アフターコロナ 入管業務の現状と予測:行政書士川添国際法務事務所 川添賢史氏

アフターコロナ 入管業務の現状と予測:行政書士川添国際法務事務所 川添賢史氏

事務所名:

行政書士川添国際法務事務所

代表者:

川添賢史(特定行政書士)

事務所エリア:

大阪府枚方市

開業年:

2008年4月

従業員数:

1名

Q. 入管業務の現状をどう認識しているか?

「広い意味で入管手続きそのものへの関心が結構高まっていると感じています。私が開業して入管業務を始めた15年ほど前は、行政書士の業務としても非常に狭い世界でしたし、法律的にも入管法に対する世間的な注目度は低く、書店に並ぶ関連書籍は3~4冊程度のものでした。それが今や、入管法だけでなく外国人法制などに細分化された専門書も含めると

、大型の書店であれば100冊近くが並んでいるほどになり、社会的な関心も高まっているのかなと思います。

その中で、行政書士が果たす役割についても周知されてきています。昔は行政書士の業務である事すら知らない方が多かったのですが、今では当の外国人だけでなく、訪問先の会社などでも”行政書士さんは入管の専門家ですよね“と言われるようになってきました。加えて、実習生や難民などの話題がニュースで取り上げられたり、経済界からの人材不足という問題提起を切欠に国会で議論されるようになってきたことから、外国と特に関わりがないような一般の方も含めて世間的に目が向けられるようになってきたというのは大きな変化かな、と思いますね。

また、普段は手続き業務が多いのですが、世間的に注目されるようになってきた頃からセミナーの依頼をいただくようになりました。結構色々な企業や、役所からもお声が掛かりますね。ビジネス的にもマーケットはかなり大きくなっていると思いますよ。ただし、提供側の人材は不足しているので、まだまだ広がる余地がありそうです。単価が下がっているというような事も、競合が増えて仕事が取り辛くなったというような事も、今の所はないですね。一方で、求められるニーズやスキルについてはかなり複雑化、多様化しています。以前は雇用契約書などをまとめ、書面に起こして入管に持っていくといういわゆる許認可業務がメインでした。書類を正しく書くことができればそれなりに成立していたのですが、今はその前後にもニーズがあります。許認可を申請するまでの地ならしというか、社内の受け入れ体制を整備するコンサルティングや、許認可取得後の採用定着フォロー、言語問題のサポートなど、広範囲な内容を求められるようになってきましたね。この傾向は法制度としても同様ですので、今後は更に広がっていくのではないでしょうか。自社のみで対応するのか、チームを作ってカバーするのか、選択を求められそうです。

今後の注目点は、在留資格であれば特定技能制度ですね。今まで人手不足に対して使える制度は技能実習制度のみでしたが、トラブル等で少し風当たりが強くなっていますので、特定技能制度に流れていくと考えらえます。ほぼ確実にニーズが増えることが予想されている一方で、行政書士サイドに求められるハードルが高く、労働法の知識や手続き以外のコンサルティングなど、これまで以上にしっかりとした専門家としての準備が必要です。

入管業務と言いますと、世間的にはコロナ対策に伴う入国制限で大打撃を受けているという印象があるようですが、実は仕事量が減った方でも2~3割といった所です。確かに新規入国ビザの発行は一時的に止まっていましたが、制限解除に合わせて戻るものですし、そもそも我々の仕事の多くは既に日本に入国されている外国人の支援なんですよ。逆にコロナで生じた各種の問題を解決するための新たな仕事が発生して、イレギュラーな内容や特例措置の対応で求められる分野が増え、業務自体が難しくなってきたので、正直あまり仕事が減ったという感覚はありません。」

Q.現状、貴事務所が永続できている要因はどこにあると考えているか?

「私は自分の事務所を割と小さめに経営していまして、スモール・スピーディー・スマートの3つを心掛けています。規模は小さく、人数的にも少数でスピーディに、専門特化でリソースを効率的に集中してスマートに、という方針です。基本的に事務所を大きくせず、自分で出来る範囲内でシステマティックに省力化して、あまり色々と手を広げるよりは専門性をいかに掘り下げていくかに重きを置いているという感じですね。

そしてこれは、戦略というほどでもないですが、行政書士になりたい、新しく入管業務を始めたいという方からよく耳にするのは、”その業務はマーケットがありますか”あるいは”儲かりますか”という相談なのですが、その前に自己分析があるべきかな、と私自身はそう思ってやってきました。自分の得意なものや好きなことを、仕事上でも重視した方が良いと思っているんです。例えば文章を書いたり、人とやり取りをする事が得意だとして、それが客観的に見て仕事として成り立つか、という事プラス、好きかどうか。かなり主観的ですが、私は文章を書いたり相談に乗る事が好きですし、一般的に見て得意な方でもあり、異文化交流にも興味があったので、好きで得意かつ仕事として是非やりたいと思えるものを選んだ訳です。その上で最終的に、マーケットがあり、生活ができるのか、ニーズは、収益性は、と重ね合わせると良いのではないかと思っています。例えば入管業務ならニーズや収益性を魅力に感じて主力業務と定めてしまった後に、実は外国人と接するのに凄くストレスを感じる自分の性質が分かってしまったとなると、しんどいかなと。

国際業務というと華やかなイメージを持たれる方も多いと思うのですが、実は結構泥臭い仕事です。生活に密着した相続や労働問題を取り扱う訳ですから、異文化について面倒がらずに知りたいなと思う好奇心が凄く大事で、実際に入管行政書士には元バックパッカーや、自身も国際結婚していますという方が多いんですよ。色々な世界があるなぁと興味を持って取り組めるかどうかの違いは、結構大きいと思います。」

Q.入管業務のマーケティング・経営戦略の考え方と指針、入管業務を主力とする行政書士のマーケティングに関する所見は?

「一般的なマーケティングに関して言えば、誰にどんなサービスをどうやって提供するかという事かと思いますが、入管となると”誰に”の殆どは外国人か、外国人と関わる企業や配偶者ですので、その方々がどこにいるのかという事になるんですよね。私の経験上は、外国語メディアから結構な引きがあったりしますね。英字新聞やSNSの外国語発信などに外国人が集まりますので、そのあたりにフォーカスしてメッセージを投げるというのが効果的かなと思います。

また、具体的にどこまでサービスを展開するのか見極める事も重要です。先ほどお話した通り、ニーズはもの凄く沢山あるので、人材紹介を求められたりとキリがありません。どこまで対応するかによって、マーケティングのやり方自体もかなり違ってくるかなと思いますね。」

Q.貴事務所経営のDX化と業界のDX化についての所見は?

「DXも大きく3種類あると思っていまして、入管業務のDX、販促マーケティング的なDX、事務所内でのDXといった所ですかね。1つ目の入管業務のDXという点では、全般的に大変遅れていると感じています。

入管業務自体は数年前から電子申請が可能なのですが、非常に使い勝手が悪く、専門家でも利用している人の話はあまり聞きません。毎週、ともすると毎日といったペースで入管に行っている人は、直接持って行った方が早いということもあります。申請の種類にもよると思いますが、数字がメインで入力して提出すれば通るような、届出に近い性質のものは電子申請でも良いのですが、理由書といった内容が重要なものや、職員との協議が必要な事項などまで含めると、どうしても直接お会いする方がスムーズなんです。もう少しツールの使い勝手が良くなるか、WEB会議システムで職員と話をしながら申請できるといった風に改善されれば、利用はかなり促進されると思うのですが…。現状の申請は非常に遅れていて、未だに電話とハガキの世界で、メールさえ受け付けてくれないといった感じです。また、一応外国人はマイナンバーカードで自己申請できるものの、そもそも日本人の取得率でさえやっと60%というマイナンバーカードを持っている外国人は殆どいないというのが実情です。

2つ目の販促集客などに関しては、15年前とは環境が全然違いますよね。ずっとWEBサイト+PPC広告をメインに運用してきましたが、最近はどちらかというとSNSからのサイト誘導にシフトしていますし、記事自体も少し長めにしっかり書いて、SEO対策を意識しています。時間がかかるので今は少しPPCを残していますが、将来的には移行したいという風に思っていますね。

最後の事務所内のDXは、少しやっておくだけで劇的に便利になりました。オンラインストレージを使ってデータを共有すれば家でも仕事が出来ますし、外部連絡についてはスタッフさんはもちろん、外注先も含めて全て2種類のチャットシステムを使ってやり取りしています。お客さんとの連絡はほぼメッセージアプリですね。会計もクラウドシステムとオンライン決済サービスを利用していますし、業務管理にはプロジェクト管理ツールとマインドマップツールを活用し、もう殆ど全てがパソコンで完結する感じです。内部的にはひとり事務所でも十分に回せるくらいになったのは、DX化のお陰かなと思っています。」

Q.入管業務についての現状と未来予測は?

「他の許認可業務や他士業でも同じだと思うのですが、矢張り申請そのもので仕事をするというよりは、それより前の時点のコンサルティングや受け入れ整備と、事後の問題解決がメインになっていくのではないでしょうか。しかしそうなりますと資格がなくても可能ですし、有資格者だからといって求められている業務に対応可能であるという担保がないので、自分自身でしっかり勉強を続けていくか、チームを作るかという流れになりますよね。

純粋な入管業務ではない部分のサポート業務をどう学べば良いのかという相談を受けることもありますが、例えば私ですと行政書士として自分の一番コアになるビザの手続きについてしっかり研究して深掘りしていけば、他の部分はそれに強い人とチームが組めるという考えです。必要な知識の全てを事務所内でなんとか賄おうと、労働法のために社労士資格を取って勉強していたら、とても時間が足りません。ですのでどちらかというと、労務のプロである社労士、問題解決のプロである弁護士、各種コンサルタントやシステム会社などと連携し、チームで協働することを目指す方向ですかね。

入管業務はなくなることはないと思いますし、マーケットが広がるにつれて求められるものも増え、業務内容も深まっていくでしょう。現に今もニーズは増えていますので、行政書士業として取り扱う単体の許認可業務は少なくなるか、省力化されていく流れにあると思います。ただ、入管業務に関しては政策の話と非常に密接です。インバウンドに関しては入出国制限だけですので戻るのも早いと思いますが、定住となると話が違ってきますね。日本に定住するか否かという問題には円安円高といった経済的な要素も絡んできますし、特に言語の問題は大きいです。割と新しいビザの種類でロングステイという制度があり、資産が3千万円以上の方は半年間住んでも良いですよというものなのですが、定住者として本格的に受け入れるようなウェルカムな体制が取れているかというと、そこまでではない。今後こうした点が促進されるのかストップするのかは、政策次第ですからね。」

Q.これから入管業務で生き残っていける事務所の条件とは?

「先ほどのお話に近くなりますが、理念みたいなものをちゃんと持っている方が最終的に強いかなと思います。入管は割と国際業務の華やかなイメージがあり、比較的新しい分野でもありますので、儲かりそうだしやってみたいという方も多いようなのですが、実際に取り扱うのはシビアな労働問題が多く、泥臭くもあり、お客さま密着型のBtoC的な仕事が多い訳です。そうすると矢張り外国文化が好きであったり、世界の中でこういう風な日本にしたいというような理念やコンセプトの部分で、マッチするお客さまが集まってきてくれるのがベストって感じですかね。逆に法律の抜け穴を駆使するようなスタンスですと、そういう人ばかりが来てしまいます。儲かるか儲からないかで言うと、BtoBサービスほどではないということもありますので、ある程度軸を定めて、やりがいを感じて続けています、という方針の方が長く生き残るという気はしますね。」

川添賢史 プロフィール

川添賢史(かわぞえさとし)
行政書士川添国際法務事務所代表。1980年大阪府枚方市生。高校在学中にアメリカ留学、立命館大学で国際関係学、神戸大学大学院で国際人権法・国際民事法を学ぶ。立命館大学法科大学院修了(法務博士)。大阪府行政書士会常任理事・総務部長・枚方支部支部長。
“Diversity, Equity and Inclusion”の価値を信じ、“外国人と事業者への支援を通じて多様で成長力のある多文化共生社会をつくる”がミッション。合同会社グローカリンク代表社員、一般社団法人SDGs事業推進機構理事、日本語教育・多文化共生推進協会kotoba監事などを務める。

“More essential, More critical(常に好奇心をもち本質的・批判的に考え大胆に行動する)”が信条。多文化共生&異文化理解がライフワーク。趣味は海外旅行と古典読書。家族は妻・娘2人・トイプードル2匹。