運送業特化と運送業界の2024年問題:林労務経営サポート 林秀樹氏

運送業特化と運送業界の2024年問題:林労務経営サポート 林秀樹氏

事務所名:

林労務経営サポート

代表者:

林 秀樹(社会保険労務士)

事務所エリア:

宮城県仙台市

開業年:

2001年9月

従業員数:

1名

Q.士業、社会保険労務士業界の現状をどう認識しているか?

「私は開業して20年ほどになるのですが、当時と比較して遥かに二極化が進んでいると感じています。旧来の士業が弱いとされていたAIの知識を活かして単純な手続き業務の効率化を図ったり、手続業務をある程度手放してコンサル分野にチャレンジされたりして頑張っておられる、若くてキャリアの短い先生方が増えているという印象です。

特に、資格という枠に囚われることなく、組織作りや人事系のコンサルティングを独自に勉強されていたり、退職勧奨や問題社員対応、ユニオン対応といった他の社労士が避けたがる高難度業務は、初見でも若くてキャリアの短い先生が思い切ってチャレンジされているというケースが多いように思いますね。

もう一方の極として、やはり変わらない先生方も多いように感じています。そうした方々はあまり情報を表に出されない、周囲へアウトプットなさらないので実情は掴み辛いのですが、思い切った方向転換が出来ずに気ばかりが焦っている先生方もいらっしゃるようですね。もちろん様々な理由があるとは思いますが。

資格に囚われないという点では、プロダクト開発をされている士業も増えましたよね。先日、Twitterで気になる方がいらしたのでDMをお送りしてお話を伺いました。AIの業界から独立して社労士をされている方で、顧問料0円で社労士業務をスポット対応するというクラウドサービスを提供しているとの事でしたね。是非は別として、確かにニーズはあるだろうなと面白く感じました。ほぼ手続きのみで毎月3万円の顧問料を支払っているという会社もありますからね、特に地方には多いのでニーズは高いだろうなと。

また、やはり首都圏の先生方のほうがチャレンジ意欲は旺盛なように思いますね。こうした地方との差も含めて二極化は確実に進んでいますし、今後も縮まることなく拡大していくのではないでしょうか。」

Q.現状、貴事務所が永続できている要因はどこにあると考えているか?

「やはり人脈だと考えています。特に私は開業当初、同時期にスタートした先生方と比べて積極的に営業をかけたという自負がありますし、色々な所へ顔を出したりもしていました。その甲斐あって、開業から数ヶ月で大手の損保会社とコラボを組む事が出来まして、勢いがついたという事が1番大きかったように思いますね。

また、私はずっと仙台という地方に居ますから、首都圏のような厳しい競争に晒されずにここまで来たという事があるのかもしれません。大手の地方進出という脅威はあり得ますが、基本的に地方でそれほど過競争に陥る事はありませんからね。それでも先が見えない時代ですから、全く特徴のない自分の事務所に対して常に漠然とした不安を感じてはいて、2〜3年ほど前から運送業界へシフトしていきました。

とはいえ、運送でやっていこうと強く決意した訳ではなく、3年ほど前に開業当初からお世話になっている顧問先の社長さんがたまたま運送会社で、トラック協会がセミナー講師を探しているのでやってみないかとお声がけいただいた事が切欠なんです。やはり講師をやるからには勉強しなければいけないと色々と調べた結果、この業界は何やら凄い事になっている、沢山の問題点があるという事が分かり、それと同時に運送業界を支える専門家が圧倒的に少ないという現実に、大変驚きました。

恐らく最も社労士が深く関わらなければならない業界として挙げられるにも関わらず、何故これほど携わる人がいないのか、驚きもありましたが、これだけ白紙の業界であれば、チャンスと言うとおかしいかもしれませんが、アリだなと思い、特化していったという感じです。この方向転換を行なった結果、先ほど申し上げたような不安はほぼ無くなりましたので、永続という意味ではこの2〜3年の変化が大きな自信になっていると言えますね。逆に、あの時に大きな決断をしなかったらと思うと、ゾッとします。」

Q.物流・運送業界にはどんな特色があるか?

「社労士業務の中で感じる事として、今は物流・運送業界が始まって以来の、過去に経験した事がないような大きな変革期が訪れていると思います。運送業界とは全く関係のない仕事をやっている方でも、2024年問題という言葉を耳にされた事はあると思うんですよ、最近は一般のニュースでも頻繁に取り上げられていますからね。この問題は、良し悪しは別としてドライバーは体力が続く限り走って、それにより会社が売上を伸ばし、ドライバーへ還元するという、従来のビジネスモデルを根底から覆すという流れの切欠になるものです。

非常に極端な表現をしますと、物流・運送業界は労使ともに、業界ルールにメリットを感じてやってきたという特徴があります。ある種なぁなぁと言いますか、経営サイドにばかり都合が良いように思われがちですが、ドライバーとしてもブラックな労働環境を承知の上で、とにかく走って走って稼ぎたいというお互いの合意が罷り通った世界だったという事でしょうかね。

とは言え、世の中の流れも変わってきましたし、国としても労働時間に規制をかけて、ドライバーが働きやすい環境を作ろうとしています。しかしそう簡単ではなく、会社の売上が落ちることによってお給料が減って、ドライバーが会社を辞めてしまう。新しいドライバーを募集しても、労働時間が長い割には賃金が安いので、なかなか人材を獲得出来ない、という悪循環が起こっているのが現状です。ドライバーのための法律改正が、ドライバーの生活を脅かし、会社の経営を苦しめているのは実に皮肉ですよね。

こうした採用難に加え、ドライバーの高齢化に伴う退職で恒常的な人手不足である上に、私の専門分野でもあるのですが、1人当たり1千万円に迫る”ドライバーの未払い残業代問題”で大手弁護士事務所から一番のターゲットにされているという請求リスク、原油をはじめとする経営コストの高騰など、現在の運送業界の問題点を挙げたらキリがないといった様相です。」

Q.物流・運送業界に専門特化した背景とその効果は?

「背景については先ほど触れましたので割愛しますが、セミナーの開催によって様々な運送業の経営者からお話をお聞きする機会が増えましたし、そこから口コミも広がり、少しずつ運送業に強い社労士として周知が広がり、効果はもう覿面と申し上げても良いかもしれません。これも先ほどお伝えしましたが、専門家に対するニーズと供給が非常にかけ離れている業界ですので、今では日本全国からご相談やご依頼をいただいています。東京や大阪などの大都市であっても、周囲に専門家がいないというのが現状ですからね。

横須賀さんにも色々と相談に乗っていただきながらUSPを強化し、KindleやFacebookで情報発信を続けたところ、今では特に営業をかけなくても口コミやLPをご覧になった方、Kindleを読んでくださった方などからコンサルティングのご依頼をいただけるようになりました。運送会社だけではなく、保険会社やトラックメーカーなど、社員数が数千人規模の企業から直接ご連絡をいただいているような状況です。とにかく専門家が少ないということで、経営者からの当社をなんとかしてくれという相談に限らず、専門家と協力して顧客にサービスを提供しなければならないという視点からのご依頼などもあり、内容は様々ですね。

運送業界のプロとして認識されているお陰で、SNSで繋がっている税理士さん等からご紹介いただく事もありまして、顧客が運送会社でお困りごとがあるという場合、1番に私へ声がかかるという状態を構築することが出来ています。思い切って方向転換を図る前には考えられないような成果を、短い期間で達成できているという感じですね。」

Q.物流・運送業界を取り巻く士業の業務は、どのようになっていくと考えているか?

「士業の参入が増えるか否かは未知数ですが、私としては増えて貰わないと、ちょっと捌けない状況ではあります。少なくとも運送業界にはそれほど強いニーズがあるという事ですね。現時点で運送業界に関わっている士業としては、税理士さん、行政書士さん、弁護士さん、社労士さんあたりだと思うんですけれども、今1番ニーズの割に不足しているのは、圧倒的に社労士だと感じています。

何か相談がある時、中小企業の多くは最初に顧問税理士へ声をかけると思うのですが、それが労働問題であった場合、税理士は知り合いの社労士を紹介しようとしますよね。しかし、運送業はやりたくないという風に断られてしまう事が多いんです。そこで経営者さんは色々と頑張って、取引先の銀行や保険会社などの伝手を頼り、なんとか専門家を見つけるのですが、相談自体がもの凄くストレスが溜まるものになってしまうという事で、要するに話が通じないらしんですよね。

しかし、実は社労士と顧問契約をしている運送会社はそれなりに多く、私が賃金制度の改定や未払い残業対策のコンサルティング等のスポットで入った場合、実は顧問社労士さんが居るんだよね、と言われる事も結構あります。私は無料相談でも割とオープンに全てをお話するタイプで、例えば賃金制度改定のやり方についても、こういう手段を使ってこういう風に落とし込んで、こういう順序です、という具体的な内容もお伝えしますので、顧問社労士に頼んだ方が安いんじゃないかと思うんですよね。また、本社があるような場合は顧問を無視して勝手に私と契約すると関係が気まずくなるという事も考えられますから、確認を取ってみてくださいと一旦お返しする事も多いのですが、いずれも100%私へ依頼が来ます

聞いてはみたものの、”分からないので専門家に依頼したほうが良いですよ”と断られたという事で、私へ帰って来るというのが実情で、運送会社を敬遠する社労士が圧倒的に多いんですよ。このように、根本的に運送業の問題点を把握して、それを解決できるスキルを持っている社労士は非常に少ないという問題があり、業界を理解してくれる社労士を必死になって探している運送会社の社長さんとのミスマッチが発生していますから、参入自体に大きなチャンスがあることは確かだと思います。

また、運送業は小さな会社でも意外と弁護士さんと契約している会社が多いんです。顧問ではなくても、困った時に相談できる関係にあるという感じですが、契約書などのリーガルチェックが対象で、労使トラブル対策という観点で弁護士を選んでいる訳ではないようです。しかし、今後は運送業界が労働問題を避ける事が難しくなるでしょうから、これに強い弁護士さんのニーズは高まるでしょうね。

物流・運送業界を取り巻く士業に、より高い専門性が求められる時代になることは確かだと思います。これは絶対ですね。このように申し上げると凄くハードルが高そうですが、競争相手が非常に少ない業界でもありますので、一生懸命勉強すれば、差別化を図れるスピードは他の業種と比べてもかなり早いと思いますよ。」

Q.物流・運送業界、士業、社会保険労務士の未来予測は?

「2024年問題で非常に危機感が煽られているという事もあり、業界として八方塞がりのような印象をお持ちの方も多いと思います。確かに問題は山積していますが、私は恐らく他の専門家よりも楽観的な見方を持っている部分はあるんですよ。それは、これまで強気の交渉が出来ていなかっただけに、改善の余地がある適正運賃についてです。

運送会社が抱える構造的な問題の中でも、荷主、つまりお客さんから適正な運賃をいただけていないという点は最も大きなものの1つだと思うんですよね。やはり、まだまだお客さんが強いという事はあると思いますが、2024年問題の影響で物理的に運び手の数が減ってくれば、話は変わってくるのではないでしょうか。運送会社間のドライバー争奪戦が起こるでしょうし、このままだと近い将来、荷物の30%〜40%が運べなくなるのではという報道もあるくらいですからね。

そうなると、これまで値上げ交渉や時短交渉、手待ち時間(荷待ち時間)というのですが、そうした時間を少し減らしたいという点でも苦戦を強いられてきた運送会社が、主導権を取れるようになると考えられます。どのくらいの期間で有利な条件に持ち込めるのかは読めませんが、何とかそこまで歯を食いしばって頑張りましょうと、運送会社の経営者に伝えているところです。

主導権を握る事が出来るようになったタイミングで選ばれる運送会社になる事が出来ていれば、明るい未来もあると考えているんですよ。そのためには、何と言ってもしっかりとした労務管理を行なって、優秀なドライバーを抱えていなければいけません。そういうお手伝いが出来る士業が必要ですし、求められてもいるのではないでしょうか。

士業に関して語り尽くすのはなかなか大変ですが、私は地方の社労士ですので、その観点でお話をさせていただきますと、先ほどもお話したように、これまではぬるま湯の中で生きていたと思っています。大手事務所が本格的に地方へ手を伸ばすことも少なく、手続き業務中心でも生き残れる環境でした。しかし、今後はますます競争に物理的な距離が関係なくなるでしょう。豊富な資金とAIの進化によって、単純な法律相談を含めて定型業務に関しては、無くなるとは言えないまでも価値を感じる方が少なくなり、報酬も下がっていくと思います。資本を持たない地方の事務所ほど強みを固めて、それを大いに外へアピールしていかなければ、生き残っていくことが難しくなるように思いますね。」

Q.これから生き残っていける士業事務所の条件とは?

「ポイントは2つだと思っています。1つはここまでのお話で何度かお伝えしましたが、やはり自分の強みですね。しっかりと強みを確立して、それをアピールしていく必要があると考えています。理想としては、極端に言えば相手が首都圏の大手事務所であろうが、士業の中でも最難関の弁護士であろうが、その分野に関しては誰にも負けない強みを身に着けるという事ではないでしょうか。私自身も専門分野に関しては、弁護士さんから相談を受けたり、弁護士さん相手にセミナーを行ったりしていますからね。

そして、その強みを大いにアピールする。例えば私はKindleやFacebookで発信をしていますが、情報発信の目的は知識の披露ではなく、自分が何者なのか周りに知ってもらうためですので、強みに加えてアピールの目的、この2つを強烈に意識して発信していく必要があると思っています。

強み作りはなかなか難しいかもしれませんが、強いニーズがある分野であること、競合が少ないこと、この2つが揃うのが理想でしょうね。因みに私は”運送業の賃金制度改定の専門家”で、綿密に調査した訳ではありませんが、少なくとも東北で同様のアピールをしている事務所は皆無だと認識しています。強みの見つけ方としては、業界特化や業務特化、あるいはその掛け算でしょうか。私は業界を”運送業”に特化し、”未払い残業代対策コンサル”と“賃金制度改定コンサル”という業務を掛け算した形です。

2つ目のポイントはコンサルタント業をされている方向けになりますが、コンサルの手法ですね。我々は法律家ですが、法律コンサルタントとしての立ち位置も今後は変わってくるのではないか?と考えています。これまでは法律で決まっている内容を相手にレクチャーするという機会が多かったかもしれませんが、今後は法律で明確に決まっていない部分に関するアドバイスが、より求められる時代になると思うのです。その際、いかに自分の意見を持って、はっきりとクライアントに伝えることが出来るのかが、重要ではないでしょうか。

誰に聞いても同じ答えが返って来る問いであれば、AIに聞けば良いのです。誰も正解を知らない、法律でも明確には定められていないケースで意見を求められた時に、明確な選択肢を示した上で、その選択肢のメリットとデメリットを説明し、”自分ならこちらを選びます”と自信を持って言えるくらいでなければ、これからの時代はなかなか厳しいように思いますね。リスクのあるコンサル手法ですが、コンサルタントにそこまでの覚悟が求められる時代になるのではないでしょうか。

かつては社会保険労務士という肩書きだけで、ある程度生きていく事の出来た時代がありましたが、社労士に限らず、今後は資格名だけで生きていくのは難しいでしょう。”自分は何者か”を説明出来るだけでは足りません。”あの人は○○の専門家だよね”と最初に思い出して貰えるまで、関わる人々の意識に自分の存在を刷り込む必要があり、それが出来る士業が、今後は生き残っていくのだろうと思います。」

林 秀樹 プロフィール

1972年仙台市生まれ。
仙台一高から中央大学商学部を経て、株式会社伊藤園入社。
入社後は、仙台支店、福島支店、水沢支店にて飛込み営業とルート営業でミッチリ絞られる・・・
独立の夢を捨てきれず、平成13年9月に林労務経営サポート開業。
勢いだけで独立したため、独立当初は、笑われ、怒られの繰り返し。
必死の営業活動で、大手損害保険会社との提携を構築し、何とか事務所経営を軌道に乗せる。
平成30年5月に株式会社エンパワーマネジメント設立、代表取締役に就任。
社会保険労務士事務所としては珍しく、大手弁護士事務所と顧問契約を結び、また、他士業や専門家と連携を組むことによって、問題社員対応や未払い残業代対策などの高難度業務を積極的にこなす。
最近は、経営者向けセミナーに限らず、同業者の社会保険労務士や他士業、コンサルタント向けにセミナーも開催。好評を得ている。
主なマスコミ掲載実績としては、NHK仙台放送局の情報番組「てれまさむね」出演や東北NO1の発行部数を誇る宮城県の地元新聞「河北新報」への掲載などがある。
平成28年には「第9回商工会議所に呼ばれる講師オーディション」に出場。
全国からセミナー講師が集まる中、9名だけが残る決勝に勝ち残る。
また、所属する「日本キャッシュフローコーチ協会」では、全国の約250名のコンサルタントの中から代表6名に選ばれ「第2回日本キャッシュフローコーチ協会MVPコンテスト」に登壇。約400名の前でプレゼンを行う。
和仁達也著「コンサルタントの会社の数字の教科書」にコンサル実例レポート寄稿経験もある。