株信託をしてM&Aに取り組んだ事例」(家族信託実務ガイド第26号日本法令刊)