行政書士の未来:行政書士法人GOAL 石下貴大氏

行政書士の未来:行政書士法人GOAL 石下貴大氏

事務所名:

GOAL/みんなの助成金/行政書士の学校

代表者:

石下 貴大(行政書士)

事務所エリア:

東京都中央区

開業年:

平成26年10月

従業員数:

Q.行政書士業界の現状をどう認識しているか?

「現状の傾向でもあるのですが、特に2023年は非常に大きく変わっていくなと思っているのが、矢張り電子申請の本格化ですね。入管は既に始まっていて、建設業もスタートするということで注目しています。以前、宅建業の電子申請が1、2年で頓挫するという事がありましたが、今回はデジタル庁も本気で動いている様子が見え、そうなると地域性で依頼するというケースが極端に減っていくのではないかと思います。それと同時に、一昔前に会計事務所が地方に会計センターを作って大量受注の流れを作ったのと同じ現象が起きるのではないかとも思いますし、それを受けてこれまでは市場として面白味を感じていなかった大手事務所や士業法人の本格的な参入も十分に考えられるのではないでしょうか。そうなりますと、会社設立で流行った入口を無料にしたバックエンドのセット戦略が建設業で流用される事も予想されますので、その動きに耐えられるだけの商品展開やサービス設計ができない事務所は淘汰の危険性すらありますよね。

また、この3年のコロナ禍がある意味で覚悟を決めるきっかけになりました。4年前まではせいぜい紙と電子のハイブリッド申請で、どちらかといえば紙が主流でしたので、このスピードで各種申請が電子で完結する流れに変わるとは予想していなかったんです。しかし、日本政策金融公庫への融資申請でさえもネット受付が始まり、給付金のような対象者の多くがネットに不慣れな層であることが明らかなものについても電子申請に限定するという動きを目の当たりにして、これはもう許認可だろうがなんだろうが電子への切り替えができない理由がないだろうと、今後はそれに合わせた動きが必要だなと強く思いましたね。

話題になったfreee許認可については、プロが使用するツールになるのか個人で使用するツールになるのか、位置付けによって対策も変わりますが、いずれにしろ本人申請が広まるだろうと推測しています。」

Q.現状、貴事務所が永続できている要因はどこにあると考えているか?

「平たく言えばマーケティングだと思っていて、中でも営業手法と商品の選択と集中は、かなり意識して動いてきました。例えば商品に関しては、低価格化や手続きの標準化を見越して、コンサル化や高単価化が可能な商材だけに絞りましたね。具体的には産廃と補助金、協会ビジネスに特化したコンサルティングの3つを軸にした事が成功要因だと考えています。もともと産廃に専門特化していたのですが、そこから派生して社団法人を作りたいというニーズや、廃棄物系は設備投資が高額ですので補助金を活用したいという相談も多く、枝分かれした先がそれぞれ比較的強いコンテンツ且つコンサル要素が強いものでしたので、そのまま柱に据えた感じです。行政書士事務所としての展開を考えた当初は、人が増えれば出来る業務も増えると思っていたのですが、どちらかというと商品力の獲得や教育の側面からは取り扱う業務を絞って、代わりに深める方が良いのではと方針を変えたことが功を奏したと思っています。」

Q.貴事務所経営のマーケティング・経営戦略の考え方と指針、業界のマーケティングに関する所見は?

「ビジネスモデルを突き詰めて考えた時に、そもそも選ばれ続けるという点がモデルの根底にある最も大切な事だと思いまして、この”選ばれ続ける”という事をひたすら深掘りしてきたのが私たちのマーケティングの本質ではないかな、と分析しています。そして、選ばれるその手法については基本的にウェブと紹介、加えてセミナーという動線の全てにつながるウェブマーケティングに強くなることだと考えました。ウェブに強ければ紹介が増えますし、セミナー集客も可能で、SEOとPPCの両方に強くなれば手数も増えますよね。中心はウェブマーケティングだと思っています。

業界全体としては、例えば”広告をしかける”といったような手法にフォーカスした一面的な印象を受けますね。ウェブマーケティングによる集客を前面に打ち出している事務所でも、PPC広告のみでSNSからの誘導はやっていなかったり、大局的・横断的に考えて攻めている人はまだ少ないように思えますね。ペルソナ設定から逆算して、自分たちの見込み客に響くようなものは基本的に全てやった方が良いと考えています。」

Q.貴事務所経営のDX化と業界のDX化についての所見は?

「クラウドERPを導入しているのですが、やはり実際に使用してみなければ分からない事も多いですね。いちばん最初に導入したものは、費用対効果が見出せず別のサービスに切り替えました。4年ほど前からRPAも導入していて、本来は産廃の申請書作りに取り入れるためだったのですが、現時点では都道府県毎の様式が異なるというハードルをクリアできず、様式が統一済みで安定している別の業務に活用しています。再現性のない話で恐縮ですが、RPAについてはモデル作りを目的とした共同開発としてお声がけをいただく事が多く、コスト的に恵まれた環境で導入しているため、費用対効果は高いです。

DX化に関しては、案件管理や顧客管理システムの導入による省力化という観点も大事なのですが、それよりも誰もが把握できる形で標準化の検証ができなければ、結局PDCAが回っていかないので、レバレッジをかけるべきポイントなのかという点が判断し辛いと思います。そういう意味で我々は何となくではなくて数値で把握するために、データ化にも力を入れていますね。他には数年前から利用している電子契約は、改めて便利だなと感じています。

行政書士業界全体としては、そもそも組織として運営している事務所が少ないので、それほどDX化の必要性を感じていないように見えますね。そこに興味を持つクライアントも少ない印象です。当社は許認可に関してペルソナ設定をある程度のサイズの企業に合わせているので、成長意欲の高いお客様や新しいものが好きなお客様とのお付き合いが多く、DX化ありきというケースでは共通言語で話ができないと選んでいただけないため積極的に取り組んでいて、ブランディングという別の意味合いもあります。」

Q.貴事務所経営の採用と教育に関しての考え方と指針は?

「2022年から大学生のインターン採用を実施しているのですが、非常に優秀だなと感じています。当社は少しアンバランスで、資格者が10名いるんですね。同規模の事務所であれば資格者の比率が低いというのが一般的だと思うのですが、『行政書士の学校』を運営している事もあって、試験合格者しか応募して来なかったという事情もあります。もちろん資格者が悪いという事ではないのですが、今後のビジネス展開を考えた時に、例えばシステム開発やマーケティングなど、資格とは無関係な所でスタッフの素養に合わせた適材適所の配置が必要だと感じているので、当面は新卒の採用に力を入れたいと思っています。今は学生を対象としているので媒体としては求人サイトの利用がメインですが、以前はSNSによる採用が殆どでした。今でもどんな事務所にしていきたいのかといった事や、自分なりの行政書士像について発信する事で、採用のミスマッチ防止を意識していますね。

自社としての有資格者採用に拘りはないのですが、業界の底上げという意味では大事な事だと考えていて、そういう取り組み自体は今後も続けようと思っています。他士業と比較して募集している事務所が圧倒的に少ないので採用そのものは難しくないのですが、行政書士業界が就職でも活躍できる場になって欲しいですね。

教育に関しては専門特化複数領域というスタイルを大事にしています。例えば許認可の中でも産廃・運送・入管、法人設立や資金調達のチームそれぞれに上長が存在し、配属されたスタッフが当該業務を一人前に出来るようになるまで育てる、という第一段階が必ず決まっています。次のステップとしては、更にその業務を深めてスペシャリストとして地位を上げていくのか、それとも横断的に他の業務にスライドしていきオールラウンダーを目指すのかを選択できるようにしていて、専門特化複数領域とマーケティングなどを担う経営企画の役割を合体させたような組織形態を今意識的に作っている所です。

業界全体としては教育の前に補助者以外は採用そのものを行っていないなど、それほど力を入れていない事務所が多いですよね。業務を捌く構造としても、標準化された業務をベースとして平らに受け入れて、単価の高い仕事は少数が対応するというスタイルをよく聞きます。ですが私は高単価の商材を支えるのは人材だと考えているので、インターンの2名以外は全員正社員ですし、属人的で高単価な業務ですら標準化してどんどん平らにしていき、私は更に単価の高い商品を作っていく、という事を繰り返しています。そういった作業の落とし込みが出来なければ、事務所全体としての収益力や生産性を向上させるのは不可能だと思うんです。教育に本腰を入れられない事務所は商品力が高まらないのではないかと。行政書士はスポット業務が多くなかなか安定しない上に、受験者数はそれほど減っていないので供給過多になり単価が下がりつつもあるので採用が難しいという声は聞きますし、ビジネスモデルで考えれば本当にその通りで、新規顧客の獲得を続けなければいけない中で、いわゆるLTV的な別の商品を買って貰おうにも基本的に商材を用意し辛いという事は確かにあると思います。ですがそれは、出来ないという事と同義ではないので我々は可能だと考えていますし、だからこそ逆にチャンスが大きいなとも思っていますけれどもね。」

Q.貴事務所が得意とする業務についての現状と未来予測は?

「協会ビジネスは少し特殊ですので主に産廃と補助金のお話をさせていただきますと、先ず産廃に関しては脱炭素や脱プラスチック、SDGs、グリーントランスフォーメーションなど、ここ数年は絵に書いたように時流に乗れているな、とは思っています。特に一定規模以上の企業を中心に、入口が手続の依頼だったとしても、グリーントランスフォーメーションに則って何らかのコンサルに派生してくれますし、環境系の補助金にも繋がりますからね。

補助金業務については少し前に行政書士の独占業務か否かという話題もありましたが、資格自体に何らかの能力的な担保があるという事はありませんので、そもそも解釈がおかしいというか、論点が違うのではないかと。来期も正式に事業再構築補助金の実施が確定していますが、こうした有名な制度の陰に隠れて資源系の分野で上限キャップのない補助金なども出ています。国は推進したい施策のためには露骨にニンジンをぶら下げたりもしますので、分かりやすいですよね。

許認可一般に関しては、繰り返しになりますがオンライン申請への移行にともなって、全般的に単価が下がってくるだろうと思っていますし、一定程度は本人申請が広がるのも自然な事だと捉えています。AIに仕事を奪われてはいない、という声も大きいですが、私の周囲でもITに強い起業家はfreee会社設立による自己完結はもう普通の事ですし、明らかにパイは減ってきているんです。他士業のジャンルでも、相続や商標などに同じ事が言えますし、自分で出来るという人が多くなれば単価は更に下がります。こうした背景の中で、それでも依頼したいと思っていただくのは本当に難しくて、お客様からは基本的に成果物しか見えませんので、士業同士では判るプロセスの違いで差別化はできません。同じ結果なら安い方に流れてしまうのは当然の事で、無料で使えるツールの浸透に対してコンサル要素が少ない業務の勝ち目はないと言わざるをえませんよね、厳しいですが。単価が下がる事が避けられないのであれば、それを入り口にプラスアルファを付加するなど、この流れに耐えられる商品設計が必須だと思います。

我々はそもそも産廃に強いというポジショニングが出来ていますし、業務そのものにとても魅力を感じてもいます。ゆくゆくは日本で出来た事を海外に持っていくという思いもあるのですが、行政書士の弱点の一つとして海外に仕事がないんですよね。それでも、日本のお客様を海外に連れて行って、向こうで何らかのバリューを発揮して貰えるようにサポートをするのは価値のある事だと思っています。先ほど申し上げたように経営スタイルとして専門特化しているという事もあり、業種に特化しているね、と言われたりもするのですが、正確に表現するならば業界特化であって、業界に対して何らかのバリューを発揮して、フィーを作っていく事自体がすごく大事なんじゃないかなと。それを考えた時に、行政書士というものに執着し過ぎると、きっかけを逃してしまう事もあるのかな、と考えています。」

Q.これから生き残っていける士業事務所の条件とは?

「ここまでのお話の繰り返しになるかもしれませんし、よく言われる話ではありますが、矢張り変化していける事だと思うんですよね。サービスはお客様の不便から成り立つ、という事は昔から言われていて、何が不便かという点は変わっていくものではあっても、無くなるものではない訳です。新しいテクノロジー等で色々な事が出来るようになる一方で、逆にこれが出来ないという事に付加して提供できる価値があれば、矢張りそれを選んでもらえると思っています。未来予測をして、今のうちから業界で何か自分なりのバリューを発揮できるサービスを作ろうと思える人や事務所、そして実際にPDCAを高速で回していける事が、生き残る条件ではないでしょうか。」

石下 貴大 プロフィール

平成26年10月、行政書士法人GOALを設立。
環境系行政書士としての業務に留まらず、会社設立や一般社団設立支援、それに伴うコンサルティングにも定評がある。

行政書士向け実務講習の場である「行政書士の学校」の校長を務めるほか、補助金助成金の検索&マッチングサイト「みんなの助成金」の運営や電子契約書事業に取り組むなど幅広く活動している。

開業以来10年間、1日も欠かさず続けているブログは、アメブロ読者数・士業部門においてNO.1を誇る。
ブログがきっかけで多数の著書を出版し、メディア出演多数。
インターネット・マーケティングにおけるセミナーも人気が高い。