AI相続:株式会社みなと相続コンシェル 弥田有三氏

AI相続:株式会社みなと相続コンシェル 弥田有三氏

事務所名:

株式会社みなと相続コンシェル

代表者:

代表取締役 弥田 有三

事務所エリア:

東京都品川区

開業年:

2018年10月

従業員数:

8名

Q.⼠業の業界のDX化についてどう感じているか

「”DX”と⾔えば反感は少ないのですが、実際は一部業務のシンギュラリティだと思っています。元々、⼀⾔で⼠業の仕事と⾔っても、本当は本⼈でもできる程度の単純労働と、正しい知識を基に時には根気強く関係者の話を確認しながら判断しなければいけない本当の意味で専門家の価値があるものが混在しているわけですが、意外と前者の範囲が広いのです。

そして単純労働については完全にAI の⽅が早く出来てしまうわけであり、まさにシンギュラリティになってしまっている訳ですね。ですから、DXによって単純労働の領域は間違いなくリプレイスされていくと実感しています。その結果、業界としては益々専⾨性が問われる状況になっていきますし、知識やコミュニケーション⼒など単純作業ではない本来の領域に集中せざるを得なくなってきていると感じています。DXは⼠業の真価が問われる転換点になるのではないでしょうか。

DXで仕事を奪われるようなトーンで話題になることも多いですが、本当は⼠業にとってもDX 化は良いことだと思っています。単に独占業務や既得権益だけで守られていただけの仕事がなくなるのは仕⽅がないことであり、そうではない専⾨家としての知識が必要で本当に⼠業として感謝されるような価値ある仕事に集中できるようになっていくのであれば、本来のあるべき姿なのではないでしょうか。」

Q.AI相続とは何か

「AI相続とは、誰でもかんたんに無料で相続税の申告書を作成できるクラウドサービスです。普通の家族の視点でUIを作り込んでいますので、従来の税理⼠向けソフトと⽐較して圧倒的に使いやすいものになっています。知識がなくても直感的に扱えるため、早い⼈であれば⼀時間ほどで作業が完了します。ブラウザで動きますのでインストールの必要もなく、遠隔地に住むご家族同⼠が情報を共有しながら⼊⼒することもできます。

また、相続税申告書の作成という目的だけでなく、ご⾃⾝の終活をされている方にも大変多くご利用いただいております。相続税の試算や、自分に相続が起きた時にどんな財産があるか家族が分かるようにしておくための下準備として財産を⼊⼒しておくというような活⽤⽅法です。
その他、⼠業の⽅がコンサルティングツールとしても使ってくださっており、現在は毎月ご新規で300から400件のユーザーが増えている状況で、シェアはナンバーワンです。」

Q.AI相続開発の背景は?

「私は元々⾦融機関に勤めておりまして、現場で多くの相続に携わる中で、財産総額に単純に比例して高くなる税理士報酬の不明瞭さと、そもそも家族が自分で行うという選択肢がないことについて疑問に感じていました。特に税理士報酬の部分には違和感がありました。家族の中に争いがあり、その整理が難しい場合だとか、評価が必要な財産が数多くあって報酬が高くなるのであれば納得できるのですが、家族の中で争いもないのに現預金が多いというだけでなぜ高い報酬になるのでしょうか。

そのため、財産総額に⽐例しない明瞭定額な税理⼠報酬で相続税申告ができるサービスを仲間とともに始めたときに、AI相続を開発することにしました。
というのも、従来の報酬相場と⽐較すると私たちの報酬基準はあまりに安く⾒えてしまい、お客様に「安かろう悪かろう」という誤解を受けてしまう懸念があったのです。ですから、AI相続によって「相続税申告は本来自分でできるものであり、税理士への依頼は外注にすぎない」という当たり前のことをお客様に感じていただくことができれば、私たちの報酬が妥当であることを理解していただけると考えたわけです。

ただ、AI相続の開発には苦労しました。世の中に優秀なエンジニアは多くいらっしゃいますが、家族向けの相続申告専門のソフトというこれまで世の中になかったものを作るためには、会計的な素養もないと作ることができません。その要件を満たす人はなかなか存在せず、開発費は膨らみましたし、開発期間も長くかかり、結局ローンチまで約1年かかりました。」

Q.AI相続リリースの結果は?

「いろいろな部分で私たちの予想外のことが起こりました。
まず、当初のイメージでは、AI相続利用者が10人いれば、そのうち1人か2人は使いこなせない人もいて、私たちの対面の税理士サービスである「シンプル相続」のご相談になると思っていたのですが、その推測は大きく外れました。実際には10人に1人に及ばないどころか1%にも満たない割合でした。一方で、ご利用者数の伸びは、私たちの予想を大きく超える成長を続けています。
このような結果になったのは、ソフトウェアの完成度が高かったことがもちろん大きいのですが、利用者の声を聞いて浮かび上がってきた事実はそれ以上に大きな現実でした。」

Q.家族と税理士の間に存在する立場上のギャップとは?

「AI相続をやってみて実感した予想外の現実は3つあります。

まず、ご家族が本気で⾃分たちの情報を⼊⼒しようと思ったら、相続税申告の難易度は非常に低いということです。そもそも、相続税申告書作成における税理⼠の仕事を細分化して考えると、税務上の判断や評価よりも、財産の抜け漏れを起こさないためにお客様の属性や事情、背景といったものを把握するためのコミュニケーション⼯数の⽅が圧倒的に多いことがわかります。
この部分の工数がご家族たちが本気になって⾃分でやろうと思った場合には、ほとんどかからないのです。

次に、ご家族はミスを恐れていないとうことです。
ご家族は財産を正しく申告しようと心から思っている結果、税務署を信用しており、逆に当初申告にミスがあることを必要以上に恐れていません。
税理士が依頼を受任する場合は当然大きな責任がありますので、経験と善管注意義務の限りを尽くして100%の完成度を目指さなければなりません。しかし、⼀般の⽅は必ずしもそうではなく無難に提出さえ出来れば、少々のミスがあったとしも税務署の指示に従えばよいと純粋に考えているのです。納税意識は非常に高く、脱税するつもりなど毛頭なく、万一間違いがあっても実際に修正申告で済むわけです。
それを感じている普通のご家族からしたら「自分でやるとミスをする」「ミスをしたら大変なことになる」と必要以上に不安を煽っている税理士はもはや不信感の対象でしかありません。ある意味で100%の申告書提出というのは普通の家族にとっては過剰なサービスなのです。

しかし、専門家が受任する以上は適当なことはできない。このギャップは埋めることができず、そのギャップに気づかせないために必要以上の不安を煽るだけの訴求は限界が近づいていると思います。
さらに言ってしまうと、少なくとも相続税申告においては自分で申告することに経済合理性も成り⽴ってしまいます。確かに過少申告の際の延滞税や、過大な評価による必要以上の納税をしてしまった場合はそれは本来必要がなかった不要なコストです。しかし、税理士報酬が高止まりしている相続税申告においては税理士報酬を払うよりは安くつくことがほとんどなのです。

3つ目は、自分で相続税申告をしたいというニーズです。
実際、AI相続のユーザーから「税理⼠報酬が節約できたから嬉しいのではなく、自分たちで家族話し合いながら手続きできたことが嬉しい。」というお声を多くいただいています。
「父の人生を振り返るように財産を一つひとつ確認して供養にもなったと思う」というような口コミは想像以上に多いのです。大半の家族によっては、税理士がどんなに完全無比な申告書を作っても、従来の税理士サービスは高いうえにサービスの質も低いものなのかもしれないのです。
逆に言うとこれらの現実を理解して、しっかりとしたサービスを提供できる税理士が大きく伸びるのではないでしょうか。」

Q.相続税申告市場のこれから

「業界全体としては、やはり少しずつ報酬が下がる傾向が続くと思います。一部の大手が最近値上げをしましたが、法人内の税理士不足による一時的なものと思われます。ですので、トレンドとしては規模の論理による合理化を目指して大手が更なるシェアの拡⼤を進めると思います。
一方、自分で申告をする人も増えると思います。

現在は⾦融機関や雑誌による「相続は揉めて⼤変だ」というプロモーションが浸透していて、⾃分で相続税申告が出来るということを知っている⼈はまだまだ少ないですが、結局は本質を抑えたサービスが残ると思います。⼤⼿事務所の相続税申告の取り扱い件数が年間約3,800件(2022年10⽉時点)に対してAI相続が現在年間約4,000件です。相続税申告全体では年間約16万件行われておりこのうちの税理士関与割合は約85%です。AI相続は残りの15%の部分をまず寡占したいと考えています。年間2万件以上の方が使うようになれば、私たちが感じてきた相続の価値観も浸透し、私たち自身も社会に新しい価値をさらに提供できると感じています。」

Q.⼠業のDX化は、今後どうなっていくか︖

「業務効率化ということ以外に、冒頭でも少し申し上げましたが単純労働だったものがリプレイスが一度動き始めたらその流れはもう⽌まらないと思います。
これまでは⼠業の持つ雰囲気や、情報の⾮対称性により動きが⾒られなかったかもしれませんが、相続税申告をするご家族だけ考えても、相続人世代である60 代前後の方々は当然スマホを使えますし、分からないことがあれば検索するといういわば社会⼈としての基本動作が自然にできます。昔のように⾦融機関や葬儀社からの⾒積もりを単純に受け取るのではなくてご⾃⾝で調べています。今後、より若い世代になれば更に情報の⾮対称性はなくなっていくでしょうし、DX 化はもう⽌まらないと思います。」

Q.今後、⼠業が⽣き残っていくためにDX化やAI の活⽤については、どのような考え⽅が必要か︖

「やはり人にしかできない本来の領域を研ぎ澄まして、専⾨性を⾼めていくしかないのではないでしょうか。どんなにDX化が進み、AI が発達したとしても、お客様の声を丹念に聞いて、時には共感し、調整をして正しい判断をして、提案して導いていくということは⼈間でなければ出来ません。仮に出て来た結果が同じだったとしても、そこに⼈が介在し、伴⾛して出来上がった成果物と、AI が⼀瞬で出してしまうもの、こればかりは価値が違います。」

弥田有三 プロフィール

株式会社みなと相続コンシェル 代表取締役
2000年 証券会社入社。プライベート・バンキング業務を経て、2006年に金融仲介業として独立。 富裕層の長期的な視点での資産運用・管理に強みを持ち、相続および事業承継の実務経験豊富。専門家であるとともに、実践家であることを信条としており、自身の資産を率先して運用。金融商品による国内外の投資はもちろんのこと、2008年 発展途上国にてIT会社を設立の参画し、取締役就任。投資については長期投資を基本とする一方、富裕層顧客の代理人として数多くの不動産売買を担当。自分自身も売買を重ね、これまでの引っ越し回数は18回。