- 事務所名:
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湯澤社会保険労務士事務所
- 代表者:
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湯澤 悟(社会保険労務士)
- 事務所エリア:
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東京都中央区
- 開業年:
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2002年8月
- 従業員数:
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1人(代表者除く)
目次
Q.パワーハラスメントの現状をどう認識しているか?
「まず、社会保険労務士でパワハラに特化している方はそれほど増えていないと感じています。また、研修でも10年前のコンテンツがそのまま使われているようなケースもあり、先進的に新しい事を学んで提供するといった取り組みはあまり見受けられません。
私がハラスメント対策を業務に取り入れたのは10年ほど前なのですが、当時は実に教科書的と申しますか、書類を投げつけられたり、ひどいものでは殴る蹴るといったような、誰が見ても明らかにダメだろうという行為が主だったパワハラに対する世間知でした。研修などは弁護士による裁判例の紹介が中心で、厚労省もパワハラとは何かという基礎の周知に努めているような段階で、先行する概念としてセクハラが比較的知られていましたが、パワハラ対策に関してはまだ黎明期だったと言えます。株式会社クオレ・シー・キューブの代表取締役をされていた岡田康子さんによりパワハラという造語が広まって、そこから一気にクローズアップされたような印象ですね。ただ、それまでも問題がなかったという事ではなくて、相談内容としてはいじめや嫌がらせを受けている、というニュアンスでしたから、パワハラはグレーゾーンの時期が長かったのではないでしょうか。行政が開示している個別労働紛争の相談件数については、2012年に初めていじめや嫌がらせが解雇問題を抜いてトップになったんです。こうした背景と造語の浸透が相俟って、メディアでも話題になり始めた事でより広くパワハラという概念が意識されるようになりましたね。
労働基準法上は対等な筈の経営者と労働者ですが、2008年のリーマンショックあたりまでは経営者サイドの方が圧倒的に強くて。既に正規雇用も盤石とは言えない時代に入っていましたが、雇用の流動性はそれほど活発でもなかったので、多少の嫌な事があってもリストラに遭わないように踏ん張っておかないと、働く場所を失ってしまうという恐怖から労働者としてはなかなか被害を言い出し辛い状況でした。もちろん一部では裁判化してメディアに取り上げられるような事例もありましたが、非常に少なかったですね。しかしリーマンショックの余波も少し落ち着いてきた頃には、徐々に経営者と労働者の関係に変化が見え始め、2012年頃には労働者の権利主張が強くなり、力関係が逆転してきました。昨今ですとこの話は非常に解りやすいですよね、人手不足になれば当然に労働者の権利意識が高まりますから。そして現在、単一性から多様性、ダイバーシティの流れを受け、この傾向は更に顕著です。
労働者一人一人の考え方がクローズアップされるようになってから、パワハラ被害はとても表に出しやすい環境になりました。自分の価値観と違う事を上司から言われると、それはもうパワハラではないのかといったような、人によってはパワハラに見えるけれども周囲の判断としてはそうとも言い切れない複雑な事例も増えていて、10年前であれば捉え方が白・黒・グレーだったものがグラデーションのようになってきているな、と思いますね。その一方で、未だに厚労省が発信しているパワハラ6類型に留まるような、通り一辺倒の研修やコンサルティングを提供している方が多いという状況でもあり、企業などのお客様側からするとそういった10年前にも問題化していた内容は既に学んでいますので、現在進行形の対策ニーズを充足できていないという点は大きな問題でしょうね。
SNSによる個人の発信が当然になった背景もあり、言い方は悪いですが発生事例を関係者間のみで抑え込むという事が経営者側には不可能になっています。すぐに広く情報が出回り、これらに対する意見も多様で、例えば一時間の叱責というケースについては尊敬している上司からであればパワハラとは受け取られない一方で、関係性が出来ていない上司が同じ事をしてしまうと5分であってもパワハラだと感じるというように、いずれも心から部下のためを思っての行動だとしても時代の変遷と共にグラデーション化していて、白に見えるパワハラもあれば黒っぽいものもある。更に言えば、この背景には3つの変化があると考えています。1つは価値観で、共有という概念の浸透によってケースそのものが情報として不特定多数に共有されるようになりました。昭和は共有先といえば労働基準監督署くらいのもので、通報すると社内で自分の身が危うくなるかもしれないといった時代でしたからね。2つ目はコミュニケーションの変化で、匿名SNS上で特に顕著なように建前よりも本音ベースに変わってきている事で、色々な意見を言いやすい環境になっています。最後は会社組織に対する忠誠心の変化ですね。矢張り定年まで勤めるというスタイルが大前提ではなくなった以上、働いている人は内側だけではなく外側を同時にみている訳です。昔は個人の訴えに対して、気持ちは解るものの会社組織全体に与える影響やメリットも考慮すべきという考え方を、良くも悪くも労働者と経営者の双方が持っていましたが、現在では会社の不正や不祥事が発覚するきっかけの多くが内部通報であったりと、明らかに個々人の組織に対する忠誠心は低下しています。このような変遷に対して、専門家サイドが追いついていないのが現状であり問題点だと思います。」
Q.現状、貴事務所が永続できている要因はどこにあると考えているか?
「先ずは実績が大きいと思っています。研修回数は2013年から数えて660回を超えており、総受講者も47,000人ですから、数字が一つの成果を物語ってくれているのではないでしょうか。このような実績を蓄積する以前から選んでいただけていた理由としては、現場で培った確固たるノウハウですかね。20年前に開業して、パワハラ対策を主業務に据えるまでの10年間、中小企業の現場で起きている、人と組織のコミュニケションエラーの問題を実際に自分自身で、ドブ板ではありませんが丁寧に解決支援を実行してきましたので、現場目線で蓄積したノウハウによるサポートの実効性が高かったのではないかと思います。
他には、2018年4月に有限会社グローイングと共同開発した管理職教育用のWeb適性検査『パワハラ傾向振り返りシート』が好評で、強みの一つになっていると思います。ハラスメントの問題はDXで解決するような性質のものではないと思われがちですが、パワハラ行為の自覚がない方に対して非常に効果的なツールなんですよ。悪気や自覚がないパワハラについてどう気づいて貰えば良いのか、という問題についてお困りの企業が非常に多く、例えば健康診断のように毎年なんらかの客観的なデータによって数値の変化を示すことが出来ないかと考案したものです。質問自体はハラスメントを想起させるような内容ではなく行動に重きを置いてリスクを測るもので、パワハラの芽のようなものが自分にあるという結果が出れば、気づきの切欠になって自発的に行動が変わるという効果が期待できます。全部で36問に回答していただくのですが、わずか10分ほどで直接行動を観察されたかのようなレポートが出るので非常に驚かれますね。実際にトラブルが発生した方だけではなく、予備軍の方々にまで細かいフィードバックに基づいたフォローが可能で、人格の評価ではなく行動にフォーカスしているので当人も腹落ちしやすいと申しますか、納得感が高く、企業が個別に面談を実施する際にもご利用いただきやすいようで、8割〜9割の方に結果を受け入れて貰える検査だというお声をいただいています。」
Q.ハラスメント対策業務についての現状と未来予測は?
「正直に申し上げますと、ハラスメント問題は発生し続けると思っています。もちろん理想としては根絶するという方向で動いてはいますけれども、企業の皆さんのお声をまとめたものとしても、理想は理想として、どれほど配慮し体制を整えても発生する時はするだろう、というご意見ですね。ただし、昭和の昔のような殴る蹴るといった犯罪行為に近いものは当然のごとく減少していくでしょうし、そうなって欲しい、また、そうした環境を許してしまう企業は基本的に存続が難しくなるようにも思います。2015年に起きてしまった電通の新入社員のようなケースは、本来あってはならない事で、今後こうした企業からは人が去っていくでしょう。
ただ、ハラスメントにはきっとまた新しい概念が出てきます。現時点でもアルコールハラスメントやスモークハラスメントなど色々な事が言われてきていますし、パワハラにしても今は範囲が広いですが、細分化してくるんじゃないでしょうかね。病院に各部位の専門外来が存在するように、パワハラもコミュニケーションのパターンなどによって専門分野に切り分けられる方向へ向かう、というのが私の考えです。」
Q.これから生き残っていける士業事務所の条件とは?
「これはもう、20年来変わらない私の考えなのですが、世の中のお困り事やお客様の不満足要因に対する徹底的なリサーチに尽きると思います。お客様が問題について何をどうしたいのか限界まで深く聞き出して解決のお手伝いをする、それをやり抜くという事ではないでしょうか。
世の中のお困り事についても細分化が進むと考えられますので、個別のケースをしっかり拾い上げる事が重要だと思います。もしかしたら今後は会社員という存在が希少化して、誰もが業務委託契約という世の中になってもおかしくはありません。そうすると一人一人が経営者ですから、会社組織という形態ではなく同じ境遇の人々のコミュニティが形成されていきますので、蓄積した個別のケースをカテゴライズしておくことで、コミュニティの問題に合致するカテゴリの解決策をコンサルタントとして提案できるようになる、といったイメージです。対法人というよりは、対個人の蓄積とバリエーションが結果的に対組織としても適用できるといった流れになる可能性があるのではないかと思っています。社労士の世界にも、よりセグメントマーケティングに近い概念が入ってくるのではないかなと。そういった、多様性という背景や高齢者の増加といった世の中の動きを見て、社労士という枠に捉われずに即行動に移せる事務所が生き残っていけると思っていますし、自社でも2023年からはそういう活動をしようと準備をしています。」
民間企業にて9年間の人事部勤務の後、2002年8月1日に湯澤社会保険労務士事務所開業。
開業後20年間で18,000件超の「人と組織のコミュニケーションエラー」を起点とする「前例の無い労務問題」、「恣意的・感情的労務問題」、「教科書・参考図書には載っていない高難度労務問題」等を、クライアントと同じゴールをめざしながらも違う目線(アドバイス)をもって解決支援する。
2013年以降、コンプライアンス研修、パワハラ対策研修の登壇回数は、大手上場企業を中心に、延べ660回超、総受講者数44,000人超(特に、経営層・管理職層が中心)の実績があり、研修後に受講者がスグに行動に移せることには非常に定評があり、研修後のアンケート評価も非常に高く、受講者からの研修開催リクエスト、リピート多数。ビジョンは、「社会的意義のある教育を通じて、日本の成長と利益の最大化に貢献する。~言葉の定義を整え、人間関係の“ワクワク感”と“感動体験”を通じて、日本の企業を元気に、そして強くする〜、ミッションは「相手の腑に落ちる言葉で自発的行動を加速させ、成果のプロセスに寄与する」、パワハラ対策のビジョンは、「日本からパワハラを根絶させる」、パワハラ対策のミッションは、「誰一人傷付けない。パワハラの加害者も被害者も絶対に作らない。人の命(人命)と、継続企業の会社の命(社命)を守る」。