退職代行は、誰を救うのか?:センチュリー法律事務所 小澤亜季子氏

退職代行は、誰を救うのか?:センチュリー法律事務所 小澤亜季子氏

事務所名:

センチュリー法律事務所

代表者:

住田昌弘

事務所エリア:

東京都千代田区大手町

開業年:

1995年

従業員数:

弁護士12名

URL:

https://century-law.com/ 退職代行サービスURL:https://taisyoku-daikou.com/

Q.退職代行の現状をどう認識しているか?

「私が始めた2018年頃は退職代行という言葉が世間的にまだ認知されていない状況でした。その後、昨年末まで2年間出向していて、戻ってまた退職代行をお受けしているのですが、だいぶ空気が変わっていましたね。つい先日、企業へお電話を差し上げて、代理人の小澤と申しますと告げるとすぐに”先生これは退職代行ってやつですか”と聞かれまして、認知度が高まってきたんじゃないかなと思います。

退職代行がどういうものか、会社の方も恐らくインターネットなどでお調べになっていて、私がどういう立場でどういった仕事をするのかということが粗方ご理解いただけているため、一から説明する手間が省ける場合が多く、やりやすくなったと感じますね。最初の頃は”なんで弁護士が出てくるのか”とお怒りになったり驚かれたりということも多かったのですが、そうしたケースは減ってきたかなと思います。」

Q.退職代行を行っている企業・士業事務所の特徴や思うところは?

「詳しく調べているわけではないのですが、恐らく弁護士のやっている退職代行であれば、ほぼ一緒なんじゃないのかなぁと思っています。つまり退職したいという方の代理人になって、会社と退職の交渉をするというサービスですね。他士業や企業の場合は難しい問題で、真に代行・真に使者ということであれば可能なのだろうと思いますけれども、果たしてそれで務まるのでしょうかという疑問は持ってしまいます。全て右から左、左から右という風にお伝えしますというご説明になるんでしょうか、伺ったことがなく分かりませんが…。

また、法的なトラブルに発展した場合に業者さんが案件を投げてしまうというケースを実際に私もお引き受けしたことがあります。業者さんが退職代行を引き受けた後、法的トラブルに陥ると、弁護士に聞いてくださいといって引いてしまうようです。そうであれば最初から弁護士で良いのではと思ってしまいます。最近のお値段感もあまり存じ上ないのですが、弁護士の先生でもリーズナブルにされている方が多くいらっしゃると思いますので、弁護士をお使いになったほうがよろしいんじゃないかなと。

正直なところ、同業者のことはあまり気にしても仕方がないと思っておりまして、退職代行が一気に話題になった頃は参入者が一気に増えたりもしましたが、今でも残っているところは案外少ないですし、我々は流行りだからやっているということではありませんので、あまりチェックしていないという感じです。本来、競合はきちんと調べないといけないんでしょうけれどもね。」

Q.退職代行サービスを始めた背景や思いは?

「確か2018年の夏だったと思うのですけれども、インターネットの記事で某一般企業が退職代行を始めたという記事を読み、凄く驚きまして。というのも、弁護士的には解雇は難しいのですけれども、退職にそれほど法的なハードルがあるとは思っていなかったんですよね、辞めると言えば良いのにと。そこに、当時は5万円ほどだったと記憶していますが、とにかく安くはないお金を払うというニーズがあるんだということに、ちょっと衝撃を受けました。

非常に驚きはしたものの、他方できっと必要としている人はいるんだろうな、とも思って。というのも、著書にも書きましたけれど私の弟が新卒1年目で突然死をしてしまって、夜の時点では普通に寝たように思っていたのに、朝起きてこなかったんですね。母も”なんで死んじゃったんだろう”とノイローゼ気味になってしまい、本当は見てはいけなかったんでしょうけれども理由が知りたくて弟の携帯を見たら、会社・辞めたいというキーワードで検索した履歴が残っていました。私は弟が辞めたがっていたことを全然知らなかったので、辞めさせれば良かったなって凄く思って。

こういう風に辞めたいんだけれども辞められなくて、スマホで調べている人がいるんだなって、そういう人からすれば本当に必要なサービスなんだろうなと思ったのですが、当時は退職代行業のほとんどが弁護士ではない事業者でしたので、これは弁護士がやったほうが良いんじゃないかな、と思って始めました。世間的には退職一つ自分で出来ないのかと、そういう甘えた奴をサポートするのかといった、退職代行そのものに対する批判が相当あった頃ですね。

実は同業者からご批判をいただくこともありまして、内容証明を送れば自分で退職できるのに、情報が不足している人に対して代行サービスを提供することは疑問だといった善意からのお声なのですが、これは完全な誤解なんです。ご依頼くださる方は退職の”方法”などご存知で、お金を払ってくださるのはそこじゃないんですよ。弁護士が代理人として交渉をするという行為に対してニーズがある訳で情報ビジネスではないので、そこは利用者目線でご理解いただけると嬉しいなと思います。」

Q.退職代行サービスを始めたことでわかったことや得られた成果は?

「まずは残念ですが、辞めさせないためにあらゆる手段を取ってくる、ひどい会社が実際にあるのだということはよく分かりました。暴力系や家に押しかける、損害賠償を求められたり脅迫めいた言動というものは、割とよくあることなんです。また、悪意はないにしろ介護など人手不足の業界は、やはり引き留めが強いように感じますね。もちろん会社に問題がない場合もありますが、色々な事情で辞めたくても辞められずに悩んでいる方が沢山いらっしゃるということが、本当によく分かりました。

弁護士費用が安くない私どもにご相談くださるということは、他所を選ばれる方よりも比較的シビアな状況の方が多いのではないかと思いますが、それでも中にはお話をお伺いするとご自身で辞められそうだなと感じるケースがありますので、そうした時には1回ご自分で退職交渉トライしてみますか?という方向でご説明をします。それでもお願いしますということであればお引き受けして、実際に会社へ連絡してみると、会社側もごく常識的な対応をしてくれることがあるんですよね。

そういう時に肝に銘じるではありませんが、意識しておかなければならないと思っていることは、私が弁護士だから会社の対応が良いのかもしれないということです。また、人の悩みって他人からは解らないことも多いですよね。私にとっては、そこまでかな?と思うようなことでも人によっては凄く負担になっていることかもしれません。また、若い方の中には結構辛いのに笑って見せたり、ライトな態度や少し斜に構えたりしている方もいらっしゃるように思い、外側に現れ出た態度が本心かどうかは判らないものです。ですから、私の尺度でその人の辛さを測るようなことはやめようと思っています。

私と竹内先生の2人とも女性なので相談しやすいということはあるのかもしれませんが、お客様は圧倒的に男性が多く、中でも30代が多いです。理由として多いものの1つは、会社が本当にひどい暴力や暴言、引き留めをしてくる類型があると思います。あとは、ご自身がメンタルの不調を抱えていらっしゃって、会社とコンタクトを取ることは困難なので休職をしなければいけない、既に休職中だという状態の方も多くいらっしゃいますね。中には先ほどお話したような、表面的には非常にライトで、一見すると退職の手間と時間をお金で買っているように見える層も多少はいらっしゃるという感じです。

ケースバイケースですが、数ヶ月以内には終わることのほうが多いですね。例えば有休が40日残っていて退職日が2ヶ月以上先になるといった場合には多少伸びますけれども。あとは会社から離職票が全然出てこないといった事態もあって、これは地味にきついのですが根気よく請求を続けるしかありません。私がお受けしてきた事例の中では裁判にまで発展したことはありませんし、損害賠償請求されたケースも和解で落としましてそれが仕事だと思っていますので、一般民事事件と比べれば長期化しないと思います。」

Q.退職代行業務が始まったことによる、社員や会社の変化は?

「いちばん大きな変化は先ほども申し上げた通り会社の認知で、これは全く変わったなと思います。あとは労働者側、お客さんも退職代行がどういうサービスなのか粗方ご存じで、インターネットで色々とお調べになった上で弁護士なのかそうではないのかという違いもお解りになってご相談を申し込まれる方が多くなりました。今は特に問題がなくても、「ふーん、こんなサービス有るんだな」と心にとどめておいていただいて、いざ自分一人の力ではどうしても辞められなくなってしまった時には、弁護士を頼っていただければと思います。

実は会社と揉めている訳ではないけれども退職代行を利用するというケースは、今のように認知が広がる以前から割とありました。例えば転職活動をしていて内定を貰えそうなので辞めたいんです、というようなご相談は昔からあったんですよ。ここはあまり変わらないですね。もちろん辞めたいのであれば可能ですよというご説明を差し上げるのですが、それでも依頼したいという場合には色々な理由があります。

例えばもの凄く忙しい部署に所属していて、他の人に迷惑をかけるのが心苦しくてなかなか言えないというケースですが、私が申し上げることは、迷惑はかかりますと、これはもうどうにもならないことで、多忙な中で一人が抜けて迷惑がかかることは避けられませんと。それを踏まえても辞めたいのか否かで、辞めたいと思ってご相談されているのであれば力になりますと。実際あとはもう謝るしかないんですよね。また、これは私の考えですが、その部署が恒常的に忙しいのであれば会社側の人材配置ミスだと思いますので、それをあなたが1人で引き受ける必要はないのでは、ということはお話します。」

Q.これから退職代行業務はどのようになっていくのか?

「退職代行業は割と世の中の労働市場の様子と波が一致する部分があるかなと思っていて、売り手市場になれば増えますし逆になれば減る、そういう関係性にあると感じています。なくなりはしないんだろうなと、細々と1ジャンルとして残り続けるのだろうと予想していますね。

ただ、ご依頼者さんの気持ちとして本当は使いたくないっていう思いがあるように感じていて、本来は自分で言うべき、自分でやらなきゃいけないと分かっているんです、退職の申し入れって1回は自分でやったほうが良いんですよね、というようなご発言が多いんです。私どもの事務所に限って申し上げるとリピーターは多くないので、例えば次の転職先で普通に人間関係が築けていて、ご自身のメンタルの状況も良いのであれば、その際はご自分でお辞めになるんじゃないかなと思うことも多いですね。

本当に凄く真面目な方が多くて、真面目だからこそ言えないということはあるんだろうなと思います。大きな声では言えませんが、本当にいい加減な人であれば黙って出社しなくなるんですよね。それを安くない弁護士費用を払ってまでちゃんと辞めようとする方は、非常に真面目だと思います。ちなみに私は企業法務もやりますので、企業からのご相談で社員が突然来なくなりましたというご相談を受けることもありますが、就業規則にX日間出社しなければ自然退職になるという条項を入れていますかとお尋ねしてNoとお答えが返ってくると、もう、あぁ…という感じです(笑)。

最近では世間の認知度も上がってきて、退職代行をやっている弁護士に対する風当たりも昔ほどではなくなってきたのですが、今後のためにも私が凄く申し上げたい、声を大にしてお伝えしたいのは、退職代行をやっている弁護士は企業の敵なんですか?ということです。

仮にもの凄いブラック企業で暴力・暴言・残業代未払いということであれば、もちろん弁護士は敵になり得るんですけれども、そうでない場合、例えばメンタルの不調を抱えていて自分では言えずに私が代理人に着きましたという場合には、対立する理由があるでしょうか?いえ、ないですよね、と。御社にとって従業員は敵ですか?敵ではないのでしたら、従業員の代理人である私も敵ではないですよね、と申し上げたいです。

ご本人の体調や、ご家族の問題でお辞めになるというケースもありまして、会社は別に何も悪くないという前提のもとに辞めたいですという方もそれなりにいらっしゃいますので、そうした場合には特に敵対せず普通のやり取りでお手続きをしてお辞めになるんですよね、私が勝手に思っているだけかもしれませんが。ご本人が言えない何かの事情があるから代わりにやっているだけのことですので、退職手続きに向けて協力的にと申しますか、少なくとも敵視されなくても大丈夫ですよということが、これからもっと伝わると良いと思います。」

Q.これから生き残っていける士業事務所の条件とは?

「これは私が申し上げるような立場にないんですけれども、弁護士業界が他の業界に比べて1つ特徴的なのは、若い人が多いということだと思っています。日本の人口ピラミッドで層が厚いのは比較的高い年齢層で、同じ士業であれば税理士さんや社労士さんは全体と同一の傾向で、そこは弁護士と環境が違うところですよね。

私は合格者の多い年代ですので環境的に厳しいことは厳しいのですが、若い上に競争が激化しているという条件下では、皆イノベーティブにならざるを得ないというところがあるので、それは良いことなんだろうなと思います。また、弁護士は割と自分たちを特別視しがちという気がしていて、私は他の職業経験といえば役所への出向くらいですから狭い範囲のことしか分かりませんけれども、他のサービス業と相通ずる部分は凄く多い筈なんですよ。

ですから、あまり自分たちを特別視せずに、学べることは謙虚に学び、大胆に行動するということしか、若い弁護士がやれることってないんじゃないのかなと思います。資格職ということで色々なルールはあり、また様々なご意見もございますけれども、例えばマーケティング1つ取ってもあまり弁護士を特別視する必要はないのではないかなと思いますね。」

小澤 亜季子 プロフィール

弁護士。

事業再生・倒産を主力業務とする企業法務系法律事務所に入所し、現在に至る。

独身時代は「趣味は仕事」のワーカホリックだったが、実弟の突然死や自身の妊娠・出産・育児などを経て、「働く」ことに対する考え方が大きく変化。

2018年8月、退職代行サービスを開始。テレビ、ラジオ、新聞、ウェブニュースにコメント等を多数提供。

2021年より2年間の官公庁出向を経て、組織で働くことの楽しさ・難しさを身をもって理解。

退職・解雇、ハラスメント等の労働トラブルについて、労使双方の立場から日々取り組んでいる。

著書に『退職代行』(SBクリエイティブ、2019)、『退職のプロが教えます! 会社のきれいなやめ方』(自由国民社、2020 共著)、『パワーハラスメント実務大全』(日本法令、2021)他多数。法律監修に『さよならブラック企業(1巻・2巻)』(少年画報社)。ハラスメント関連、男女雇用機会均等法関連、働き方改革関連等労働分野のセミナー・研修実績多数。