エンタメ業界のニーズと可能性:のるん行政書士事務所 本田羽留香氏

エンタメ業界のニーズと可能性:のるん行政書士事務所 本田羽留香氏

事務所名:

のるん行政書士事務所

代表者:

本田羽留香(行政書士)

事務所エリア:

東京都江戸川区

開業年:

2021年04月

従業員数:

約1名

Q.士業、行政書士の業界の現状をどう認識しているか?

「まず士業、行政書士業界には色々な背景の方がいるなという印象があり、サービスも多岐に渡っていると思います。また、特に行政書士については、長年別の仕事でキャリアを積んでから開業される方が多く、あまりお洒落さというのは無いのかなと。その部分については私が士業になる前に持っていた「士業はなんとなく渋いイメージ」という印象のままでした。

ですからお洒落な人(ウェブデザインなどを凝っている方)は凄く目立っている印象ですね。また、WEB広告やホームページに関して力を入れている先生は少ないと感じます。」

Q.エンタメ業界に専門特化した背景とその効果は?

「弊所は芸術エンタメ専門で開業していますが、行政書士が最初という訳ではなくて、芸術エンタメに少し被るような別の事業を副業としてやっていて、コロナの影響もあり業績があまり良くない状況になってしまったので、何か次の一手をということで行政書士として開業しました。自分自身がエンタメ業界に勤めていたり、演者だったりということではないのですが、エンタメに携わっている友人が身近にいたことが1番のきっかけです。

作曲家やクリエイターになっている友人たちの、実力は凄いんだけれどもなかなか評価されにくい、仕事としてお金につながらないという状態を見ていて、彼ら、彼女らはコンテンツを作る能力はずば抜けているが、外に発信したり、事業として成り立たせるための手続きや事務作業を行う部分で苦労していると気がつきました。

私はコンテンツの中身を作ることはできないが、友人たちが自分の個性を生かして活動できるように、事務手続きをサポートして芸術事業に必要なビジネスサイドを整えることで一緒に仕事がしたいと思ったことが背景にありますね。

特化した効果としては良い点が圧倒的で、まず研究ができます。例えば予算表や補助金、他の許認可などもそうですが、お客様用フォーマットの作り方を、こういう風に作るとお客様はちょっと書き辛そうだな、こうしたら書き易そうだなとじっくりお客様と向き合いながら微調整できます。当事務所では面談しながら一緒に作業を進めるサポートに注力していまして、こうしたやり方に辿り着いたのも専門特化によってデータが蓄積されていったからでしょうし、ビジネスモデルを洗練することが出来たという意味では凄く良かったですね。

また、お客様をご紹介いただける効果もあります。エンタメ業界の方は皆さん繋がっていらっしゃることが多く、配役やキャストもコネで決まる側面が強いので、きちんと最後まで担当させていただくと自分の仲間も是非、というお話になることが多いです。あとはやはり、業界特化して良かったなと思うところは、覚えてもらいやすいことですね。複数の業務をやっている先生だと業務以外になにか特徴がないと覚え難いところがあるんですけれども、特化してこれだけでやってますという先生だと、すぐに覚えてもらえるということがあると思います。」

Q.現状、貴事務所が永続できている要因はどこにあると考えているか?

「絶対これでしょっていう圧倒的な理由が1つあって、ひとことで言えば行政書士という業務の形態だったから、行政書士というビジネスモデルだったからだと思っています。具体的にはまず固定費がかからないことと、初期コストがかからないビジネスだなということで、元々なにか商売をやってみたい、事業をやってみたいという気持ちはあったんですけれども、もし自分が最初に選んだ業種が仕入れや在庫のある飲食店だったら、多分3年持たずに潰しちゃってたかなと思うんですよね。

行政書士は固定費がかからないので、必要なのは行政書士会の会費と、あとは本当にパソコンと自分の生活費だけみたいな形でも全然始められるじゃないですか。これが誰かスタッフを絶対雇わないといけなかったり、場所を絶対に借りないといけないような事業だったら、ちょっとこんな風にじっくり色々研究しながら続けていくのは難しかったので、行政書士がいわゆるジョブ型と言われているビジネスモデルだったから続けられているのかなと思います。

私固有の要因としては、最初から業界特化だと決めていたことだと思います。もちろん色々な業界に広く携わっている先生もいらっしゃるんですけれども、やはり私1人だけの状態で飲食関係の許認可もやって建設関係の許認可もやるとなると、お客様が繋がっていきにくいし、営業コストもかかり過ぎてしまうし、スキルが溜まっていかないと考えました。業界特化でエンタメ関係のお客様にお会いしてお仕事をさせていただくと、やはり次も自分のやりたいエンタメ関係のお客様のご紹介に繋がることがありますので、ちょっと思い切った選択だと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、業界特化で決めていたことが要因だと思っています。また、同じような業態でやっている事務所さんが少なかったこともあるかもしれません。」

Q.エンタメ業界にはどんな特色があるか?

「ビジネス的な特徴だなと凄く感じるのは、起業したり自分たちの任意団体を立ち上げた動機というのが他の業種に比べてずいぶん違うなと感じます。具体的には、例えば何か事業をしたいな、お金持ちになってモテたいな、車買いたいな、じゃあ今流行っているサブスク型のビジネスを始めよう、WEBサービスを始めてみようといった動機でビジネスを始める方は、基本的にいらっしゃいません。もう作るのが好きで仕方がないとか、”何をやりたいか”が先にあるなと感じますね。

私がお客様として対応させていただいているのは、ミュージシャンや演劇、舞台制作をやっている方などですが、演劇も最近だと多岐に亘っていて、例えば2.5次元の舞台も人気がありますね。あとはちょっとエンタメで括るのは難しいのですが、茶道や書道、囲碁や将棋などの伝統芸能、伝統文化も、補助金上は芸術エンタメという括りに入っています。他には映画制作、映像制作、最近はeスポーツの大会も支援させていただける場面がありました。

良い意味で皆さん拘りが強く、ここは譲れないという部分があるので、型に嵌まってコンサルティングをやりますという士業だと、ちょっと気持ち的に受け入れられ難いという特色があるように感じます。これは他の先生から聞いた話ですが、例えば補助金申請にあたって動画制作が必要な場合、やはりご自身の見せ方などに拘りがあるので、とりあえず身近な動画制作会社さんを紹介してパパッと作ってもらうというノリでは難しいようです。あとはミュージシャンには生活が夜型の方が多かったりもしますので、業界特化して専門でやっていなかったら、感覚的なものを合わせるのが難しいかもしれません。」

Q.エンタメ業界を取り巻く士業の業務は、はどのようになっていくと考えているか?

「エンタメ業界に関わる士業は増えていくと思っています。弊所からすれば競合になる事務所も増えていくと思いますし、士業に相談してみようと思うお客さんも増えていくと思いますね。今まではあまり芸術エンタメの補助金や許認可がキーワードとして出ていなかったのですが、コロナ関連でそうした制度が幾つか出てきたこともあって認知が広がりましたので、取り扱う先生方も増えてきたと感じていますし、私自身がコロナで支援が増えてきたタイミングで開業しようと決めましたので、同じような理由で開業される先生もいるのかなと思います。

また、インボイス制度も始まりますし、今までは個人で何となくやってきたような謝礼金や、契約と口約束などの部分もきちんと事業として整えていかないと、今後事業を継続するには難しいと考える方が増えているように感じます。やはりエンタメ業界であっても1番の課題は資金調達で、補助金にしても助成金にしても許認可にしても形式をきちんと整えましょうというお話しになってきますので、そこをサポートする仕事の需要も増えていくと思い、当事務所でもそれに対応できるよう準備を進めています。」

Q.エンタメ業界、士業、行政書士の未来予測は?

「エンタメと士業の関係が深くなるのかなと思います。例えば建設業の方だったら、許認可を取るのに行政書士がパッと浮かぶ方が多いと思いますが、そのように認知が広がると思います。相続で何かあった時に士業の先生へ相談しようと思うのと同じように、エンタメ業界の方も士業に相談しようみたいな感じで、何か困ったことがあったらもっと気軽にプロに頼ってみようかな、相談してみようかなという方が増えると思いますし、それに合わせて士業側も専門でやる方が増えてくるのかなと思います。

ChatGPTで色々な職業が無くなると言われている中で、横須賀さんが意外とエンタメとスポーツは強いと仰っていましたが、私も同意見です。生の人間が作っているからこそ価値があるのだと思います。AIで作る作品にも感動はあるけれど、それはそれとして種類が違うと感じます。仕組み化し辛いというか、仕組み化できないものがエンタメだったりスポーツだったりすると思いますので。

昔、Twitterだったと思いますが”詩人が職業として成り立つ国は凄く豊かな国だ”という発信を見て、確かになと思ったんです。食べるために食料を作らなきゃいけないんだと駆り立てられて、生活に必要でそれがないと死んじゃうからという理由で仕事をする時代ではなくなって、世界が発展していくほどむしろ詩人みたいな方向性の職業が出てくるんじゃないかなと思います。人間が生命を維持するために仕事をしていかなくちゃいけない時代から変わっていくと思います。

じゃあその次に何を発展するかというと、生活に必要なインフラが全て自動化された後はそれこそエンターテイメント、スポーツやゲームなど、今は必ずしも必要そうじゃないもののほうがウケるって私は思っているんです。エンタメ専門で行政書士を始めた時はニッチで需要が少なそうなイメージを持たれている方もいたかと思ったんですが、逆なんじゃないかなと。やはり日本といえばエンタメ産業だと私は思っています。」

Q.これから生き残っていける士業事務所の条件とは?

「デジタルネイティブというか、ITツールを使い慣れている世代のほうが、良いのかもって思います。やはり行政書士は手続き代行屋さんだと思うので、手続きをスムーズに完了させることがお客様にとって良いことであると考えると、むしろ行政書士こそ便利ツールのスペシャリストになるほうが良いというのが私の意見で、デジタルツールに触り慣れている世代のほうが生き残っていける士業として有利なのかなと思います。

また、コンパクトであることが重要だなと思っていて、もちろん沢山人を雇って大規模にやるっていう事務所のスタイルもあると思うんですけれども、それこそ固定費がなくて生き残れたという自分の経験から言えるのは、例えば業界の事情が変わって、これだと事業継続が難しいかもってなった時に、人や設備を抱えている状態だとすぐ次のことをやるのは難しいと思うんです。ですから、フットワークを軽くいろんなやり方を試せるような状態に、敢えてしておくことが重要なのかなと思います。」

本田羽留香 プロフィール

のるん行政書士事務所 代表行政書士 
クリエイターとして創作活動を行う友人が、どうしたらその人らしさを大切にしながら活躍できるかを考えたところから、芸術・エンタメを専門とした「のるん行政書士事務所」を2021年4月に開業。
現在までにコンサート事業、2.5次元舞台、映画制作、伝統芸能など、幅広い領域で補助金、許認可を担当。
”お客様に持ち帰りの仕事を発生させない”をモットーに、面談中に申請書類を完成させるサービス「のるん補助金サポート」をはじめとした、お客様の事業実態に寄り添ったサービスを展開。
現在、芸術・エンタメ事業者が今まで以上に専門業務に集中できるよう、バックオフィスサポートサービスの拡充を計画中。