- 事務所名:
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GVA TECH株式会社
- 代表者:
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山本 俊(弁護士)
- 事務所エリア:
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東京都渋谷区
- 開業年:
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2017年1月
- 従業員数:
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52名
目次
Q.士業の業界のDX化についてどう感じているか?
「士業のDXについては大別して2種類あると思っていまして、まずは士業自体の業務のDX、そしてサービスのDXです。前者についてですが、私がまだ法律事務所を開業していない2012年頃の環境としてはChatworkやGoogleのドライブとスプレッドシートくらいのもので、それでも先進的でした。本格的にChatworkを使い始めたのは2011年でしたが、当時は社長自らがカスタマーサクセスをやっていましたからね。同社がまだ青いロゴを使用していた頃の話で、社内のやりとりはChatworkでそれ以外はGmail、案件管理にGoogleツールを使うといったレベルだったのが最近は加速していると言いますか、弁護士以外の他士業の業界事情はそれほど詳しくないのですが、業務管理ツールやお客さんとのコミュニケーションツールなど色々なものが活用されていますよね。
当社が提供しているようなAIツールについては、これからが面白くなるのではないかと思っています。今度ChatGPTのセミナーを実施する予定です。
ただ業界の外の話をしますと、もちろん士業事務所より世の中の企業の数の方が多いですし、当社のお客さんのような『新しいサービスをまずは使ってみる』というスタンスの感度が高い方々が、積極的にツールを使用してくれるという意味で、よりDX化が進んでいます。逆に、士業は本当に一部の事務所しかAIツールなどを導入していないという感じですから、正直、遅れているとは思いますね。」
Q.各種リーガルテックサービスの内容とは?
「最近、法務管理クラウド『GVA manage』をリリースしまして、法務部門を持つ企業をターゲットとしてAI契約書レビュー支援クラウド『GVA assist』とセットでご紹介しています。法務組織がない企業向けのサービスは、まだサービスラインナップが少なく、今後開発する予定ですが、現時点では法人の登記簿謄本取得サービス『GVA 登記簿取得』やオンライン商業登記支援サービス『GVA 法人登記』を提供しています。
『GVA manage』は一言で申し上げますと、業務プロセスを変えずに法務案件の管理とナレッジマネジメントができるリーガルテックサービスです。法務案件の管理領域は本来、過去の案件を見返すということをスムーズにやりたいじゃないですか。しかし、企業の法務部門や士業事務所は、メールやチャットツール、ワークフローなど色々なツールを使わざるをえませんよね。情報が飛び散っている状態です。流石にどのようなツールを使用しても、業務全般といったあまりに広い範囲は難しいのですが、社内使用であれば『GVA manage』とメールやSlackとの連携が出来ますし、Microsoft Teamsとの連携も開発中で今後可能になります。どのツールを使っても、やり取りやバージョンなどが全て『GVA manage』に蓄積され、案件管理とナレッジマネジメントができる、といった感じです。
『GVA assist』は、いわゆるAI契約書レビューのサービスで、契約書を審査する際のAIを使ったリスクチェックをメインとしたツールです。サービスを提供するベンダー(当社)の基準での契約書レビューだけでなく、ユーザー企業各社の自社ナレッジを使った契約書レビューを特徴としています。
『GVA 法人登記』については、設立以外の変更登記について書類作成を自動化するというものです。
登記されている企業情報(社名や住所、役員情報など)を、変更登記の書類作成時にシステム自動的に取得するため、最新の情報を手間なく入力できることが特徴です。実は『GVA 法人登記』のリリース当初は、依頼された登記情報を当社で取得して手動でアップロードしていたんですが、登記提供サービスとAPI連携を実装しまして、ユーザーにとって更にシームレスに変更登記書類が作成できるようになりました。」
Q.プロダクト開発の背景や効果は?
「元々は普通に法律事務所を経営していた訳ですが、2つの課題を抱えていました。1つは経営にインパクトを与えると言いますか、クライアントに付加価値の高い仕事を提供したいということをずっと言い続けていましたが、やはり社外の法務部的な感覚で、延々とNDAのチェックといった定型的な業務を依頼されることが多かったので、何か上手く業務効率化ができないか、という課題がありました。もう1つは、単純に弁護士のスタッフが動くとクライアントにそれなりの額の報酬を請求しなければいけなくなりますよね。高額と言うと語弊があるかもしれませんが、企業側にとってはいつもいつも日常使いができるような感じではない訳ですよ。ですから、全く同じではないにしろ、安く提供できるような形にできないだろうかと考えていて、この2つの課題を解決するために、リーガルテックサービスの開発に着手したという背景です。
債務整理が全盛期の時代には、非資格者をたくさん雇ってマニュアルで動いてもらうという方法もあったじゃないですか。契約書チェックであれば企業は有資格者ではない法務担当がやっている訳で、理論上は可能ですから、こちらのパターンでも考えました。しかし、検討と同時期に囲碁や将棋でAIが人間に勝ったという話題が出ていて、これはもう絶対にAIの時代がどこかで来るじゃないか、と思ったんですよ。ですから、有人のオペレーションで戦うよりは、テクノロジーで戦う方向に舵を切ったんですよね。それが2016年の夏くらいで、まだ少し悩んで考えてもいるというところだったのですが、その頃から一気に世の中がリーガルテックに興味を持つ流れになりまして、半歩先くらいのスピード感で実行できたのは良かったなと思っています。
一方で、”AIが士業の仕事を奪ってしまう”ということについては、事務所内でもかなり言われていました。私以外は全員が反対くらいの雰囲気でしたね。士業の事務所は少し体育会系的なところがありますから、あまり経営者に逆らうということがないという状況でこの反応でしたので、世間的にはもっと反発が強いということじゃないですか。ですが、その時に私は、皆さん付加価値の高い仕事をしたいと言っていますよね、今あるNDAチェックのような定型業務では100通見てもスキルは上がらないじゃないですか、それはやりたくないといつも言っているのでは、と投げてみました。そうすると、とはいえ今はその仕事で成り立っている訳ですし、その先にある付加価値の高い業務と言っても自分がそれをできるようになるかどうか分からないですし、といった感じで返されましたね。それでも、私は付加価値高い業務イメージを具体的に持っていましたし、どうすればそこへ到達できるかというイメージも持っていましたので、突き進んだという感じです。何かの本に”創造性を測る指標は反対意見の多さだ”という風に書いていまして、それなりに反対意見がある状態の方が良いな、と思っていたこともあります。過去にロゴを変更しようと新しいものを作成した際にも反対意見が多くて、安心して変えたことがありましたし。
リーガルテックサービスの提供が事務所経営に与えた影響は、ツールを使用することによる効率化くらいですかね。GVA法律事務所として展開している訳ではないので、そこは別ものだと思っています。対外的にも、最近出会った人からよく聞く話なのですが、GVA TECHは知っています、GVA法律事務所も知っています、GVA TECHの山本さんも知っています、ということなのですが、個別の存在として認識されているようで” GVA TECHの山本さんってGVA法律事務所を作ったんですか”と結構言われていまして。私としては当たり前のように紐付いていると思っていましたので、新鮮というか不思議な感覚でした。ある種スタートアップ企業としてやっているような状態で、事務所としてサービス展開をしているという感じではないですね。実は今年に入ってから事務所へは一度も行っていなくて、新人が5人入ったのですが採用から含めてまだ一回も会ったことがないんです。
今後に関してですが、引き続きニーズに応えて色々なプロダクトを投入していこうと考えています。分かりやすいものですと、今は株式会社のみ対応している『GVA 法人登記』について、合同会社と有限会社をリリースしたいと考えています。他にも、各種手続きの関係業務はどんどん横展開していくべきだと思うのですが、弁護士以外の他士業については何が可能なのかよく分からないということと、あまり言い過ぎて業界から反感を買ってしまうかもしれないということはありますね。ですがやはり言わせていただくと、士業の種類が多すぎるというのは日本の課題なんじゃないかと。一般的な中小企業の社長には、行政書士と司法書士の違いは分からないと思うんですよ。しかも法人設立業務は両士業ともにやっていて、より混乱が増しているように見えます。企業が手続きの課題を抱えているという時に、弁理士や社労士、税理士もいて誰に頼めば良いのかわからないといった悩みを一つのプラットホーム内で解消できる世界にはしたいな、という思いはありますね。ただし、全てをテクノロジーで解決しようとは考えていません、恐らくそれは無理だと思います。例えば変更登記ですと、合併による変更登記や清算結了登記など複雑なものは難しい訳です。そうしたケースに対しては司法書士へ辿り着く導線になるような、困った時に誰かしらが何かやってくれるようなプラットホームを作りたいんですよね。所属士業の能力担保や公平性、仕事を奪うことになりかねない業界との関係など難しい部分もありますが、共存できる妥協点を探って、きちんと仕事も振っていけるような仕組みを作らないといけないかな、と思っています。」
Q.士業のDX化は、今後どうなっていくか?
「先にお話したような流れで、業界の外では進んでいくのではないでしょうか。業界内ですと、他士業に関してはどの程度テクノロジーで代替するのか見え辛くはあるのですが、正直、私に時間的な余裕があって、且つ例えば何か特定の手続きを専門にしている行政書士がやる気を出して私と一緒に開発に取り組んだとしたら、全ての手続きをDX化できると思います。テックと士業のノウハウや技術をつなぐという所が難しい訳ですから、専門家をエンジニア化できれば、できる事がどんどん出てくる筈なんですよ。それはもう目覚ましく進むのではないでしょうか。そうしたことが実現可能な状態ではあると思っています。」
Q.今後、士業が生き残っていくためにDX化やAIの活用については、どのような考え方が必要か?
「やはり私が当初思い描いていた、付加価値の高い業務をやっていくべきなのではないかと思っています。そういう意味では、AIなどのテクノロジーを活用して提携的な業務を効率化して時間を作り、その時間でクライアントにとって一番の価値をしっかり考え、それを実現するためのスキルを身につけて提供していくということを、絶対にやらなければいけないのではないでしょうか。
ただ、この先AIがもの凄く進化してユーザーが直接利用するとなった時に、手続き業務であれば明確な答えがありますのでテクノロジーでの対応可能だと思うのですが、本質的な法律相談にどこまで適用できるのかという点が私の中でまだ懐疑的ではあります。こうした時にはいつも医療に置き換えて考えるのですが、やはり98%の確率で回答が正解であっても、医療判断となると怖いなと。最終的にお墨付きが欲しい、という世界はあるのかなと思うんです。今は裏側で専門家が最後にお墨付きを付ける、ということに一般ユーザーは価値を感じている筈なので、過渡期では一旦専門家が裏側で使われる、という方向性が成功するように思います。
付加価値については本当にずっと考え続けているのですが、結果としてはクライアントによって違うと思っているんですよ。クライアントが望むもの、例えばスタートアップ企業であれば新規事業で業法が関わるものについて、一緒に行政へ赴いてロビーイングをしたり、ということは分かりやすいですよね。他にも、アライアンスの交渉についてもう少し踏み込んだビジネスの勉強をして、何か凄く利益が出るようなレベニューシェアを考えたりもできますし。また、これは企業法務だけではなく離婚や相続などの一般民事についても同じですが、クライアントとコミュニケーションを取る上でのメンタルケアにもの凄く特化する、といったことも価値がありますよね、人間の心理と法律の掛け算というか。行政書士であれば業法を極めれば絶対にその業界に強くなる筈ですので、垂直的にコンサルをすれば良いのではないかな、とも思いますね。」
弁護士登録後、鳥飼総合法律事務所を経て、2012年にスタートアップとグローバル展開を支援するGVA法律事務所を設立、2022年ジュリナビ全国法律事務所ランキングで43位となる。2017年1月にGVA TECH株式会社を創業。法務管理クラウド「GVA manage」、AI契約書レビュー支援クラウド「GVA assist」やオンライン商業登記支援サービス「GVA 法人登記」等のリーガルテックサービスの提供を通じ「法律とすべての活動の垣根をなくす」という企業理念の実現を目指す。