遺言書AIが変える遺言業務の未来:岡高志行政書士事務所  岡 高志氏

遺言書AIが変える遺言業務の未来:岡高志行政書士事務所 岡 高志氏

事務所名:

岡高志行政書士事務所

代表者:

岡 高志

事務所エリア:

東京都大田区を中心に全国

開業年:

3人

従業員数:

2011年

Q.行政書士・士業の業界のDX化についてどう感じているか?

「基本的に行政書士は小さなビジネスではないかと思います。年商1億円を超える事務所であっても100名は雇っていないと考えると、いかに人を使わずに売上を上げていくかということになりますので、そうした意味でもDXは必要だと思いますね。しかし小さなビジネスであるだけに、企画開発運営に注力できる人員もいないでしょうから、DXの荒波の前に何もできないという現実もあるようで、士業の中でも特に行政書士は二進も三進もいかない業界であるように見受けられます。対応できている事務所は決して多数派ではないでしょうね。

意識の上でも、それほど社会の荒波を感じていないのではないかという印象です。結局、多くは個人事業主でしょうからアンテナが足りない、あるいは手元の業務が忙しくて気がつくことができずにいる部分がある、ということなのではないでしょうか。生意気だと思われてしまうかもしれませんが、私はある意味で異業種から入って来た立場だからこそ、そのように感じるのではないかとも思いますし、だからこそ行政書士のDXに貢献できたら良いなぁという風にも考えています。」

Q.「遺言書AI」とは何か?

「高齢者をお客様とする業務は割と手間が掛かると申しますか、やはり話も長くなりがちで結構コスパが悪い傾向にあると思います。とはいえ重要な分野ではありますので、どうすればコスパが良くなるのかという視点で相談をショートカットしたのが『遺言書AI』という遺言書の自動作成サイトです。

お客様がご自身で生年月日や家族構成、資産の大体の概要などをパソコンでもスマホでも入力できますし、そもそもこれらの情報自体はプロが聞き取るというような大層な話ではなく、簡単な基本情報ですからね。そうした財産の割り振りをどうしようかということと、やはりお客様ご自身の思いみたいなものもあるでしょうから、それも含めて遺言書を自作していただけるというところですね。こうして簡単なドラフトを完成させた上で、更にもう少しプロに相談したいなというお客様を受け入れる体制も取っています。

システム内で弁護士のリーガルチェックも入っていて、全く知識のない方でも無料で個別の事情に合わせたオーダーメイドの文案が出来上がりますので、あとは手書きをしていただくなり、公証人役場へ持ち込むなりしていただければ、もう遺言書が完成します、というツールです。」

Q.「遺言書AI」開発の背景や効果は?(開発理由や結果)

「やはり高齢者を対象とした業務の手間暇、労力が掛かり過ぎているのでペイし辛いという行政書士としての実感が切欠ですね。ただ、ニーズを捉えてという発想ではなかったものの、リリースして1年ほどで1,500件くらいのご利用がありますので、直接お会いしている訳ではないものの喜んでいただけているのかなとは思います。

効果としてはまず、副次的に色々な事例が蓄積されていることですね。しかし1番大きいのは、広く全国のお客様にWeb上でご利用いただくことで、営業コストを抑えて業務を獲得できているという、売上増進効果が得られたことだと思います。

お客様からいただいた感想としては、やはり”便利だよね”と。誰に相談すれば良いのか判らない、士業などの専門家は敷居が高いという要素がWebによって解消できますし、ログインの手間はなく、無料で入力も簡単なので、使い易いと言っていただけています。なにしろ無料のツールですから、ある意味で残念ではありますが(笑)100件に1件くらいは有料での依頼につながるという感じですね。

利用者の年齢層としては70代の方が中心ですが、ガイダンスに従って素直に入力するだけで問題なく処理していただけているようです。一応、全てのサイトにChatbotを実装しているものの、基本の操作がそれほど難しくはないので使うまでもないという感じだと思います。手軽に使えることもあって、お子さん世代の方が試しに入力されているケースもあるようですね。

地域は本当に全国津々浦々という感じで、行ったこともない北海道の端からご依頼いただくこともあるのですが、体制として公正証書にする際に私は立ち会いませんので、全国対応可能という感じです。これが対面での受注であれば、やはり最後のセレモニー的な意味も含めて立ち会うことが多く、それはそれでやはり仕事をしたという実感はありますが、『遺言書AI』は入口が非対面だからこそ広く対応できているという利点がありますね。」

Q.「遺言書AI」は競合他社との違いをどう考えているか?

「私も含めてそれほど目立つことができていないと思っています。実は超大手の銀行が似たようなサービスを提供しているのですが、あまりに使い勝手が悪く話題にもなっていません。ですから、もっと競合が一杯出てくるほうが認知度も高まって良いと考えていて、遺言というものは専門家に相談するのではなく、まずWebで作ってみるものなんだよ、というくらいになると、より良いですね。

年間1,500件というと決して少ない数字ではないように思えますが、対象となる高齢者が年に50万人、10年分として500万人だとすると、お客様を全然獲得できていないという認識です。もし基本的に遺言はWebで下書きを作るものだという時代になったら、流入してくる500万人の1%でもいただけたら良いなぁと思います。5万件が無料ユーザーで、うち500名くらいが有料サポートという感覚でしょうか。

現時点ではまだお客様がそこまでDXに対応していないということはありますが、デジタルを使い倒している層が終活を考え始めている時代で、これからはその若い人たちが歳を取ってきますからね。また、現在はご年配の方でもネット証券や仮想通貨のパスワードが相続時の課題になったりしていますので、専門家が提供する法的に有効な遺言書としていわゆるデジタル遺言との違いを見せつけたいなと思います。」

Q.行政書士・士業のDX化は、今後どうなっていくか?

「士業にとっては自筆証書遺言の作成指導もマネタイズの1つでしたので、これを無料化するというのは嫌な感じで受け取られる方もいらっしゃるかもしれませんが、プラットフォームが整ってくるとデジタル化の文脈の中でどんどん使われるようになっていくでしょうね。

ただ、士業という業界の中で競争が激化するかというと、そこまでではないと感じています。冒頭でもお話しましたが士業は事業スケールが小さいこともあり手を広げることが難しい、しかし、そういった意味では今後、色々な士業のネットワークの中で私のリソースを活かしていきたいとは思いますね。」

Q.「遺言書AI」の展望とこれから生き残っていける行政書士・士業事務所の条件とは?

「今回は遺言書業務に特化したお話をしましたが、ビザについても『VISA De AI』という自動化サイトを運営しています。行政書士報酬を含むビザ申請時の最安値を自動で算出するというサイトなのですが、なぜこういうことが出来るのかというと、我々の側ではなく行政側がデジタル化しているからなんですよね。在留申請手続きのオンライン化は2019年でしたが、我々もデジタルでやれるようになり、お客様からいただくデータもデジタルで受け取れば良い、そうすると、それをそのまま転送する形で申請業務も楽にできる、今こうした流れは建設業や宅建業のオンライン化につながっています。

つまり今はもう、いわゆる代書屋として紙に書いて紙を持っていくという作業ではないということですから、お客様へのヒアリングも、デジタルでオンライン申請の枠内に入るくらいの状況になり始めているのではないでしょうか。それはつまり、我々が中抜きをされてしまうということにもなりますが、先ほど少し触れた超大手の遺言作成サイトと同様に、行政が作るようなものも使い勝手が悪い仕様になるはずで、そのギャップを取り払ってあげる役目は担えると思うんですよ。

大手や行政に良いUIを作られてしまうと我々は本当に干されてしまう可能性はあります。でも、紙だって自力で書けるかもしれないところを、色々と難しいので法律に詳しい専門家が代書するという余地があったように、オンライン申請にも少しだけ代書屋としての役割が残されています。デジタルと法律に詳しい専門家がそのギャップを上手くカバーしてあげる。今までは自分たちが紙を持ってお客様の所へ移動するというのが売りだったのが、デジタル化でかなりコストが削減できているのは間違いありませんし、お客様にとっても私が提供しているようなサイトであれば入力の負担感がない、そうした意味でも士業は行政のデジタル化やオンライン申請に対応して、上手くつなぎ役になれる仕組みを作ると良いのではないでしょうか。

例えば『VISA De AI』はが、無料でその場で見積もりをお出しするという形をとって、入り口の垣根を下げています。お客様ご自身に簡単なフォームへ入力していただくことで、私は業務コストを低減した状態である程度のデータが受け取れる、その分サービスをお安く提供できるという仕組みです。

今後の展望としては、今お話した2つの分野以外にも全ての行政手続きを申請できるポータルサイトを作ります。まだそこまで行政側のオンライン申請が整備されていないので、とりあえずはお客様に簡単な入力をしていただいて業務量を概算し、見積書を自動で出すところまで、β版として2023年6月にリリースしました。https://sinsei-all.com/

また、東京都行政書士会の中で『DX行政書士推進会議』という任意団体を作りまして、来月にはデジタルシフトに関する勉強会を開催します。行政書士が行政手続きの全てを受け付けるポータルサイトを運営するというのは確実に先例のないことですが、色々な形で皆さんに関わってもらいたいと思っていて、具体的な運用についてはまだ検討が必要ですが、アライアンスメンバーを集めようと動いているところです。

冒頭でも申し上げましたが、我々はスモールビジネスの人間です。私はDXに特化していけるという力を持っていますが、それぞれの先生方の強みが必ずあると思いますので、上手く活かしながら皆でつながっていけたら良いのではないかと思っています。」

岡 高志 プロフィール

東京都・大田区で議員・首長選挙に出馬経験がある東京都で一番有名な実務派行政書士。
1976年大阪府寝屋川市出身。
東京大学法学部卒業。東京大学院工学研究科修了と、文理にウイング広め。
信託銀行、証券会社、外資投資会社、区議会議員と職歴は豊富。
行政書士の業務領域も広く、建設・宅建・産廃・運輸・古物業の許可申請、外国人在留資格申請、会社設立、NPO法人設立、補助金・融資相談、契約書作成、遺言執行・相続手続などをてがける。セミナー年間約60回と相談対応にも定評がある上に、自社サイトに設置したAIチャットボットでも相談を受け付ける。
手続業務の自動化を推し進めるDX行政書士でもあり、
遺言書自動作成サイト「遺言書AI」https://okatakashi.net/igonsyo
VISA申請の自動見積もりサイト「VISAdeAI」https://visadeaijapan.com/
行政書士の申請一括見積サイト「申請ALL.com」https://sinsei-all.com/
を運営している。