多様性のパイオニアが語る士業のこれから:もりた・サポートオフィス 森田舞氏

多様性のパイオニアが語る士業のこれから:もりた・サポートオフィス 森田舞氏

事務所名:

もりた・サポートオフィス

代表者:

森田真佐男(社労士・行政書士)

事務所エリア:

長野県長野市

開業年:

2003年9月

従業員数:

グループ9名

Q.士業の新規開業者や現在経営中の事務所について感じることは?

「地方でも開業しやすい時代になったのは凄く大きな変化だな、と思っています。電子化が進んで、且つコロナでWEB会議システムが一般的になったことでオンラインによる顧問ができる時代になった、だから地域が関係なくなったというのは、非常に大きなことだと感じていますね。

私は長野県の高校を卒業して、神奈川県にある短大に進学しました。10年ほど働いた後に長野県へ戻って開業してもう20年目なのですが、1点オンラインの普及についてデメリットを感じているとすれば、知識や情報の仕入れの価値が薄れてきていることですかね。当時はそれほど地方から東京へ行く人が多くなかったので”長野から来たの!”という感じで驚かれました。その空気は今も少しはありますが、仕入れ自体が以前に比べると簡単なことになってしまったので、東京へ行って仕入れをして帰って来て、ということの価値は薄れてきているのかな。やはり東京へ行くのはガッツが必要でしたが、今はもうオンラインで幾らでも情報が手に入るのがデメリット、一方で全国がターゲットになったという点はメリットだと思います。

社労士全般の雰囲気で言いますと、電子申請が可能になって役所へ行かずに済むようになったのは大きいというか、良くなったことですよね。一方で、昔ながらの文化が変わらないなと思う部分もあります。」

Q.現在の事務所経営の状況は?

「本当に色々なことをやっていて、16年前からコーチングスクールを始めましたし、学校や行政、企業など色々な機関で講師をやらせていただくこともあったり。不妊治療と子育てをしている間にお母さん向けの団体を設立したり、その関係で飲食店もやっていたり、今は15~20年前に主宰していた『開業ダッシュの会』という社労士向けの会をオンラインサロンとして復活させていて、直近ですと講師歴が長いことで良い評価をいただけているので、話すということに特化した講座を作ったり、という感じで、基本的にはやりたい時にやりたいことをやるというスタンスです。社労士業務もものすごく多いわけではないですが、お客さんからの相談などの対応ももちろんしています。

”出会いと学び”を大事にしていまして、これらによって人生が変わると思っていますので、より良い出会いとより良い学びの場を作るということが鍵になっていて、これが基本にあれば何をしていても自分らしいのかな、という感じです。外から見ると色々なことをやっているように見られがちですが、自分の中では整合性があってブレてはいないんですよね。」

Q.過去の総拡大路線の空気について、どう感じていたか?

「事務所名が”もりたサポート・オフィス”なのですが、夫は一応行政書士資格も持っている上で夫婦共に社労士を持っているという状態の事務所名として、”森田社会保険労務士・行政書士事務所”ですと凄く長くなってしまいますよね。

もし失礼だと思われてしまうと申し訳ないのですが、どちらかというと私たちは士業になりたくて資格を取ったというよりは、会社員が向いていないから資格を取ったほうが良いよね、資格を取って独立開業、みたいな文化がある中で、資格業の予備校が目に入ったので、じゃあ、という感じで資格を取ったんですよね。

ですから私は合格するまで社労士と接したことがなくて、行政書士も前の職場の社長が資格を持っていたから知っているという程度でしたので、何になりたいですとか何をやりたいというものがなく実務経験もなく、全く分からないまま開業したという感じでした。ですから当時の業界的な拡大路線に対しても、ありがたいことに”こうあるべき”というものがなかったので、先輩方を凄いなぁと思って眺めていました。

名称を”もりたサポート・オフィス”にしたのはやはり、サポートする人でありたいな、と思ったんですよね。もちろん社労士・行政書士としての業務も重要ですが、お客様の役に立てる事務所でありたいという想いを事務所名に込めました。

士業で1,000万円稼ぐ、みたいなことが流行り始めた時は、確かにあぁそれくらいなんだ、と指標にはしないまでも意識しなかった訳ではありませんでしたが、どちらかといえば拡大して売り上げを伸ばして従業員を雇って、というよりも自分たちとお客様が幸せであることのほうが大事だと思っていました。

もちろん、他の事務所を見習わなければという気持ちもありましたが、他の先生方は皆さん凄いので同じ土俵で戦うことができる訳がなかったんですよね。私は当時29歳〜30歳で夫もまだ30代前半でしたから、年齢も若い上に経験もありませんでしたし、それこそ2人ともが無職だったとはいえ、半年の勉強で1回で合格することができたので知識も凄く浅くて。完全に試験のための勉強でしたし、そんな私たちが専門家でありプロである他の先生方と戦える訳がなくて、同じ土俵には乗れなかったんですよ。

これは数年経ってからの出来事なのですが、もちろん色々とマーケティングの勉強もしていて、ある時東京のセミナーへ行ったら地元の先輩社労士がいらしたんです。とても有名な、重鎮の女性の先生で、お互いに奇遇だねなんて話していたのですが、実はその先生は以前から私たちに”自由にやっていいのよ”と言ってくださっていた方なんですよ。

私は一時期、地域ブログのポータルサイトを立ち上げるということをやっていて、その関係でたまたまテレビの情報番組に月に1度、コメンテータとして出演していたんです。夕方の番組でしたのでメインの視聴者層がお年を召した方々で、ブログを作った人と言っても伝わりませんから肩書きを一般的に知られている社労士にしてくださいと言われたのです。

社労士会としては思うところもあるかもしれないとは感じていたので、”ちゃんとしっかり社労士をやっていないのに、肩書き使ってテレビに出たりして済みません”と言っていたところ、その女性の先生は”良いの良いの、もっと社労士を宣伝して、色々なことをやって”と言ってくださったんですよ。相手が凄い先生だったたけに安心して動けるようになりましたし、気が楽になったのは、その先生のスタンスと一言が大きかったなと思っています。」

Q.取り組んでいる事務所経営と多様性の可能性について思うことは?

「今どういう風にやっていくのが一番良いのかは分かりませんが、恐らくプロジェクト毎に仕事を受けるという形が出てくると思っていて、この会社のプロジェクトはこの人とやるけど、別の会社のプロジェクトはまた別の人と組んでやる、という感じですかね。情報の共有に関してはこれから一生懸命練っていかなきゃいけないと思いますが、そうすることによって得意な人ができる時に得意なことをする、というようになると思うんです。

要は苦手なことを断る社労士ではなく、得意な人と組んでやるということで相乗していきますよね。得意な人と苦手な人が組むことによって苦手な人の底上げにもなるし、得意な人はそれで人の役に立てる、お客さんのメリットにもなるので、プロジェクトごとに仕事を受けるということになっていくのかな、と思っています。

好きな仕事をやるって良いですよね、横須賀さんのオウンドメディアも凄く素敵ですし。もちろん、やりたい時にやりたいことをやるだけではダメだ、という考え方もあるとは思いますが、やはりストレングスファインダーじゃないんですけど得意を活かす、そして苦手を補うということが士業もアリなのかなって思います。社員を雇うことも大事なことではありますが、得意を生かせるようなパートナーシップというか、プロジェクトのやり方がこれから増えていけば、皆がもっと負担なく楽しく仕事ができるのではないでしょうか。

例えば資格を取得したとしても、中には向いていない種類の仕事があるでしょうし、合格したのに登録していないと周囲から“せっかく資格を取ったのに使わないの?資格があるのに会社員をしているのはもったいないじゃん”、などと言われてしまうと、え?とちょっと悲しくなってしまいますよね。士業は他者比較をしてしまう方も多いようですが、それは凄く不幸なことだと思うんです。

批判している訳ではなくて、やはり資格を取る人たちは基本的に勉強ができる人たちですから、比較の文化の中で生きているところがありますよね。勉強ができた人は点数で評価されるので、誰々さんよりも良い点数を取らなければ希望のより良い高校や大学に入れないのです。それで比較が得意なんだと思います。でも、私はあまり勉強ができませんでしたので、多分比較の文化があまりない中で過ごしてきていて、誰かと比べることにはそれほど意味がないんじゃないかな、という感覚です。

資格の世界も上位数%に入らなければいけませんが、開業はそうではありませんよね。会社もあの人より能力が高いから出世するという比較ですが、事業はそうじゃないんだ、という意識変換ができていない人もいらっしゃるのかもしれません。レールがあるほうが生きやすいということもあるのかなと思いますし、それも良いのですが、やはり自分なりの幸せの方が大事なのではないかな、と思うんです。士業は自分もお客さまも幸せにすることで報酬をいただいたりお役に立てるという意味では、凄くやり甲斐もありますよね。でもそれが別に社労士だったら社会保険じゃなくてもいいでしょうし、社労士としての仕事じゃなくても良いのではないかな、と思っています。

ですから私は昔、顧問先が経営している居酒屋さんに、人が足りないと言われて夜バイトへ行ったりもしていたんですよね、手伝いますって言って。お客さんのためになったり幸せになれるのであれば、“社労士の森田舞”じゃなくて“社労士も持っている森田舞”みたいな。もちろん社労士も大切なお仕事なんですけど、社労士として役に立つというより人として役に立ちたい、ということのほうが大きいんでしょうね。」

Q.これから、事務所経営の多様性はどのようになっていくと考えているか?

「それでもやはり大きい事務所は残りますよね、そちらのほうが安心という方もいらっしゃるでしょうし、お役に立てればという御用聞きのような人が好きな経営者はそちらへ行くでしょうし、という感じでお客様の選択肢が広がっていくのは良いのではないでしょうか。色々な得意を持った士業がそれぞれに活躍できると良いですよね。

最近の話ではありませんが、本当に場所も問われなくなりましたし、自宅兼事務所がOKな空気だと思います。事務所を借りる、職員を雇うとなると苦しくなってしまう方もいらっしゃいますので、そういう方はあまり無理をしなくても自宅で良いと思います。今はオンラインでお仕事ができますから。

私はコロナの前からWEB会議システムを活用していました。なかなか外に出られない子育て中のお母さんたちとオンラインを活用していたのですが、一般的にはあまり普及しなくて、県の事業もかもとりあえずリアルでという感じでしたが、あっという間にコロナでオンラインが浸透したというのはある意味でコロナの良かった部分だと思います。もちろんコロナ自体はそうではないですけれども、せめてもの良かったことかなって。」

Q.今後、有資格者が生き残るためには何が必要か?

「偉そうに聞こえてしまったら恐縮ですが、いかに早く経営者視点へ切り替えられるか、ということかと思います。”先生”になろうとすると他の先生たちとの比較になってしまったりもしますが、やはりマーケティングやセールスじゃないですけど、いかに相手のことを思って自分のできることを提案をするのか、それができる力があるのかないのかが、生き残れるかどうかというところではないでしょうか。

ですが、やはり楽しむということも大切だと思います。『開業ダッシュの会』を再開した理由の一つとして、あんなに大変な資格試験を乗り越えてたまたま神様からもらえたこの合格を、取って良かったと思いたいよね、というコンセプトがあるんですよね。取ってはみたものの…とマイナスに捉えていたり、SNSで資格のせいにしてしまうような書き込みを見かけたりすることもありますが、それはとても悲しいことだと思うんです。

資格を取ったことで幸せになれるのであれば別に開業しなくても良いと思うんですよ。だけど開業したからには、やはり幸せになったほうが良いですし、基準が勝ち負けでもなく売り上げでもなく、自分と周りの幸せというものになると、あの時頑張って良かったなって思えるでしょうから、その頑張りを肯定し合いたいなぁと、いつも思っています。」

森田舞 プロフィール

社会保険労務士/コーチングアカデミー長野校校長
10年20年と続けられる社労士を目指す「開業ダッシュの会」主宰。

夫婦で社労士試験を受験し1発合格。実務経験ゼロ、人脈もお金もない中で一番初めに行った「めざせ開業ダッシュ!社労士・行政書士開業準備中」メルマガ発行。 最高1700人の登録があり、勉強会&交流会「開業ダッシュの会」を東京・大阪・広島・岡山で開催。結果的に、未経験から開業した多くの仲間が長きにわたり活躍。

2女の母として子育ても満喫中