- 事務所名:
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社会保険労務士法人東京中央エルファロ
- 代表者:
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若林忠旨(特定社会保険労務士)
- 事務所エリア:
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東京都台東区
- 開業年:
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2012年3月
- 従業員数:
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6名
- URL:
目次
Q.社労士業界の現状をどう認識しているか?
「小規模事務所にいたるまで結構デジタル化が進んできたので、一般的な社労士像と言いますか、いわゆる入退社や給与計算の代行業から、今後はコンサルティング的な仕事に移り変わっていくのかなという印象を受けるようになりました。一般的な顧問業務を300〜400社と契約している事務所のお話を聞きますと、最近は10名ほどの企業からも、クラウド会計ソフトを導入したので給与計算については顧問契約を解除したい、という申し出が少しずつ増えているようです。コンサルティング部分の契約は残ることが多いようですが。確かに、10名ほどの給与計算であればクラウド会計ソフトのランニングコストは年間で3〜4万円くらいのもので、社労士顧問が月に3万円ほどであれば、10分の1のコストで済みますから、小さな事業所は少し労力をかけてでも移行を選ぶでしょうね。
こうした中で、旧態依然とした社労士のイメージを持って経営していると、単価が下がってしまい継続が危ぶまれるのではないかと思っています。最初は都市部からその現象が起きて、地方に波及していくのではないでしょうか。コロナ禍を背景にオンライン化が一気に加速して、地方の高齢者でもデジタル的なものに抵抗が少なくなってきているという下地もありますし。リモートワークが定着化した企業も増えていますよね。全日でなくても週に数日はリモート勤務というケースも多く、クラウド化の流れには乗らざるを得ないということなのではないでしょうか。米国でも、秋頃にGAFAMを始めとした企業がオフィスワークに戻そうとしたものの、不満が出てハイブリッドワークに落ち着いているようですしね。ただし、制度を上手く設計しなければ、労働問題の発生につながるとは思っています。」
Q.現状、貴事務所が永続できている要因はどこにあると考えているか?
「私は最初から事務所の売り上げを最低3億円にしたいと思っていました。元サラリーマンの4人で会社を立ち上げたのですが、開業前の2年間、毎月集まって結構しっかりとした準備をしまして。その頃から、1人で1億円弱という目標をどうすれば達成できるのか、真剣に考えてここまで来ましたね。先ほどお話したような一般的な社労士像では物量を捌くために人材の確保が必須ですが、そうすると売上が上がっても人件費が莫大なものになってしまい、運営サイドの社労士でも2千万円ほどで頭打ちといった話を割と耳にしていまして。私は元々独立する直前に部長職で、既にそのくらいの年収に達していましたので、同じ水準であれば独立する必要がありませんから、桁の違う目標を立てました。
あとは、自分に向いている仕事と向いていない仕事の選別をした結果でもありますね。私、実は給与計算が苦手で。お世話になった方からご紹介いただいた顧問先にまで、菓子折りを持って頭を下げに行ったようなこともありました。これはもう自分にはこの方面が不向きなんだなと。しかし、コンサルティングが得意なことは分かっていましたので、顧問先を整理する際にそちらへ完全に移行しようと決めました。今から5〜6年前ですかね、ちょうどデュー・デリジェンス(以下、DD)のセミナーを受講し始めた頃で、これが上手くいきましたね。」
Q.貴事務所経営のマーケティング・経営戦略の考え方と指針、業界のマーケティングに関する所見は?
「皆さんもっと営業に力を入れると良いのではないかと思います。開業1〜2年目の頃に、勉強会の参加に励んでおられる方が多いですが、得た知識は仕事を受けずにアウトプットしなければ、半年も経つと忘れてしまう訳です。そこに20万円なり支払うのであれば、同額でテレアポに依頼すれば数十件は獲得できますよ。私はコロナ禍の直前まで、常に飛び込み営業用のセットを持ち歩いていて、新しく開所した介護事業所などにはすぐに足を運んでいましたね。
社労士会の行政協力に頼ったりしている方をよくお見かけしますが、もっとガツガツと仕事を取りに行けば良いのに、もっと稼ごうと思わないのかな?と…。私自身は10年以上も営業をやってきているので、今更目の前で名刺を捨てられても特に何とも思いませんが、自信がなかったり不慣れな方は心が折れてしまうのかもしれませんね。しかし、ビルの最上階から地階まで全て回っても1件も取れなかった程度のことは、営業をやっていると普通の事なんですよ。例えば忙しい時に自分の所へ営業が来たとして、どんな感じであれば腹が立たないかなどを考えたり、自分なら出来そうな方法を工夫すれば、本当に困っているのであれば全く何も出来ないということはないのではないでしょうか。
売り上げが上がらないという相談を受けた時には、このように答えていますね。」
Q.貴事務所経営のDX化と業界のDX化についての所見は?
「7割はRPAで自動化しています。クラウド社労士業務システムと、IT会社に声を掛けて作ってもらった専用システムも併用していて、申請のチェック以外は完全に自動化している環境です。ここまで整備を進めている事務所は私の知る限り当社を含めて3社のみで、DXについて取材を受けた際にも社労士事務所のトップ1%には入るだろうという話になりましたね。この4年間で勤怠システムなども含めて4千万円ほどは投資しています。
結果的にかなり省人化しまして、18名在所していたのですが今は8名です。辞めていただいた訳ではなく、田舎に帰る事情があるなどで自然減した穴を埋める必要がなくなって、採用を行わなかったという感じですね。
一方で、社労士業界全体のDX化は遅れていると思います。全て紙ベースという事務所もあるようですね。個々の事情がありますし、当社のような完全自動化は難しいのかもしれませんが、例えば最も需要が多いであろう給与計算については、自社のDX化ではなく先方に提案をすれば良い訳です。導入コンサルのような感じで。当社でも手集計しか出来ないという企業からの依頼を受ける事がありますが、関係性が構築されてきた頃に、省力化が見込める分の顧問料を減額しますし設定のお手伝いもしますので、勤怠システムを導入されては如何ですか、といった提案をしています。また、300名以上の企業には基本的にクラウド会計システムの導入による内製化を勧めるようにもしていますね。それだけでも自社の作業時間を削減することができるのに、積極的にこのような動きをしている事務所は少ないようです。RPAなどであれば大変かもしれませんが、先方への提案であればそれほど労力は必要ありませんので、DX化が遅れていると感じている事務所はこういった事からチャレンジしてみると良いのではないでしょうか。
あとは、生産性向上ツールとチャットシステムを活用して、顧問先とのやり取りについてはこれら以外では対応しないように集約管理をしています。メールで個別に連絡をしていると、気をつけていても見逃しが発生してしまうことがありますからね。こうした事ならあまり費用もかかりませんし、小さな事務所でもすぐに導入できると思いますよ。」
Q.貴事務所経営の採用と教育に関しての考え方と指針は?
「今は採用を行なっていませんので教育に関してですが、基本的に社員の希望にはノーと言わないようにしています。読みたいという書籍は揃えますし、やりたいという事にも反対はしません。こちらからも、例えば年末調整のセミナーに出て欲しいといった提案をして、出席してもらうようにもしています。しかし、メインはOJTですね。全員が有資格者ではなくて、コンサルティングの経験者や希望者を募って来てくれたスタッフもいるので、必要に応じて私のサブとして同行してもらったり、現場実践の形で教育を行なっています。以前は社内セミナーも実施していたのですが、今は手が回らないという事情もありまして。
組織としては、多くても10名以内の事務所として維持するつもりなんです。DDのセミナーを受講しながらコンサルティング中心の事務所を目指し始めた頃は、30名くらいを採用して、顧問別担当制ではなく給与計算チームや手続きチームを組んで部門制の組織を構築していたのですが、少し疲れてしまって。ちょうどセミナー講師が大型組織を経営した後で手を引いたという話をされていたので相談しましたら、小規模化した背景など自社にも当て嵌まる点が多かったので、我々もシステム化に舵を切っていこうと決断しました。」
Q.今後、士業事務所の採用、組織についてはどうなっていくか?
「皆さん苦労されているな、と思います。色々とお話を聞いていると、3年を待たず辞めていかれる方も多いようです。担当していたお客様を連れて独立されてしまった、という話もたまに聞いたりします。社労士事務所だけではなく、他士業でも同じ事があるようですね。
現在は300社〜500社と抱えて、手続き業務などを中心に100名以上を雇っているような事務所が中心というイメージが私の中にあるのですが、今後そういったスタイルでの先行きは厳しくなり、大きな事務所は減っていくのではないかと思っています。コンサルティング主体で経営できる事務所が、少数精鋭で生き残っていくのではないでしょうか。」
Q.貴事務所が得意とする業務についての現状と未来予測は?
「当社はDDやIPO関係、ユニオン対応、退職勧奨などいわゆる高難度業務と言われている分野を得意としています。IPOに関しては流行り廃りがありますので読み辛いのですが、M&Aは増えていますね。特に税理士からの紹介で多いのが、代替わりする際のDD案件で、複雑化しているので整理したいというものです。前社長の不適切な資金使徒などの内部的にアンタッチャブルな内容であったりもしますね。世の中には家族経営的な企業も多いですし、今後そういう案件は増えていくのかなと感じています。解雇問題などは昔からずっと存在していて、今後も絶対に発生し続けますし、対立が生じがちな内容については弁護士とどれだけ上手く住み分けができるかという点も重要だと思います。」
Q.これから生き残っていける士業事務所の条件とは?
「端的には積極性を持って経営できる事務所ではないでしょうか。少し古い獲得事例にはなるのですが、現在月に300万円いただいている顧問先がありまして、そちらは大手法律事務所とも顧問契約をされているのですが、その弁護士事務所には当社の10分の1しかお支払いしていないそうです。なぜかというと、当社のような踏み込んだ積極的な提案がないという事なんですね。何か意見を言うにしても、当たり障りのない範囲に留まるようで。私は結構ガツガツと意見を言いますし次々に提案をしますので、それがウザいと言われる事もありますが、明確な他社との差別化ポイントになっています。
あとは意志の問題はすごく強いというか、影響が大きいと思いますね。アンテナも大事です。顧問契約をすぐに切られてしまうという同業者からの相談を受けた際、それは先方に定期的な情報提供ができていないだけなのでは、と思うことがあります。更に、発信のテーマが狭い。例えば社労士であれば話題が人事労務に関する事だけなんですよ。全く新聞を読まないという方はそれほど多くないかもしれませんが、例えばビジネス雑誌を定期購読するなどすると良いと思います。今は結構忙しくて2誌に絞っていますが、私もずっと読んでいますよ。新聞には載っていない情報が拾えますし、深掘りは矢張りビジネス誌の方が強いんですよね。そういう、日本だとあまりニュースになっていないような話題を振ると、結構広がったりしますので、見込み客からの相談を受ける際には前もってそういう準備もしておくと良いのではないでしょうか。」
社会保険労務士法人 東京中央エルファロ共同代表
平成19年、社会保険労務士試験合格。平成24年、社会保険労務士法人東京中央エルファロを共同で設立。学校卒業後、社会人として営業、法務、監査、システムなど多岐に渡る業務を担当。平成15年に慢性腎不全になり、人工透析を開始。現在も週3回の透析を受けている。その後、病気になった経験を活かし、社会保険労務士を目指し合格。
労務問題の相談・対策などを得意としており、国内・国外法人などユニオン・訴訟などの相談・コンサルティングを通してアドバイスをしたり、M&AやIPOの労務DDや総売上高から適正人員・適正配置のアドバイザー業務などを中心に業務をおこなう。
最近では自分の障がいやがん患者として過ごした経験を生かした障がい者雇用・がん就労の分野で高度なコンサルティングを続ける一方で、患者会や障がい者団体、病院関係者からのセミナー・執筆にも力を入れている。