- 事務所名:
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株式会社/行政書士法人INQ
- 代表者:
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若林 哲平
- 事務所エリア:
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東京都渋谷区
- 開業年:
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2018年10月
- 従業員数:
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3名
- URL:
目次
Q.行政書士資格を取得した経緯と現在の事務所経営の状況は?
「ミュージシャンとしては2003年から活動していて今年で20年目になります。楽器をはじめたのは中学生くらいからですし、バンドという集合体もその頃から途切れなくやっていましたが、2005年に初めて作品を世に出して、それが今も続いているという感覚ですね。当初はタワーレコードと契約していて、その頃は当然もう音楽だけで生きて行くつもりでした。レーベルと契約してマネジメントしてもらいながら給与もいただいていたので、プロミュージシャンとしてやっていこうと。
しかしそれだけでは生活が厳しく、アルバイトなど他の仕事をしながらという状況が続いていました。バンドマンあるあるだと思いますが、実際に周囲もそういう人たちばかりでしたね。行政書士という資格に出会ったのは30歳くらいの時で、10年〜11年前になるでしょうか。2012年〜2013年あたりまでは、それこそ他のことには目をくれずという感じでしたが、20代が終わる頃にはこのまま他の選択肢を探さないというのは、ちょっとまずいことになるのではという危機意識を持つようになっていました。
当然ながらミュージシャンが沢山いる環境に身を置いていた訳ですが、特に私の音楽ジャンルの特性からいわゆるオリコンにランクインするような爆発的なヒットは生まれない音楽をプレイしていたこともあり、自分を含む彼らが全員ずっとこのままだとは思えなかったんですよね。多分みんなキャリアを変えて行くだろう、そうした時にビジネスを始めたりする人もいるだろうし、自分自身も何かを始めたいなというところから、ビジネスを助ける役割を担いたいという視点で色々と探し始めました。その目的に添う現実的な資格業として、行政書士に行き着いたという感じです。
そういう経緯でバンド活動を続けながら資格を取得することにして、これは持ちネタとしてよくお話するのですが、試験の1か月前に3週間のアメリカツアーを組んでしまって、その際に持って行った参考書の束が機材よりも重かったというエピソードがあります(笑)。アメリカの荒野で民法の講義を聞きながら旅をするということをしつつ、合格までは2年かかりましたね。
今でも同じだと思いますが、当時もやはり行政書士として就職するという選択肢があまりなかったということと、元々自分自身でビジネスを始めたいと考えていましたので、資格取得後に早速開業しました。2015年の開業ですので今年で8年目になりますね。現在はINQという会社で執行役員として働いています。同社は代表の若林を中心として、私を含むコアメンバー3名でやっている事務所なのですが、建て付けとしては行政書士法人と株式会社の2つを立て、3名の共通メンバーで運営しているという状況です。
事業内容については開業当初に話を戻したいのですが、当時からミュージシャンはもちろん、他の分野でも事業を起こすとなった時に一番困るのはお金だろうなという意識を持っていて、資金まわりのサポートをしたいなというところがスタートだったんですよ。これは自分自身が苦労したからでもあるのですが、開業当初からそうした資金調達、特に創業融資支援にはずっとフォーカスしていました。
実は開業当初に誘っていただいた行政書士法人で資金調達の担当をしていたこともあるんです。同社で副代表をされていた若林さんともこの時に出会ったのですが、現在のコアメンバー3名は全員がその行政書士法人の出身で資金調達支援をやっていました。そこから部門をスピンアウトしてINQという会社を作り、今に至るという経緯ですね。
もちろん音楽に関してもずっと止めずに活動していますので、たまに1か月くらいアメリカツアーをやりながらWeb会議システムでご相談を受けるということもあり、割とコロナ前からオンライン族でした。」
Q.業界の現状をどう認識しているか?
「開業当初の2015年あたりは、ミュージシャンと行政書士を併存させているという立ち位置の人は周囲にいませんでしたので、自分自身を珍しい存在だと認識していました。しかし、ここ最近は割と”行政書士×ミュージシャン”を私の周りで見かけるようになりましたので、そこだけにフォーカスすれば昔よりも増えてきたものだなという風に感じています。
似たような現象として、士業1本というキャリアだけでやっていない人が最近は凄く増えてきた気がしますね。人材紹介会社にいた人が行政書士として開業し、掛け合わせでサービスを提供していたり、ベンチャーキャピタルに居ながら行政書士の資格を取って海外ビザの領域に興味を持っている方もいらして、パラレルキャリアの士業が凄く増えているように感じています。
実のところ、開業当初は自分でも”音楽×行政書士”というものにイメージが湧いていなかったというか、音楽業界を助けたいという気持ちはあったのですが、具体的にどんな業務かと言われると漠然としていたんですよね。融資や各種の開業届けも少し違うなと感じている中で大きな転機になったのは、自身が海外ツアーを実施する際に利用した補助金でした。クールジャパンの文脈で、海外進出にあたっての経費補助として申請できる国の制度があったんですよね。
これが音楽事業で使える補助金の走りで、自分の経験を活かして周囲へ教え始めたことによって、音楽業界からお仕事をいただけるような流れが生まれました。コロナ禍においてはイベント業界や音楽業界にも補助金という形で予算が割かれたことを士業の皆さんはご存知だと思いますが、行政書士が間に入って音楽事業のサポートに動くということが分かりやすく形になって見えたことが、初めて”行政書士×ミュージシャン”というポジションがワークしていることを実感し始めたきっかけになったと思っています。」
Q.過去の総拡大路線の空気について、どう感じていたか?
「その空気は存在したと認識していまして、行政書士業に専念したほうが良いのでは、と言われたこともあったように思います。例えば”銀行員×行政書士”で融資支援をやっています、と言うとパラレルキャリアを活かしたシナジーが凄く解りやすいのですが、私の場合はシナジーが非常に解り辛く、趣味ですよね?という話になってしまいがちでしたので、場合によっては受け取られかたとしてマイナスに働いていたところもあったのかな、という気もするくらいでした。
ですが、必ずこのキャリアを活かせるという風には思っていたんです。理由としては開業当初すでに音楽業界歴が長かったんですね。10数年とやっていて、そこで見てきた世界は一定のモノになっているという自負がありました。どんな仕事でもそうだと思いますが10年続けるとやはり人的なコネクションも構築されていますし、業界の現状認識はもちろん、今後の動向なんかも見えてくる訳です。
そのような土台があるところへ、行政書士になって業界を見た時に別の視点も入ってきて、新しい情報を得て凄く刺激をもらう中で、あぁ従来のミュージシャン像のままじゃ駄目だな、ビジネスの最先端に取り組んだほうが良いものになるな、という新たな発想も生まれてきたんですよね。キャリアの掛け算をすることでサービスや役に立てる部分が磨かれていくという意識を改めて持ちました。自分の中では音楽と行政書士としてのサポートに共通点が見えていて、やっていることにも一貫性があるんですよ。
今INQで我々が提供しているサービスはスタートアップ向けの融資支援なのですが、私はスタートアップって凄くバンドに近いなって思っているんです。凄く良いものを、良い曲を持っていて、彼らの中ではこれを世界へ届けたら凄くヒットするんだという実感を持ちながら、夢を持ってやっているんですよね。本当に駆け出しのインディーズと同じだと思ったんです。
先ほどのミュージシャン支援の話に戻りますが、やはり補助金についてあまり知らなかったりするという情報の非対称性がある訳で、同じようにスタートアップについても資金調達に関する情報の非対称性があるように思います。そこを別の視点を持ち込んで解決してあげるということにやりがいを感じますね。
右脳的クリエイティビティでアイディアや企画はあるんだけど、左脳的な手段や情報の取得が追いついていない所へ、行政書士として色々なビジネスを目の当たりにすることによって得た視点や感覚を使ってサポートしていきたいなと思っています。」
Q.取り組んでいる事務所経営と多様性の可能性について思うことは?
「音楽活動をやりながらビジネスの支援をするというこの形を、自分としては非常に活き活き伸び伸びとやらせていただいています。代表の若林は元々音楽の人ですから理解してもらえているところもあって、先ほどお話したようにスタートアップはバンド支援に似ているという意味でも、同じような熱量でやれているな、という風に思っています。楽しいですね。
こうこういう新しいやりかたは、今後増えていくのではないでしょうか。根拠として行政書士のお話をしますと、行政書士という仕事は非常に広い分野が仕事の範囲になると思います。許認可だけに焦点を当てても無限にありそうな気がしますし、書類代行になってくるともうほぼ全ての書類が対象になり得るような気持ちにさえなります。そういう意味で、何か今までになかった価値を生みやすい業種であり士業なのかなって凄く思っているんですよ。組み合わせは無限というか、”書類の代行×何か”みたいな話になると何でも仕事として生まれそうな気がしているので、そういう意味では行政書士で良かったなと思ったりするところもあります。
行政書士かミュージシャンのいずれかを専業にしていれば、と考えたことはないですね。自分の立ち位置でやっていることや、やれていることに100%満足しているという話ではなくて、結果としてやりたいことをやれるポジションにいるなと思えていますし、これは1つの業界だけに絞っていたら多分できなかったなと。やはり掛け合わせによってオリジナルが生まれるというところは、ミュージシャンの活動そのものだなと思いましたね。誰もいないポジションを取りに行くというのはミュージシャンが認知されて売れていくには最短の道だったりしますので。仕事でも同じことが言えるのではと思っています。
私は音楽とビジネスで使う場所が違うと思ってはおらず、割と一緒くたになっているかなと。言葉だと格好良く言えてしまいますが、仕事も本当はクリエイティブなところが多いと思っていて、例えば0を1にしなければいけない作業なんかですよね。音楽においてもやはり、やりたいというよりはやらなきゃいけないような面倒臭い作業はありますので、音楽であればこんな苦しみはなかったよなという話も違うと思っています。レコーディングひとつにしても曲ができなくて辛い思いをすることもありますよ(笑)。
また、ここ最近の音楽業界の潮流を見ても割とアーティスト自身が色々と考えていかなければいけない時代になってきているんですよね。ファンコミュニティを構成していこうとか、要はお客様に対するマーケティングですよね、売れるためにはこうしていなかければという。昔のような、感覚でやっていれば売れる、凄いアーティストはもう何も考えなくても売れているみたいなイメージからは変わってきています。マーケティングを含めてやることが凄く増えてきて、これってもう事業をしていることと何が違うんだろうと思うくらいですね。
最近は本当に結局一緒のところにつながっているんだなと改めて感じることが多くて、当然と言えば当然なんでしょうけれども、あまり当事者としての意識がなかったのかもしれません。考えてみるとファンクラブだってダイレクトマーケティングのようなものですからね、毎月コンテンツを提供して最後はコンバージョンみたいな、まさに顧客第一という意味ではサービス業ですよね。」
Q.今後、士業事務所が生き残るためには何が必要か?
「最近INQのメンバーで飲む機会がありましてChatGPTなどAIの話で盛り上がり意気投合したことがありまして例えば金融機関に提出が必要な事業計画書の作成みたいなことは将来的にAIに置き換わるよねと。金融機関と事業者を媒介するというか、間に入るのも我々の仕事ですが、これもAI審査の発達によってダイレクトになってくるだろう、それでは我々の立ち位置はどうなるのかということは考えていかなければいけない訳ですよね。
そこで結局、今後AIが主流になっていったときに勝てるところとして、人間味というかおもてなしの部分って絶対なくならないよねっていう話で凄く盛り上がったんですよ。例えば全ての旅館のスタッフ全員がロボットって体験としてはちょっとつまらないじゃないですか。そこへ行って良かったという気持ちは、旅館で働く人のおもてなしやコミュニケーションであったり、そこでの出会いだったりするものから生じる訳で、そういう体験によって良かったなと思えるようなサービスが、今後生き残っていく上で価値になるのかなという話をしていました。
INQという会社がスタートアップに特化していることについても、我々メンバーそれぞれのバックグラウンドなどが凄く重要になってくるんだろうなと思います。また音楽の例えになってしまいますが、今後はAIが売れる曲を分析した上で曲自体も作るようになると思うんですよね。今でもChatGPTが歌詞を作ってくれますが、OpenAIは別のシステムで音楽を作り始めているということもあり、もうそれが当たり前になる中で多分クオリティは均一化されるんだろうと思うんです。良い曲が溢れるでしょう。
しかしながら、ヒトが聞きたいのは良い曲というよりも”その人が歌っているから”という属人的な話であって、歌い手のバックグラウンドや生き方がこうだから、例えばパンクロックに説得力がある、共感してもらえるという気がするんですよ。こういう体験をしてきた人の言葉だからこそ、その人自体の価値になってくるのかなって話をしていて、仕事もやはり同じように、その人が提供することに意味があるっていうところまで持っていきたいなと。」
1981年生まれ。スタートアップの融資や補助金等による資金調達の専門家。
インストロックバンド「LITE」のギタリストとしても活動し、国内外で公演を行う「行政書士×ミュージシャン」のパラレルワーカー。
スタートアップの金融機関からの融資の可能性を最大化するコンサルティングを行うだけでなく補助金の申請サポートも行っている。