Youtubeマーケティングから得る顧客視点とは:コラソン行政書士事務所 山尾加奈子氏

Youtubeマーケティングから得る顧客視点とは:コラソン行政書士事務所 山尾加奈子氏

事務所名:

コラソン行政書士事務所

代表者:

山尾加奈子(行政書士)

事務所エリア:

東京都千代田区

開業年:

2018年8月

従業員数:

1名

Q.士業のSNS活用の現状について、どう感じるか?

「全てのツールについて私が気をつけているのは、常にお客様に見られているということを意識した発信なのですが、失礼ながらその点においては士業全般として考慮されていない方が多いようにお見受けしています。趣味でやっているので思ったことを自由に発信しているだけです、と言う士業の方もおられますが、個人的には開業した以上プライベートなんて無いと思っていますし、一挙手一投足、全てが公に晒されていますので、あれはプライベートで呟いただけ、と切り離すことはできないという考えです。

逆に、お客様が見ていることを前提とするならば、こちら側(士業)が活用しない手はないと思いますが、私も最初から見られていることを強く意識できているわけではありませんでした。開業前は企業の法務部で働いていたのですが、to Bでしたので先方とのやり取りはあくまでビジネスライクなものですし、契約書などのシビアな内容を取り扱っていたこともあり、どちらかと言えば厳格なコミュニケーションが身についていることに自分で気がついていなかったんですよね。

開業時もそのスタイルを続けていたのですが、当初たまにYouTubeのコメント欄で怖い先生だというような感想をいただくことがあって、私としてはこれまでうまく仕事を進めてきた、いつも通りの対応でしたが、to Cでは今までのやり方だと良くないのかな、と途中で気づいたんです。開業して半年くらい経った頃でしたが、自分が思っている以上に下から丁寧にやらないと気持ちが伝わらないんだなということに気づいて、少しずつコミュニケーション方法を変えていきました。

そうしていくうちに、自分の味方になってくれる凄く優しい先生というイメージを持っていただけるようになって、逆にこれで仕事が取れるのであれば下手に出ることに損はないという感じで、今はそのスタイルです。お忙しい中申し訳ございませんが、期限が迫っていますので早めに情報を頂けませんか?という感じでいると、向こうから歩み寄ってくれますので、もちろん絶対に駄目なことはきちんと言いますが、基本的には下から優しく接するくらいでやっと個人のお客さんが対等に感じてくれているような気がします。

また、事務所名での発信は営業目的だと感じられやすいのか、個人のアカウントの方が響くように思いますので、私は個人的な感想や思っていることをうまく表現してマーケティングや営業のツールとして使っていたりします。士業である以上、お客様はフレンドリーさを最優先しておらず、しっかりと仕事をしてくれる人なのか、個人情報の守秘義務をきちんと果たしてくれる人なのかを見ていると思いますので、YouTubeではラフなファッションになり過ぎないといった所にも気を配っていますね。

集客ツールをうまく活用するためには、誰に向けて、何のために発信しているのかが大事ですので、ニッチでも、ターゲット層に刺さる内容を配信しようと常にコンテンツのクオリティにはこだわっています。登録者数はそれほど重要視していませんが、アルゴリズムを考慮して母数の多い層に向けたコンテンツも作るようにするなど、それなりに増やす対策はしているという感じですね。」

Q.SNSを活用しようと考えた経緯と背景は?

「YouTubeに関してですが、元々は集客ツールとして使い始めたわけではなく、HPを立ち上げた際に、外国人向けに業務内容や帰化の要件などを簡単に解説した動画を貼り付けようと思って始めました。”帰化や永住を考えている外国人”をターゲットにするなんて、そもそも母数が少ない分野なのでうまくターゲット層にリーチできるかも分からなかったし、集客ができるようになるなんて想定していなかったんです。

HP立ち上げ当初は資金も潤沢ではなく、リスティングやターゲティング広告などに費用をかける余裕はありませんでしたし、同じような広告がある中で、仮にクリックされても認知度が低いため受任にまではつながらないと思ったので、他の士業と差別化したいという思いで始めた感じでした。実際、リスティング広告には3か月間くらい費用をかけて色々試してみたのですが、成果が出なかったので広告は使わなくなりましたね。

YouTubeでは最初、業務の内容や自己紹介などを少しずつ公開していたのですが、ほぼ毎日1件はお問い合わせをいただけるようになりましたので、これは集客ツールになると気づいて本格的に始めたという感じです。マーケティングツールに留めるのはもったいない、営業ツールとして使うべきだと思うようになり、どんな動画が響くのか色々な配信をしてPDCAを回しながら研究しようと、最初の半年間で100本をアップロードしました。

特に動画配信の勉強をしてきたわけではなかったので、ニッチな層に届くにはどうしたら良いのか試しながらの運用で、受けが良いものをアレンジするなど試行錯誤という感じでしたね。半年間は100本を目標にしようと決めていたので、週3〜4回のペースで配信していましたし、企画が大事だと思っていますので、どういうテーマや起承転結が良いのかということや、10分以内で内容をうまくまとめることなどについてもしっかり考えていました。当時は会社員と兼業でしたので平日の夜と土日にずっとスクリプトを書いているような感じでしたね。

半年くらいで登録者数が1,000人になった頃から少しずつ、”YouTubeを見たんですけど”という問い合わせを頂くようになったのですが、せっかく増えている問い合わせが配信を減らしたせいで減るのが怖いなと思って週3のペースは1年くらい続けましたね。いま考えると頑張ったなと思います、継続することだけが私の取り柄なので。開始から今年2023年5月で丸3年を迎えますが、今では毎日3件はお問い合わせを頂いていて、一人では抱えきれないくらいの案件を受任するまでに成長している状況です。」

Q.SNS活用の効果は?

基本的にはマーケティングツールとして活用しているのですが、プラットフォームによって目的を変えていますので得られる効果も違いますね。また、今は懇親会へのお誘いなどもDMでいただくことが多いですし、もう使わなければ置いていかれるというか、時代についていけなくなってしまうのではないかと思っています。

Twitterは潜在顧客へのマーケティングや士業とのコミュニケーションツールとして活用していて、日々の業務やお客様への感謝、他士業に対しては自分が何をやっている人なのか分かってもらえるような発信をするようにしています。あまりに仕事のことばかりですとつまらない人だと思われてしまいますので、飲み会などプライベートな内容も載せて親しみやすい印象を持っていただけるようにも意識している感じです。

また、士業同士の情報交換や交流はTwitterで行われることが多いため、置いて行かれないよう発信もコメントも積極的にするようにしています。帰化や永住の業務をやっていない士業の方からお仕事を紹介していただけることもありますし、お客様に対しては自分が何に注力しているのかなど、頑張っている姿を見ていただくことで案件につながることもあります。

Facebookは主に士業向けのマーケティング・営業ツールとして活用しています。Twitterよりも利用者の年齢層が高いため、業務内容などについて結構じっくりと200文字程度の文章を書いて、自分がどんな業務をしているのかというブランディングや、士業の方へのプレゼンスを高めることが目的ですね。もちろん守秘義務に反したり個人が特定されないように内容をかなりぼかした形で書いていますが、何故か特に税理士さんがこうした内容に好んで目を通してくださる傾向があり、よくお声がけいただいています。

1つの案件にフィーチャーして細かく書くことで、何かあった時にはイメージが湧きやすく、私のことを思い出していただけるようですね。信用で成り立っている士業同士の紹介ですので基本的には一見さんでもなるべく受けるようにしていますと、月に1〜2件はDMでご相談いただくなど案件につながりますから、やはり士業の先生に自分を深く知ってもらうというのは良いのではないでしょうか。発信で印象を悪くしてしまわないように、文章の最後をネガティブではなくポジティブに締めるようにしています。

メインで活用しているYouTubeは、先ほどお話した通り集客ツールですね。帰化や永住をお考えの外国人向けに、私の事務所にお願いしたいと思っていただけるような内容を発信しています。具体的には、どんな層にリーチしたいかターゲティングしたうえで、外国人の方が悩んでいる点や気になっている点をピンポイントで分かりやすく解説するという感じです。女性ということで相談しやすい雰囲気が出せるようにしたいので、スーツは着ないようにしています。

また、あまりお声がけ頂きたくない層の方がコンタクトしづらいよう、キリッとしてハッキリとモノを言う印象付けをしています。ですので、ご相談に来所される方は年収もそれなりにある優秀なエンジニアなどが多いです。特にYouTubeはto C業務と親和性が高く、単純接触効果が高いため、初めてお会いする方でも既に私のファンであることが多く、受任率も高いので運用効果は高いと感じています。

ツールに関わらず共通していることは、とにかく結構お客様から見られているということだと思いますので、その点を意識していただけると効果が出やすくなるのではないでしょうか。」

Q.SNSの運用で気をつけている点は?

「特にTwitterなどで言えることですが、文章で書くと、書いた人のその時の表情が見えないためキツく見えがちです。特に短い文章で伝えようとしてもうまく伝わらなかったりして誤解を生む危険性がありますので、文章で発信する時は特に丁寧な文章を書くことを心掛けています。

また、前述のとおり、お客様が意外とSNS上での発信を見ていることが多いため、人間性を疑われるようなことは絶対に書きません。当たり前ですが人の悪口や誹謗中傷、ネガティブな発言を絶対にしないようにしています。士業にとって信用失墜が一番怖いことで、一度失うと回復はほぼ不可能だと思っています。

YouTubeに関しては、たまに否定的なコメントを書く人がいますので、発信する単語や言い回しは、無駄な論争に巻き込まれないよう十分に検討したうえで使うようにして、間違った単語を使った時点でその部分を言い直したりして収録・編集をしています。ただ、どうしても好き嫌いや思想に関するものは仕方がないのかなと思いますし、もっと他の大事なことに時間を使いたいので、あまり気にしないようにしています。

お問合せをいただきやすい動画のポイントを3つ挙げるとすれば、まずベーシックな内容であることですね。行政書士としては当たり前のような内容を分かりやすく解説したものは、今でも一番ストック型で伸びています。他には”ポイント3選”や”7つの大事なこと”など数字を入れたものや、10分以内に収めた動画も見やすくて伸びが良い傾向です。」

Q.SNS運用を成功させるためには何が必要か?

「私は会社員を辞めて本格始動してまだ1年半の新人ですので、道半ばであり成功を語れるほどの人間ではないのですが、自分本位ではなく、お客様目線で発信するようにしています。また、自分がマウントを取るような発言やネガティブな発信をして、他人をあえて不快にするのは良くないと思っていますし、意図せずそのような発信をして誤解を受けることがないよう、発信する前に今一度内容を確認するようにしています。

SNSは継続して発信し続けていくことが大事だと思っていて、Twitterは1日1つは必ず呟くようにしていますね。YouTubeは1年続かない人が多くいますが、とにかく継続して良質なコンテンツをアップし続けることが大事だと思っていて、特に士業のコンテンツはストック型が多いので、1年前や2年前の動画の再生が今だに伸びていたりするのでクオリティにはこだわるべきだと思います。

YouTubeに関しては”これは私の営業活動の一部”と言霊のように自分に言い聞かせ、週1回の配信を怠らないようにしています。士業に関わらず起業した方が営業活動を止めるということは死を意味しますので、そう思うようにすれば継続することが可能になります。また、動画の再生回数や登録者数に一喜一憂せずに心穏やかに気長に続けていくことが大事ではないかと思っています。

そういう意味では、つかず離れずの適度な距離感を保つことも大事にしていますね。これはYouTubeを始める前に自分の中で決めた約束事なのですが、エゴサーチは絶対にしないということです。やっても良いことはありませんし、SNSはどっぷり漬かったせいで病んで自殺する人が出るくらいなので怖いツールでもありますから、なるべく面倒なことに巻き込まれないような予防は常に行っています。

冒頭でも申し上げましたが、一番大事なのは”誰に向けて発信しているのか”というターゲティングで、ふわっとした動画を配信しても響き辛いと思いますので、きちんとメッセージ性を込めてピンポイントに発信することが重要なのではないでしょうか。あなたに向けて発信している、という内容は刺さる人には刺さるので、もう相談の段階から決めていますという感じで来ていただけますから、その人が本当に私という人間にお願いしたいと思ってくれる発信を常に心がけていますね。」

Q.士業のSNS活用未来と生き残るための条件は?

「昔と違って直接人に会い、名刺を配り歩いて営業をしないと集客できない時代ではなく、SNSを使うことで、新人がいきなり知名度を高めたり、全国津々浦々に自社のサービスを宣伝できる良い時代に開業したと思っています。YouTubeで発信したことによって有名な先生にも顔と名前を憶えてもらうことができて、こちらのほうが恐縮してしまうようなことを言っていただけることもありましたので、そういった先輩方に見られても恥ずかしくない動画を作り続けようと思っています。

使い方を間違えると炎上したり人間性を疑われたりする危険性もありますが、無料で拡散性の高いツールをうまく活用することが新規顧客獲得にもつながるため、どんどん使っていくべきなのではないでしょうか。また、SNSを使うことで情報交換のスピードは上がっているため、臆していては時代に取り残される可能性があると思っていますので、今後も新しいツールが出てくるだろうとは思いますが、アーリーアダプターの段階で、マーケティングや営業のツールとしてとりあえず使ってみるという姿勢で臨むことが必要かもしれないという考えですね。

士業の業界は一般社会とはタイムラグがあると感じていて、例えばエンタメ系YouTuberの間ではYouTubeはオワコンだと言われていますが、士業の集客ツールとしてはまだまだYouTubeの活用は有効で、私のチャンネルは登録者数もお問い合わせ者数も減るどころか増える一方です。どんな客層をターゲットにしているのかにもよるかもしれませんが、士業はどんどん便利なSNSを活用すべきだと思っています。ただ、いつかは本当にYouTubeも終わる日が来て、別のツールに移行するだろうと思っていますので、その時のために備えて常に研究するようにはしていますね。

また、士業で開業した以上は売り上げを伸ばすためだけに頑張っている人とは少し違うと思っていますので、自己実現と同じくらい他者のためにどれだけ一生懸命になれるのかという思いをきちんと持っていることが、一般的な企業との差別化にもつながるのではないでしょうか。少し大袈裟な言い方になってしまうかもしれませんが、世の中の困っている層へどういう風な貢献がしたいのかというビジョンが伝われば、個人のお客さんにも”こういう考え方の先生なんだな”と理解してもらえますし、そういう志も大事にしたいなと思っています。」

山尾加奈子 プロフィール

ゲーム会社やIT企業の法務部員として勤務しながら2018年8月行政書士登録。その後2021年9月完全独立し、飯田橋に行政書士事務所を開業。

法務部では管理職を経験し、訴訟、英文契約書、GDPR、個人情報保護法、知的財産権、著作権に関する業務を担当。法務部での経験を元に、現在は、スタートアップ企業の顧問、NPO法人や一般社団法人の監事に就任。

会社員時代に周囲に外国人が多くいる環境で過ごすうち、在留資格や帰化のことで困っている外国人の助けになりたいと思うようになり行政書士を志す。開業以来、外国人が日本でスムーズに暮らしていけるようお客様に寄り添ってサポートすることに注力している。個人向けのメイン業務は帰化・永住申請。

会社員と行政書士兼業中の2020年5月から集客ツールとしてYouTubeチャンネルを開設し、現在は集客の6割をYouTubeから行っている。企画から収録・編集まで全て自身で行い、個人のお客様が求めている情報を、的確に、分かりやすく解説することを大事にしている。