遺品整理企業から見た 選ばれる士業:株式会社スリーマインド 屋宜明彦氏

遺品整理企業から見た 選ばれる士業:株式会社スリーマインド 屋宜明彦氏

事務所名:

株式会社スリーマインド

代表者:

屋宜明彦(家じまいアドバイザー)

事務所エリア:

関西全域(近畿2府4件)

開業年:

2016年7月

従業員数:

11名

Q.遺品整理企業から見た、相続の現状をどう認識しているか?

「まず仕事についてご説明いたしますと、当社はどちらかといえば”家じまい”に特化しておりまして、大きな片付けですので不用品回収業とは異なります。家を閉じるという方が8割〜9割くらいで、その内容は遺品整理と生前整理です。遺品整理は亡くなった方の最後の部屋の片付けですので、相続のステージになりますね。

生前整理は圧倒的に住み替えが多いです。当社の場合は、少量の荷物(不用品処分)の片付けはあまりお引き受けしておらず、部屋全体(大きなかたづけ)を対象としています。家を閉じて介護施設へ引っ越しをしたり、お子さんの家の近くに住むといったようなスモールモデルへの住み替えが多いですね。介護施設で生活している方の中には、元々お住まいだった家をそのままにしておかれる方も多いので、もう家に戻ることはないだろうということが確定した場合に、その家を片付けに行かれる(家じまい)ということも生前整理の1つです。

介護施設に住み替えてみたものの、自分には合わなかったらどうしようとか、帰る場所がなくなるのは怖いなぁと思う方は多いでしょうし、何より自分が作り上げてきたものをゼロにするというのは、それなりの勇気がいることですから、家じまいに足踏みされるのは当然ですよね。それに、もちろん皆さん元のお住まいへ帰るつもりでいらっしゃいますから、それがどうしようもなくなって閉じるという時にお手伝いする、というケースが比較的多いです。

遺品整理は相続人からのご依頼がほとんどで、お子さまからというケースが多いのですが、片付けたくても片付けられないということが、まずポイントになります。片付けられない理由としては、近くに住んでいないですとか、荷物が大量というものが挙げられますが、特殊なケースとして孤独死・孤立死、自殺や殺人なども見受けられます。当社の年間作業件数が650件ほどで、その1割くらいという非常に少ない件数ではありますが、やはりこうした特殊なケースにご家族が直接関わることは心苦しいということがありますね。

そして、こうしたケースこそ恐らく今後の士業にとっての可能性ということになってくると思うのですが、お子さまがおられない、いわゆる”おひとりさま”と言われている方や、ご結婚されていない方などの死後事務については、専門性を持った方が携わる必要のある世界になってくると思うんですよ。

基本的に一般の方で相続の知識が少ない方には難しいですよね。死後事務手続き以外にも、その手前で、生きている間に作成する遺言書や死後事務委任契約書、更にその手前ですと任意後見契約、他にも金銭管理契約など、そのあたりは士業が担っていかなければ、多分誰も何もできない。ご相談いただいた方で悲惨だと思ったのは、相続人の見つからない資産家の遺産が全て公庫に入るパターンで、こうしたケースは、元気な間に士業との連携が必要だと思います。」

Q.相続に関連する企業にはどんな企業があるのか?

「我々の業界は割と”終活”でひと括りにされた内容で相談をされてしまいがちですが、私は相続を専門とする士業が主体であることが一番良いと思っているのです。いわゆる終活に付属するものは、生きている間と死後の世界の大きく2つに分かれると考えていて、生きている間に必要なのが身元保証、身元引き受け、後見人、介護施設を紹介する会社、介護事業所、FPさんあたりでしょうか。

亡くなった後で必要なのは、まず遺体の引き取りですね、そして葬儀。お骨になった後は納骨、遺品整理、不動産売却、墓石を取り扱う石材店といった関連事業がありますが、私の知る限り意外にも士業の方々は不動産屋さんを除いてこれらの事業者とは繋がりが薄いように感じます。

例えば葬儀社はそれほど時間に余裕がある業界ではないようで、実際の案件がない状態でタラレバの話をベースに営業をかけられるのを嫌がるといった方が多いです。その士業が沢山のクライアントを抱えていて、もしその方々が亡くなった場合には葬儀が必要で、葬儀社としては繋がっておくことで未来のお客様を押さえた状態になるということが、ピンと来ないみたいですよね。今とちゃうんかい、みたいな(笑)。

ですから逆に実務が発生した際に相談するという形で、ちょっと1回話を聞いてもらえますか、という感じの営業はアリだと思いますね。実は結構、士業の方に葬儀社を紹介して欲しいと言われることがあるのですが、どちらかと言うと先方から嫌がられてしまって、紹介した私もあまり良い顔をされなくなるということが何度かありました。ですからアプローチとしては仕事をくださいということではなく、葬儀屋さんに仕事をお願いしたいのです、という姿勢が良いと思います。

私は事業者連携のチームを複数箇所に作ったり参加したりしていて、先ほど並べた関連業種は大体網羅しています。中にはお坊さんに入ってもらっている団体もあって面白いですよ。熱心な宗教家はありがたいことに仕事を多く作ってくださいますし、お坊さんの言葉のパワーは半端じゃありませんので、仲良くなっておくと良いかもしれませんね。下手に近づいていくと嫌がられてしまいますので、相手から近づいてきて頂けるような仕組みにすると良いと思います。

営業という側面だけではなく、こうした関連事業者と関係性を作っていくという意味でも、コミュニケーション力は実務家として必要だなと思いますね。」

Q.相続関連企業から選ばれる士業、選ばれない士業の違いとは?

「私としてはもうテーマは相続だけ、ということで決まっています。例えば司法書士であれば不動産登記がメインという方ではなく、リーガルサポートに登録している方や、相続・遺言・後見を取り扱っている方がターゲットになります。行政書士も同じで、許認可ではなく相続をテーマにされている方、基本的に高い専門性が見える方でなければ依頼はし辛いですね。

また、ふわっとした回答で申し訳ないのですが、僕から士業をお繋ぎする時の選ぶ基準としては、一番は優しい人が良いです。例えば現場で難しい書類が見つかった際の内容チェックや、相続の手続きをご自身でやろうか迷っていたり、遺言書を作りたいという依頼者がいらっしゃる場合、または当社へ直接ご相談いただいた際などは士業へ繋いだりしております。

その時にはお客様へお尋ねします、例えば大手が良いのか、親身になって寄り添って対応してくれる人がいいのか、女性か男性か、エリアはどこなのかなどを確認した上でお繋ぎするのですが、私としては本当に1つだけです、優しい人。今ではだいぶ減りましたが、かつていた士業特有の大上段に構えた感じの方はお繋ぎするのは難しいですね

他には清潔な事務所なども大事だと思いますが、正直お客様には士業の判断基準がイメージできていないという印象なのです。士業=ハードルが高いという感じで、まず自分で直接問い合わせをすることも躊躇するでしょうね。電話でも考えて止まるという感じで訪問はもっと難しいでしょうから、お客様としては繋いでもらえるほうが安心なのですよ。そういう時に優しい方だと、こちらもお客様に「この方なら親身に話を聞いてくれますよ、凄く丁寧に対応してくれますよ」と言えますし、もうハードルが下がりますよね。

私がされて嬉しいアプローチとしては、欲しいと言われるより「あげたい」というスタンスの方が良いですね。我々はお仕事をいただくことのほうが多いのですが、時々こちらからお願いすることもある訳で、そういう時には我々の仕事を理解してくれていて、お仕事をご依頼頂けている先生へ優先してお声がけします。最近、開業直後でこれから頑張っていきたいという熱心な若い先生へお繋ぎしたこともありましたが、熱心でしっかり取り組んでくれる方なら良いかなと思います。」

Q.相続業務についての現状と未来予測は?

「相続をメインにされている士業の中には、我々のようなかたづけ事業者を複数社知っているという方もいらっしゃいますので、もちろんその中で選ばれるための努力もしています。当社が独自にやっていることもありまして、例えば作業報告書の作成や、後見案件であれば家裁へ提出する追加書類として現場の様子が詳細に分かる完了報告書をお渡しするなど、要は誰が見ても納得できるような資料を作るといった指導には気を配っています。

私は将来的に、相続がソーシャルビジネスのジャンルになってくると考えています。もちろんB to Bも大事だと思うのですが、B to Cで広げていくほうが良いのではないかと思っていて。これからもおひとりさまが爆発的に増えていきますから、そういう方々をサポートする、一緒に歩いてくれる誰かが必要になると思うのですよね。私はそれが、士業であると思っています。周辺には相続をしっかり勉強しているNPOや一般社団法人も必要でしょうが、主体となるのはやはり士業ではないでしょうか。

でも士業の方は面白いと言いますか、士業同士では連携されている一方で、我々のような関連事業者との関わりを強く持っている先生が少ないですよね。まずはご自身のエリアだけでも、派生して必要になるだろうなという業種を想像して、ネットワークを作っておくなどされると良いかもしれませんね。」

Q.これから生き残っていける選ばれる士業事務所の条件とは?

「私がこのようなことを申し上げて良いのか分かりませんが、若手に伸びていって欲しいなと思います。例えば死後事務委任契約に際して、遺言執行者になってもらう方が高齢って実務的にちょっと有り得ないじゃないですか。そう考えると先輩方としては若い担当者へ引き継げるように、ちゃんとバトンを渡していくような勇気も必要だと思います。

そういう意味では若い人にチャンスがある業界とも言えますし、私がお繋ぎする時にも、ご自身やご自分のご兄弟よりも若い方を指名してくださいね、と言いますね。そして引き継がれる側の若い方々も、受任した以上はご自身の会社を潰さずにご依頼いただいたお仕事をやり遂げるという覚悟を持っていただきたいと思います。我々はご自身が亡くなった後の遺品整理を依頼される事を生前契約と呼びますが、亡くなった後に履行される契約を生前に1件でも取ったなら意地でも潰してはいけないということです。その方の想いを最後まで全うして、見届ける責任があると思っているので。

当社の生前契約も今はもう120件を超えました。自分が亡くなった後に遺品を整理してね、という感じのご依頼ですので、履行の時には士業との連携が必要になりますね。偉そうに言ってますけど、うちの会社が潰れたらすみません(笑)。

あとは、コミュニケーションじゃないでしょうか。失礼ながらコミュニケーション能力は、どちらかというと業種的に圧倒的に低い業界だと思っていまして。逆に、相続で仕事をバリバリ取っておられる先生方は、やはりコミュニケーション能力が非常に高いです。対等にお話をしてくださいますし、上も下もなく横軸で考えておられる方が多いですね。

ひと昔前は仕事を”やってあげている”という感じの方が多くて、今はそういう方もだいぶ減ってはいるものの、我々はどちらかというと悪い言い方をすれば下請けになるのですよね。それを下請けと見るのではなく、お客様をサポートするためのチームにいる対等な仲間なのだというフラットな目線を持っている方は、仕事が集中しています。そうでない方は気づいていないのかもしれませんが、多分、態度に出てますね。

最後は少し難しいかもしれませんが、法人化していくほうが良いかなと思います。士業は1人でやっておられる方が圧倒的に多くて、要は自分が死んだ後のことをあまり考えていない方が多いのではないかと。もちろん資格業ですので難しい面はあると思います、私も割と大きな事務所で息子さんが資格を取れずに難航しているという例を知っていますし。頭の良し悪しではなく適正だとも思いますしね。

それでもやはり、事業を上手に継続していくことや、どこを向いて仕事をしているのかを考えたときに、先ほどの生前契約を筆頭とした、長期的に関わっていかなければならないような案件を抱えた上で、1人というのはリスクが高いですよ。潰れない筋肉質な会社にしようと思ったら、法人まではいかずとも、ちゃんとバトンを渡せる連携チームを作ってもらうほうが安心ということはあるのではないでしょうか。」

屋宜明彦 プロフィール

一般社団法人 心結 (しんゆう) 代表理事
株式会社スリーマインド 代表取締役

家じまいアドバイザー®、相続手続カウンセラー®、後見人相談士®、終活カウンセラー®、整理収納アドバイザー®、シニアコンシェルジュ®、マンダラエンディングノートファシリテーター®、自分史活用アドバイザー®、グリーフカウンセラー®、シニアライフカウンセラー®

一般社団法人心結(しんゆう)を2016年8月に設立 遺品整理や生前整理の現場を6年経験し、3000件以
上のお客様をサポート。自分の経験を元に、もっと役に立ちたいと想い独立。現在は、家じまい事業を中心とし、高齢者サポート分野で新たな付加価値を創造するべく事業展開を進める。